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第四十七話:新たな剣と出会い

1. 記憶のない日々

 

剣ができるまでの間――

俺とファルマは、エリシアに過去の思い出を何度となく話した。

最初に出会った時のこと。

共に戦ったこと。

笑い合ったこと。

全てを、語り聞かせた。

だが――

エリシアの反応は、変わらない。

「記録にありません」

ただ、それだけ。

食べ物についても、試した。

最初の刺身から始まって――

「昔、約束しただろう。もっと美味しいものを食べさせるって」

俺は、火が使えない中でもできる料理を作った。

海で採れた魚を使った、カルパッチョ風の料理。

塩と、少しの香草で味付けした、シンプルな一品。

「エリシア、食べてくれ」

俺は、皿を差し出す。

だが――

「必要ありません」

エリシアは、無表情で答えた。

「エリシア……」

「私は、食事をする必要がありません」

「そうじゃなくて……」

「理解いたしかねます」

エリシアが、首を傾げる。

「……命令だ。食べてくれ」

俺は、思わず言ってしまった。

「命令、ですか?」

エリシアが、俺を見る。

「……いや」

俺は、首を振る。

「命令じゃない。忘れてくれ」

命令で言うことを聞かせるのは――違う。

それは、エリシアとの関係じゃない。

俺は、引き下がるしかなかった。

アルセインとも、何度か話した。

『エリシアに、命令を出してもらえないか』

俺は、頼んだ。

『俺たちに同行して、助けるように、と』

『……わかった』

アルセインは、少し躊躇った後――

エリシアに命令を出してくれた。

「エリシア。榊たちに同行し、彼らを助けなさい」

『承知いたしました、アルセイン様』

エリシアは、淡々と命令を受諾した。

感情のない、機械的な声で。

そして、3日後――

剣が、完成した。

 

2. 深海の剣

 

「できました」

ルーシェンが、剣を持ってきた。

以前の鋼の剣をベースに作られた、新しい剣。

薄く透き通るような、深い青色。

まるで、海の底を切り取ったような色。

「……綺麗だな」

俺は、思わず呟く。

「深魔海鉱石の特性を最大限に活かしました」

ルーシェンが、得意げに言う。

「試してみてください」

俺は、剣を受け取る。

重さは――鋼の剣とほぼ同じ。

だが、握った感触が違う。

まるで、水が手に馴染むような感覚。

「……不思議な感じだ」

「振ってみてください」

ルーシェンが促す。

俺は、剣を振る。

鈴を鳴らすような澄んだ音がする。

剣から、水しぶきが飛び散った。

「!?」

「さらに、力を込めて振ってみてください」

俺は、力を込めて剣を振る。

川の水の流れのような音が響く。

今度は、流水のように水が剣から溢れ出た。

「すごい……!」

ファルマが、目を輝かせる。

「アムフィさん、あの石を」

ルーシェンが、アムフィに声をかける。

アムフィが、硬い石を持ってくる。

「これを切ってみてください」

俺は、剣を構える。

そして――

一閃。

全く抵抗を感じない。

石が、真っ二つに切断された。

「……!」

俺は、剣の刃を確認する。

刃こぼれ一つない。

「剣が纏った水が切れ味を高め、同時に刃を守っているようですね」

ルーシェンが、説明する。

「すごいな……」

俺は、剣に闇の力を纏わせてみる。

黒い闇が、剣を包む。

そして――

闇が、水に絡みついた。

まるで、水と闇が融合したかのように。

「これは、切れ味が……上がってる」

俺は、驚く。

「深魔海鉱石は、魔力との相性が良いんです」

ルーシェンが、微笑む。

「闇の力とも、相性が良かったようですね」

俺は、剣を振る。

剣舞を行い、バランスを確認する。

完璧だ。

重心も、振りやすさも――

全てが、俺の手に馴染む。

「……ありがとう、ルーシェン」

俺は、心から礼を言った。

「アムフィ、エルフィも。本当に、ありがとう」

「いえ、こちらこそ感謝しています」

アムフィが、微笑む。

「あなた方のおかげで、集落は救われましたから」

「すごい……剣舞、綺麗でした……」

ファルマが、呆けたような声で呟く。

見とれていたようだ。

「ファルマ?」

「あ、いえ! 何でもありません!」

ファルマが、慌てて顔を背ける。

俺は、エリシアに目を向ける。

だが――

エリシアの反応は、無反応のまま。

変わらなかった。

 

