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第九話:王都への道

1. 救出の後


「ファルマ、大丈夫ですか?」

ルーシェンが少女の名を呼んだ。

少女は弱々しく目を開け、苦しそうに息をした。

頭から血を流し、服が汚れている。

「まずは、治療しないといけませんね」

ルーシェンはマジックバッグから何かを取り出した。

小さな瓶だ。それに魔力を込める。

「私が作った、試作の回復ポーションです。これを飲めば……」

だがその前に、とルーシェンはファルマの服に手をかけた。

「ちょっと、身体に他の傷がないか確認しないといけませんね」

そして、服を脱がせようとした。

「ちょっと待った!」

俺は慌ててルーシェンを止めた。

「何をしてるんですか!」

「え?傷の確認ですが?」

ルーシェンは不思議そうに首を傾げた。

「いや、だからって、いきなり服を脱がせるのはまずいでしょう!」

「なぜですか?」

「なぜって……この子、女の子なんですよ!」

「だから何ですか?」

ルーシェンは本当に分かっていないようだった。

俺は頭を抱えた。

この人、本当にダメだ。

「とにかく、ダメです!」

「そうですか……」

ルーシェンは残念そうに手を引いた。

ファルマは弱々しく笑った。

「大丈夫……です……私が……自分で……」

ファルマは震える手で、身体を確認した。

「身体は大丈夫です……頭を切られた以外は……膝を擦りむいた……くらいです……」

声はかすれ、言葉が途中で何度も途切れる。

殺されかけた記憶が、まだ身体に残っているのだろう。

「頭からの出血が多いですね」

ルーシェンが淡々と言う。

「ですが、傷は浅い。見た目ほどではありません」

「それなら……私の……」

ファルマは震える手で小瓶を取り出した。

「自分で……調合した……傷薬です……」

薬を塗った瞬間、傷が塞がっていく。

血が止まり、皮膚が元に戻っていった。

「……すごいな」

思わず、息が漏れた。

「高品質な薬なら、回復魔法と同等ですよ」

ルーシェンが頷く。

「そして彼女は、シアン・アストンの妹ですからね」

俺は希望を抱いた。闇の力は回復力も上げるので、軽い傷ならすぐ治る。しかし重い傷になるとどうなるかわからない。

回復魔法を受け付けない俺でも、この傷薬なら使えるかもしれない。

「ルーシェンさん」

俺はこっそりルーシェンに耳打ちした。

「俺も、この傷薬、使えますかね?」

「可能性は高いでしょうね。闇の力は魔法を弾きますが、薬は物理的な作用ですから」

「じゃあ、早速実験を……」

ルーシェンの目が輝いた。

「今、それどころじゃないですよね!?」

俺は慌ててルーシェンの暴走を止めた。

「そうですか……残念です」

ルーシェンは本当に残念そうだった。俺は溜息をつく。

「とにかく、この場を離れましょう。また襲撃があるかもしれません」

「ああ、そうですね」

ルーシェンは水魔法で、ファルマの血を洗い流した。

「洗浄魔法を使うと、ずぶ濡れになってしまいますからね。水流操作で、血だけを洗い流します」

血がある程度綺麗に洗い流され、ファルマの顔色も少し良くなった。

そしてある程度綺麗になったファルマの顔を近くで見て、思わず視線を逸らしかけた。

大きく澄んだ目に見つめ返されると落ち着かない。整った鼻筋と、少し主張のある唇が妙に印象に残る。

栗色の髪が無造作に揺れていて、それが余計に無防備に見えた。

——これは、普通に美少女だろ。

ただ泣きはらしたような跡は気になった。

「立てますか?」

少し挙動不審になりながらも、俺はファルマに手を差し伸べた。

「はい……ありがとう……ございます……」

ファルマは俺の手を取り、立ち上がった。

ルーシェンが先に歩き出す。

