Lotus
15分短編です
昼から公園のベンチに座って、缶コーヒーを飲む。
ついさっき上司に言われたことを頭の中で反芻する
「どうして部下にちゃんと教えないんだ」
ちゃんと教えたはずなんだけど。俺は俺の先輩から言われたのと同じ説明を、今年は行ってきた新人に説明した。俺はそれで理解できていたんだけど、新人君には理解が出来なかったらしい。
あろうことか、新人くんは「先輩の教え方が悪い」と吹聴しているようだった。ふざけんなよ。自分の理解力のなさを棚に上げて、俺の方が悪いだなんて、なすりつけもいいとこだ。
「はぁ・・・・」
気分が落ち込んでいると、昔遭った、嫌な経験も思い出してしまう。
結婚して妻に子供が出来たとき、俺はすごく嬉しくて、仕事に一層懸命に取り組もうと決めた。お腹の子を守るため、妻を支えるために、俺は懸命に仕事した。
子供が生まれた時、妻に言われた。「あなたは私たちより、仕事が大切なのね」って。青天の霹靂とはまさにこのことだろう。俺は、妻を、子供をないがしろにしたつもりは一切なかった。それこそ、二人の為、とそう言い聞かせていたのに。
それ以降、妻とはあまり話をできていない。でも、子供のことは懸命にやった。何かを間違うと、すぐため息をつかれるけど、それにも耐えた。おかげで、子供は一応俺のことをちゃんと父親と認識してくれている。離婚もせずに済んで良かったとは思っている。
自販機を押し間違えて買ってしまったブラックのコーヒーを飲み込む。うーん、泥みたいな味だ。もともと俺は甘党だから、本当は微糖か加糖のコーヒーを買うつもりだったんだけど、買ってしまったものはしょうがない。耐えながら飲む。
昼の公園には、子供たちが走り回っている。元気で良いなぁ。
「まま~、オタマジャクシ!」
子供が池を覗き込んで笑っている。俺も昔、オタマジャクシたくさん集めてきて、母親に叱られたっけな。一生懸命育てて大きなオタマジャクシにしようと思っていたら、足が生え、手が生え、蛙になってしまって、俺はがっかりした記憶がある。
あの頃、仲良くしていた幼馴染と、ちょっとしたことがきっかけで、けんか別れしたまま、もう何年も連絡を取っていないんだよなぁ。今、アイツ何してるんだろう。もう喧嘩の理由も正直思い出せないけど。
夏の時期は、池に蓮が咲く。新人の頃、俺はよく上司に怒られて、この公園に来ていたなぁ。蓮の花が綺麗に咲いていて、それでようやく、良しやるか、なんて思ったもんだ。池の水は綺麗だけど、泥の中からよくこんなきれいな花が咲くもんだよなぁ。
感傷に浸っていると、オタマジャクシを探していた子と母親の会話が、ふと耳に入ってきた。
「泥ってね、ちょっと汚いように見えるけど、栄養が沢山あるし、小さな虫や微生物がその栄養を使って育つことが出来る。その小さな虫や微生物を食べて、大きな虫も生きている。どんなに汚い場所にいても、花は綺麗に咲くことが出来るのよ」
小さな子供は、きょとんとして目をまん丸にしながら、母親を見ていた。でもすぐに、太陽のような笑顔になって、「ふぅ~ん」なんて、よくわかっていないような声を出した。笑いあっていた二人は仲良く手を繋いで別の遊具へと移動していった。
見方が変わると、世界が変わる。思い返すと、嫌なことばかりの人生だって、良いこともあったはずだ。
俺はブラックコーヒーを一気に飲み干した。
——さー、午後の仕事もがんばろ~!——
ちょっとだけでも、すっきりできると良いね。




