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第五十七話:失われた心の再生

第57話:失われた心の再生


 


1. 取り憑かれた研究


まるで何かに取り憑かれたように、研究をする、ルーシェン。


様々なことに手を出すが――


何のための研究なのか、分からないものも多かった。


(これは……)


俺は、思う。


(研究結果を知りたいから研究しているんじゃない)


(研究に没頭して……何かを忘れるためにしている、行為に見える……)


そして、旅を続けるルーシェンは――


帝国に入る。


帝国でも変わらず、旅を続けながら――


魔物や山賊などがいれば、容赦なく行う非人道的な研究。


(ルーシェン……)


俺は、心が痛む。


(もう、止められないのか……?)


 


2. マリアとの出会い


そして、旅をしている最中――


道を見失い、遭難する、ルーシェン。


「もう……ここまでですか……」


「父さん……母さん……お姉ちゃん……」


呟いて、倒れる。


次に気がついた時――


目が覚めたのは、どこかの部屋のベッドの上だった。


「気がついたのかい?」


部屋に入ってきた、自分より少し年上の女性。


「……ここは?」


淡々と、状況を聞く、ルーシェン。


「あたいはマリア。あんたが倒れていたから、助けたのさ」


人懐っこい雰囲気で、マリアが答える。


「……礼を言います」


ルーシェンが、起きようとする。


だが――


身体が、思うように動かない。


「まだ、身体は十分に治ってないよ。しばらく安静が必要さ」


マリアが、優しく言う。


「ここは街の中で安心だから、しばらく休んでいきな」


「……対価は?」


「対価? そんなものいらないよ。困ったら助けるのは、当たり前さ」


(当たり前……?)


ルーシェンが、困惑する。


だが――


身体が思うように動かないのも事実。


客観的に考えて、しばらく休養が必要であると判断し――


この女性の世話になることを決める。


 


3. 共同研究


そして数日――


動けないながらも、研究の資料の整理をしている、ルーシェン。


「何をしているんだい?」


マリアが、聞いてくる。


「研究の資料です」


隠すものでもないと、今までの研究資料を見せる、ルーシェン。


その資料を見て――


目を輝かせる、マリア。


「すごい……! これは……!」


一通り資料を見ると――


「あたいも研究者なんだ。あんたの研究が興味深いから、一緒に研究しないかい?」


「……助けてもらった礼もあります。了承しましょう」


ルーシェンが、答える。


淡々としながらも――


その女性の態度に、困惑していた。


そして、身体が治り――


この街が、ティア・カロスであること。


街の人々は、とても優しいこと。


それらを、他人事のように思いながら――


マリアとの研究に入る。


だが――


「それは、ダメだよ」


マリアとの研究では、非人道的な研究はとことん禁止された。


「効率的ではありませんね」


ルーシェンが、反論する。


「研究は、効率だけじゃないさ」


マリアが、微笑む。


(効率だけじゃない……?)


釈然としない気持ちを抱きながらも――


仕方なく、非人道的な研究はしなくなる、ルーシェン。


 


4. 傷の治療


そして、研究を共に行ううちに――


ルーシェンに刻まれた傷に、気づく、マリア。


「この傷……何があったんだい?」


そのまま、起こったことを伝える、ルーシェン。


マリアは――


そのあまりに凄惨な出来事に、涙を流す。


「この傷を……全て治してみせるよ」


「別に、問題ないからいいです」


ルーシェンが、答える。


だが――


マリアは、強引に一つずつ傷を治していく。


(無駄なことを……)


冷めた気持ちがある一方――


(これは……?)


いつの間にか――失った姉の姿を、マリアに重ねている自分に気づく、ルーシェン。


(心が壊れたはずの、自分に……)


(こんな変化が……?)


戸惑いながら――


マリアとの研究の生活を、続けていく。


(ルーシェン……)


俺は、思う。


(少しずつ、心が治ってきているのか……?)


