第四十八話:岩蛇獣との死闘
1. 遭遇
岩のトカゲ――いや、魔物が、こちらを見据えた。
体長8mはある巨体。
全身が岩石でできたような、灰色の体。
「くそっ……!」
メイスの男が、魔物の攻撃を受け流す。
だが、疲労の色が濃い。
「待たせたな!」
俺は、剣を構えて魔物に向かう。
「助かる……! 気をつけろ、こいつは岩蛇獣グラヴァ・サーペントだ!」
「岩蛇獣……!?」
「ああ、別名、分裂岩竜! 岩を切り飛ばすと――」
男の忠告が、間に合わなかった。
俺は、既に剣を振るっていた。
新しい剣が、岩蛇獣の体を切り裂く。
岩の破片が、飛び散る。
「……え?」
俺は、驚く。
こんなに簡単に、切れるのか?
「まずい、気をつけろ――」
男の声が、警告に変わる。
その時――
切り飛ばした岩の破片が、動き出した。
いや、違う。
岩の破片が――3cmほどの小さなトカゲに、無数に変わった!
「なっ!?」
小さなトカゲたちが、俺に向かって飛びかかってくる!
「くそっ!」
俺は、剣を振るって小トカゲを払い落とす。
だが――
小トカゲは、俺の顔に向かって飛び上がった!
思った以上に早い!
「うおっ!?」
咄嗟に顔を背ける。
その瞬間――
小トカゲが、俺の目の前で破裂した!
砂埃になって、舞い散る!
「なっ!」
目に砂が入る!
視界が、霞む!
「榊さん!」
ファルマの声が聞こえる。
「大丈夫だ! 倒れている人たちを!」
俺は、目を擦りながら叫ぶ。
「くそっ……!」
視界が砂で滲む。
その時――
岩蛇獣の巨大な顎が、すぐそこまで迫っている!
「危ない!」
メイスの男が、俺を突き飛ばし自分も後ろに跳ぶ。
岩蛇獣の顎が、ガチンと音を立てて噛み合う。
「すまない!」
「礼はいい! 気をつけろ、岩を切り飛ばすと子トカゲが湧く!」
「やっかいだな!」
俺は、剣を構え直す。
メイスの男が横に並ぶ。
「カルロス! 俺はカルロスだ! 名前は!?」
「榊だ!」
「榊か! よろしく頼む!」
カルロスが、メイスを振るう。
岩蛇獣の頭に、メイスが直撃する。
だが――
岩蛇獣は、ほとんど怯まない。
俺も斬りかかる。だが岩を切り飛ばさないよう、加減した一撃だ。肩まで岩を切り裂くが、効いた様子がない。
「効いてない……!」
「岩は再生する!」
カルロスが攻撃を避けながら叫ぶ。
「本体は……中だ!細い蛇が潜んでる!」
「細い蛇!?」
「ああ! 浅い攻撃じゃ、岩の中心にある本体まで届かない!」
カルロスが、メイスを振るいながら教えてくれる。
「わかった!」
俺は、剣に闇の力を纏わせようとして、この場に神官がいるのを思い出した。
神官の視線が脳裏をよぎる。
ここで闇を使えば、余計な誤解を招く。
その代わり剣に力を入れて、水を纏わせる。
岩蛇獣の薙ぎ払いがくる。
避けながらカウンターで足を斬る……が中心までは届かない。
「その剣……さっきからすごいな!」
岩を豆腐のように斬ったのを見て、カルロスが驚きの声を上げる。
「まるで、ブランドを斬ってるみたいだ!」
「ブランド?」
「知らないのか!柔らかい食べ物だ!」
「とにかく、すごい切れ味だってことだ!」
カルロスが、笑う。
「こいつを倒したら、街で奢るぜ!」
「期待してる!」
俺も、笑い返す。
2. 苦戦
岩蛇獣が、再び攻撃してくる。
巨大な腕が、振り下ろされる!
「くっ!」
俺は、横に跳んで避ける。
地面が、砕ける。
「榊! 子トカゲに気をつけろ!」
カルロスの声。
俺は、周囲を見回す。
既に、何十匹もの子トカゲが湧いている。
そして、俺に向かって飛びかかってくる!
