第四十九話話:神の奇跡と人形
1. ティア・カロスへの道
ティア・カロスに向かう途中、俺たちとカルロスたちは互いに自己紹介をした。
「改めて、俺はカルロス。こいつらは仲間で――」
カルロスが、仲間を紹介する。
「斧使いのフランシス。寡黙だが、酒が入ると別人みたいに陽気になる」
「……よろしく」
フランシスが、小さく頭を下げる。
髭面で背も低く、一見ドワーフのような見た目だ。
「神官のホセ。見ての通り、まだまだ若いもんには負けん爺さんだ」
「誰が爺さんだ。まだまだ現役だ」
ホセが、むすっとした顔で言う。
筋骨隆々とした体つきは、高齢とは思えない。
「そして、スカウトのベロニカ。俺たちのリーダー……じゃないが、姉御的存在だ」
「誰が姉御だって言ってんだい! あんたの方が年上だろ!」
ベロニカが、カルロスの頭を叩く。
「痛ってぇ!」
「ふふっ……」
ファルマが、クスリと笑う。
「俺たちのチーム名は『笑顔の風』だ」
「笑顔の風?」
「ああ。みんなが笑顔でいられるようなチームにしたいって思ってな」
カルロスが、照れくさそうに笑う。
「いい名前だな」
俺も、自然と微笑みが出る。
「こっちは……榊だ。剣士で一応リーダーをしている」
「ファルマです。薬師です」
「ルーシェンです。魔法使い」
2人が、簡潔に答える。
「エリシア。護衛および戦闘補助を担当します」
エリシアが、淡々と必要最小限の情報だけを述べる。
「……護衛?」
カルロスが、少し首を傾げる。
だが、深くは追求しなかった。
「それで、なんであんな魔物と戦ってたんだ?」
俺が疑問を口にする。
「ああ、それなんだが……」
カルロスが、渋顔で話し始める。
「本来、岩蛇獣は上級冒険者が対応する魔物なんだ。俺たちは中級上位だから、本来なら手を出すべきじゃない」
「でも、上級冒険者は今、街にいなかった」
ベロニカが、続ける。
「様々な依頼で、みんな出払っててね。それで、岩蛇獣が街に向かわないかの偵察をしに行ったんだ」
「そうしたら……」
カルロスが、苦笑する。
「岩に擬態してた岩蛇獣から、不意打ちを受けてな」
「最初にベロニカが倒れて――」
「立て直したと思ったら、今度はフランシスだ」
「その繰り返しで……ホセの魔力が切れた」
ホセが、頭を抱える。
「結局、俺一人で戦う状況になっちまった」
「お前たちが来てくれなかったら……」
カルロスが、真剣な表情で俺たちを見る。
「全滅だった」
カルロスが、笑いながらも真摯に頭を下げる。
「本当に、ありがとう」
他のメンバーも、深く頭を下げる。
「礼がしたい。街でちゃんとさせてくれ」
「いや、別にそこまで……」
「いいから! これは俺たちの気持ちだ」
カルロスが、力強く言う。
俺は、苦笑しながら頷いた。
2. ファルマとベロニカ
歩いている途中、ベロニカがファルマに話しかける。
「ファルマちゃん、薬師なんだって?」
「は、はい……」
「その若さですごいね! あたいもスカウトだからさ、毒とか薬には興味あるんだ」
「そうなんですか?」
ファルマが、少し嬉しそうに答える。
だが――
ファルマは、ベロニカを見ていると――
エリカのことを思い出した。
ベロニカとエリカは、黒髪とスカウトであること以外、ほぼ共通点はない。
しかし、なぜか――
黄金の剣で太陽のような、あの女性。
本当の姉のように慕っていた存在を、思い出してしまった。
「……っ」
思わず、涙が出た。
「ファルマちゃん?」
ベロニカが、気づく。
「いえ……何でも……」
ファルマが、涙を拭おうとする。
だが――
ベロニカは、何も聞かなかった。
ただ、優しくファルマの頭を撫でる。
「辛い時は、泣いていいんだよ」
ベロニカの声は、母親のような温かさがあった。
「……っ」
ファルマは――
まるで母親に優しくされたように、泣いた。
俺も、ファルマの様子が気になっていた。
泣き出したのを見て、駆け寄ろうとする。
だが――
「榊」
カルロスが、俺の肩を掴む。
「ベロニカに任せれば大丈夫だ」
「……そうか」