3. 別れ

 

集落から出る日――

族長シャルリアを始め、多くのセイレーンに見送られた。

「本当に、ありがとうございました」

シャルリアが、深く頭を下げる。

「こちらこそ、色々とお世話になった」

俺は、礼を言う。

「また、いつでも来てください」

「ああ」

アムフィとエルフィが、俺たちを砂浜まで誘導してくれた。

そして、地上に戻る。

「じゃあ、元気でな」

俺はアムフィとエルフィに手を振った。その時、あることに気づいた。

「あ、待った!」

「ナイフ……返し忘れてた」

俺は、腰につけていたナイフを外す。

「いえ、それは――」

アムフィが、俺の手を止める。

「榊さんが持っていてください。私からの、贈り物です」

「でも……」

「いいんです」

アムフィが、微笑む。

そして――

俺の頬に、キスをした。

「!?」

「また、絶対来てくださいね」

アムフィは、そう言って海に戻っていった。

「何か知恵を借りたい時は、イヤリングで連絡しますね」

エルフィが、ルーシェンに言う。

「ええ、いつでもどうぞ」

ルーシェンが、答える。

エルフィも、海に戻っていった。

俺は――

少し呆然としていた。

「……榊さん」

低い声が、聞こえた。

ファルマの声。

「モテますね」

冷たい声。

「いや、あれは……」

「いいんです。別に」

ファルマが、プイッと顔を背ける。

「……出発しよう」

俺は、誤魔化すように言った。

少し締まらない雰囲気の中――

全く反応が変わらないエリシアと、マイペースなルーシェンと共に。

俺たちは、空飛ぶ靴を使った登攀に戻った。

 

4. 映画の記憶

 

山の頂上付近の開けた場所で――

ルーシェンが、エリシアに飛行機を出して使い方を説明している。

「魔力はここで起動します。操縦桿はこうやって……」

ルーシェンの説明に、エリシアは機械的に頷く。

「承知いたしました」

感情のない声。

俺は、それを見ながら――

前の世界で見た映画を思い出していた。

記憶喪失になったヒロインに、主人公がまた一から関係性を築き上げればいいと――

前向きにヒロインと関わって、最終的に以前と変わらない関係まで戻した物語。

「……ファルマ」

俺は、ファルマに声をかける。

「はい?」

「昔、俺の世界で見た映画、いや物語の話なんだけど……」

俺は、その映画の内容を話す。

記憶を失ったヒロイン。

それでも諦めず、また一から関係を築いた主人公。

そして、最終的には――

以前と変わらない関係に戻った、ハッピーエンド。

「……素敵な話ですね」

ファルマが、微笑む。

「ああ。でも……」

俺は、少し弱音を吐く。

「あれは物語だからな。それに、あの主人公がとても前向きな考えだからできたんだと思う」

「榊さん……?」

「俺には……難しいかもしれない」

俺は、エリシアを見る。

無表情のエリシア。

感情のないエリシア。

「俺は……そこまで強くない」

「榊さん」

ファルマが、俺の手を握る。

「私も……大切な仲間を失って、絶望していました」

「ファルマ……」

「でも、榊さんたちのおかげで……ここまで持ち直すことができました」

ファルマが、俺を真っ直ぐ見つめる。

「榊さんたちには、とても感謝しています」

「……」

「だから、もし辛いことがあったら……なんでも言ってください」

ファルマが、優しく微笑む。

「力になれないことも多いかもしれません。でも、話を聞くだけでも……心は少し軽くなると思います」

その笑顔の――

綺麗さに、俺は見とれてしまった。

「……ありがとう、ファルマ」

照れ隠しを誤魔化すように俺は、ファルマの頭を優しく撫でる。

「榊さん……?」

「お前がいてくれて……本当に良かった」

「……はい」

ファルマが、顔を赤くする。

 