「エリシア! 子トカゲを排除してくれ!」
「承知いたしました」
エリシアが、子トカゲに向かう。
腕の刃を展開し、子トカゲを斬り払う。
だが――
エリシアの刃は短い。
数が多すぎて、処理が追いつかない
それなら――
「エリシア、陽動を頼む!」
「承知いたしました」
エリシアが、岩蛇獣に斬りかかる。
何度か攻撃を入れる。
だが――
決定打がない。
岩は切り裂けるが、リーチが決定的に足りない。
岩蛇獣は、脅威ではないと判断したのか、エリシアを無視して俺とカルロスに向かってくる。
「気を引けません」
エリシアが、淡々と呟く。
エリシアは最適解の動きだけを選び続けている。
それが――仲間を守るための行動だと、かつてなら理解できただろう。
感情のない声。
機械的な動き。
俺は、それを見て――少し心が痛む。
だが、今は戦闘に集中しなければ。
「ルーシェン! 何かないか!?」
「正攻法ではありませんが……賭けになりますよ」
ルーシェンが、空を飛びながら魔法を放つ。
「水弾!」
高圧の水が、岩蛇獣に直撃する。
岩蛇獣が、わずかに怯む。
「効いてる……! もっと頼む!」
「了解です」
ルーシェンが、次々と水弾を放つ。
だが――砕けた岩から子トカゲの数が、増えていく。
「くそっ、切りがない……!」
俺は、剣で子トカゲを払い落とす。
だが、すぐに次々と子トカゲが飛びかかってくる。
とにかく数が多い。
これでは、岩蛇獣に攻撃できない。
「ルーシェン! 子トカゲをどうにかできないか!?」
「……わかりました!」
ルーシェンが、杖を構える。
「風砕!」
暴風が、巻き起こる。
子トカゲたちが、風に吹き飛ばされる!
「やった……!?」
だが――
俺とカルロスも、風に巻き込まれた!
「うおっ!?」
体が、風に煽られる。
動けない!
「榊さん!」
ファルマの声が聞こえる。
「大丈夫だ……!」
俺は、剣を地面に突き刺して踏ん張る。
カルロスも、メイスを杖代わりにして踏ん張っている。
そして――
風が、収まる。
「はぁ……はぁ……」
子トカゲは居なくなったが、息が上がる。
その時――
岩蛇獣の巨体が、俺たちに迫る!
「まずい!」
尻尾が、薙ぎ払われる!
「くそっ!」
俺は、剣を構えて受け止める。
衝撃で、体が後ろに滑る。
「ぐっ……!」
カルロスも、メイスで受け止めている。
だが――
疲労が、限界に近い。
3. 仲間の復帰
ファルマは、必死に治療をしている。
斧を持った男は一時危険な状態だったが、ファルマの治療で峠を越えた。
目を覚ましたが、まだ意識がはっきりしない。
あとは……、
スカウト風の女性が――目を覚ました。
「……ここは……?」
「大丈夫ですか!?」
ファルマが、声をかける。
「ああ……助かった……」
女性が、体を起こす。
黒髪のショートカット。
鋭い目つき。
「カルロスたちは……!?」
女性が、戦闘を見る。
「戦っています! でも、まだ怪我が……!」
「構わないよ!」
女性が、立ち上がるが、すぐにフラつく。
「無理しないでください!?」
「あたいは大丈夫だ! それより、あそこに連れてってくれ!」
女性が、岩場の影を指す。
「でも……!」
「頼む!」
真剣な表情でファルマの目を見る。
ファルマは、渋りながらも――
「……わかりました。ただ無理をしないでください」
ファルマが、彼女の肩を貸す。
二人は、岩場の影に移動した。
岩蛇獣が、再びカルロスたちに攻撃している。
だが、今度は――
その時――
岩蛇獣がダンゴムシみたいに体を丸めた。
「まずい、転がるつもりだ!」
カルロスが、叫ぶ。
巨大な岩の塊が、俺たちに向かって転がってくる!
「避けろ!」
俺とカルロスは、横に跳ぶ。
激しい揺れを残して、岩蛇獣が、地面を転がり抜ける。
そして――
止まる。
体を解いて、再び向き直る。
「今だ!」
俺は、斬りかかろうとした。
だが――
子トカゲが、再び湧いてきた!
「くそっ!」
攻撃できない!
「チャンスなのに……!」
「子トカゲを何とかしないと厳しいぜ……!」
カルロスも、歯噛みする。
岩蛇獣が、再び転がる攻撃を仕掛けてくる。
「また来るぞ!」
俺は、構える。
だが――
疲労で、反応が遅れる。
「まずい……!」
その時――
カルロスが、俺に合図を送ってきた。
何かの合図――
復活したスカウトの女性が、何かをしようとしている!
俺は、頷く。
岩蛇獣が、転がってくる。
そして――
「今だよ!」
彼女が、何かを投げた!
