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天より来たる御使い1

 特に依頼を受けるでもなく一日が終わってしまった。

 ブツブツと呟き続けるブラドさんにマリーさんも静かに考え込んだままで上の空。

 シャーリーさんもブラドさんが使い物にならないからと二階の宿へと戻ってしまった。

 クロノア君はいつも通りぼーっとしている。

 まあ依頼があっても今日は駄目だっただろう。

 良かったような、残念なような。

 ちょっとだけ楽しみだったのだが。

 帰り道に食料店に寄って買い物をしてそれぞれの部屋に戻った。

 どうでもいいが食料は高かった。ここでは貴重らしい。

 本でどうにかできるだろうか。

 しかしマリーさんの封印を解くと約束したし、無駄遣いは避けよう。

 ベッドでごろごろと本を眺める。

 ティーセットがあった。今度出しておこう。

 そういえば忘れていた。

 魔物作りだ。瘴気を溜めれば魔物が産まれると言っていたが。

 どれだけ時間が掛かるのだろうか?

 地獄が作れたくらいだ。魔物制作に関しても何かあるんじゃないか?

 パラパラと本を捲る。

 小物、家具、内装、加護、領域、神域、生活セット……。

 パラパラとめくり続けて目に留まったのは魔物セット。

 これだ。名前からして間違いあるまいて。

 やっぱりあるんじゃないか。

 もっと早く確かめておくのだった。



 商品名 暗黒神ちゃんマーク

 設置する事でその場に居ずとも瘴気を溜める事ができる。

 閉じた境界でなければ瘴気が拡散して効果が薄れる。

 一度購入すれば幾らでも設置可能。

 ただし、設置すればするほど一つにつき出せる瘴気の量が減る。

 計算式としては本人÷マークの数



 これだ!……だが、しかしだ。

 割り算とは痛い……!!痛すぎる。ぐぬぬ。

 私の瘴気では一個がどう考えて限界だ。

 二つも三つも作れば時間対費用効果が割りに合いそうも無い。

 そりゃあ時間が無限ならば問題はないが。現実はそうではない。

 クッソー……。しかしこのマークは安い。

 今後を思えば必要だ。

 自由に動き回れるというのは最弱の名を欲しいままにする私には非常にありがたい。

 ここは購入しておくべきだろう。

 魔物を作って魂の回収と領土開拓をすればマリーさんの封印も早く解けるのだ。

 木の枝でがりがりと床に書いてみる。


「おお」


 うっすらと何やらマークが浮かんでくる。

 暗黒神ちゃんマーク。

 少々アホっぽい名前だがまあいいだろう。


「むむ!!」


 やがてはっきりと浮かび上がったマーク。

 デフォルメされまくった私の顔が描いてありアホっぽい顔でピースしていた。

 うわ、超アホっぺぇ。

 デザインした奴は名乗り出て欲しい。

 ぷりぷりしつつも魔物セットの他の商品を見てみることにした。



 商品名 炎属性

 生まれる魔物を周囲の魔素に関わらず炎属性に固定する。



 ふーん、これは他の属性も一通り揃っているらしい。

 サラマンダー的な小悪魔に進化するのかもしらん。

 でもこれはあまりよろしくはあるまい。水をぶっかけられたらおしまいではないか。

 色々な属性を網羅せねば役に立たなさそうだ。



 商品名 魔物LVアップ

 生まれてくる魔物の格を一段上げる。

 必要な瘴気の量もそれに伴い増える。



 これはつまり今の状態で作れる魔物が最弱って事だろうか?

 そうとしか思えないが。

 まあ街中だし……いいか。

 アスタレルが作ってたような凶悪な病原菌を作っても困る。

 それにしても色々あるようだ。そのうちやってみたいものである。

 時間も頃合い、木の枝を気分的に水を入れた花瓶に入れて本を閉じて布団に潜り込んで寝ることにした。

 別に寝る必要は無いが寝れるのだしする事が無いのなら寝るのだ。

 暗黒神ちゃんマークもあるし暫くすればこの部屋に最弱であろうが魔物が生まれるはずだ。

 なんだか楽しみだ。

 さて、どんな子達が生まれるのだろうか?

