【暗黒神様と】人界のオカルト寺院【一緒】4スレ目
「ふんふーん」
枝をフリフリしつつ寺院を練り歩く。狐の窓に収録された記録は今の所ちょっとした廃墟探索という具合なだけで別段恐怖映像だとかは撮れていない。
もっとこうないのか?九龍も真っ青なとんでもびっくりホラーなヤツとか。
アスタレルも先程からルールを破りまくっているが今の所無事である。つまらん。
乾いた線香のような匂いが漂う部屋を見回し、その中央に何故か置かれていた椅子がひとりでにごとんと倒れるのを見守ってから視線を窓に流す。
私が持つ明かりに照らされる窓にはめ込まれたガラスは外の暗さも相まってまるで鏡のように室内を映し出している。その窓の中に私のすぐ隣で宙を掻くようにばたばたと動く足が見えた。じーっと眺める。必死に藻掻く足は徐々に力を無くし、動きも緩やかになっていく。
一分も経てば足掻いていた足はゆらゆらと振り子のように静かに揺れているだけとなった。
ギシ、ギシとロープが軋むような音。そういえば椅子の上にロープがぶら下がっていたな。くるりと顔を向けるがガラスの中に写り込んでいた足は無い。
うーむ。
倒れていた椅子を戻してぐむと腰掛ける。かりかりと狐の窓を弄り回すが暗黒神ちゃんとしては不満である。もっとこう……ないのか?宇宙が爆発するようなヤツとか。
───────────ジリリリリン。
静寂を切り裂くように、人の手による人工音が空気を震わせながら鳴り響いたのはそう考えた直後のことだった。
周囲を見回せば音の源泉は直ぐ様見つかる。緑色の小さな光がけたたましく瞬いてその存在を主張していた。着信中、それを知らせるランプは私が近寄り見下ろしてもその光を途切れさせる事はない。
ガチャコンと受話器を手に取って耳に押し当てる。電波が遠いような、ぶつぶつと途切れ途切れのノイズが漏れた。
「もしもしもしもしもしもしもしもしもししししししししししもももももももしもしもしもしもしこちらはMII総合ですサービスですですもしししししししお手数ですがお掛けにお手数てすすうですが電波が届かないかですがサービスですもしもしもしもしししししし気象情報をお知らせ現在使われておりませんいいですかあなたがあのことをしらべているのはわかっていますですがそれはあなたがしらべることではなくわたしがしっていますがえーすおーえーす現在えーす警報は出ておりませんそのまままっすぐにすすんでくださいちかにおりてくださいしかしもうよるもふけましたあさがくるまでたいきしてくださいみぎにまがってくださいしゅうぎょうかいしじこくですしゃいんはすみやかにばすがとまりますつぎはれっどらいんびるみぎぐちですあんしんとしんらいのばすがはっしゃしますきいろいせんのうちがわに電波電波電波電波ががががががががががががががががはい、もしもし内藤ですが」
ガチャン。
切れた。はいもしもし内藤ですがだけやけに明瞭だったな。というか内藤って誰だ。まぁいい。
あとは特に目を引くものもなし、この部屋の探索を切り上げるとしよう。
「おーぷんささみ!!」
ばたぁんと音を立てて次の部屋の扉を開けた。第二資料室とだけ書かれていた部屋だが第一資料室は地図になかったし内装をみてもなんの資料室なのかとんと謎である。
ストレッチャーがおいてあるあたり病室を彷彿とさせるがベッドもなければそれっぽい道具もない。強いて言えば圧力の強い謎の貯水槽がある。いかにも登ってくださいと言わんばかりの梯子が付いているのが気になる。
「おりゃー!」
好奇心がむずむずとするのでどどどどと登ってみた。蓋のようなものは無いらしくそのまま水面が覗けるようだ。水は濁りきっており真っ黒な液体が見えるだけで意味はなさそうである。
水が微かに揺れているのでなにか沈んでいるのだろうとは思うが。鯉とかだろうか。
降りて水槽をくるくると周回してみる。耳をすませば僅かにコンコン、コンコンとタンクを叩く音。ぴたりと耳をつけてみた。
「……………」
静かになってしまった。ばっちり準備していた相棒である狐の窓もこころなしか沈んでいる気がする。気持ちはわかるぞ、お前もいい心霊写真を撮りたかっただろう。
がっかりしながらぺいと離れた瞬間、凄まじい音を立ててタンクが内側から叩かれた。離れた事を咎めるように一度だけ。
丁度……そう、手の平を広げて力いっぱいぶっ叩いたら似たような音がするだろう。
負けてられない。
「このやろー!」
ばんばんばんと両手を使って全力で叩き返した。ついでに梯子を登って水の中に手を突っ込む。ざばばばばと掻き回して更にその辺にあったバケツを使って水を汲み出してやった。
哀れすっからかんにされた貯水槽はしくしくとばかりに静かになった。ざまぁみろ。中は水だけだった。
