表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/64

第五十話:人形と記憶の狭間

1. 蘇生魔法の真実

 

宿に戻った俺は、いつも通りルーシェンと同じ部屋だ。

ファルマとエリシアは、隣の部屋。

夜――

俺は、ベッドに座りながら、ルーシェンに話しかけた。

「ルーシェン」

「何でしょうか」

ルーシェンが、本を読みながら答える。

「蘇生魔法について……知ってたのか?」

「……」

ルーシェンが、少し沈黙する。

そして――

「以前、研究していたことがあります」

ルーシェンの声は――

いつもの研究第一の姿ではなく、何か過去を悔いるような響きがあった。

「研究?」

「ええ。様々な魔法を調べる中で、蘇生魔法についても調べ始めました」

ルーシェンが、本を閉じる。

「蘇生された人間を調べ、実際に蘇生魔法の儀式も見て……違和感を感じたんです」

「違和感……」

「はい。過去の蘇生魔法で蘇った人たちについても調べました」

ルーシェンが、続ける。

「蘇った人たちは、子供はできます。ですが、その先の子孫は……全くいません」

「……!」

「たまたま、蘇生された人が亡くなった場面に遭遇しました。隠れて見ていたんですが……天使によって、遺体が回収されていました」

「天使が……?」

「ええ。何かあると思い、蘇生された人に仕事などで近づき、実際に触って魔力の流れを調べました」

ルーシェンが、俺を見る。

「生きている普通の人と、差異があったんです。かなり高位の魔法使いでないと気づかないくらいの、微妙な差ですが」

「それは……」

「蘇生された人は、死ぬ前までと同じ記憶はあります。ですが、死んだ人との記憶の連続性は……ないでしょう」

ルーシェンの言葉に――

俺は、前の世界で見た物語を思い出した。

クローン人間の物語。

「……元いた世界にクローン人間、っていう言葉がある」

「はい」

「俺の世界にある、物語だ」

自分の複製を作り、自分の記憶をコピーさせる物語。

「自分と遜色ない記憶を持つ複製を作ったとして……それは、自分と言えるのだろうか」

「作られた側も、作った側がオリジナルと知ったとして……それを受け入れられるだろうか」

「……」

ルーシェンは――

いつもなら、異世界の知識に研究熱を出すはずなのに――

そうしなかった。

「第三者からすれば、複製であろうと同じような存在なら、それで良いのでしょうね」

「結局は……私の研究と同じく、自己満足の世界です」

ルーシェンが、自嘲気味に言う。

「ルーシェン……」

俺は――

ルーシェンの研究に対する姿勢は、何なのか。

ルーシェンの過去に、悲しい出来事があったがゆえの裏返しなのではないのか。

そう思った。

「ルーシェン、お前は――」

「なんでしょうか?」

言葉を出しかける。

だが――

「いや、なんでもない」

結局、聞けなかった。

(いずれ、話してもいいと思ったら……話してくれるだろう)

俺は、そう信じることにした。

 

2. ファルマとエリシア

 

場面は変わって――

ファルマの部屋では。

ファルマが、ベッドに座りながら――

エリシアに、躊躇いながらも話しかけた。

「エリシアさん……」

「何でしょうか」

エリシアが、無表情で答える。

「あの……過去のこと、聞いてほしいんです」

「過去?」

「はい……黄金の剣のこと……」

ファルマが、涙を堪えながら話し始める。

黄金の剣が、自分たちを犠牲にして逃がしてくれたこと。

エリカが、自爆してまで逃がしてくれたこと。

みんなが、命をかけて「逃げろ」と言ってくれたこと。

途中、涙と嗚咽で途切れながらも――

ファルマは、話し続けた。

エリシアは、それを聞きながら――

疑問に思っていた。

(なぜ、涙を流すのか)

(なぜ、悲しむのか)

理解できない。

だが――

ファルマの話を聞きながら――

何故か、泣く榊を抱きしめる自分の知らない記憶が、瞬間的に浮かんだ。

「――!?」

エリシアが、驚く。

(何……? これは……?)

混乱する。

記憶にない。

だが――

確かに、感じた。

「……エリシアさん?」

ファルマが、話を終える。

だが、エリシアは何の反応もしない。

「どうしたんですか?」

ファルマが、心配そうに聞く。

「……」

エリシアは――

普段なら「記録しました」などの機械的な返事をするはずなのに――

出なかった。

かろうじて――

「そうですか」

としか、言えない。

「……?」

ファルマが、少し不思議に思う。

だが――

「話を聞いてくれて、ありがとうございます」

ファルマが、微笑む。

それを見て――

エリシアの心に、何か悲しみのようなものが来た。

(これは……何……?)

