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高貴なる炎2

「ま、魔王……!?」


 まさかの告白に呆然と呟く。

 目の前に立つ魔王さんはぐぐっと胸を自慢気に逸らした。

 ねぇけど。


「そうじゃ。ほれ、崇め奉らんか」


「…………」


「何をぼけーっとしとるんじゃ」


 一拍置いて力いっぱい叫んだ。


「…………駄目だ!!」


「な、なんじゃとう!?」


 両手を振り回して地団駄を踏んだ。


「マリーさんとキャラが被っている!

 許さーん!」


「マリー!?マリーベルか!?

 あの戦闘狂のボインボインのババアと余のキャラが被っていると申すか!!

 余のどこが被っているのじゃ!とんちきな事を申すでないわ!!

 このトンチキ娘が!」


「全部だ!!」


「何じゃと!?

  ……ええい、鬱陶しいわァ!!

 その汚らしい舌を余の足に這いずらせるのをやめんか!!」


 どげん、蹴り飛ばされた男は吹っ飛んでいった。

 飛んでいった先にあった壺が割れて中身が散乱する。

 人骨だった。

 クルシュナがボソリと俺のカルシウムと呟いた。

 それはまあいい。


「許さん!

 今直ぐキャラの方向性を改めるべき!

 アイドルグループメンバーのキャラが被るなんて許されないのだ!」


「あいどるぐるーぷ!?何じゃそれは!?

 トンチキ娘め、訳のわからぬ事を……!」


「断じて許さーん!!」


 くわっと叫ぶ。

 ビシッと指をさす。


「お前のイメージカラーはクールな青なのだ!

 カミナギリヤさんがピンクでマリーさんは紫なのだ!

 緑が足りないので緑成分を要求する!!

 目指せ世界一のアイドル!」


「意味がわからぬわ!!変な薬でもキマっておるのかえ!?」


「む」


 否定は出来ない話だ。

 流石にもうきび団子は残っていないと思うが自信はない。

 頭をブンブンと振って取り敢えず思考を振り出しに戻しておいた。


「なんだっけ?」


 戻しすぎた。

 何を考えていたのかさっぱり綺麗に忘れてしまった。

 脱力したようなクロウディアさんが疲れたように手を振る。


「疲れる娘じゃの。もう良いわ。

 問題はこのような些末事ではないからの。

 して、おんしら、余と協力しようではないか。

 この世界に囚わるはぬしらも望むところではあるまいて。

 どうじゃ?」


「え?そうなの?」


 意外と楽しいのではなかろうか。


「ふははははは!よかろうよかろう!なぁに、少しだけ宇宙が小さくなるだけだ!!」


 高笑いする変態が踊り狂った。

 こいつはどこでも楽しそうだな。


「腹減った。肉」


 クルシュナは肉があればいいようだ。

 ふむ、協力する意味あるのかこれ。


「その三人は気にしないでくださいまし。頭の中にお花畑が咲き誇っておりますの。

 それで、出られる算段がございますの?」


「……まともに話が通ずるはおんしだけかえ?

 苦労するのう……」


 うむ!

 フィリアに全てを任せるか。

 幸せそーなツラで完全に寝入っている襟巻き蛇を巻き直しててってけと部屋の中を散策である。

 むにゃむにゃと何やらぬしさまのくびだの何だのと寝言が聞こえてくる。よくわからんが幸せそうで何よりである。

 もう地獄に投げ込むかコイツ。役に立ちそうもない。

 まあいい。ガサゴソと壺の中を漁くり、掘り出したるは干し肉。

 悪魔の食欲に負けて脊髄反射であわや口に入れるというところで何とか踏みとどまる。

 この家にある肉を食ってはいかんのだ。何の肉かなどわかりきっている。

 ぺっと壺の中に投げておいた。


「この異界の主よ。そやつを誅滅するか、説得するか。

 何れにせよ、彼奴をどうにかせねば余らはここを出られぬ。

 その居場所を余は知っている。協力するに悪い話ではあるまいて?」


「……何故、居場所を知っておきながら放置しておりましたの?

 魔王クロウディアともあろうお方が。

 この異界の主がどれほどのものかは存じませんけれど、脱出する程度であればなんとでもなったのではございませんの?」


「おうおう、過分にあまる過大評価じゃの。

 さしもの余も魔力が枯渇した状態では打てる手も少ないわ。

 この異界の主にも何度も接触を試みたがのう。

 ルールがあるようなのじゃ。即ち、五人以上であること。

 こればかりは余とそこのクズ奴隷だけではどうにもならぬ故の」


 次の巨大な壺を漁る。

 ガサゴソ。む、一番底に何かが入っているのはわかるのだが。

 微妙に手がとどかない。

 このっ!

 このっ!!

 てしてしと暗黒神ちゃんパンチを繰り出すが、届きそうで届かない。

 むむむ!