さ、次行くか。
てってこと廊下に出て僅かな光も途切れた晦冥の中を歩きて暫く。
「ん」
ふと突き当りの壁に小さな穴があるのを発見。傷んだ壁が崩れたのだろう。たかたかと走り寄ってずずいっと覗き込む。
真っ暗で何も見えやしない。うーん。右目から左目にして角度を変えては背伸びをしてみたりちょっとかがんでみたり。だがしかし無明の闇はなんの手応えもなくしんと静まり返っている。
ちょいと視線を上にやって考える。おぼろげながら確かこの向こうは第一倉庫の隣くらいに位置するだろうか。あの倉庫は広さ的にそこまででもなかったのでこの位置では外れている筈だ。第一倉庫からもその周囲の廊下からもそれらしき入り口がなかったので不明のままの宙ぶらりんのデッドスペースがある。
何故か第二倉庫は存在しないという謎の寺院だったがもしかしたらどこからも繋がっていないあちらの空間が第二倉庫にあたるのかもしれないな。何か問題があって閉鎖したとかそういう。
残念ながら真っ暗で何も見えないが。
なにか本で明かりを出すかと顔を上げた時である。穴の向こうからにゅるりと錐が突き出されたのは。すぐさま引っ込んだそれのあとに人間の目がチラリと覗き、こちらを見たあとに舌打ちと共に何やら駆け去っていく音が聞こえた。
「……………」
無言になった私にカポカポと音を立てながら羊が寄ってくる。
「おや、どうされました暗黒神様。無いでしょうが怖いものがありましたカ」
「………………………………………」
無言のまま羊の背中によじ登る。ぶるぶるとしたまま穴を見つめた。
「………アスタレル、今人間が居た?」
姿は既に見えない。あんな真っ暗な場所で活動できる人間なんて居るのかという疑問もある。
人間だったのか、あるいはこの祟場が見せたただのまやかしか。
サブイボが立った。嘗てルイスは言っていた。私にとって人間とは蟻のようなもので視界に入らねばその魂を識別できないと。
逆にいえばである。私の目は視界を外れた人間を追えない。視界から消えればもはや私にはその辺を歩いている蟻と見分けがつかないのだ。
この感覚、いうなればそう。何もない廊下を歩いていたと思ったのによく見たら床の模様が全部虫でしたみたいなそういうアレである。
完全に意識の埒外であった場所からの不意をつく一撃。もしかしたら、という可能性が生まれでた瞬間。
「ふむ」
口元に指を当てたアスタレルは暫く熟考。ポンと手を打った。
「暗黒神様、良いことを教えて差し上げまショウ」
にたにたとする様子からしてろくでもない話なのは間違いあるまい。だがしかし今の私は何でもいいから気を紛らわせろという気持ちでいっぱいだった。
「何さ」
「幽霊よりも祟りよりも怪異よりも恐ろしいものが世の中にはありマス」
無言で続きを促す。
「この寺院、まぁ心霊スポットではありますがもう一つ有名な話があります。
心霊スポットとして肝試しを敢行した一行がおりまして当然のように凸った結果としてそのままめでたく死去なされたわけですが。
毎日毎日花を供えて如何に死んだ若者がいい子だったかを涙ながらに語る母親は世間からの同情を一心に集めました。
ところがこの悲劇にして美談、一ヶ月後に自称母親の逮捕という形で幕を下ろします。
本当に恐ろしいのは人である、というヤツですネ。今でも心理療用院に居るそうで」
「やっぱいい」
聞きたくない。その方向性でくるのをやめろ。どきんこどきんこしてきた。なんてこった。最近も人間怖いとなったばかりである。
なんなら悪魔も不気味だ。意味不明の行動、意図の読めない言動、合理も何も無視した理解不能な生き方。わからない。私にはわからない。
誰も来ないようなこんな寺院であんな真っ暗な場所に人間が潜り込んであんな小さな穴の前で待機し、物音一つ立てることなく錐を握り込んだままずーっと蹲っているのを想像する。
まるで意味がわからん。なんという恐怖。何が楽しくてそんなことを。
アスタレルは私を背中にくっつけたまま、端末をポチポチといじりだした。だがしかし私にはそれを気にするような余裕は既に無い。
羊が何やら先程のスレに書き込むのを放置して廊下の向こうをじーっと睨んだ。その暗闇の中に潜むもの一つも見逃すまいと。
5596.本当は怖い黒羊さん
閃きました
5596.本当は怖い黒翼さん
何を?暗黒神様総攻めの薄くて分厚い本?
通販して
5597.本当は怖い黒雷さん
お前ってほんとバカ
5598.本当は怖い黒羊さん
いい度胸だとりあえずお前は後で殺す
5599.本当は怖い黒鋼さん
惜しい奴をなくした
いややっぱいいわ
5600.本当は怖い黒水さん
じゃあ総受け?
5601.本当は怖い黒杯さん
暗黒神様を?どうやって??