「では、行きましょう。王都に向かう途中に、ストークレンという街があります。そこで一泊する予定でした」

「ストークレン……分かり……ました……」

ファルマはまだ少し震えているが、歩けるようだ。

俺たちは、ストークレンに向かって歩き出した。


2. 警戒


ストークレンに向かう道中、俺は周囲を警戒していた。さっきの三人組が、また襲ってくるかもしれない。

特に、弓使いがいた。遠距離からの狙撃も十分あり得る。

「ルーシェンさん、大丈夫ですか?また襲われるかもしれませんよ」

「ああ、大丈夫でしょう」

ルーシェンは楽観的に言った。

「彼らは私をあれだけ怖がっていましたからね。すぐに襲撃してくることはないはずです」

「でも、念のため……」

「心配性ですね、榊さんは」

ルーシェンは笑った。俺は溜息をついた。

この人、危機感が足りなさすぎる。それでも、俺は警戒を緩めなかった。

木々の間、茂みの中、あらゆる場所に視線を向けた。だが、幸いなことに、ストークレンに着くまで襲撃はなかった。

魔物も、盗賊も、遭遇しなかった。

道中、ファルマはポツリポツリと、今までの経緯を語ってくれた。

「私の兄は、シアン・アストン……高名な薬師の一人です……」

ファルマは弱々しく語り始めた。

「兄が調合できない薬は……ないと言われています……」

「シアン・アストンか。確かに、彼は天才だ」

ルーシェンが頷いた。

「私も何度か会ったことがありますが、調合技術は圧倒的でした」

「でも、その才能が……仇になりました……」

ファルマの声が震えた。

「私たちが住んでいた……デンヴァールという街を治める、レオニス・ムステル侯爵が……兄に、ある薬の調合を命じました……」

「ある薬?」

「人を、溺れさせ……最終的には痛みも感じなくさせ……身体のストッパーも外す……。禁断の陶酔薬(エクスタシア)です……」

俺は息を呑んだ。

「それは……麻薬じゃないのか?」

「はい、王国では重罪です……でも、侯爵は兄を反逆者として……捕まえて、強制的に作らせようと……」

ファルマの目から涙がこぼれた。

「兄は拒否しました……」

そこで、ファルマの言葉が止まった。

肩が、小さく震えている。

「無理に話さなくていい」

もう少し、落ち着いてからでもいい。

「……でも……話さないと……」

ファルマの声は弱々しいが、何とか話そうとする。

「……兄を逮捕した、侯爵は……私も捕まえようとして……」

「なんてことだ……」

俺は怒りを覚えた。子供まで捕まえようとするなど、許されることではない。

「それで、あなたは逃げたのか」

ルーシェンの声は平坦だった。

「はい、兄に恩がある……冒険者チーム『黄金の剣』が……助けてくれました……」

「黄金の剣……」

ルーシェンは少し考え込んだ。

「聞いたことがあります。凄腕の冒険者チームですね」

「はい……ガレスさん……エリカさん……ブライアンさん……アーロン……」

ファルマは一人ずつ名前を挙げた。

「彼らが、追手を振り切って……私を逃がしてくれました……アーロンの、召喚獣の飛竜に乗って……王都に向かいました……」

「王都に?」

「はい、王都には……叔父がいます。第二騎士団の副団長……エドワード・アストン……」

「ああ、エドワードか。彼なら私も知っています」

ルーシェンが頷いた。

「でも、追手の執拗な追撃で……一人、また一人……私を逃がすために、犠牲になりました……」

ファルマの声が大きく震えた。

「最後には……アーロンも、飛竜ごと囮になって……ガレスさんも、私を守るために……」

ファルマは泣き崩れた。

何とかファルマを支えるが、俺は何も言えなかった。

目の前で自分を守るために仲間が死んでいく。それは、どれほど辛いことか。

一方、ルーシェンは呆れたように言った。

「レオニス・ムステル侯爵……王弟でありながら、禁断の陶酔薬を作らせるとは。愚かですね」

