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高貴なる炎4

 どれほど歩いたか。

 爆炎を吹き上げて崩れていく巨体を見ながらクロウディアさんに話しかけてみた。

 いや、やることが無いのだ。文字通りのついてくだけ状態である。

 ここは一つ、この暗黒神ことトゥインクルクーヤちゃんが一肌脱いで宇宙人と異星人混じりのメンバーの親睦を深めるべく、コミュニケーションに励むべきであろう。


「クロウディアさんってウルトやマリーさんと仲良しなんですか?」


「小娘、そのようなわけがなかろう。

 敵じゃ敵。特にマリーベルなどと冗談ではないわ」


「え?そうなんですか?」


 即答である。

 意外な。魔王同士仲良くないのか。


「ウルトディアスは他の魔王になぞ興味が無い。好きに生きておったがのう。

 マリーベルは戦闘狂いのババアじゃぞ。こちらの姿を見た瞬間にはもう臨戦態勢で突っ込んできおる。

 魔王の中でも随一の血狂いじゃったわ。魔王らしく、吸血鬼らしいといえばらしいがの。

 余は黒魔術の奥義を極める事が悦びじゃったから、まぁ、その、なんじゃ。

 …………引きこもりじゃ。うむ」


「ああ、そうですか……」


 ヒッキーだったらしい。

 同じくついてくるだけのフィリアが興味津々とばかりに身を乗り出すならぬおっぱいを乗り出してきた。

 私の頭に乗せるんじゃない!!クソッ!!


「私、他の魔王にも興味がありますわ。

 どのような方たちでしたの?名前ばかりが残るだけでその本性については全くの謎ですのよ。

 星落とす魔女エウリュアル、悪辣なる者ガルーネシア、特にこの二人は一魔道士として実に興味深いですわ……」


「む、そのような事を言われてものう、どちらにも会うたことがないわ。

 その小娘に聞けばよかろ」


「え?」


 何故に私なのだ。


「主以外に誰が知るというのじゃ」


「えー?」


 知らんがな。


「なんじゃ、とぼけておるのか、まことに覚えておらぬのか」


 む?

 考える。変なことを言われてしまった。

 うむむむと唸るが覚えはない。そんな奴ら会ったこともねぇ。


「……余の幻想を根本から打ち砕くそのアホ面をやめぬか」


「えぇー?」


「…………洟を垂らすでないわ。ええい、しゃっきりせぬか!」


「むむ?」


 益々わけのわからん事を言われてしまった。

 知らんがなボタンがあれば十連打は決めている。


「主様の偉大さがわからぬとはまだまだ芥虫は芥虫でありんす」


「……………………そうは言われてものう」


 変なことを言うクロウディアさんである。

 しかし、ふむ。

 ざくざくと進む最中にも迫り来る鬼達をドカンドカンと炎で蹴散らしながら会話に勤しむクロウディアさんはかなりの魔王ぶりである。

 全員やることもなくのこのことついていく。

 ちらと思う。……それにしても、強すぎないか。

 魔王とはいえ、弱っちくなっている筈なのだが。そのようなそぶりは一切ない。

 いや、そういえばウルトがこれでも弱くなっていると言っていた。詰まるところ、これで全盛期に及ばぬという事か。

 怖い。魔王怖い。思えば生ける魔法砲台系魔王といえば封印されているマリーさんしか知らない。いや、そも三人しか会ったことが無いのだが。

 三人を見るにつけ、他の方々とお会いするのは実に避けたいところである。

 星落とすとか悪辣とか聞くだにロクでもなさそうだ。しかし、かっこいいな。二つ名とか羨ましい。そういやクロウディアさんも悪魔と踊る娼婦とか言っていた。

 ウルトも破壊竜とか言われてるし。マリーさんはどうなのだろうか。スポンジ脳みそにそこはかとなく血塗られた薔薇の君とか黄金の薔薇とかなんとかの高貴かつ気品のある言葉が残っている気がする。

 ぬぬぬ、負けてはいられない。私も何かしら二つ名をもらうべきであろう。

 故に、この切なる想いを胸に、熱く、狂おしく、涙ながらに訴えた。


「なんかくれ」


「どうぞ」


 鬼のパンツだった。フィリアの手ごとぺっと払っておいた。いらん。


「まっ!何をしますの!」


「いらんわーい!」


 まっ!じゃねぇよ!なんだその心外極まりないってツラは!

 どっからとってきたのだこのビッチビチ聖女めが。


「くれと言ったのはクーヤさんでございましょう!?

 折角私が差し上げると申し上げておりますのよ!?」


「うぶふ、ぶふ、やめ……くさ、や、いや、嫌がらせかー!

 ヤメロー!!」


 ぐりぐりと顔面に押し付けられるパンツを引っ掴むようにして奪い取って叫んだ。

 何をするだーっ!!全く!全く!!何をプリプリしてやがる!プリプリしたいのはこっちだこのやろー!!

 何が悲しくて鬼のパンツを顔面に押し付けられねばならんのだ。


「遊んでおるのはいいがの。ほれ、もう着くぞ?