 


5. マリアの死


そして、数年が経ち――


ルーシェンの身体の傷が全て消えた頃――


マリアが、病気で倒れる。


それは、今では不治の病と言われている病気。


治療法は、存在しなかった。


「何とかします……! 必ず……!」


必死に、病気の治療法を研究する、ルーシェン。


だが――


全く手応えがない。


生命の神の神官も、どうしようもないという。


徐々に、弱っていく、マリア。


だが――


ルーシェンに対しては、気丈に振る舞い――


迷惑をかけまいとする。


(マリア……!)


俺は、心が痛む。


少しでもと、治療法を研究する最中――


作り出した薬は、マリアの命を僅かに伸ばすことしかできない。


そして――


最後の時が、来る。


「あたいが死んだら……海が見える高台に、墓を作って欲しいんだ」


マリアが、頼む。


「……わかりました」


手を握る、ルーシェン。


マリアは――


最後まで穏やかな表情のまま、息を引き取った。


ティア・カロスの高台に、自分で墓を作る、ルーシェン。


その墓の前で――


「私は……無力だ……」


「そして……神とは何なのか……」


自問自答する。


「神は……決して万能でもなんでもない事を、証明してみせます」


そう誓い――


ティア・カロスの街を、立ち去る。


(そうか……)


俺は、思う。


(ルーシェンの本当の研究は……ここから始まったのか……)


 


6. その後


それから、場面がいくつか飛ぶ。


もう、凄惨な実験はしなくなっていた。


サクラモントの今のマフィアのボスが、下っ端として襲いかかってきた時も――


命まで取らずに、見逃したり。


シアンを訪れた際の、ファルマとの出会い。


困惑しながらも、本当の妹のように思えて――


実は、ルーシェンの心を救っていたこと。


(ファルマ……)


俺は、微笑む。


(お前は、ルーシェンにとっても大切な存在だったんだな)


そして――


姉を殺すことになった、闇の力の解明のために――


様々な悪魔を求めて旅をし、倒して回ったこと。


悪魔は倒すと消えてしまうので、結局研究は余りできなかった。


そして――


王都で暮らし始めた頃、星詠の噂を聞き――


苦労しながらも占ってもらい、異世界から闇の力を持った存在が来ることを聞く。


それが――


俺との出会いとなった。


(そうか……だから、俺を……)


俺は、納得する。


 


7. ルーシェンとの対話


全ての記憶を見終わると――


闇の中、ルーシェンが目の前に立っていた。


「結局、自分が研究していたのは……神の無能を証明するためです」


ルーシェンが、目を伏せる。


「そのために、闇の力の研究をしていました」


「……失望したでしょう?」


自嘲気味に、言う。


「……ティア・カロスに、今度行ったら」


「マリアの墓参りを、一緒にさせてくれ」


「……え?」


ルーシェンが、呆気にとられる。


「俺に闇の力がある限り、神から目をつけられれば粛清される」


俺は、続ける。


「でも、お前がいたから……助かった。ありがとう」


「……お互い様ですね」


ルーシェンが、微笑む。


そして――


ルーシェンの姿が、薄くなっていく。


闇の奥を指さし――


「この奥に、祝骨がいるはずです」


「帰りを待っています」


「任せろ」


俺は、その方向に歩いていく。


「あなたに会えて……本当に良かった」


ルーシェンの言葉を、背に受けて。


(俺も、お前に会えて良かったよ、ルーシェン)


俺は、前を向いた。



マリア

ティア・カロスに住む、ルーシェンより二歳年上の女性研究家。

主に解剖生理学を研究しており、人体について深い知識を持つ。

ルーシェンが来る以前から蓄積されていた凄惨な研究資料に、彼女は強く心を痛めていた。

しかし同時に、その膨大な量と鋭い考察そのものについては、研究者として一目置いてもいた。

彼女は、研究とは人を救うためにあるべきものだと考えており、

たとえ犯罪者であっても、そのために人を傷つける行為は正しくないという信念を持っていた。

その姿勢は、ルーシェンのその後の研究方針と倫理観に、多大な影響を与えている。

不治の病により死去。享年二十八歳。

その墓は彼女の遺言により、街外れの高台にルーシェンが建てた。

そこからは、海が一望できる。

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