第四十二話:地震の予言
1. グレンとの別れ
エル・パソリアの街に入った。国境の町なので、ブレスタンと同じく城塞都市だった。
「では、ここでお別れだな」
グレンが言う。
「グレンさんは、東の街へ?」
「ああ。依頼を受けた街がある。兄ちゃんたちは、西の山脈を目指すんだろ?」
「はい」
「グレンさん、本当にありがとうございました」
ファルマが頭を下げる。
「おう。困った時は、いつでも頼ってこい」
グレンがファルマを撫でながら笑う。
「また会おうぜ、兄ちゃん……生きてな」
「ああ。グレンさんも、気をつけて」
俺たちは、グレンと別れた。
2. 地震の予言
街に入る時、衛兵に声をかけられた。
「間の悪い時に来たな」
「どういうことですか?」
「自然神の神官が、お告げでこの街が1週間後に、大きな地震に襲われると言われたんだ」
「地震!?」
「ああ。帝国の建物は石造りが多くて、地震に弱い。そもそも、ここに街が出来てから、一度も地震など起こったことがなかったんだが……」
衛兵が困惑した顔をする。
「それで、街から避難する人もいれば、避難する場所が無い者もいて、地震の日に建物ごと潰されては困るものを、出したりするなどで混乱してるんだ」
衛兵はため息をつく。
「国境の街なので、何かあった時の即応態勢も必要だからな。飛竜の部隊は普段5騎程いるが、現在は近くの帝国の部隊から少しずつ集めている所なんだ」
「なるほど……」
街の様子を見て、俺は納得した。
飛竜が降りてきて、きな臭いとはこの事か。
だが、同時に──1週間も先の地震が分かるのは羨ましいとも思った。
「榊さん、どうしました?」
ルーシェンが興味津々で聞いてくる。
「いや、俺の国では地震の予知なんて、ほぼできなくてな……」
「え、そうなんですか!?」
ルーシェンの好奇心が爆発した。
「詳しく教えてください!」
「ああ……」
俺は、地震の多い国であること、予知ができないこと、突然襲ってくることなどを説明した。
「それは……大変ですね」
ファルマが青ざめる。
「でも、地震なら広範囲に揺れるはずだ。国境の砦の衛兵は、そんな危機感なかったぞ?」
俺が疑問を口にする。
「そんなに広範囲に揺れるなんて、聞いたことがありません」
ルーシェンが首を傾げる。
「私も、知りません」
ファルマも同意する。
「記録にもありません」
エリシアも言う。
「……異世界だから、事情が違うのか」
俺は、そう納得することにした。
「それで、自然神に祈って何とかしてもらおうとは思わないのか?」
せっかく自然神なんて、まさに自然を操れそうな神が居るんだ。何とか出来ないのか?
「自然神は、『人は自然と共に生きるべき』『厳しさも優しさも自然の一部』という教えです」
ルーシェンが説明する。
「自然に起きることは受け入れるべき、という教えなので、起こることを何とかしてもらおうとはならないでしょう。神も、受け入れないと思います」
「なるほど……」
受け入れろと教えてる割には、事前に起きることはお告げしてるけどな。神の慈悲というものか?
「あの、ルーシェンさんが使う自然魔法とは、何か関係あるんですか?」
ファルマはその点が気になるようだ。
「特にありません」
ルーシェンが即答する。
「自然魔法を専門とする魔法使いは、それなりに知っています。中には自然神を信仰する者も多かったです。ただ、全く魔法に影響はありませんでした」
「研究したんですか……」
「はい」
ファルマが少し呆れている。
なんでも研究するルーシェンに、変わらないなと思うのだった。
3. 物資の補給
街を歩く。
荷物を減らして避難しようとする商人も多い。
そういった商人から、格安で物資を補給する。
グレンに言われた虫除けも、多めに買い込んでおく。
「こんな状態では、宿に泊まるのも困難だろうな」
「はい。西の山脈に向けて出発しましょう。この街から山脈までは然程距離はありません。2~3時間も歩けば麓に着くでしょう」
ルーシェンが地図を広げる。
「山脈は、西の海に沿って南の半島入口の港町、ティア・カロスまで続いています」
「海沿いに?」
「はい。当初の予定通り、帝国側からは見えにくいよう、西の海側に沿って滑空します」
「何度か、着陸できそうな所を見つけて着地。山を空飛ぶ靴で登り、同じようにして滑空、を繰り返す予定です。流石に1日では無理なので、途中で1泊野営して向かえば、次の日にはティア・カロスに着くでしょう」
「分かった」
4. 最初の滑空
山脈は1000〜1500m級の山が連なっていた。高い所では雪も残っている。
山脈の山に、白嶺山と同じ要領で登った。さすがに頂上付近は風がかなり冷たい。
「では、最初の滑空を開始します」
ルーシェンが飛行機を組み立てる。
「準備はいいですか?」
「ああ」
「最初はあの開けた所に着地する予定です」
エリシアが着地先を指さす。
「では──出発!」
飛行機が、ふわりと浮き上がる。
そして、滑空を開始した。
海が見える。
青い海が、広がっている。
「綺麗……」
ファルマが感嘆の声を上げる。
「はい。とても美しいです」
エリシアも頷く。
俺は、海を見ながら思う。
(地震、か……)
1週間後、あの街はどうなるのだろう。
そんなことを考えながら、俺たちは滑空を続けた。
ーーーー
幕間: エル・パソリアの街
エル・パソリアの街では、避難の準備が進んでいた。
「本当に、地震が来るのか?」
「自然神の神官が言うんだから、間違いないだろう」
「でも、今まで地震なんてなかったぞ?」
「だからこそ、危ないんだ」
街の人々は、不安と恐怖に包まれていた。
自然神の神殿では、神官が祈りを捧げていた。
「自然神エル=マーテル・ガイアスよ、どうか……この街を守りたまえ」
……だが、神は答えない。
自然の出来事は全て、受け入れるものだから。
飛竜の部隊が、空を舞っていた。
「避難は順調か?」
「はい。ただ、まだ避難しない者もいます」
「……仕方ない。できる限りのことをするだけだ」
部隊長が、街を見下ろす。
(1週間後……この街は、どうなる?)
自然神
神名
エル=マーテル・ガイアス
神格名
「原初母胎の女神」
教義
・人は自然と共に生きるべきである
・厳しさも優しさも、等しく自然の一部
・自然を敬い、奪いすぎてはならない
信者
・農民、狩人、開拓者、辺境民
・自然魔法使い
・生活に密着した信仰形態を持つ