 あまりそのように遊んでおると――――――」


「ギャボーーーーーーーーーーッ!!!」


 言うが早いか背後から無造作に摘み上げられた。

 一気に高くなった視界。眼下に見えるは大口あけてあーんとしている鬼である。涎塗れで実に食欲旺盛そうである。実に宜しい。

 その食欲を満たすならば私のようなちんちくりんではなくそこなぼいんぼいんの豚をおすすめしておく。

 であるからしてやめろやめてくださいほんとうにもうおねがいします!

 鬼のパンツを握りしめて両手両足振り回して暴れた。


「はなせーっ!やめろ―!私は美味しくないぞー!ぎえーっ!!」


 あわやつるりと平らげられる、の前に目の前で爆炎が吹き上がった。私を摘み上げる指が引き攣って外れる。

 重力に引っ張られて地面に落ち、むっちりごろんと転がった。すべての衝撃をがっちり吸収する万能イカ腹に感謝している暇はない。

 見上げた鬼から真白の眩い光を放つ炎が口やら鼻やら眼窩やら、あらゆる穴から漏れ出るようにしてちらちらと輝く。

 悪寒を覚えるとはまさにこの事であろう。ごろごろごろと転がって大急ぎで距離を取る。立ち上がって走るより転がった方が早いのだ。

 転がり逃げる最中、ついに臨界点を超えたらしき鬼の身体が液体が沸騰したように膨れ上がって歪み、次の瞬間、大気を震わせる轟音と共に火塊を吐き散らす大爆発を起こした。


「ぐえーーーっ!」


 あわれ、逃げ遅れた暗黒神ちゃんは煤だらけになってしまった。残念。


「……と、そのようになる故、気をつけるが良いぞ」


「ぐぬぬ……」


 煤まみれのまま、涼しいお顔のクロウディアさんを見上げる。


「あんまりだー!」


「良いではないか。ほれ、助かったじゃろ?」


 助かるには助かったが別の意味で感謝しきれない。全身真っ黒でまさに暗黒神である。


「なんじゃ、不満そうじゃの。別によかろ。命があるだけめっけもんじゃ。

 それよりほれ、見よ。ついたぞ?」


「ぬ?」


 くいと指された先。別に何もない。なんだ、今時こんな手に引っかかってしまった。

 この上更なる侮辱を喰らって暗黒神ちゃん怒りのバンブーであった。


「ほ、舐め腐ったものだわえ。あちきの愛しい主様によくもまぁ……」


「仕方がなかろ。此奴はまだ若い。深淵なるものなど見たこともあるまいての。

 どうせ今より真の冥闇を思い知るわ」


「名乗りを上げろ、そういう事ですのね」


「めんどう」


「しいたけ」


 私のバンブーを他所に何やら皆さんしたり顔である。一部を除いて。なんだ。なんかあるのか。

 見回すがやはり何もない。しかし、言われてみれば先程までわらわらと湧いてきていた鬼たちは影も形もない。何かあるらしい。

 私の頭の周りを疑問符が浮かびっぱなしで解消されないが、そんなことは知ったことではないとばかりに一歩前に進み出たるは我らがクロウディア様である。

 目を閉じ、すぅと吸い込んだ息で小さな肺が膨らむ。朗々と歌い上げる涼やかな声が墨絵の世界に響き渡る。


「さぁさ、鬼どもを統べたる異界の姫よ!

 余らと遊ぼうぞ!その退屈、暫し忘れたくはないかえ?!

 余の名はクロウディア=ノーブルフランム、悪魔と踊る娼婦と呼ばわる魔王が一柱よ!」


 クロウディアさんの名乗り口上、それに続いたのはビッチビチ聖女のフィリアである。

 髪を掻きあげ、けだるそーないやそーなめんどくさそーな顔で無駄に扇情的なポーズを決めて呟くような声でその名を名乗る。


「……仕方がありませんわね。

 私の名はフィリア、フィリアフィル=フォウ=クロウディア=ノーブルガードですわ。

 あまり楽しませる事などできませぬけれど……お相手を努めさせていただきますわ。よしなに」


「ふん、下賤な霞ごときに名乗る名なぞ在り申さぬわ。

 悪魔に名乗らせようなぞ片腹痛し、万死に値するわえ。地獄の業火でその魂を焼き尽くしてやりまひょ」


「めんどう」


「しいたけ」


「…………むむ?」


 この流れはもしや私も名乗らねばならんアレか?

 名乗るとぱーっと扉が開くのかもしらん。よし、まかせるのだ。

 腕を組んだ。煤だらけのままだが構うまい。全身之真っ黒、今の私はまさしく暗黒神であるからして。


「やぁやぁ我こそは牛乳地獄の魔王な感じの暗黒神ことラブリープリチー夢見るイカ腹、地獄の沙汰も煤次第!

 いざやよいよい帰りは怖い、聞いて驚けこの名前、アヴィスクーガブィ!!」


 噛んだ。欲張りはいけないとはこの事である。

 それでもまぁ目の前にぐにゃりと歪む古ぼけた石造りの鳥居が現れたのだから結構結構。

 失敗は次に生かせば良いのだ。うむ。





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