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流星

「もう少しだー!」


「もう……っ!本当にこちらであっていますの?!」


「間違いないわーい!」


 くんくんと鼻を慣らす。枝を使うまでもない。目指すはあの船の残骸跡である。目印にいいということらしいので。

 あの近くには私が焚き火で焼いたはまぐりがそのままある。その芳しい香りさえ辿れば枝など不要だ。

 茂みを掻き分け掻き分け、島からの脱出の為にえっちらおっちらと歩く。


「そのモンスターの街とやらにマリーがおるのじゃな?

 船と言うとったが。少しはマシな船じゃろうな?」


「……初代魔王の満足するような船ではありませんわよ。

 ご期待なされないでくださいまし」


「ふん……なんじゃ。詰まらんのう……」


 まぁボロ船だしな。魔王的にはあの海賊船みたいなヤツのほうがいいのではなかろうか。

 やがて辿り着いた難破船。私が残した焚き火の跡がそのまま残っている、と思いきや綺麗に食い荒らされていた。どうやら私が目印にしていた香りはただの残り香だったようだ。

 クソッ!

 犯人は焚き火の近くに転がっている丸々とした白い毛皮が眩しい獣だろう。腹を出している様子から野生は伺えない。

 どっちにせよ害獣もいいとこだ。幸せそうな顔が実に腹立たしい。スパーンと腹を叩くと慌てたように逃げていった。

 まぁいい。人の居ない楽園ははまぐりなど取り放題よ。今に見ておれ。


「…………」


 じーっと獣の行先を眺めていたクルシュナがグルンと少々怖い動きでこちらに向き直る。


「はまぐりでも肉の欲に堕天するのか」


「なにがさ」


「クラガリ様に聞く方が馬鹿なのか」


 一方的に馬鹿にされて話は終わった。


「別に良いであろ。何れにせよこの島は闇の領域に堕ちる。

 混沌が顕現せし魔王の領域、光に属する者などお呼びでないわ」


「もう……なんでも構いませんから早くしてくださいまし!

 連絡が取れるのでございましょう!?

