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祝骨の祝福

第五十八話:祝骨の祝福


1. 祝骨との対面


暗闇の中を、進む。

そして――

闇の先に、椅子があった。

そこに――

まるで置かれたように、祝骨が座っていた。

腕はだらんと下がり、まるで人形のように力なく。

(これが……祝骨か……)

全く動かない。

警戒しながら、ゆっくり近づく。

そして――

近づくと、骨に書かれた幾何学模様が浮き上がる。

「!?」

次の瞬間――

俺は、森の中の街道にいた。

「何……!?」

混乱する。

だが――

前から、冷たい男の声が聞こえてきた。

「これは……!」

(ファルマを最初に助けた場面か……!?)

俺は、走り出す。


2. 最初の幻影


そして、走った先に――

三人の男に囲まれ、剣士であるアルヴァスに振り上げた剣でトドメを刺されようとする、ファルマ。

「ファルマ!!」

咄嗟に剣を抜いて、アルヴァスの剣を弾こうとする。

だが――

以前は間に合ったのに――

今回は、間に合わなかった。

無慈悲にファルマの胸に、剣が刺さる。

「……あ」

ファルマの目が、見開かれる。

そして――

力を完全に失う。

「ファルマァァァァ!!」

俺は、怒りのあまり――

アルヴァスに、斬りかかる!

「何……!?」

一瞬、乱入者に驚く、アルヴァス。

だが――

すぐに冷静さを取り戻し、圧倒的な強さを見せる。

俺の攻撃を、全て受け流す。

そして――

「遅い。弱い」

冷淡に、指摘する。

気が付けば、逆に、俺は胸を貫かれていた。

「がっ……!?」

倒れる。

胸の激しい痛みと、大切な何かが抜けていく感覚。

(致命傷……か……)

俺は、自覚する。

だが――

這いずって、ファルマの元まで行く。

「ファルマ……!」

血まみれで、目を見開いたまま――

事切れている、ファルマ。

「くそっ……! くそっ……!」

手を、伸ばす。

だが――

力尽きて、暗闇に意識が落ちていく。

そして――

また気がつくと、先程と同じように、祝骨と対面していた。

「はぁ……はぁ……!」

荒い息をつく。

先程の経験は――

胸に残る痛みもあり、ただの幻覚とも思えない。

「何を……したかったんだ……!」

祝骨に問いかける。

だが――

全く返事はない。

しかし――

また別の場所の骨の幾何学模様が、浮かび上がる。


3. 白銀界の悪夢


次の瞬間――

俺は、白銀界にいた。

それも、エリシアと最初に訪れた時の状況。

無尽触魔との、戦いの直前。

「また……!?」

切っても切っても、触手が再生する、無尽触魔。

「囮となります」

「エリシア、待て!」

止める俺を置いて、無尽触魔に斬りかかる、エリシア。

「くそっ……!」

(無尽触魔の核は、中央部……触手の根元……!)

そこを攻撃しようとする。

だが――

その時――

実際には肩の損傷で済んでいたはずのエリシアに――

無尽触魔の触手が、まともに当たる。

鈍く、大きな音がした。

「エリシア!!」

首が砕け――

転がる、エリシアの頭。

力を失い、倒れる身体。

「エリシア……!」

俺は、無尽触魔の核を貫き、倒す。

だが――

目の前に――

エリシアの頭が転がり、こちらを見つめるように止まる。

「……」

言葉が、出ない。

膝をつき、エリシアの首を拾おうとして、また意識が遠くなる。


4. 繰り返される悪夢


その後も――

祝骨の間に戻ってきては、様々な場面を体感させられる。

地泳巨獣戦では――

襲われそうになっていたファルマを抱えて戦っていたのが――

最初のファルマを救うのが間に合わず、飲み込まれるファルマ。

「ファルマ!!」

海坊主戦では――

最後、俺を助けるために電撃を喰らわすはずが――

間に合わず、榊諸共海坊主に薙ぎ払われて吹き飛ぶ。

「くそっ……!」

全てが――

ファルマとエリシアを失う場面だった。

逃げ場は、どこにもなかった。

それらが終わった後――

祝骨の前で、膝をつく。

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

過呼吸のように、息は荒い。

全身、汗だくになっている。

だが――

何とか折れることなく、祝骨を睨みつける。

(俺は……折れない……!)

(絶対に……!)


