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つちもぐら

 ゴゴーンと遠くで岩に鉄球を食らわせたであろう音が響く。

 流石というかなんというか、年季の入った呪われた荒野は地下のほうも土地的に実に宜しくない。いや既に荒野は抜けた筈なので多分惑星プレートレベルで悪いんだろう。

 粘土質の土に加えて大岩がゴロゴロしているのだ。何度機械を止められたか。


「むむ!!」


 アクセルを踏み込んでもガコガコとレバーを動かしても空回りするだけでピクリとも進まない。

 またもやハマったらしい。安全第二と書かれたヘルメットをぐいっと上げる。なんてこった!

 こんな調子で作業は遅々として進まず、遅れを取り戻さんと急ピッチで進めてはいるものの。

 完成予定日にはこのままでは到底間に合わない。

 作業員は既に泊まりこみで働き24時間体勢でフル稼働だ。

 一週間は月月火水木金金、主の安息日なんて悪魔にあるか。人は三時間寝れば動ける。

 それにしてもまた掘削機械の改良が必要かも知れぬ。着工してからというもの改良を続けてきた暗黒ドリル土竜号バージョンⅡ改でもこれ以上の作業効率アップは見込めそうもない。

 遠くでは同じく真っ赤な作業着を着てヘルメットを被ったマリーさんがボサボサの髭面に腐った目は落ち窪み色濃く隈が浮きげっそりとやつれ果てたブラドさんに向かって頻りに指示を出している。

 変な動きでトロッコを押す同じぐらいにやつれたカグラに鉄筋をがごんがごんと運搬する特に変わったところは見られないクロノア君、全く、人手が幾らあってもたりゃしない!

 ゴロツキ共が工事の音が煩く響く中で図面を覗き込みながら怒鳴り合い、作業のダム化するクズに鉄拳制裁。

 ガラガラガラという金ダライをぶっ叩く音と今日の配給だオラァという声。ゾロゾロとゾンビのように人が栄養の摂取に向かう。

 私はご飯は食べなくても大丈夫なので問答無用で掘削機をブルルンと唸らせた。

 寝る間も食べる間も惜しんで作業をしなければ完成の目処は未だに立っていない。

 容赦なくデカデカと書かれた施工完了の文字に向かって進むカレンダーに時が止まってくれと無駄な願いをかますチンピラのケツを蹴り上げ今日のノルマを終わらせてから帰るのだと叫んだ瞬間チンピラは絶叫を上げてぶっ倒れた。

 よく見ればこの顔は十九日間ぐらい連続で見ている気がする。まぁ気のせいだろう。全員どいつもこいつも似たような顔だ。

 ぶっ倒れたチンピラは腕章を付けたゾンビ共に引きずられて行った。病院?そりゃうまいのか。

 働かないなら邪魔なので作業場の外に投げただけである。ノルマ免除なんか勿論無いので働かなければ働かなかった分のノルマが刻一刻と積み上がっていくだけである。

 倒れて終わりなんてあるわけない。倒れてからが仕事の本番だ。

 就業時間だとか就業規則だとか糞食らえ、ノルマが終わるまでが就業時間でありそれが福利厚生と社会福祉と就業規則の全てだ。

 逃げてもいいが逃げた先には何もない。

 長いクソな人生で一個くらい何かやり遂げるのがせめてもの両親への手向けだと思わないのか。

 後に残った多く人やこの計画に迷惑がかかるとか思わないのか。

 皆同じ条件で頑張っているのだ。恥ずかしいと思わないのか。

 お前だけが頑張っているわけじゃないんだぞ。

 と、そのような事を泣きながら土下座するゴロツキに向かって切々と語って引き止め、後で話そうじゃないか、折角だから今日は取り敢えず働いていけ、な?と説得して煙に巻いてまんまと作業に入らせる。

 あいつは特に使い潰して思考力を奪わねば。やっぱり昨夜休憩用に作った移動式住居のゲルに帰らせたのは失敗だ。後で話?するわけない。何事も無かったように作業を続けていれば空気に流されて無かった事になるだろう。空気を読め、いい言葉である。

 考えつつガコガコとレバーを動かしながらエンジンを何度か吹かせるとブォンとタイヤが外れた。よし、これで作業が進む。ちらっと時間を見る。大幅なロスである。残業して取り戻さねば。


「ただいまー」


「戻ったぞえ」


「ウルトディアス、そちらは作業の邪魔になるだろう。

 あちらに行くぞ」


「お」


 食料調達隊も戻ってきたようだった。転移を使える魔法組は外に出て食料調達や資材調達に回っているが、それを羨ましがった作業員がこぞって魔法を習得しようと躍起になっているので全体的な魔法技術がうなぎのぼりらしい。

