第三十九話:偽りの悪魔
1. 廃墟の街
街の廃墟に到着した。
廃墟は小さいとはいえ“街”だったので、結構広い。
そして──
「うわ……」
大量の巨大蜘蛛の巣になっていた。
糸は建物同士を繋ぎ、道を塞ぐように幾重にも張り巡らされていた。
「馬はここに繋いでおきましょう」
街外れに馬を繋ぎ、ルーシェンが結界を張り、馬を守る。
「榊さん、闇の力の反応は?」
「街の中心だ」
俺の闇の力が反応している。
「蜘蛛を駆除しながら進むしかないな」
俺とエリシアが蜘蛛を切り裂き、ファルマが毒で弱らせる。
「大規模魔法で焼き払った方が早いのですが……」
「そうすると、鎮火にどれだけかかるか分からないからな」
時々、ルーシェンも炎で蜘蛛を焼き払う。ただし、火力を出しすぎると巣に燃え移って大惨事になるので、抑えめにしてもらった。
「数が多いな……」
なかなか進めない。
途中、休憩を挟みながら進む。
街の中央に着く頃には、日が暮れかけていた。
中央には、そこそこ大きな建物があった。
それはあまり崩れていなかった。
「あそこか……」
近づこうとした、その時──
周囲から、インプが襲いかかってきた。
「来たか!」
インプたちは以前のナイフだけでなく、後ろから絞殺紐での絞殺も狙ってくる。動きが複雑化していた。
「キヒヒッ!アソボッ!」
「ファルマ、大丈夫か!?」
「は、はい! 何とか避けられます!」
インプたちには毒の効果が薄く、ファルマは回避に専念している。身体強化で、心配ないレベルで避けられていた。
だが、キリがない。
「ルーシェン! 建物を破壊してくれ!」
「了解です!」
ルーシェンが巨大な火の玉を生み出し、建物に放つ。
轟音と共に建物が崩壊する。
その中から──
巨大な悪魔が飛び出してきた。
2. 祝福を運ぶ影魔
5m程の巨大な悪魔。
黒い肌に翼と蹄のある足、蛇の尻尾。
まさに「悪魔」そのものの姿だった。
「我が名は影魔。祝福を運ぶ者なり」
悪魔が重々しく名乗る。
「祝福どころか不幸を運ぶんじゃないか……」
俺が思わずツッコミを入れた瞬間、悪魔がさらにインプを召喚し、闇の力で襲いかかってきた。
「インプどもよ、こやつらを殺せ」
「キヒヒッ!シンジャエ!」
自身は闇の矢、闇の槍を作って飛ばしてくる。闇で盾を作り出して攻撃を防ぐ。
だが──
「この闇の力……何か違う」
矢や槍を弾きながら、違和感が強くなる。
触れた感触が、闇というより「濁った魔力」に近い。
「爆炎槍」
ルーシェンが魔法を悪魔にぶつける。
闇の盾で防ぐも悪魔がよろける。
ルーシェンの魔法が、弾かれるのではなく、減衰するだけだ。
バエルが使っていた闇の力とは明らかに違う。
まるで、魔法みたいに使っている。
「榊さん、あれは──」
「ああ。本物の闇の力じゃない」
ルーシェンも、俺の闇の力を研究していただけあって、すぐに看破した。
「闇の力に見せかけた、別物だ……!」
俺たちの攻撃で、悪魔は傷ついていく。
だが──
「おのれ!祝福を拒む、愚か者が!」
「キヒヒヒヒッ!」
悪魔が大量のインプを召喚し、俺たちにぶつけてくる。
「クソっ、なんて数だ!」
悪魔との距離が離れてしまう。
「貴様らに、関わっている暇はない!インプたちと遊んでおけ!」
そして翼を広げ、ブレスタンの街へと飛び去った。
「逃げられた!」
「急ぎましょう!」
何とかインプを片付け、馬のところに戻る。
街へ急ぎ向かう。
3. 街での戦闘
街に着いた頃には、大量のインプに襲われた街が大混乱になっていた。
普段街の灯りとして使われている光源虫が飛び交い、その光に照らされるなか、いくつかの建物が壊れ、煙が上がっている。
「野郎ども!インプどもを駆逐するぞ!」
『おお!!』
だが、まだ冒険者たちが東の遺跡に向かっていなかったため、ギルドマスターが中心となり、騎士たちと協同してインプを駆逐していく。
