第三十八話:再会と忠告
1. 混雑するギルド
情報を求めて、冒険者ギルドに到着した。
だが──
「うわ……」
ギルドは同じように情報を求める冒険者たちや市民で、混雑し、混乱していた。
「これじゃあ、まともに話も聞けないな……」
あまりの人の多さに、どうするか話し合っていると──
「おう、もしかして、そこにいるのは」
背後から声をかけられた。
振り返ると、見覚えのある男が立っていた。
「グレンさん!」
「おう、兄ちゃん! また会ったな!」
以前、地泳巨獣との戦いを共闘したグレンだった。
「グレンさん、こんなところで!」
ファルマも嬉しそうに声を上げる。
「嬢ちゃんも無事そうで何よりだ。それから、先生も」
「お久しぶりです、グレンさん」
ルーシェンも微笑む。
「で、そっちの綺麗な姉ちゃんは?」
グレンがエリシアを見る。
「初めまして。エリシアと申します」
「おう、よろしくな。俺はグレンだ」
「それで、グレンさんもここに?」
「ああ。帝国に用事があってな。知り合いから強い魔獣の討伐を依頼されて向かう途中だったんだが……この騒ぎに巻き込まれちまった」
グレンが肩をすくめる。
「冒険者ギルドは今、混乱してまともな情報は出そうにないな。一度出て、飯屋で早い昼食でも食いながら話さないか? 安くて美味い店を知ってるんだ」
「それは助かります」
俺たちはグレンについて、飯屋に向かった。
2. 飯屋での情報交換
グレンのオススメの飯屋で、早い昼食を食べながら話し合う。
「それで、兄ちゃんたちはここで何を?」
「実は……」
俺たちは最果ての塔に行くことを説明した。
「最果ての塔!?噂では聞いたことがあるが、本当にあったとはな……」
グレンが驚く。
「呆れたもんだな……まあ、兄ちゃんたちなら何とかなるかもしれねえが」
グレンが苦笑しながら、注意を促す。
「途中、厄介な魔物もいるからな。気をつけろよ」
「厄介な魔物?」
「ああ」
グレンが真面目な顔になる。
魔物の説明が始まった。
「まず、影蜜蟲だ」
「影蜜蟲?」
「黒褐色の甲虫に近い姿をしてる。体長は5〜8cmほど。夜になると腹部が琥珀色にぼんやり光る。街灯や酒場の灯りに集まるんだ」
「それが……そんなに厄介なのか?」
「ああ。影に潜む習性を持っていて、人の足元や壁際を移動する。噛まれると即座に害はないが、魔力の分泌腺に卵を産みつけられる」
「!?」
「数日後から、最大魔力が少しずつ削られていく。痛みも違和感もほぼない。体調不良だと思っているうちに、最大魔力が減って回復しなくなる。召喚士や魔法使いにとっては致命的だ」
グレンが指を立てる。
「夜の街で、影がやけに増えたら要注意だ。光に寄ってくる虫は、全部殺虫しろ。一晩で魔法使いが廃人になることもある」
「……気をつけます」
ルーシェンが真剣な顔で頷く。
「まあ、帝国もこいつらに何も対策してないわけじゃねえ。影蜜蟲によく効く虫除けが売ってるはずだ。帝国に入ったら、まずはそれを手に入れとけ」
帝国に入ったら、真っ先に買う必要があるな。
「次は、赤砂歩き(あかすなあるき)だ」
「赤砂歩き?」
「赤茶色の砂が人型に盛り上がったような姿をしてる。遠目には『風で動く砂柱』にしか見えない。近づくと、内部に骨のような構造が見える」
「それが危険なのか?」
「ああ。地面に接触している生物の影を踏むと動き出す。影に触れられた瞬間、身体が一気に乾燥・硬化して動けなくなる。魔法防御が低い者ほど即座に動けなくなる」
「影を踏む……」
「攻撃ではなく接触条件型だ。逃げるつもりでも、影が伸びると終わりだ。夜明けと夕暮れ、影が長い時間帯が最も危険だ」
グレンが真剣な目で言う。
「赤い砂地では、夕方に歩くな。どうしても行くなら、影を消せ。明かりを高くして、影を短くしろ」
「分かりました」
「最後は、祝骨だ」
「祝骨?」
「彩色された白骨だ。骨に幾何学模様や色粉が塗られている。昼間は倒れた飾り人形のように見える」
「それは……?」
「強い感情──恐怖・後悔・怒りを感じ取ると起動する。近くにいる者の記憶を『祝福』として歪める。過去の失敗や罪悪感を幻覚として見せるんだ」
「精神攻撃……」
