第五十一話:召喚獣と揺れる記憶
1. 召喚獣の練習
買い物を終えた俺たちに――
カルロスが声をかけてきた。
「榊、戦いの時に約束したブランドを奢るから、夜に酒場に来てくれ」
「ああ、わかった」
俺は、快く了承する。
「それじゃあ、夜にな!」
カルロスが、手を振って去っていく。
「さて、召喚獣の練習でもするか」
俺が言うと――
「それなら、あたいが付き合うよ」
ベロニカが、微笑む。
「街の郊外に、ちょうどいい荒野があるんだ」
「助かる」
俺たちは、ベロニカと一緒に街の郊外にある荒野に向かった。
「まずは、風踏からだね」
ベロニカが、風踏を召喚する。
リスのような召喚獣が現れ――
ベロニカの足元に、広がった尻尾が板のように展開される。
「こうやって乗るんだよ」
ベロニカが、風踏に乗る。
そして――
まるで映画で見た、浮く未来のスケートボードのように自在に操る。
地面すれすれを滑るたび、足の裏から風が吹き抜けた。
「すごい……!」
俺は、興奮を抑えられなかった。
「わあ……でも、怖そう……」
ファルマが、少し怖がる。
「大丈夫だよ、慣れれば簡単さ」
ベロニカが、微笑む。
俺とファルマも、風踏を召喚する。
最初は、転んだ。
「うおっ!?」
地面に手をついて、体勢を立て直す。
「榊さん!」
ファルマも、何度か転びながら――
徐々に慣れていく。
そして――
自在に操れるようになった。
風を切る感覚。
スピード感。
体感時速40キロくらい出る!
「楽しい……!」
ファルマも、笑顔になる。
「合格だね!」
ベロニカが、親指を立てる。
2. 鎖蔦狼
次に、鎖蔦狼を召喚する。
子犬くらいの大きさの、蔦でできた狼。
「かわいい……!」
ファルマが、目を輝かせる。
「本当にな」
俺も、微笑む。
「ファルマ、一回俺を拘束してみてくれ」
「え? でも……」
「大丈夫だ。練習だから」
「……わかりました」
ファルマが、鎖蔦狼に指示を出す。
鎖蔦狼が、口から鎖のような蔦を出す。
そして――
俺に絡みつく!
「うおっ!」
倒れる。
「榊さん!」
ファルマが、慌てる。
「大丈夫だ」
俺は、蔦の強度を調べる。
力を入れて、引っ張ってみる。
「……意外と強いな」
簡単には、拘束が破れない。
蔦が、じわりと締まってくる。
「ど、どうすれば解除できるんですか!?」
ファルマが、おろおろする。
「落ち着きな、ファルマちゃん」
ベロニカが、優しく言う。
「心を落ち着かせて、召喚獣とのつながりを意識するんだよ」
「つながり……?」
「ああ。そのつながりが感じられたら、心の中で『戻っておいで』って呼びかけるんだ」
「……わかりました」
ファルマが、目を閉じる。
そして――
「戻って、おいで……!」
ファルマが、思わず口に出してしまう。
だが――
それでも、召喚が解除された。
鎖蔦狼と一緒に、蔦も消える。
「やった……!」
ファルマが、嬉しそうに笑う。
「ほかの召喚獣も、感覚は一緒だよ。じゃあ、あの辺の岩で練習だね」
その後、俺とファルマは――
岩などに鎖蔦狼の拘束をかける練習をした。
3. その他の召喚獣
次に、ファルマが持つ疾嘴群鳥。
「これは、飛ぶナイフのように使うんだよ」
ベロニカが、説明する。
「相手に刺さった瞬間に召喚を解除すれば、すぐに戻ってくる」
「すごい……!」
猛スピードで飛び回る疾嘴群鳥。
俺が投げた石に疾嘴群鳥を当てるなどの、練習をする。
光源虫の光の調節の仕方も学ぶ。
「ただ、明かりとして使うだけでなく、いきなり最大光力で敵の目の前に召喚すれば……目くらましにも使えるよ」
「なるほど……!」
最後に、伝達鷹のマーキングの仕方。
「あたいに、マーキングしてみな」
「はい!」
ファルマが、手をかざしベロニカにマーキングする。そして風踏で離れ、伝達鷹を飛ばす。
伝達鷹が、ベロニカの周りを飛び、腕にとまる。
「これでマーキング完了だよ」
ベロニカが、微笑む。
「困ったことがあったら、いつでも伝達鷹を飛ばしてきな」
「ありがとうございます」
ファルマが、召喚獣の魔力消費で疲れながらも、嬉しそうに笑う。
それらを見ていたエリシアは――
心の中が、なぜかざわざわするのを抑えられなかった。
風踏で、なんだかんだ言って楽しんでいる姿。
他の召喚獣も、玩具を与えられた子供のように喜んでいる姿。
それを見ると――
(自分も、混ざりたい……?)
そんな欲求が、出てしまう。
(なぜ……?)
自分の心の中に、戸惑う。
だが、表面上は――
淡々と頷き、必要な返答だけを返す。
機械的な対応をするのだった。
しかし、その機械的な対応の中に――
俺は、違和感を感じた。
(少しずつ、記憶が戻ってきているのか……?)