5. ティア・カロスへ

 

滑空を再開した。

何度か、最初に襲われた天翼鷹が襲ってきた。

だが――

事前に飛ぶ前に確認していたこともあり、ルーシェンの魔法で簡単に追い払うことができた。

そして、何度目かの滑空の後――

ついに、山脈最後の山の上に登った。

「……見えた」

俺は、遠くを見つめる。

大きな港町――ティア・カロス。

東側に巨大な河が、南に向かって流れているのが見える。

そして、クロアチアのドブロブニクのような街並み。

オレンジ色の屋根が立ち並び、青い海に囲まれている。

「……空を飛ぶ少女が出てくる、あの映画みたいだな」

俺は、思わず呟く。

「空を飛ぶ少女?」

ファルマが、首を傾げる。

「いや、俺の世界の物語だ」

「そうなんですね」

気分を切り替える。

「最後の滑空は、人目につかないように、あの辺の……ティア・カロスから少し離れた岩場に降りよう」

街から少し離れた岩場を指さす。

ここからは人の目が多くなるからな。

「そうですね。人気のなさそうな場所を、選びましょう」

ルーシェンが、同意する。

「了解しました」

エリシアの操縦で出発する。

俺たちは、山脈最後の滑空に入り、トラブルなく岩場に着地する。

「……やっと着いた」

俺は、安堵のため息をつく。

「ティア・カロスまで、もう少しですね」

ファルマが、嬉しそうに言う。

俺たちは、ティア・カロスに向かって歩き出した。

しばらく歩いていると――

前から、怒号と戦う音が聞こえてくる。

「くそっ……! もう……持たない……!」

明らかに劣勢な声。

「……!」

俺は、走り出す。

「榊さん!」

ファルマが、後を追う。

「また面倒事に、首を突っ込むのですか……」

ルーシェンが、呆れたように呟く。

だが、俺たちに続いて走ってくる。

そして、その先では――

倒れ伏す、血まみれの冒険者が2人。

一人は、スカウト風の装備。

もう一人は、バトルアクスを持った戦士風の男。

そして離れた位置に、杖を支えに膝をついた息も絶え絶えな、生命神の法衣を着た老齢の男。

その少し前には――

体長8mはある岩でできたトカゲのような魔物。

そして、大きなメイスを持つ男が、傷だらけで魔物と戦っていた。

岩のトカゲが大きな腕を振り下ろす。

「くそっ……!」

メイスの男が、魔物の攻撃を受け流す。

だが、体力の限界が近いのかフラついている。

「……助太刀はいるか!?」

俺は、剣を抜いて男の横に並ぶ。

メイスの男が、驚いてこちらを横目に見る。

「あ、ああ! 頼む!!」

「わかった!」

俺は、仲間に指示を出す。

「ファルマ! 倒れている人たちの治療を!」

「はい!」

「ルーシェン! 魔法で援護を!」

「了解しました」

「エリシア! フォローを頼む!」

「承知いたしました」

俺は、新しい剣を構える。

「……剣の初仕事だ」

俺は、岩のトカゲに相対した。

榊の新しい剣

榊がこれまで使用していた鋼の剣を基に、深魔海鉱石を用い、ルーシェンとセイレーンの協力によって作り上げられた剣。

刀身は常に薄い水膜に覆われており、切れ味の向上と同時に刀身そのものを保護している。使用者が力を籠めることで水量は増加し、疑似的に水で形成された剣身を伸ばすことで、リーチを延ばすことも可能。

また、榊が闇の力を混ぜ合わせることで、さらなる強化を施すこともできるが、高度な制御を要する。

ただし、斬撃を加えた場所や鞘の周囲に水が溢れるため、使用時は周囲や足元が濡れてしまう点には注意が必要である


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