 こうなれば意地である。なんとしてもこの手の中に収めてくれるわ。


「おりゃー!!……あぁぁぁあ」


 中に真っ逆さまに落ちてしまった。

 犬神家のなんちゃら状態である。

 壺から辛うじて出ている足をバタつかせるが脱出は叶いそうもない。

 しかも底にあったブツは何やらにちゃにちゃしている。くせぇ。完全に腐敗した何かだ。最悪だ。


「人数制限……何か理由があるのか……。

 条件は満たしているとはいえ、無闇に突っ込むのは得策ではありませんわね。

 クロウディア様は何かご存知ですの?」


「うむ、余は会うた事もないでの。何とも言えぬが。

 じゃが……こういった異界でこのようなルールを設けておるヤツというのはの。

 大概同じよ。暇で暇でしょうがないのよ。

 命に飽いて死に飽いて享楽に飽いて何もかもに飽いておるのよ。

 故に、娯楽に飢えておるのよ。いきなり殺されるなどと言うことはまず無かろ。

 制限が人数なれば、持ちかけられるは恐らくはゲームじゃろ。どのような物かは知らんがの。享楽の限りを尽くした余がおるのじゃ。どうとでもなろ。

 この異界の主は全てに飽いておる、それ故にこちらが勝てばあっさり解放されるじゃろうて」


「なるほど……。

 ゲームならば、それならば確かにどうとでもなりますわ。

 クロウディア様がいらっしゃり、こちらにもお花畑とは言えかなりの強さの二人に加えてこの手のゲームとなれば負ける事が想像すら出来ないクーヤさんがおりますもの」


「ほう、あの小娘か。

 中々面白い評じゃの」


「全てがデタラメですもの」


 もががが!!

 ゴトンゴトンと壺を揺らすが倒れもしなければ抜けることも出来ない。

 ヘルプミー!

 叫ぶと壺の中で音が反響してぐわんぐわんとした。

 ぐぬぬ、おのれ。

 足で壺を踏みつけて上体を起こそうとするが、イカ腹あたりがうまい事ハマり込んだらしく一向に取れやしない。


「ノーン!」


 ぐぐぐぐと力む。

 もう少し、もう少しで抜けそうだ。

 頑張れ私!どこかで私を応援する声も聞こえてきた。どう考えても幻聴だ。ヤバイ。

 私という蓋が出来たことで酸素という名の有効成分が急激に失われていく。

 あるのかどうなのかも分からないが頭に血が登ってきた。ついでに鼻を劈く腐臭が一番の攻撃力だ。

 こりゃヤバイ。

 この腐臭の中でメロウダリアは完全に熟睡を決めている。役に立たねぇ。あとで地獄に突っ返してやる。

 仕方がない、この次の踏ん張りに全てを賭けるしかあるまい。


「居場所はここから遠いんですの?」


「そうでもないぞ。時空が歪んでおるが、彼奴の居場所だけはいつも変わらぬ。

 この島の中心部辺りじゃ。ここより南西に一刻程歩いた先にある」


「一刻……距離にすればそうでもありませんけれど。

 こちらをつけ狙う者を思えば危ない橋ですわね」


「誰ぞ」


「神龍種の青。

 一度は撤退しましたけれど、すぐに戻ってくるでしょう」


「……ウルトディアスかえ?」


「あのペドの破壊竜様ならばどうにでもなりましたわ。

 龍の方です」


「汝、会うた事がありや?」


「ええ。

 ああいうのを残念と言いますのね」


「まっこと、違いなきこと同意せざるを得ずよ。

 龍の方か。厄介じゃな」


「かなり」


「何をした?

 龍が下界に降りて人を追うなど早々あるものではないぞ」


「追われているのは私ではなく、クーヤさんですわ」


「ふむ」


 行くぞ、ミニマムあんよで壺を力いっぱい踏みしめ、一つ息を吐いて死を覚悟して肺一杯に空気を取り込む。

 くせぇ!!むせた。

 むせた勢いで唾液が気管に入った。しぬ!

 ゴットンゴットンと壺が回る。

 この上更に乗り物酔いしてきた。

 ぐらぐらと危ういバランスで倒立していた壺はやがて重力に敗北し、ぐらーっと傾ぎ始める。


「ギャーーーーーーーッ!!」


 転がった。

 頭から腐敗した液体を被った。

 ビビりにビビったネコの如く。全身の毛を逆立てて転がった壺から脱出し部屋を走り回る。

 くせぇ!!ぐるぐるする!!しぬーっ!!

 走り回っているうちにその辺の壺に蹴っつまずいた。

 蹴った壺は地面に置かれていた別の壺にぶつかって双方相打ち、中身を散乱させながら露と散った。

 ついでに私も露と散った。

 どってーんとひっくり返って顔面から壺郡に突っ込んだのである。


「ギエーーーーーッ!!」


「クーヤさん!

 少しは謹んでくださいまし!!」


 バッチャーンと精霊さんを召喚したフィリアに水を掛けられた。

 濡れネズミである。

 プンスコ!

 腹立ちまぎれに未だスヤスヤとオネムな襟巻き蛇を毟りとってその辺に放り投げた。


「話は済んだかえ?

 では、行くとしようぞ。時間は待ってはくれぬ。

 その龍が来る前に片を付けて脱出する。脱出さえ出来れば穢れを吸い込みやすい龍などどうにでもなるわ。

 血でも頭から被せてしまえば良い。アレ程御しやすい生き物もないわ」






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