俺は、ベロニカとファルマを見る。
ベロニカが、優しくファルマを抱きしめている。
「……そうだな」
俺は、そう呟いた。
3. 最果ての塔とは
ファルマが落ち着いた頃――
「それで、お前たちはこれからどこに行くんだ?」
カルロスが聞いてくる。
「最果ての塔に向かう予定だ」
「最果ての塔!?」
カルロスたちが、驚きの声を上げる。
「マジか!?」
「ああ」
「赤砂の砂漠を超えるつもりかい?」
ベロニカが、真剣な表情で聞く。
「そうだが……」
「あそこは、準備が沢山いるぞ。水も食料も、それに砂嵐も――」
「大丈夫だ。準備は万端だ」
俺は、答える。
飛行機のことは、言えない。
「……そうか」
カルロスたちは、やや心配そうだったが――
「お前たちが言うなら、大丈夫だろう」
カルロスが、引き下がる。
4. ティア・カロスの街
そして――
ティア・カロスの街に到着した。
門の衛兵が、俺たちを見つける。
「笑顔の風!」
衛兵が、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「帰ってきたか! もう少し遅かったら、捜索隊を組んで行くところだったぞ!」
「悪い悪い、手間かけた」
カルロスが、笑う。
「街のみんなに、無事を知らせてやってくれ」
「ああ! ……それで、後ろの人たちは?」
衛兵が、俺たちを見る。
「この人たちがいたから、魔物を討伐できたんだ」
カルロスが、俺たちを指す。
「本当か!?」
衛兵が、驚く。
「岩蛇獣を討伐したのか!?」
「ああ」
「すごい! ありがとうございます!」
衛兵が、大袈裟なくらいに頭を下げる。
街に入ると――
様々な人から、カルロスたちの無事を喜ばれる。
「カルロス! 無事だったか!」
「ベロニカ!帰りが遅かったらから、心配したぞ!」
「フランシス、ホセも無事でよかった!」
街の人々が、笑顔で迎える。
「……とてもいい街ですね」
ファルマが、微笑む。
「ああ」
俺も、同意する。
こんな街なら――
守りたいと思える。
5. 冒険者ギルド
冒険者ギルドに到着した。
「討伐の報告に来た」
カルロスが、受付嬢に声をかける。
その瞬間――
カルロスの態度が、あからさまに変わった。
「あ、あの……岩蛇獣を討伐したんだ……」
カルロスが、緊張した様子で言う。
惚れているのが、一目瞭然だった。
周りの冒険者たちも、ニヤニヤしている。
「まあ、本当ですか? すごいですね、カルロスさん」
受付嬢が、微笑む。
「い、いや! 俺だけじゃなくて、仲間のおかげで――」
カルロスが、慌てる。
「ふふっ、わかってますよ」
受付嬢の笑顔で、カルロスは顔が真っ赤だ。
「またカルロス、あしらわれてるよ」
「いい加減、告白すりゃいいのにな」
「普段陽気なのに、その度胸だけ無いんだよな……」
周りの冒険者たちが、笑う。
だが――
嫌な感じはしなかった。
「カルロスさん、岩蛇獣を討伐したなら、中級上位から、上級下位に上がれますよ」
受付嬢が、嬉しそうに言う。
「いや……」
後ろを振り向き、俺たちを指す。
「彼らがいなかったら、討伐どころか全滅していた」
「だから、討伐の賞金は全て彼らに出してくれ」
「待て、全部は受け取れない」
カルロスだって、必死に戦ったんだ。さすがに全部はない。
「いや、これは俺たちの気持ちだ」
「だからって、全部は――」
割合の交渉が始まる。
最終的に――
俺たちが6、カルロスたちが4になった。
6. 蘇生の儀式
ギルドを出た後――
「榊、鎧とバックラーがだいぶボロボロだな」
カルロスが、俺の装備を見る。
「ああ、防具屋に行きたい」
「なら、いい店を知ってるぜ」
「私は……召喚獣の卵とか、売ってたら見てみたいです」
ファルマが、言う。
「ならあたいにまかせな」
「でも、今日はみんな疲れてるだろう。明日の朝、あたいたちのオススメの店を案内するよ」
ベロニカが、提案する。
「いい宿も教えるからさ」
「ありがとう」
俺たちは、集合場所だけ確認して、宿に向かった。