 早々に合流いたしませんとあの龍が来ますわ!」


「おー」


 そういやそうだった。あのウナギも居るのだった。一応この島にいるという情報自体は伝えているが、改めて連絡を取った方がいいだろう。

 急がねばなるまいて。

 がさがさとラーメンタイマーを取り出す。前と同じくおじさんでいいだろう。

 ジーコロジーコロとハンドルを回しておじさんにセット。さてさて。


「…………」


「………………どうなさったのかしら?」


 うむ、出ないな。呼び鈴が鳴り続ける中、おじさんが出る様子はない。

 何かあったのだろうか?もしかしたらまたあの海賊船に接触したのかもしれないな。

 まぁ大丈夫だとは思うが……おじさんならうっかり気絶してても不思議はない。掛ける相手を変えるか。

 えーと……取り敢えずウルトでいいか。あいつはおたんちんではあるが前回を鑑みるにスピーカー通話状態らしいので他の皆さんとも通話は可能であろうし。

 小銭もとい魔力を入れなおして咳払い一つ。もしもーし、こちら暗黒神ちゃん、ペドラゴン応答せよ。

 沈黙を守ったままの皆さんが見守る中、暫く呼び鈴が無情に鳴り続けたが。

 ガチャという微かな音と共に呼び鈴が止んだ。

 お。


「………ウールトー?」


「……あれ?クーヤちゃんです?」


「そうだー」


「ウルトディアス様、アッシュ様から返答がありませんでしたけれど……そちらで何かありまして?」


「まぁそうですかねー。僕もクーヤちゃんの声で正気に返ったんですけど。

 こっちに長いのが来ちゃったんで頑張ってるんですよー。あはは、嫌になっちゃいますよねー」


 長いの……ウナギか。どうやらこちらに向かっていたであろう船に行ってしまったらしい。

 全く。逃げ出して至高のうな重にならなかった上に船を襲うとはダメなウナギである。


「下の方だと海賊船も来てるし、船に穴が空いちゃって大変なんですよ。

 カミナギリヤさんが大暴れした後に失神しちゃってそれに巻き込まれてアッシュさんも気絶しちゃいましたー」


「お、おぉ……」


 何やら悲惨な状態のようだ。

 どうしたものやら……。考え込んでいると黙っていたクロウディアさんが首を傾げた。


「…………お主、ウルトディアスかえ?」


「あれっ?」


「……………あ」


 そういや魔王同士初邂逅だった。ペドラゴンがあんまりそれっぽくないのですっかり忘れていたが。


「人の声を手繰れたのかお主」


「あはは、まぁ確かに喋った事無いですけど」


 昔はまさかの無口キャラであったらしい。なんとなく青いねじ頭を思い出した。


「女好きの光物好きで頭にクソが付く大暴風、人語も介さぬ意志の疎通も取れぬ、ただの天災に近いヤツじゃったというに。

 あまりにも振って湧いた不幸すぎて自然災害扱いされておったじゃろ。余もお主に知性や理性は無いと思うておった。

 こやつらがお主に会うたと聞いた時も余は一方的に蹂躙されて残念な目に逢ったものと思うておったぞ。

 それがまさか行動を共にしておるとは思わなんだ……意外じゃ……マリーも目を剥くであろうな……」


「そうですか?あ、でも意外と言えば僕としてはマリーさんですけどね。

 ブラドさんとクロノアさんと仲良くしてるらしいですよ。びっくりしちゃいますよねー」


「なんじゃ。喋ったと思うたら面白くもない冗談を飛ばすヤツじゃの」


「え?いや、ほんとですけど」


「む、二人揃うて余を謀るか。いい度胸じゃの」


 本当なのだが一向に信じる様子がない。プリプリと怒っていらっしゃる。

 何がそんなに信じられないのかが私にはわからんのだが。

 皆さんふつーに仲よさそーだったが、魔王同士で何か通じるものがあるのやもしれん。

 まあいいか。そんな事よりこっちの方だ。


「ウルトー、周りには誰か居ないのかー」


 地図の概念の無い竜に此処がどこだのどーだの話してもしょうがない。できればカグラ辺りが居ればいいのだが。

 どうにもウルトの声とは別に風の音とあとは遠くからドーンバリバリグシャグシャダッパーンとかいう謎の音とあとはまぁなんか悲鳴っぽいのがいっぱい聞こえてくるようだが。


「うーん、僕が地上に降りるとあいつまで降りて来ちゃいそうですからねー。

 なんとか引き剥がしてみますねー」


「おー」


 ふむ、空中に居るのか。

 空を見上げる。どんより曇った空からちらほらと雪が舞い落ちる。特に異常は見られない。

 しかしもうあまり時間がない。一旦切るか?多少高くとも直接カグラに連絡を取った方がいいかもしれない、というかもうあっちの方がピンチのようだしこっちから何とかして合流した方がいい気がしてきた。

 どうやらクロウディアさんもそれを思ったらしい。顎に手を当てて考え込んでいたようだが徐ろに口を挟んできた。


「ウルトディアス、余らがお主らに合流した方が早い。

 そちらの位置が余らにわかるように何とかせい」


「あ、そうですね。じゃあ何とかしますねー」


 どうやらペドラゴンが何かするようだ。通話を終えてざくざくと砂を踏みしめて海岸線を眺める。どこに居るのやら。

 ちっとやそっとの目印では位置の特定は難しそうだ。目をぎゅぎゅっと凝らす。

 暫し沈黙。特に何も起こらないな。島の反対側かもしれない。一歩後ろに下がった時だった。その風が吹いたのは。

 ひゅぅ、甲高い音と共に草葉が波紋のように揺れる。酷く冷たいその風の中にニブチンな私でもウルトの邪気であろうものを感じた。


「―――――――――お」


 風が吹いた方向に向き直った次の瞬間、世界が真白に塗り替わった。


「ンブフゥッ!!」


 極寒の冷気が青々とした緑を凍てつかせ海面を嬲り氷の霧となって舞い上がる。フィリアが遠くで悲鳴をあげて小さくなって丸まっている。

 私が冷たいと感じるレベルの冷気、ただの人間のフィリアじゃ死ぬんじゃないか。思ったがその冷気もすぐに止んだ。

 目印程度に一瞬だけ吹かせた感じであろうか。確かに分かりやすかったが。


「――――あちらじゃの!」


 クロウディアさんが海際で遠くを示す。海の向こう、蒼い光が微かに見えた。

 あの光に向かって行けば船があるのだろう。よしよし。さて、どうやって向こうまで行くか。言い出しっぺのクロウディアさんもブツブツと一人じゃったらのうとか呟いて考えあぐねているようだ。