 食料の備蓄は既にない。こうやって外から直接調達するしかなくなって随分と経っている。

 そろそろ美味しいものを食べたいものだ。香辛料や調味料の類を集める余裕はなく、既に食料を味付け無しにそのまま丸ごと焼くか煮るか蒸すかの三択である。

 完全食も大量に持ち込んだ筈だが三日と持たなかった。

 地図のコピーを眺める。目的地のユグドラシルの神泉とやらまで到達するにはあとどれくらいかかるやら。これじゃあ当初の計画がパーである。

 掘り進めながらも簡素ながらレールを敷くのは忘れてはいけない。あの地下空洞に繋げるためである。

 あの地下空洞が私の土地だからというのもないではないが、何よりここでは貴重な水資源が残っているのである。

 地上からの探知では既に水は枯れたものと思われていたのだが、実際に探索したところかなりの巨大な地底湖が発見されたのだ。

 地下水がどこからか流れ込んできているらしく白濁もしておらず、水源地を探したところリムストーンプールとかいう棚田のような地形をした斜面の上から水は流れ込んできていた。

 ギルドマスター爺が言うには南大陸のユークレース山脈に似ているらしいが。まぁそんなことはどうでもいいことである。

 カミナギリヤさんの見立てでは煮沸しなければ危険だが飲水足りうるということで、現状の水はあちらから汲み上げることになったのだ。

 水当番は作業員から交代制であるが、人気の当番だ。サボれるからである。ちんたらちんたらと時間を掛けてやってくるものだから待つ側としては罵声の一つも浴びせたいものだ。

 あまりにも苛ついたのか最近では密かに運用するトロッコに細工してちんたら出来ないようにしてやろうかとまことしやかに囁かれている。


「おーい、クーぼん」


「む、何さ。万年最下位ギルドマスターじいちゃん」


 掘削作業をしているとギルマス爺が来た。


「その呼び方やめて!!」


「ちなみに最下位はじいちゃんでその次がギルド総裁、んでその次は技術部門総括、そして大書庫管理人と来るというギルド創立メンバーで埋め尽くされてると聞いたぞ。

 もっとしっかりするのだ」


「何それ儂あいつらより下なの!?嘘じゃろ!?」


「そこなんだ」


 ダメダメだな。創立メンバー碌でもねぇ。まあこの情報をよこした奴も創立メンバーは創立者という肩書がなけりゃ軒並み全員ただのクズとか言ってたからな。


「嘘だぁ……マジか……ていうか何そのランキング、儂聞いてないし。

 言った奴斬ってやろうか……」


「私は忙しいので用事なら早くするのだ」


「あー、そうじゃった。そのランキングは今はいいとして、クーぼん。

 幾らなんでも人手が足りん。思った以上に地質が良くねえ。土精霊もぼつぼつ居るらしいんじゃが使えねぇらしいからな」


「そうなの?」


「人間の方で動きがあるらしいぞぅ。精霊を集めて情報収集してるんじゃねーかってなってな。

 精霊ってのは気まぐれっていやあまだマイルドだが契約で縛ってもぶっちぎっちまう脳足りんからなぁ。まぁ小精霊みてぇな知恵も言葉もないただのエネルギー体ぐらいの奴なら普通は気にしねぇんだが。

 人間にクロイツマイン=ライン=ハーツマルトってのが居るんだが。こいつが四源精霊王と契約してるとかいうバケモンでな。噂じゃ三原霊とも契約とまでは言わねえが接触したことがあるとか言われててな。

 そいつが精霊に異常に好かれるとかで妖精王も首を傾げてるみてぇだが。兎に角こいつが居る限り精霊を使うのはやめとけってよ。あいつにかかると小精霊すら万、億の数集まって意志ある精霊化するらしいぞ。

 ……わかんねーって顔だな。わかりやすくは儂らに言わせると顕微鏡でようやく見える単細胞微生物に言うこと聞かせたり重力とか磁力みたいな波動と会話するキチガイっていうか」


「それはキチガイですわ」


 何それ怖い。


「魂源魔法がなんかそれ系なんじゃねーかって話な。まぁそいつを斬っちまえばいんだが。それが出来れば苦労はしねぇ。

 自分でもわかってるらしく表に先ずでてこねーらしいから。表舞台に出てくるような奴ならそんなめんどくさい奴は九龍がとっとと首捻ってるわな」


「九龍?」


 クーロンとか誰だそれ。聞いたことない奴だ。名前の響きが若干似ててライバルの予感がする。


「ギルド総裁」


「へぇ……」


 そういう名前なのか。

 首を捻るとか微妙に怖いこと言ってるけどそこは無視しとこう。

 がこがことギアを動かしてちょいと訊ねてみた。


「ギルド総裁とじいちゃんはギルドの創立メンバーだっけ。

 創立メンバーってどんな感じだったのさ。ギルドもなんで作ったの?」


「……ふむ。儂は元の世界じゃあ剣の道で生きててな。

 剣はな、切ってナンボなのさ。人間を斬り殺す、そのための武器だ。飾りたてて振るう刃に何の重さがある?