宿に向かう途中――
街の人々が、ソワソワして、どこかに向かうのを見かけた。
「何かあるんですか?」
ファルマが、通りすがりの人に聞く。
「ああ、生命神の神殿で、これから蘇生魔法の儀式があるんだ」
「蘇生魔法!?」
俺とファルマが、驚く。
「蘇生されるのは、ある商家の子供でね。盗賊に無惨に殺されたらしい」
「……」
「儀式は誰でも見られるよ。滅多に見られるものじゃないから、見に行くといい」
蘇生魔法はさすがに気になる。
「……見に行こうか、ファルマ」
俺が、ファルマに提案する。
「はい」
ファルマが、頷く。
「ルーシェン、お前は?」
「……私は、行きません。あまり、見たいものではないので」
ルーシェンが、いつもと違って冷淡な反応を見せる。
それを疑問に思いながらも、エリシアを見る。
「エリシアは?」
「行くなら、同行します」
エリシアが、感情のない声で答える。
「……じゃあ、ルーシェンには宿の手配を任せる」
「わかりました」
別れ際――
ルーシェンが、俺に言う。
「榊さん。何を見ても、驚かないように」
「……どういうことだ?」
「見ればわかります」
ルーシェンは、そう言って宿の方へ行ってしまった。
俺は、首を傾げながら――
生命神の神殿に向かった。
7. 神の奇跡
神殿前の広場には、多くの人が集まっていた。
真ん中に祭壇のようなものがあり、布で包まれたものが置かれている。
そばには、2人の男女が付き添っていた。
「あれが……殺された子供なんだって……」
周りの人々の話を聞く。
「あまりにも酷い状態だから、布で隠してるそうだ……」
「そばにいるのが、両親だって……」
その両親である壮年の2人が、神殿に向かって必死に祈っていた。
時間になり――
生命神の神官たちが出てくる。
真ん中の高齢の神官が、人々の反応から神官長らしい。
神官長を中心に、神官たちが後ろに並び、祈りを始める。
静寂の中、祈りの言葉だけが響く。
そして――
空から、優しい女の声が聞こえた。
『その祈り、聞き遂げましょう』
周囲の人々は、その声を聞いてほとんどが祈りを捧げていた。
一部、涙を流している人もいる。
広場に風が吹くと同時に――
半透明の巨大な女の手が現れた。
その手が、子供の遺体をそっと包み込む。
「……!」
包み込んだ手が消えると――
そこには、1人の男の子が座っていた。
「カール……!」
両親が、男の子に抱きつく。
周りの人たちは、奇跡に涙を流して神に祈りを捧げる。
「……あの時、あの奇跡があれば……」
ファルマも、涙を流していた。
だが――
俺には――
「……」
生き返ったという男の子が、違うものに見えた。
確かに、両親の反応を見ると――
男の子は、死んだ時以前の記憶も持っている。
本人としか思えない反応をしている。
だが――
俺の目には――
身体の中にある光の力のようなものが、動かす人形のように見えた。
呼吸も、鼓動も、確かにある。
だが――それらは、外から与えられているような……。
他に気づいている人は、見当たらない。
「エリシア、あの子のことがどう見える?」
「どうとは?質問の意図が分かりません」
エリシアの瞳には、何の疑問も浮かんでいなかった。
それが、今の彼女の在り方なのだと――理解してしまった。
(ルーシェンが言っていたのは……これか)
俺は、思う。
(神の蘇生とは……本当に生き返っているのではなく……)
(全く同じ記憶を持つ人形を、作り出すこと……?)
(生命神とは……何なんだ……?)
俺は――
その疑問を抱えたまま――
2人と一緒に神殿を後にした。
生命神
神名
ヴィタ=エテルナ・ネメシス
神格名
「輪廻生命の管理者」
教義•命の可能性を信じ
•生き抜けば幸せになれる
•生命力は世界を支える力
•信者は幅広い信者を持つ
•有力者、権力者が特に多い
•神官は回復魔法に特化している
五大神で唯一蘇生魔法が使えるが、その条件は神に問いかけ了承を得られたもののみ。何が判断基準になっているかは神殿の秘奥とされている。