5602.本当は怖い黒月さん
総攻めだったら我慢できるけど総受けは無理
5603.本当は怖い黒蝶さん
わかる
誰のものでもないなら我慢できるけど皆のものとなったら無理
5604.本当は怖い黒魚さん
みんなで共有するとか無理みが強い
ガチな殺し合い待ったなし
暗黒神様のハーレムの一員自我状態故の均衡を崩すな
5605.本当は怖い黒月さん
暗黒神様が見かけだけでも女性体とった瞬間に性転換しまくった奴が出た過去に今の空気のガチさを感じる
抜け駆けが出たら一気に崩壊するのがわかるこの緊張感
5606.本当は怖い黒蝶さん
逆に女体になった悪魔も居たよね
あえて女体なところにメンヘラ感じる
5607.本当は怖い黒猿さん
うーん…
総評するに暗黒神様ってこのスレ見せるだけで怖がるんじゃね?
https://666chan.com/65841~
5608.本当は怖い黒虎さん
そのスレ見せられて怖がらないヤツいる?
5609.本当は怖い黒蠍さん
本当に怖いストーカーの立てたスレ貼るのやめてもらっていいですか?
5610.本当は怖い黒羊さん
愛ですよ
5611.本当は怖い黒蝶さん
シンプルにお前が気持ち悪い
5612.本当は怖い黒王子さん
暗黒神様って精神性がアレだから実は自分が対象のヤンデレと相性悪いよな
なにこいつ意味がわからん…こわ…ってなるタイプ
5613.本当は怖い黒羊さん
というわけで常識的に考えて暗黒神様をオカルト方面で怖がらせることは不可能です
未知の存在への恐怖というのはそれなりに高度な感情ですし
ですので手っ取り早くもっと原始的な感情へすり替えを行おうかと
5614.本当は怖い黒翼さん
何事もなかったかのように進めるお前のメンタルが恐怖だよ
5615.本当は怖い黒王子さん
何が嫌かってこのスレで怖いわーとか言ってるヤツらも参加してるところ
100%妄想でできてる暗黒神様との間にできた子供の育児日記のガチさから目をそらすな
二重人格かなにかで?
5616.本当は怖い黒狼さん
あーなるほど
つまりはこうか
和製ホラー→本当に怖いのは人間だったサイコホラー
5617.本当は怖い黒山羊さん
確かに暗黒神様って心霊スポット凸で幽霊に会っても怖がらないけどあとから実はそれ生きた人間でしたってオチがつくの無理っぽいよね
多分理解不能で無理なんだと思うけど
ミッションインポッシブルだったけど攻略の糸口見えた感じ?
5618.本当は怖い黒王子さん
無視すんなや
そういうところ良くないと兄ちゃんは思うぞ
5619.本当は怖い黒雷さん
自称兄ちゃんさん自分は違う悪魔みたいな空気出してますけどあなた毎日あのスレに暗黒神様からの手紙をあげて返信内容を相談してますよね?
なんか最近本当にこいつは暗黒神様からの手紙を貰ってるんだろうって気がしてきてるから俺に謝れ
5620.本当は怖い黒鋼さん
あのスレ見てると暗黒神様をすごく身近に感じて幸せになるけど全部妄想でできてるという事を考えると薄ら寒い気持ちになる
なんかこう自分は今精神病院のベッドの上で夢を見てるだけなんじゃないかみたいな漠然とした不安感
なんだろう、なんかあれから一気に様子が変わった。
具体的に言えば殺意を感じる。
「ギャーーーーッ!!」
包丁持って追い回してくる全裸の女から逃げ惑う。なんだあいつどっから湧いたのだ。
「アアアァアアアスタレル!!ちょっと私を背負って逃げるのだ!!」
再び降りたばかりの羊の背中にへばりつく。女は廊下を曲がりきれず勢いのまま金切り声を上げながら踊り場から落ちていった。
あわわわとしながら羊の角を握って揺さぶる。
「もういい!!知ったこっちゃねぇ!!アスタレル早く地下に行くのだ!!
とっとと済ませるのだ今すぐに!!」
「どうやら漸くご満足いただけたようで従僕は嬉しいですヨ。
これで先に進めるというものデス。この閉じた空間に体感時間にして千百八十六時間の拘束、暗黒神様の好奇心を満たすのは中々に骨が折れる。
ま、お付き合いいたしますがネ。───────────失礼」
言いながら人の姿となった羊のヤクザキックにより寺院の壁に大穴が空く。先程の小さな穴があった場所だ。
その部屋には先に発見してそのままスルーした筈のものが鎮座していた。風もないと言うに空気がそこに吸い込まれていくのが肌でわかった。僅かな空気の流れがするりと体を撫でていく。冷たい手で体を撫で擦られているかのような奇妙な感触。
夜よりもなお深き闇、暗き顎をぽかりと開きて迷い込んだ者をその深淵へと誘う。
さぁどうぞこちらへ、と。