 ワシも人間国宝なんぞと呼ばれはしたがな、剣が錆びついていくのがわかった。

 言の葉で飾り立てられて大事に仕舞い込んでくれなんぞと頼んだ覚えはなかったんだが。

 だからよ、見世物みてぇなもんだったが……地下の死合に出たのさ。ありゃあ楽しかったなぁ、命の鍔迫り合い、火花の一つ一つの魂が篭ってる。

 ひりつくような緊張感と研ぎ澄まされる時間、ほんの僅か、膚先を撫でる死の銀線。互いに言葉が無くとも言ってることはわかった。あんな時間はそうそうねぇな。

 あのさー、ワシら最初揉めたのよ。ギルド創設メンバーとか言われてるけどそんないいもんじゃねぇの。誰が一番つえぇかで二、三日位揉めた。んで、一対一、死んでも文句はなし。互いに斬りあった。

 生まれて初めてだったなァ、土を舐めたのはよ。九龍はめっぽうつえーぞ。凶手っつーのか、侠客か?

 拳で人間が二つに千切れるなんざそうそう見ねぇよな。素手でも人は殺せるとか言ってたな。危ない奴だよねー。

 こうでもならなきゃ儂絶対近寄らんもん。あいつ儂みたいな真っ当な剣士とかじゃなくて談笑してた次の瞬間には首をへし折ってくるタイプじゃん。

 あいつは人間を殺して回ることが生活の一部になった人間だな。ワシみてぇな平和な国で立場に縛られてたような剣士とじゃあ修羅場を潜った数が違う。命をドブに晒せば晒すほど腰が据わる。一撃に懸ける重みが変わる。

 言い出したのは九龍だがギルドを作ったのは最初はただの道楽じゃねーかな。やりやすいから組織体系化しようってなったんじゃないか?

 儂も傭兵みてぇな事をしてただけさ。斬れればそれでよかった。この世界の現状見て嬉しかったってぐれーには。

 最初は六人。二人は寿命でくたばったが。どいつもこいつもどっかネジが外れた奴ばっかだったな。まぁ世界からおっこちるぐらいだからなあ。余程外れた道でも歩いてなきゃ落ちないだろ。

 ま、儂も四十年も経っちまって愛着は湧いたから少なくとも儂は道楽とは今は言わんが。

 そういやあ九龍ほどじゃあねえが……呵々、あの剣聖とかいう女は……ありゃあ良いな。強い。

 若かったがワシの全盛期に近いかもしれん、あいつと目一杯に斬り合いたかったなァ……」


 猛獣のような横顔には平素のあの駄目爺の面影はない。あっ、これ触っちゃ駄目なヤツ。何が真っ当な剣士だって?

 耳が変な変換したな。うむ。


「ふーん。で、結局用事ってなんだったのさ」


「そうだった。クーぼん話逸らすな」


「逸らしてないじゃん」


 勝手に脱線していったんだろ。


「とにかく、人手が足りねーからちょいと九龍に言ってギルドで人手出す。

 状況が状況だからそこまで大掛かりには呼び出せねーが。先ずは山虎人のガドイル。

 トリック支部のギルドマスターなんだけどこの前お前らのチームにカグラを捩じ込むのに協力とかいうチョンボやらかしたからその罰。

 直接こっち見せた方があのおっさんも納得するだろうし。頑固で思い込みが激しくて脳筋のバカだけど力と体力だけはあるから使え使え。

 あとは厳選したメンツで十人かそこらかなあ……」


「ほうほう」


 それはいい話だ。人手が増えれば助かるし。もしかしたら休憩も回せるようになるかもしれないな。いやでも甘やかしたらつけあがるだけだから今のままでいいか。


「あ、こら。言っとくけど今のブラック労働環境はいかんからな。

 流石に能率が落ちてきたし。ぶっちゃけ奴隷でもここまで酷くないぞ」


「ちぇっ!!」


 バレていた。仕方がない。ちょっとばかり色をつけてやるか。

 現場監督としては面白くない話だが、能率が落ちてきているのも確かである。

 昼飯くらいは出してやらねばなるまい。

 ぱかりと本を開く。魔物を相当数増やしたせいか、魔物カテゴリと開拓カテゴリが大幅にパワーアップしているのだ。

 その中にあったのが魔力変換の一つ。

 アスタレル先生がおっしゃっていた加護を与えた奴らが活動する事で生命エネルギーや感情エネルギーを得られると言っていたアレである。



 商品名 家賃徴収

 加護を与えた生物、領域内に生息する生物から放たれる感情エネルギーや生命エネルギーを吸収し瘴気や魔力に変換します。

 変換には専用の魔物が必要。



 というわけで余った魔力でこれを買って魔物を幾つか進化させたのである。

 投資と言うやつだ。何せマリーさんには加護を与えたということになるのであろうし、魔物を遊ばせとくのも勿体無い。

 魔物が外から回収してきていたあのゴミみたいな奴なんかもどうやら魔物が街で回収してきていた感情エネルギーとやらだったらしく、今までは地獄に投げ込んで貯め込んでいただけのようだったのだが魔物を進化させたので解体出来るようになったらしかった。

 というわけで魔力もぼつぼつ貯まってきている。遊べるほどではないがとりあえず素寒貧は脱却した。

 これで美味い昼飯でも奢ってやるか。


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