自分の心の動きに、混乱する。

(さっきの映像は、何なのか)

(自分は、心のない人形ではないのか)

ざわつく心を感じながら――

エリシアは、戸惑いの中――

「……おやすみなさい」

とだけ言って、休むのだった。

 

3. 街の活気

 

次の日――

「……おはようございます」

「……?ああ、おはよう」

俺は、言葉にはできないが、いつもと違う反応のエリシアを疑問に思いながらも――

カルロスたちとの合流地点に向かった。

街は、活気に溢れていた。

それでいて、お互いを思いやる優しい雰囲気に溢れている。

そしていつの間にか、ルーシェンがいなくなっている事に気づく。

「ルーシェンは?」

「行くところがあると言って、どこかに行ってしまいました……」

ファルマが答える。

「そうか……」

合流地点には、カルロスとベロニカがいた。

「よう!おはよう!」

「おはようさん」

「ホセとフランシスは?」

「ホセは、昨日の儀式の後片付けを手伝いに神殿に行った」

カルロスが、答える。

「フランシスは……嫁にどこか連れて行かれて、来れなかった。悪いな」

「いや、大丈夫だ」

俺は、笑う。

「とりあえず、必要なのは防具と召喚獣の卵だから」

「じゃあ、行こうか!」

 

4. 武器防具屋

 

まず、俺の防具を見に行こうと――

武器防具屋に向かった。

店は、気のいい親父が経営しており、様々な武器防具が、飾ってあった。

「すごい……!」

ファルマが、目を輝かせる。

「おお、カルロス! ベロニカ!」

親父が、嬉しそうに迎える。

「本当に無事だったか!良かった!」

「ああ、おかげさまで」

カルロスが、笑う。

「岩蛇獣の討伐、聞いたぞ! すごいな!」

「いや、俺たちだけじゃない。この人たちがいたからだ」

カルロスが、俺たちを指す。

「そうか! 街の恩人だな!」

親父が、俺に向き直る。

「最高のものを用意するぞ!」

「いや、そこまでは……」

「遠慮するな!」

親父が、鼻息荒く言う。

そして、俺のボロボロになったバックラーと鎧を見る。

「……もう寿命だな、これは」

「ああ……」

「どんな武器を使ってる?」

「剣だ」

俺は、剣を見せる。

「――!?」

親父が、驚きの声を上げる。

「これは……深魔海鉱石製!?」

「……ああ」

「どこで手に入れた!?」

「それは……」

セイレーンのところで手に入れたとは、言えない。

答えに詰まる俺に――

「……言えないことか。まあ、仕方ないな」

「だが、これほどのものは……殺してでも奪い取ろうとする者が現れてもおかしくない」

親父が、真剣な表情で言う。

「気をつけろ。できるだけ、人目に晒すな」

「……わかった」

俺は、厳粛な気持ちで聞く。

「さて、防具の話に戻ろう」

親父が、奥から鎧とバックラーを持ってくる。

「今まで使ってたものも、かなり良い品物だ。だが、もっと良いものがある」

親父が、鎧とバックラーを見せる。

「これは、赤砂の砂漠に生息する砂漠蜥蜴の変異種の皮に……砂漠蠍の外殻を貼り合わせて作った鎧とバックラーだ」

「砂漠の魔物……」

「ああ。通気性も丈夫さも、折り紙付きだ」

俺は、試着してみる。

軽い。

それでいて、丈夫。

「……気に入った」

「だろう? ただ、水属性には弱い。剣が直接当たらないように、気をつけろ」

「わかった」

「サイズも、少しの調整だけで済む。夕方頃、取りに来てくれ」

「値段は?」

「本来、変異種の皮など使ったら驚くほど高くなる。だが……街の危機を救って、カルロスたちも助けてくれたんだ。通常の値段でいい」

「いや、それは悪い」

俺は、交渉する。

最終的に、通常に少し足しただけの値段で買うことになった。

店を出て――

「この街の人は、気が良すぎるだろう」

俺が言う。

「それが、この街なんだ」

「いい街だろ?」

カルロスとベロニカが、誇らしげに言うのだった。

 

5. 召喚獣の卵

 