「愚か、って……」

俺は呆れた。

「もっと怒るところでしょう!」

「怒る?なぜですか?」

「なぜって……子供まで巻き込んで、麻薬を作らせようとしたんですよ!」

「確かに、非合理的ですね。発覚すれば、侯爵の地位どころか最悪命も失うでしょうに」

「そういう問題じゃなくて! 人として、やっちゃいけないことだろ!」

俺は頭を抱えた。

この人は、本当に感情というものが分からないのか。

だが、ファルマは小さく笑った。

「ルーシェンさんは……昔から、そうでしたね……」

「そうですか?」

ルーシェンは不思議そうに首を傾げた。

こうして、俺たちはストークレンへと向かった。


3. ストークレンの街


夕方前、俺たちはストークレンの街に到着した。

街の規模は、サクレイアよりも大きく、荷馬車なども多くの行き来が見られる。

王都に近いせいか街は活気に満ちており、人々が忙しそうにしている。

「止まれ。身分証を」

門番が声をかけてきた。

「私はルーシェン、魔法使いです」

ルーシェンはまた札を見せた。

「これは、ルーシェン様。どうぞお通りください」

門番は会釈をして、門を開けた。

「彼らも、私の同行者です」

「承知しました」

俺とファルマも、何の問題もなく街に入ることができた。

「相変わらずその札、効果覿面ですね」

俺が言うと、ルーシェンは少し誇らしげに笑った。

「この辺りでは、それなりに知られていますからね」

街の中を歩き、ルーシェンは一軒の大きな宿屋の前で立ち止まった。

「ここが、この街で一番の宿です」

看板には『銀の月亭』と書かれている。

中に入ると、広々としたロビーがあり、清潔感のある内装だった。

「いらっしゃいませ」

宿の主人が出迎えた。

「部屋を三つ……いや」

ルーシェンは少し考えた。

「部屋を一つ、三人部屋でお願いします」

「え、一部屋ですか?」

俺は驚いた。

「ええ。襲撃の危険性を考えれば、同じ部屋の方が安全でしょう」

「でも、ファルマさん、女の子ですよ」

「だから何ですか?」

ルーシェンは不思議そうに首を傾げた。

俺は溜息をついた。ただ襲撃の危険性がある以上、別の部屋で離れない方がいいかもしれない。

「ファルマさん、大丈夫ですか?同じ部屋で」

「はい、大丈夫です……安全な方が、いいです……」

ファルマは小さく頷いた。

「分かりました。では、一部屋で」

こうして、俺たちは三人部屋に泊まることになった。

部屋は広く、ベッドが三つ並んでいる。

「では、まず身体を清めましょう」

ルーシェンは宿の主人に、タオルとタライのようなものを借りてきた。

そして、水魔法でタライにお湯を満たす。

「ファルマ、どうぞ」

「ありがとう……ございます……」

ファルマはタライに近づいた。

「では、俺たちは外に出ましょう」

俺はルーシェンを促した。

「なぜですか?」

「なぜって……女の子が身体を洗うんですよ。出るのが当然でしょう」

「そうなのですか?」

ルーシェンは本当に分かっていないようだった。

俺は溜息をついて、ルーシェンを部屋の外に引きずり出したのだった。



ルーシェンの回復ポーション(試作品)


ルーシェンが作成した回復ポーション。飲用時に使用者が魔力を込めることで自然治癒力を強制的に促進し、傷を回復させる効果を持つ。

しかし同時に古傷の回復まで行おうとするため、治りにくい損傷を無理やり修復しようとし、強い痛みが走るうえ、傷が中途半端な状態で治ってしまう可能性が高い。

榊には魔力を弾く性質があるため効果は確認できなかったが、後で鑑定したファルマより、副作用の危険性を聞いた榊の判断により使用は禁止され、試作品としてお蔵入りとなった。


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