赤砂の砂漠へ
1. 祝骨の説明
飛行機の魔力が回復するまでの3時間、俺は、祝骨がルシエラによる試練だったことを含め、起きた出来事を3人に説明した。
「試練ですか……」
ファルマがポツリと言う。
ファルマは、黄金の剣との別れを思い出してしまったはずだ。トラウマを掘り返されたようなものだ。許せるものではないだろう。
精神世界ではかなりの時間が経ったと思っていたが、飛行機が着陸してからの祝骨との戦いでは……10分ほどしか時間は経過していなかった。
「たった10分……!?」
ファルマが、驚く。
「精神世界は、時間の進み方も違うみたいだな……」
まるでどこかの漫画にあった、修行する特殊空間だな。
(しかし、逆に言えば……精神世界では100年などの長い時間を過ごしても、現実世界ではそんなに時間が経っていない)
(便利なように見えて……精神だけは、確実に削れていく)
(精神魔法の恐ろしさを、感じるな……)
一通り説明が終わると――
「榊様」
エリシアが、口を開く。
「私も、その精神世界に囚われたことで……過去を思い出すことができました」
「本当か!?」
俺は驚きとともに、不思議と納得もした。
「はい。祝骨に、白銀界で榊様が私を守って死んだり……バエルの村でバエルに榊様が殺されたりなど……榊様が死ぬ場面ばかり見せられました」
「……!」
「しかし、その時は記憶が完全ではなかったため……困惑の方が強かったです」
エリシアが、目を伏せる。
「ただ、そういった場面を経験することで……様々な記憶との繋がりができ、完全に思い出すことができました」
「そうか……」
「そして、全ての祝骨からの記憶の攻撃が終わった後……精神世界を彷徨い、榊様を見つけて介入しました」
「あの時の……」
エリシアに、後ろから抱きしめられた時のことを思い出す。
「その後すぐ、祝骨に現実世界に出されてしまいましたが……榊様たちが帰ることを信じて、意識を失った3人を護衛していました」
「守ってくれていたのか……それに、精神世界でも助けられた。ありがとう、エリシア」
俺が、礼を言う。
「いえ」
エリシアが、柔らかな笑みで答える。
(本当に……戻ってきてくれたんだな。もう、あの機械みたいなエリシアじゃない)
俺は、実感する。
2. これからの行程
そしてルーシェンから、これからの行程について説明される。
「最果ての塔まで、ここから約五百キロほどです」
「五百キロ……」
「飛行機は、一キロの上昇で約五十キロ程の滑空ができます」
手で、飛行機が滑空する様子を再現しながらルーシェンが続ける。
「滑空後は、魔力回復のため三時間のインターバルが入ります」
「暗くなると危ないため、1日に進める距離は約二百キロ程度」
「本日はもう昼前なので、滑空は2回程度。3日は砂漠での野営になります」
「野営か……」
砂の上での野営は苦労しそうだ。
「砂漠では、砂漠蠍や砂漠蜥蜴が出ます」
ルーシェンが、警告する。
「それぞれは、暑い昼間や極寒の夜は出ず……朝方か夕方が一番活動が活発になり、襲いかかってくる可能性があります」
「朝一番の滑空と、最後の滑空が要注意ですね」
ファルマが真剣な顔で言う。
「そうです。また、砂漠には未確認ながらも、オアシスが所々にあると言われています」
「オアシス……」
オアシスがあれば、水の補給とかもできそうだな。ルーシェンの水魔法があるとはいえ、補給ができるに越したことはない。
「上空で見つけたら、魔力回復や夜の野営はできるだけオアシスでとるようにしましょう」
「わかった」
特に異存のない俺たちはその方針で行くことになり、最初の滑空に入った。
3. 赤砂の砂漠
上空から見た砂漠は、全体的に赤かった。
(火星みたいだな……)
火星には、たしかどこかの国の探査機がいるんだったか。
そして無事着陸し、休憩しながら2回目の滑空に入る用意をする。
ふと周囲を見たとき、砂漠の中に砂柱みたいなものがあるのに気づく。
(あれは、まさか……グレンに忠告された赤砂歩きか……?)
(近づかないように、気をつけよう)
そう思って、ファルマたちに警告しようとしたところで、俺の身体が突然動かなくなる。
「!?」
まるで、金縛りみたいな状態。
(何事だ……!?)
視線で、周りを探る。
そして気づく。
(赤砂歩きの影が……伸びて、俺の影に当たっている……!?)
まずい。
(こいつ、自分で影を伸ばせたのか……!)
俺は、闇の力を防御に回し、影から来る攻撃に耐える。
「榊様!」
「榊さん!?」
「おや、これは……」
俺が闇の力を展開したため、異変に気づいた3人。
赤砂歩きが、少しずつ歩いて近づいてくる。
「私なら、水分奪取などの影響を受けません。倒してきます!」
エリシアが、駆け出そうとする。
だが――
「待ってください」
ルーシェンが、止める。
「ルーシェンさん!?」
ファルマが、驚く。
ルーシェンは、赤砂歩きと俺の影を見ている。
「どういう理屈で、水分を奪っているのか……知りたいです」
「相変わらずだな、ルーシェン……」
俺は、変わらないルーシェンに少し安堵する。
「でも、赤砂歩きの攻撃に耐えるのが、しんどいんだが……」
闇の力で攻撃を弾けるとはいえ、これはかなり疲れる。
「今後、赤砂歩きに会った時の対応を考えるためにも、必要です」
ルーシェンは淡々と答えながら、影の観察を始める。
「でも、榊さんが!」
「そうです、ルーシェン様!」
エリシアとファルマは、気が気ではないようだ。
「榊さんは闇の力があります。致命傷にはなりません。なるほど……これがああなって……あれが……」
ルーシェンが、観察を続ける。
耐えるのも少しきつくなってきた。
「……解明できました」
俺が、何かを言う前にルーシェンの解析が終了する。
「わかりましたから、さっさと片付けましょう。炎矢」
そして炎矢を放って、赤砂歩きを爆散させる。
赤砂歩きは、骨のような構造物と砂を一緒にバラバラにされもう動くことはなかった。
「なかなか助けなかったことに、文句を言いたいんだが……」
さすがにしんどかった。
「はい、水です。少しは水分取られたでしょうから」
ルーシェンが水筒を差し出す。
「赤砂歩きが水分をどうやって、影を通して抜き取るか……原理がわかりました」
ルーシェンが、満足げに言う。
「次からは、対応策も立てられます」
「……そうか」
俺は、納得しきれないものの……、
(やっぱり、ルーシェンは何でも研究するんだな……)
そう思った。
「さて、次の滑空に行きましょう」
ルーシェンが、飛行機に向かう。
「はい……」
ファルマが、呆れて少し疲れた様子で答える。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です……」
ファルマは薄く笑って答えた。
俺たちは、次の滑空の準備に入るのだった。
赤砂歩き
骨のような構造物に砂がまとわりつき、人のような形をした魔物と言われているが、その生態は謎に包まれている。遠目には風に流される砂柱にしか見えない。
人のように歩き、その影を踏んだ者は体内の水分を急激に奪われ、身体が乾燥・硬化して動けなくなる。魔法防御が低い者ほど即座に行動不能に陥ると言われている。
影は太陽の傾きによって伸び縮みするため、特に朝や夕方は接触の危険が高く、注意が必要である。