次に、ベロニカの案内で――

召喚獣の卵を扱う店に向かった。

店には、気難しそうなメガネをかけた壮年の店主がいた。

「……カルロス、ベロニカ」

店主が、怒ったような顔と口調で言う。

「無事だったか」

「ああ!」

「……よかった」

店主が、少し微笑む。

怒ったような口調だけど、実はかなり心配してたんだな。

店内に並ぶ卵と、その説明書きを見る

「召喚獣の卵を、色々見てるのですが……」

ファルマが、困った顔をしている。

「どれがいいか、わからなくて……」

「なら、あたいがレクチャーするよ」

ベロニカが、微笑む。

「ファルマちゃんは魔力も低いから……基本的で使い勝手のいいのがいい」

ベロニカが、卵を指す。

「光源虫と伝達鷹。これは必須だね」

「次に、風踏(かぜふみ)。見かけはリスで同じ大きさだけど、尾っぽが広がって風を出して滑るように乗れる」

「ホバー移動みたいだな……」

俺が、思わず呟く。

「ホバー?」

ファルマが首をかしげる。

「いや、何でもない」

「風で浮くから、埃がたつところでは埃をまき上げちまう。でも、使い方によっては、相手への目潰しや煙幕のようにも使えるはずさ」

「すごい……!」

ファルマが、目を輝かせる。

「そして、疾嘴群鳥(しっしぐんちょう)を1羽。これは、空飛ぶナイフとして使えるね」

白銀界で1番最初に出会った奴だな。しかし1羽1羽は弱かったはずだ。

「相手に刺さるとすぐやられちまうけど、刺さった瞬間に召喚を解除すれば、すぐ非実体化して自分に戻る。使い方次第だよ」

「最後に、鎖蔦狼(さちょうろう)。子犬くらいの大きさの、蔦でできた狼みたいな見た目してるね。素早く動き回って鎖のような蔦を口から出して相手を拘束するよ」

「蔦は、魔力消費を増やせば強くなる。人間クラスの相手には、かなり強力な拘束性能だよ」

「大きい相手にも、引きちぎられるまでの間、ぐらいは作れる。ただ、引きちぎられると、ダメージを受けるから注意しないといけないね」

ファルマは悩んだ挙句――

光源虫、伝達鷹、風踏、鎖蔦狼の卵を買った。

俺も、風踏と鎖蔦狼の卵を買う。

ファルマは、自分に寄生させる。

俺は――

以前、ルーシェンが作ったペンダントに寄生させた。

傍目には、俺自身に寄生させたように見えるはずだ。

周りの人達は何も言わなかった。

 

6. 墓前にて

 

場面は変わり――

海が見える高台の上。

粗末な墓の前に、ルーシェンが立っていた。

「あなたがこの街で眠っているのを、すっかり忘れてましたね」

ルーシェンが、悪びれもなく言う。

「榊さんという研究材料を手に入れた……そんなことを言えば、またあなたは怒るのでしょうが」

ルーシェンが、微笑む。

様々な研究の成果を、独り言のように語る。

「こんなところでしょうか」

そして墓に背を向ける。

「私は、もう止まりません」

ー止まる気なんかないくせにー

風の音に混じって、懐かしい声が聞こえた気がした。

フッと、ルーシェンが笑う。

「幻聴が聴こえるようでは、私もまだまだですね」

「また、気が向いたら来るかもしれません」

ルーシェンは、そう言って――

立ち去った。

備えられた花が、風に揺れていた。

風踏かぜふみ

見た目も大きさもほぼリスと同じ召喚獣。しかし、そのしっぽは板状に大きく広がり、人一人が十分に乗れる大きさを持つ。

しっぽの下部から風を噴き出すことで、人を乗せたまま地上から5~10センチほど浮き上がり、そのまま滑るように移動することができる。最大速度は時速40キロ程度に達するが、速度を上げるほど魔力消費も激しくなるため長時間の使用には向かない。

また、構造上どうしても砂や埃を巻き上げてしまうため、使用する場所は選ぶ必要がある。

________________________________________

鎖蔦狼さちょうろう

子犬ほどの大きさをした、蔦で編まれた狼の姿を持つ召喚獣。俊敏に動き回り、口から鎖状に絡み合った蔦を伸ばして敵を拘束する。

その拘束力は非常に高く、常人の力で引きちぎることはほぼ不可能。大型の魔物を足止めすることも可能だが、使用する蔦の量が増えるほど魔力消費も増大する。

また、拘束用の蔦を切断されたり引きちぎられたりすると、鎖蔦狼自身がダメージを受けるため、使いどころを見極める必要がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