あれは震爆甲蟲!
虫が、岩蛇獣に張り付く。
そして――
大きな爆発音。
衝撃波が、岩蛇獣を襲う!
「!?」
岩蛇獣のバランスが、崩れる。
転がりが止まり、丸まった体が、解ける。
子トカゲも吹き飛んでいる。
「今だ、カルロス!」
「ああ!」
カルロスが、両手でメイスを振り上げる。
そして――!
「うおおおおっ!」
カルロスの雄叫び。
岩蛇獣の頭に、全力で叩きつける。
頭が下に叩きつけられる!
動きが、止まった!
「榊! 今だ!」
「ああ!」
俺は、剣に今できる全ての力を込める。
水が激しく剣から吹き出し、まるで巨大な水の剣のようになる。
「はあああああっ!」
俺は、岩蛇獣の首に向けて――
剣を振り下ろした!
岩が、切り裂かれる。
そして――
本体の細い蛇の首が岩ごと、切断された。
「――!」
岩蛇獣の動きが、完全に止まる。
そして――
巨体が、力を失い崩れ落ちた。
4. 戦闘終了
「……やった……のか?」
俺は、剣を下ろす。
岩蛇獣は――動かない。
「ああ、やったぜ!」
カルロスが、メイスを地面に突き立てる。
そして女性の方に向き直る。
「さすがベロニカ!ナイスだ、姉御!」
「誰が姉御だって言ってんだい! あんたの方が年上だろ!」
ベロニカが、怒鳴る。
だが、その顔は――笑っていた。
「……若者に任せることになるとは……」
老人の声が聞こえた。
生命神の法衣を着た、老齢の男。
「まだまだ若いものには負けんつもりだったが……」
悔しそうに呟く。
「何言ってんだ。ホセがいなければ、ここまで持たなかったぜ」
カルロスが、ホセに礼を言う。
「そうだよ、ホセのおかげさ!」
ベロニカも、笑う。
「……ふん」
ホセが、照れ臭そうに顔を背ける。
斧の男も立ち上がっている。
「……迷惑をかけた」
「何言ってるんだ、フランシス。仲間だろ」
カルロスは笑顔で、フランシスの肩を叩いている。
俺は、剣を鞘に収める。
「榊さん!」
ファルマが、駆け寄ってくる。
「怪我は!?」
「大丈夫だ。少し疲れただけだ」
「本当ですか……?」
ファルマが、心配そうに俺を見る。
「ああ」
俺は、微笑む。
「それより、みんなは?」
「はい、傷は治しました。あとは休めば大丈夫です」
「そうか」
俺は、安堵のため息をつく。
「榊!」
カルロスが、俺の肩を叩く。
「すげえ剣だな! あんな簡単に岩蛇獣を斬るなんて!」
「いや、お前のメイスも凄かったぞ」
「はは! そうか!」
カルロスが、俺の肩を叩きながら豪快に笑う。
「約束通り、街で奢るぜ!」
「楽しみにしてる」
俺も、笑う。
「……街に戻ろう。あたいらの街を案内するよ」
ベロニカが、言う。
「ああ」
俺たちは、ティア・カロスに向かって歩き出した。
エリシアは――
相変わらず、無表情のままだった。
だが、俺は諦めない。
いつか――
エリシアの記憶を、取り戻してみせる。
そう、心に誓いながら――
俺は、前を向いて歩き続けた。
岩蛇獣グラヴァ・サーペント
体長8〜10mにもなる、岩石でできたような身体を持つトカゲ型の魔物。全身が岩のように硬く、通常の斬撃や打撃では有効打になりにくい。
特に厄介なのは、外殻の岩を切り飛ばしたり砕いたりすると、そこから約3cmほどの岩のトカゲに分裂する点である。この子トカゲ自体に攻撃力はないが、非常に素早く、2mほど跳躍する能力を持つ。
子トカゲは敵対者の目や顔を狙って群れで接近し、直前で破裂して砂埃を撒き散らす妨害行動を行う。そのため、岩を削るほど戦闘は不利になる。
外見はトカゲ型だが、本体は極めて細長く、岩を退けると一本の蛇に、四匹の蛇が足のように絡みついている異様な姿をしている。浅い攻撃では、岩の中心にある胴体や脚部まで届かない。
攻撃手段は噛みつき、爪の付いた腕による押し潰し、尾の薙ぎ払いに加え、身体を丸めて巨大な転がる岩となり突進する攻撃も行う。
知識なしで挑めば、岩を削るほど自滅に近づく、非常に厄介な魔物である。