「一人だけなら行けるだろう。お前だけでも先にいけばいい。空ぐらい飛べるだろう」


「……風の精霊王は一々クソ喧しい。一人も二人も三人も変わらぬじゃろうに術者以外が地の精霊を振り切る事を認めぬ。

 人数分の風の精霊を集めても良いが……」


「無理だな。お前とフィリアは兎も角、俺とクラガリ様に精霊は近寄らない。別に俺は地獄に戻ればいいだけだが」


「面倒じゃなァ!暗黒魔法さえ使えればのう……」


 うーむ、仕方がない、本を使うか。しかし最近は魔力を使ってばっかりだな。どこぞで回収せねば。ちょいと考えて地獄の輪っかをこそっと設置し回収出来そうなのでトイレに流しておいた。

 漂流者とかも居ただろうしな。けどまぁ鬼ヶ島周辺はあの鬼姫の領域だったようだし、彼女が魂を取り込んでいたのであろうことを思えばそんなにあるとも思えなかった、のだが。

 …………かなりありそうだな。なんでだ?

 考える。あの鬼達に魂があったとは思えない。となると、悪魔であるクルシュナが喰っていた分だろうか?

 それもあるかもしれないが……。うーんと考えてふと気付く。そうか、天使か。ここに多く来ていた天使、その魂の一部なりとも吸い込んだのかもしれない。

 確かにあいつらは高そうだ。もしかしたら天使ってかなりの魔力源なのかもしれないな。

 そこまで考えて思い出したがそういや最近暗黒花の種を蒔いていない。ゴソゴソとポッケを漁ってついでにその辺にばら撒いておいた。

 満足してぺらっと本を捲る。ちらっとこちらを見たクロウディアさんが微かに首を傾げてこちらを覗き込んできた。


「なんじゃそれは。悪魔の気配を感じるのう」


悪魔の芸術品(オーパーツ)ですな」


 そういやクロウディアさんの前で使うのは始めてな気がする。なんかもう普通に使ってしまっているがもういいか。

 人混みとか人間の前とかじゃなきゃ別にいいだろう。うむ。


「見たことのない芸術品じゃの。製作者は誰じゃ?」


「えーと……」


 マリーさんにもあいつから聞いた名前では通じなかった。

 物質界だと二つ名を使うのが悪魔だとマリーさんはおっしゃってたな……確か本で見たあいつの腕にあいつの二つ名っぽいのがあった。

 ぺらっと捲る。あー、これだこれ。相変わらず馬鹿高いな。イースさんも言っていた言葉だし間違いあるまい。


「黒貌ですな」


「…………………」


 何やら黙ってしまわれた。若干目が泳いでいらっしゃるように見えるが大丈夫であろうか。

 暴れまわっていたし今になって体調が悪くなってきたのかもしれない。心配である。


「えーと」


 ペラペラとよさ気な商品を探す。大人数で海を渡る方法、と。

 生活セットは本当に安心である。幾つか種類があるようだ。安いものから適当に選ぶか。



 商品名:サバイバル式平型木船

 サバイバルな雰囲気を出すには欠かせない船。

 二本の櫂付き。

 耐久力は1km。



 ……イカダだな。幾ら安くても無いな。



 商品名:ペダル式渡り鳥

 ムードを重視した船。

 親睦を深めたいならこれ。

 耐久力は5km。



 白鳥のアレだな。

 もう一声、ページを捲る。



 商品名:蒸気式イルカさん

 蒸気の力でスクリューが回るイルカさん。

 炉には常に石炭が必要なので一人犠牲にしましょう。

 耐久力は10km。



 う、うーん……。安いものは安いぶんちょっとアレのようだ。

 いざ買ってみて使えませんでしたじゃ洒落にならない。仕方がないな……。

 ぺらっとそれなりにページを捲った。




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