「悪魔はどこだ……!」
悪魔を探していると──
上から、翼の片方を貫かれた悪魔が轟音をあげて落ちてきた。
「!?」
次の瞬間、一人の男が空から降りてきた。
「よう、兄ちゃん!」
グレンだった。槍を肩に担ぎ、不敵に笑っている。
「グレン!」
「悪魔を見つけたから、一緒にやろうぜ!」
グレンが笑う。
「わかった!」
「おのれ!調子に乗るな!」
グレンと協同し、悪魔と戦う。
廃墟での苦戦が嘘みたいに、戦いは一方的だった。
グレンは後ろから襲いかかって来るインプも、振り返りもせず槍で吹き飛ばす。
俺が斬りかかっている間も、槍が悪魔の身体を防御ごと次々と貫く。闇の盾もグレンには無意味だった。
「おらよ!」
「ぐあっ!」
「喰らえ!」
「があっ!」
グレンが槍を振るう。俺も負けじと剣を振り下ろす。悪魔の両腕が地面に落ちる。
「とどめだ! 兄ちゃん!」
「ああ!」
俺とグレンが同時に攻撃する。
その時──
「天使召喚の準備が整いました!」
運命の神の神官たちが到着し、天使を召喚しようとする。
だが──
「遅い!」
グレンの槍が、悪魔の胸を貫く。
俺の剣が、悪魔の首を切り裂く。
「バカな……この私、が……」
天使が降臨する前に、悪魔は消滅した。
悪魔が消えたことで、インプたちも消えていった。
4. 事件の終結
街の至る所が被害を被ったものの、事件は終結した。
「ありがとう、グレン。榊」
インプと自らも戦っていた、ギルドマスターが駆け寄ってくる。
「確か君たちは帝国へ行くのだったな」
「混乱の後片付けがあるが、あと3日もすれば、国境までの馬車が出せるだろう」
「分かりました」
とにかく疲れたな。
「それまでゆっくりしていってくれ。我々は君たちを英雄として歓迎する」
周りにいる冒険者たちから歓声が上がる。
「さすがグレンさん!」
「兄ちゃんもやるじゃねえか!」
「酒を1杯奢らせてくれ!」
俺たちとグレンは、冒険者たちから英雄として迎えられた。
5. 運命の神
場面は変わる。
星空が見えるどこともしれない場所。
白い神殿があり、その中庭にある池に、下界の様子が映し出されている。
それを見るのは、純白のキトンを身に着けた絶世の美女。
艶やかな黒髪が腰まで伸び、白い肌は雪のように美しい。だが、その瞳には──人間にはない、不思議な輝きがあった。
運命の神だった。
「ああ……悪魔は、先に倒されてしまいましたか」
近くに2体の天使が控えている。
「街の被害も……想定より少なかったですね」
「あの街には、まだ幼い子も多かった」
「恐怖は……強すぎると、心を壊しますから」
人を案じるような口調。
だが、その顔には──何の感情も浮かんでいなかった。
神は、壊れた街を見下ろし、そっと指を鳴らした。
パチン。
犠牲となったいくつかの魂が、苦しみを失って昇っていく。
「……ああ、でも」
間を置いて。
「思ったより、静かでしたね」
「あの子、確か榊とか言いましたか」
「予定外の選択をする存在は、好きですよ」
神が微笑む。
「運命とは、敷かれるものではなく──逸れるからこそ、輝く」
「さて。次は、どんな結末を見せてくれるのでしょう」
そんな言葉を残す。
その光景を、2体の天使が無表情に見つめていた。
運命の神
神名
モルド・フェイト=ニクス
神格名
「遍在する運命の観測者」
教義
• 人にはそれぞれ運命がある
• 幸運と不運は公平
• 運命を見つけ、歩むことが幸福
信者
• 商人、博徒、旅人
• 求道者タイプ
• 他者の運命にも関心を持つ貴族
「モルド・フェイト=ニクスは、直接奇跡を起こすことは稀とされる」
「神託は断片的で、明確な答えを与えないことで知られている」
「解釈を誤った者ほど、運命に翻弄されるとも言われる」