 ワクワクとしつつ、すやすやと眠りに就いた。

 翌朝。

 コンコン、控えめなノックの音で目が覚めた。


「むに……」


 目を擦り擦り起き上がる。

 時間は早朝。

 日も昇っていないのだが。


「クーヤ、起きているかしら?」


 マリーさんだ。

 二日続けて起き抜けにマリーさんとは眼福眼福。

 もぞもぞとベッドを抜けてドアを開けた。


「今日は依頼を受けるつもりだから、そのつもりで準備しておいて頂戴。

 封印を解く為の魔力も溜めたいわ」


「ふぁーい」


 欠伸交じりの駄目返事になってしまった。

 しょうがないのだ。

 流石に朝も早すぎる。


「それに貴女にもギルドに登録して貰おうと思うの。色々と便利だから。

 ブラドとクロノアも準備は出来ているわ。貴女も準備が出来たら降りてきて頂戴」


「ふぁぁあぁい」


 益々駄目な返事になった。

 ダメダメな返事を返してから気付いた。


「私も登録するんですか?」


「ええ。行動を共にするならあったほうがいいの。

 別に貴女に依頼を請けて仕事をしろとは言わないわ。

 そんなに気負わなくて大丈夫よ」


 それならまぁいいか。

 部屋へ踵を返してリュックに本を入れて木の枝を入れて背負って準備は終わった。


「終わりましたぁ」


「………とても簡単ね」


 なんだか呆れられてしまった。

 マリーさんと下に降りて待合所らしき場所に行くと確かにブラドさんとクロノア君が居た。

 …二人とも私と対して変わらないのでは。

 というかマリーさんもほぼ手ぶらだ。


「ははは、珍しくやる気だなお前ら。いつでもその調子ならいいんだがな。

 チビも気を付けて行けよ」


 これでやる気がある状態なのか。

 普段どんだけやる気が無いのだろうか。

 カウンターにどっかり座った大家のコールさんに励まされて私達はギルドへと出発したのだった。

 地味に私のというかこの三人の初依頼見学である。

 何をするかは少々不安だったが。

 地味で簡単なものでありますように。

 切に祈っておいた。

 行きに簡単な朝食を買っておいた。

 昨日のベーグルである。

 この店のものは美味しいのだ。

 ここしか食べて無いけど。

 三人とも同じ店だったので三人的にもここが一番なのだろう。

 口いっぱいにベーグルを頬張りながら歩いた。

 どうやら暗黒街はこの時間帯が一番静かになるようだ。朝霧に烟る街は静まり返っており何の音も聞こえない。

 この際その辺の浮浪者と酔っ払いには目をつぶろうではないか。




 カランカラン


 毎度おなじみのベル。

 昼と違ってなんというか、がやがやと騒がしいまさに冒険者のギルドって感じである。

 あっちこっちで重厚な装備に身を包んだ人たちが武器を手入れして掲示板を眺めている。


「ん?何だ、お前ら今日は依頼を請けるのか。普段はグータラと人間討伐の依頼を待ってるだけだってのに。珍しいな」


 ……そんなに珍しいのかこの三人が働くの。


「そのつもりよ。クーヤを同行させるからギルド登録をお願いするわ」


「あぁん?大丈夫かよ。死ぬんじゃねぇか?」


 ごもっとも。

 死なないように気を付けるしかないのだ。


「わたくし達の護衛対象だもの。いざとなればブラドが壁となってくれるでしょう」


「……マリー、冗談はよしたまえ。守りはするがね」


 店主が手招きするのに従ってカウンターに歩みよる。


「よう、牛乳娘。せいぜい死ぬなよ。これ書け。字は書けるか?」


「はい」


 何故だか字は書けるのだ。名前と種族とクラス。

 うぅ……ん?

 どうしよう。そのまま書くのがマズイのは流石に分かる。

 ……そういえば私は異界人という設定だった。


「異界人なのですが種族とクラス、どうすればいいのでしょう」


「あぁ、そうなのか?確かに変わってるもんなお前。どっちも異界人と書いとけ」


 それならいいだろう。

 ぐりぐりと紙を書いて店主に差し出した。


「じゃ、これに手をあてな。そうすりゃ勝手にお前さんの魔力とステータスをギルド情報に登録する。登録地は……北大陸のギルドにしとくか。

 そうしとく。ここは非合法なんでね」


 差し出してきたのは変な石板だ。

 今まさに身分詐称を働いたのだが大丈夫だろうか?

 やってしまった後だ。

 なるようにしかならないな。

 バレたら謝ろう。

 ちっこい手をぎゅぎゅっと石版に押し当てた。

 いつの間にやら三人が集まってこっちを覗き込んでいる。

 バレた時の謝罪対象が増えてしまった。

 昨日のマリーさんの封印の件は嘘ではないので見逃して欲しい。



「…………お前、悪い事はいわねぇ。マジでやめとけ。死ぬぞ」


「……これは……ひどいな……」


「……わたくし、長く生きたけれど……初めて見たわ……」


「…………」



 すごい言われようだった。

 ……仕方が無い。

 何せ初めて見たときは私も似たような反応だった。

 むしろ自分のステータスであるだけにショックもひとしおだった。

 私が手を押し当てた石版の上にはぼんやりと光るプレートが浮かび上がり、そこには文字が書かれている。



 名 アヴィスクーヤ


 種族 異界人

 クラス 異界人

 性別 女


 Lv:1

 HP 5/5

 MP 5/5


 攻 1

 防 1

 知 2

 速 2

 魔 3

 運 1


 魔法:なし

 耐性:闇属性吸収 全属性耐性 状態異常無効



 身分詐称には成功したらしいが、こればっかりは誤魔化しようがない。というか誤魔化してもしょうがない。

 全員が全員、この世で最も不幸な、その上その不幸に気付いていない者を見つけたような、悲壮な顔で私を見てきた。


「……クーヤ、貴女……絶対に前に出ては駄目よ」


「……ああ、いざとなれば私の背に隠れろ。何とかしよう」


「………」


「牛乳娘、死ぬなよ。……人間の赤ん坊よりひでぇ」


 もちろん言える事など何も無い。

 こっくりと頷いた。


「幸いにも闇属性吸収に、全属性耐性があるし、状態異常無効もある。……正直なところだからどうしたというレベルだけれど……無いよりはマシでしょう。

 クーヤ、貴女、何かスキルは持っていて?異界人ならありそうなものだけれど」


 スキル……ウロボロスの輪しかないな。

 言わないほうがいいか。


「特には……頼れるものは本だけですが、魔力が少ないので魔水晶に頼るしかないので……マリーさんの封印の事もあるし使いたくはないのです」


「……そう……ね……。それならその本は使わないで頂戴。ただ、身の危険を感じればわたくしの事には構わず、迷わずに使っていいわ」


「はい」


 マリーさんの顔が悲壮を通り越して慈愛になった。

 悲しまれるよりキツイ。

 というわけで請ける任務は私の最弱ぶりを考慮してマリーさん達にしては比較的マイルドなものを請ける事になったのだった。


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