俺は、希望を持つのだった。
4. 宿への帰還
ベロニカと別れて――
俺たちは、宿に戻った。
そこには、ルーシェンも戻ってきていた。
「ルーシェン、どこに行ってたんだ?」
「野暮用です」
ルーシェンは、それ以上は言わない。
「……そうか」
「それより、今夜は酒場に行くんでしたね」
「ああ。お前も来るか?」
「行きますよ」
ルーシェンが、あっさり答える。
5. 酒場にて
日が暮れて――
俺たちは、酒場に向かった。
そこには、笑顔の風全員が揃っていた。
「おお、来たか!」
カルロスが、手を振る。
「よく来たねぇ!」
ベロニカも、笑顔だ。
「まだまだ、酒でも若い者には負けんさ」
ホセは少し疲れている様子だったが、酒を飲みながら手を挙げた。
そして――
フランシスは、すでに酔っていた。
「榊ぁ! よく来たなぁ!」
いつもの寡黙なフランシスとは、別人のような陽気さ。
「今日はなぁ、嫁に散々心配されてなぁ! 一日中一緒にいさせられたんだぁ!」
愚痴るように言うが――
はたから聞くと、のろけ以外の何物でもなかった。
「さあ、これがブランドだ!」
カルロスが、皿に乗ったブランドを持ってくる。
少し赤い色をしているが、豆腐みたいにプルプルしている四角い物体。
「どうやって食べるんだ?」
「そのまま、スプーンで掬って食べるんだ」
「なるほど」
俺は、スプーンで掬って――
口に入れる。
「……少し辛い豆腐だな」
俺の感想。
「からっ……!」
ファルマが、咳き込む。
「ファルマちゃん、水だよ!」
ベロニカが、水を渡す。
「少し辛いですね」
ルーシェンは、淡白な返事。
「エリシア、お前も食べてみろ」
俺が、スプーンに掬って差し出す。
「必要ありません」
エリシアが、一度は断る。
「でも、食事は栄養だけじゃない。楽しみでもある」
「それに、何事も経験だ」
「……」
エリシアの脳裏に――
白銀界で、干し肉を食べた映像が一瞬だけ浮かぶ。
記憶にないはずの映像。
困惑する。
だが――
「……わかりました」
エリシアが、ブランドを食べる。
そして――
顔をしかめる。
「辛いです……でも、何か辛さが違う気がします」
「辛さが違う?」
「はい……」
それは――
以前、榊に食べさせてもらった干し肉の辛さと違うこと。
それが頭の中によぎったがゆえに、無意識に出た言葉だった。
(少しずつだが、確実に記憶が戻ってきている……!)
俺は、確信するのだった。
6. 宴の終わり
タコスみたいな料理や赤いスープ、チーズが添えられた鶏肉と野菜の料理など、帝国料理を満喫する。
そして、酒が入り――
フランシスが、踊り出した。
「おおっ! フランシス、いいぞ!」
ベロニカや周りの酔っ払いが、はやし立てる。
ホセは、ルーシェンと静かに酒を飲みながらも――
楽しそうだ。
――本当に、いい仲間だと思った。
「榊、いつ出発するんだ?」
カルロスが、聞いてくる。
「明日の朝くらいには出たい」
「明日!? そんなに早いのか!」
カルロスが、驚く。
しかし、少し考えこむと、
「砂漠まで、足はいらないか?」
そう提案してきた。
「足?」
「ああ。砂漠竜を、片道のみ借りることができるんだ」
カルロスが、説明する。
「旅人にも、片道しか乗り物がいらない人も多いからな」
「乗り終えた地点で、砂漠竜に特定の合図をすると……その砂漠竜は、元の街まで帰るんだ」
「砂漠自体には砂漠竜は向いてないから、その手前までになるが、歩くより時間は大幅に短縮できるぞ」
「それはいいな」
俺は、ファルマたちに目をやる。
ファルマとルーシェンが、頷く。
エリシアは――無表情だが、反対はしていない。
「じゃあ、借りることにする」
「わかった! 明日の朝、手配しておくぜ!」
そこでふと、東側に大きな河が流れているのを思い出す。
「そういえば、東にある河を下って行くことはできないのか?」
「あー……あの河な」
カルロスは少し言い淀んだ。
「あれはリオ・カルミシア河って言って、このティア・カロスの生命線なんだが……」
そこで、静かに酒を飲んでいたホセが口を開く。
「河口に近づくほど、流れが荒くなる。海からの逆流があってな」
「召喚獣に船を引かせても、流れに押し戻されるほどだ」
なるほど。川を下れば楽、という話じゃないらしい。
「わかった。素直に砂漠竜で行くよ」
「その方が賢いってやつさ」
カルロスも力強く頷いた。
宴もたけなわになった頃――
フランシスの奥さんが、迎えに来た。
身長180を超える、スタイルのいいすごい美人だ。
フランシスは160もないので、大きさの差がすごい。
「フランシス、帰るわよ」
「おおぅ、クラウディア……!」
フランシスが、嬉しそうに抱きつく。
周りが、笑う。
そして――
飲み会は、終了した。
7. 帰り道
帰り道――
「ファルマ」
「はい?」
「また、この街に来たいな」
「……はい。私も、そう思います」
ファルマが、微笑む。
「また来れるといいですね……そういえばティア・カロスに着いたら月と重力の関係について、説明してくれるのでしたよね?」
ルーシェンが思い出したように言う。
覚えていたのか……頬が少し引き攣る。
ただ、ルーシェンらしさが戻ってきたのはいい事なのだろう……多分。
エリシアは変わらず無表情だが、確実に記憶が戻ってきている。
俺たちは――
星空の下、宿へと歩いていく。
そして俺は、宿で月と重力の関係について、延々と説明することになった。
ブランド
少し赤みを帯びた豆腐のような見た目をした食べ物。リオ・カルミシア河で豊富に採れる水草を原料として作られている。
帝国では非常にポピュラーな食材で、庶民でも安価に手に入ることから、煮込みや焼き物など様々な料理に使われる。見た目通り、しっかりとした辛味があるのが特徴。
また、その極端な柔らかさから、「ブランドみたいに切れる」「ブランドの角に頭をぶつける」といった表現が生まれ、柔らかさの代名詞としても日常的に使われている。




