第五十四話:ファルマの記憶
1. エリカの最期
次の光に入る。
そこに見えたのは――
エリカが、後ろから黒ずくめの男に貫かれる姿だった。
「……!」
言葉が出ない。
叫んでも、手を伸ばしても、何一つ届かない。
必死に、エリカを治療しようとするファルマ。
だが、治療する薬がない。
絶望する、ファルマ。
死期を悟ったエリカが、丸い丸薬を取り出す。
それを見て――
それが尋常でないものであることを、感じる。
泣き叫ぶファルマ。
エリカはガレスにキスをしてから――
苦しい顔をするガレスに抱えられ、運ばれるファルマ。
その時――
エリカが、お腹を優しくさすったのを見て――
(子供が……いたのか……)
察する。
飛竜が飛び立つと同時に――
信じられないほどの爆発が、背後で起こる。
(エリカは……ファルマを逃がすために、自爆したのか……)
はっきりと、感じてしまった。
闇に戻ってくる。
胸の奥が、何かで押し潰されたようで、しばらく俺は動けなかった。
(会った頃のファルマが、途切れ途切れでしか言葉を話せなかったこと……)
(夜、宿で泣いてたこと……)
(俺は、黄金の剣について……彼らの選択だと、あの時ファルマに言って慰めたが……)
(本当に、正しかったのか……?)
あんな悲しい思いをし――
さらに、残された後2人も死ぬ。
そんなファルマのことを思うと――
涙が出た。
だが――
(ここで止まっていても、先に進まない)
俺は、次の光に入る。
2. アーロンの決意
それは――
飛竜に乗ったアルヴァスたちに追いかけられる――
飛竜に乗った、ファルマたちだった。
アルヴァス側に、ミセル、ヴァルク以外にも二人いることに気づく。あの魔法使いと、神官らしい男は、会った時にはいなかったはずだ。
飛竜で必死に逃げるファルマたちだが、明らかに、アルヴァス側の飛竜の方が上手い。
アーロンの飛竜は、追い詰められていく。
そこで――
飛竜が、地上で土煙を上げたタイミングで――
アーロンが、ガレスにファルマを抱き抱えて降りるように言う。
自分は、囮になると。
「俺、ずっと本気だったんだぜ。冗談じゃなくて」
アーロンが、ファルマに告白する。
「だから―― 成功して、また会えたらさ。……キス、してくれよな」
一方的に、そう言い――
地上に近づき、土煙を上げた中――
飛び降りる、ガレスと抱えられたファルマ。
そして――
遠ざかる、アーロンの飛竜。
それを追いかける、アルヴァスたちの飛竜。
それを見送り――
ファルマを励ましながら、逃走を開始するガレス。
その場面を最後に、また暗闇に戻る。
(アーロン……)
俺は、その心に敬意を評する。
惚れた女を守ろうとする、漢の姿がそこにあった。
3. ガレスの別れ
次の光に入る。
ガレスが、ファルマに先に行くよう言っている姿だった。
「一緒に行く! 一人にしないで!」
拒否する、ファルマ。
ガレスが、手紙を渡す。
「生きろ! それが俺達の願いだ!」
そう言って――
泣きながらも、王都方面へ走る、ファルマ。
だが――
ファルマは、ある程度進んだ先で膝をついてしまう。
一人になった、ファルマは生きる望みを失いかけていた。
その絶望に、心が締め付けられる。
だが――
その時――
ガレスを除いた三人の幻影が、ファルマを励ます。
「行け!」
ブライアンの声。
「生きろ!」
アーロンの声。
「子供の分まで生きて!」
エリカの声。
そして――
またファルマは、動き出す。
最後に――
アルヴァスに切りつけられ、自分の命を諦めかけた時に――
俺が、間に合った。
そこで、記憶は終わる。
4. 幼いファルマ
気がつけば――
目の前に、幼いファルマが膝を抱えて泣いていた。
「ブライアン……ガレス……エリカ……アーロン……」
「みんな……死んじゃった……」
何度も、同じ言葉を繰り返す。
壊れた人形のように。
俺は――
そのファルマに近寄り、抱きしめる。
「!?」
驚く、ファルマ。
「みんな……死んじゃったの!.……私のせいで!」
泣きじゃくる、ファルマ。
俺は、強く抱きしめる。
「黄金の剣の4人は……とても立派だった」
「……っ」
「そして、これからは何があろうと……俺が、お前のそばにいる」
俺は、誓う。
「決して、いなくならず……守る」
「榊……さん……」
「ルーシェンも、エリシアもいる」
「これまで会った人たちとの、絆もある」
俺は、ファルマの目を見つめる。
「お前は、決して一人じゃない」
「……!」
すると――
ファルマは、今のファルマまで大きくなる。
「約束を……してほしいです」
「約束?」
「はい」
俺は――
自分がいた世界である約束の仕方を思い出す。
「じゃあ、指切りげんまん」
「指切り……?」
「ああ。こうやって……」
俺は、ファルマの小指と自分の小指を絡める。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」
「針千本ですか……」
ファルマが、おかしさに少し笑う。
「ファルマは、やっぱり笑顔が一番可愛いな」
「……!」
ファルマが、赤面する。
そうしていると――
ファルマの姿が、徐々に薄れていく。
「榊さん……!」
薄れていかない俺に、手を伸ばす。
だが――
俺は、その手を握る。
「必ず、帰るから」
「……絶対ですよ」
ファルマが、微笑む。
そして――
ファルマは消えていった。
5. ルーシェンの記憶
暗闇の中に、残される。
決意を新たに、残った光に向かう。
そして――
その光の中に入って見た光景は――
5歳くらいのルーシェンと、ルーシェンの姉と思わしき女の子。
そして、ルーシェンの両親が雪の降る街で暮らす姿だった。
「これは……」
俺は、呆然とする。
(ルーシェンの……記憶……?)
光景が、動き出す。