5. バエルの村の惨劇


そして――

一層大きく、幾何学模様が浮かび上がったと思うと――

今度は体感ではなく、今までのファルマやルーシェンの記憶を見ていたように――

森から、バエルの村を見る形になる。

バエルの村は――

石を投げられ、俺たちが逃げ出した後。

全ての建物も崩壊し――

村人は、力なく泣いたり――

子供たちの親が、

砂のように崩れた残骸の元で、泣き叫んだりしていた。

「アン……! アン……!」

女の子――アンの母親が、泣き叫ぶ。

「カイ……!」

「レオ……!」

男の子――カイとレオの父親と母親が、泣いている。

そして――

森から、バエルとセレナの戦いで生じた音におびき寄せられ――

様々な魔物が、村に入ってくる。

バエルの守りが無くなった村は――

逃げ込む建物もなく、無防備だった。

「ひっ……!」

「助けて……!」

悲鳴を上げる、村人たち。

だが――

村を守れそうな俺たちは、自分たちが石で追い払ってしまった後。

今までバエルの加護で危険なく暮らしてきた村人に――

戦う力など、あるわけがなかった。

次々と、殺されて餌にされていく、村人たち。

「アン……! アンッ……!いやぁぁ!」

「カイ……! 逃げ――」

声は、途中で潰れた。

「レオ……!ひいぃ!」

子供たちの親も、それぞれの子供の名前を呼びながら――

ある親は、胸を貫かれ。

ある親は、腹から食われていく。

「やめろ……! やめろ……!」

俺は、叫ぶ。

だが――

何もできない。

あまりに凄惨な光景に――

俺は、地面に手をついて吐いてしまう。

「うっ……げほっ……!」

そして――

村人たちの悲鳴も、聞こえなくなり――

祝骨の間に、戻ってくる。

手をついたまま、立ち上がれない。

祝骨は、何も語らず椅子に置かれたまま。

(俺は……)

(俺のせいで……)

(あの村は……)

(いや……違う……!)

俺は、思い直す。

(あれは……俺が悪いわけじゃない……!)

(だが……)

(もし、もう少し……強ければ……)

(……だから、強くなるしかない)

(……くそっ……!)

心が、完全に折れそうになる。

何より怖かったのは、

この光景に、慣れてしまいそうな自分がいることだった。

だが――

(俺が折れたら……ファルマは……? エリシアは……?)

(守れない……!)

(俺は……まだ……!)

何とか、立ち上がる。


6. ルシエラの残渣


俺が立ち上がると――

祝骨は、全ての幾何学模様を失い――

消えた。

そして――

椅子には、銀髪の目を閉じた、ゆったりとしたローブを着る美しい女性が座っていた。

「お見事です」

女性が、目を開ける。

「私は、ルシエル=ミラ・エリオス」

「最果ての塔に眠る、ルシエラの精神の残渣のようなものです」

言葉は柔らかだが、その顔には何の感情も浮かんでなかった。

「祝骨は、最果ての塔に行こうとする者に与える試練」

「これに折れなかった者だけが、最果ての塔にたどり着くことができます」

「あの……今まで見せられ、体感させられたものは……」

俺が、震える声で聞く。

「あったかもしれない、あなたの心が作り出した幻影です」

ルシエラが、ここで初めて微笑みを浮かべる。

「それに耐えることができたあなたは、塔に来る資格を手に入れました」

「ふざけるな……!」

俺は、怒りを露わにする。

「あんなもの見せておいて……!」

「私は、残渣に過ぎません」

ルシエラが、自虐的に言う。

「言いたいことがあれば、塔で聞きましょう」

そう言って――

消えていく。

そして、それと同時に――

俺は、意識を失った。


7. 目覚め


気がつくと――

自分は、飛行機のそばで倒れていた。

「榊さん!」

ファルマの声。

心配そうに見つめる、ファルマとエリシア。

そして、少し離れたところに――

ルーシェンが、立っていた。

「ファルマ……! エリシア……!」

俺は、立ち上がり――

ファルマとエリシアを、両手で抱き寄せる。

「さ、榊さん!?」

ファルマが、赤面し慌てる。

エリシアは――

斥力を切り、大人しく抱き寄せられる。

「エリシアさんに……直接触れられてる……!?」

ファルマが、驚く。

「俺は……これからもしかしたら、お前たちを守れないことがあるかもしれない」

これは俺の弱さだ……だが……。

「それでも……着いてきてくれるか?」

「……!」

二人は、俺を抱き締め返す。

「私も……榊さんを守ります」

ファルマは身を預けるように胸に頭をつけた。

「何があっても、支えます」

エリシアは肩に頭を当てた。

「……ありがとう」

俺は、感極まって礼を言う。

そして――

それをルーシェンは、静かに見ていた。

だが――

その口元には、微笑みが浮かんでいた


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