「ああ。肉体への直接攻撃力は低いが、精神魔法耐性が低いと自滅する。心に闇を抱えている人間ほど影響を受けやすい」
グレンが俺を見る。
「兄ちゃん、お前は特に気をつけろ」
「……分かった」
「色のついた骨を見たら、目を合わせるな。壊すな、踏むな、触るな。祝われた記憶は、呪いより厄介だ」
真剣な表情から一転、にっと笑う。
「それから、これだ」
グレンが金貨の入った袋を取り出す。
「以前の地泳巨獣の討伐金のお前たちの分だ。受け取ってくれ」
「え、でも……」
「いいから受け取れ。兄ちゃんたちのおかげで倒せたんだ」
結構な額の金貨だった。
「ありがとうございます」
3. ギルドマスターの部屋
そんな話をしているうちに昼過ぎになり、冒険者ギルドに戻った。
午前中よりはだいぶ落ち着いていた。
並んで何とか受付に行くと、受付嬢がグレンに気づいた。
「まさか、グレンさん!?」
グレンは凄腕の高位冒険者として、それなりに名が売れているらしい。
「ちょっと待ってください! ギルドマスターに確認を取ります!」
受付嬢が慌ててギルドマスターに確認を取りに行き、そのままギルドマスターの部屋に案内された。
ギルドマスターは、歴戦の強者の風貌を持つ男だった。
「グレン、久しぶりだな」
「おう、マスター」
グレンの顔見知りでもあるらしい。
「現在、情報を集めている。インプたちはどうやら、街の東にあるいくつかある遺跡のどれかから来ている可能性が高い」
「市民や冒険者の目撃証言からか?」
「ああ。大元の悪魔もそこにいる可能性が高いと判断している」
ギルドマスターが地図を広げる。
「街の騎士や傭兵は街の守りのために動かせない。冒険者が主体となって、それらの遺跡の調査、悪魔がいるならそのまま討伐を計画している」
「なるほど」
「それから、この街で最大の規模を誇る運命の神の神殿も、最大限の協力をしてくれる。悪魔討伐には、天使の召喚もしてくれることになっている」
「天使の召喚……」
セレナのことを思い出し、少し心がザワついた。
「そして、少しでも作戦の成功率を上げるため、遺跡の中でも本命と思われるところの作戦に、グレンにも参加してほしい」
「ふむ……」
グレンが考え込む。
だが、その話を聞いていた俺は、何か違和感を覚えていた。
闇の力が──東ではなく、西の方から危機感を訴えているように感じたのだ。
「ギルドマスター、西には何がありますか?」
話が区切られたところで、俺が聞いた。
「西?」
ギルドマスターが首を傾げる。
「西には遺跡はない。昔、この街が今の場所にできる前にあった、小さな街の廃墟しかないが……」
「……」
闇の力で違和感を感じた、とは言えない。
俺は小声で、イヤリングを通じてルーシェンに話しかけた。
『ルーシェン、お前が感じた違和感として話してくれないか?』
『分かりました』
「ギルドマスター」
ルーシェンが口を開く。
「私が感じた違和感なのですが……西の方に、何か気になるものを感じます」
「君が?」
ギルドマスターが訝しげな顔をする。
「ギルドマスター、ルーシェン先生は只者じゃないぜ。俺も何度も助けられてる」
グレンが擁護する。
「そうか……」
ギルドマスターが迷う。
「……本命は東の遺跡だ。作戦決行は明日の予定だが念のため、君たちには西の廃墟を調査してもらえないか?」
「西の廃墟まではどれくらいですか?」
「約15キロほどだ。ギルドの馬を貸し出そう」
「分かりました」
俺たちは案内された馬の厩舎に向かった。
4. 出発前
出発前、グレンが俺に聞いた。
「兄ちゃん、本当に良かったのか?」
「……ああ」
「自分の感覚を信じろ。地泳巨獣も、それで倒せたんだからな」
グレンが俺の肩を叩く。
「……ありがとう」
俺たちは、馬を受け取り西の廃墟へと向かった。
俺とファルマは馬に乗った経験が無いので、それぞれルーシェンとエリシアとの相乗りになったが。
そして馬を進めた瞬間、胸の奥で闇の力がざわりと蠢いた。
まるで──「行くな」と警告するように。
それでも、俺たちは馬を止めなかった。
冒険者のランク
冒険者はギルドにてランク付けがされており、下級下位から上級上位まで、計9段階に分かれている。
冒険者ギルドは全国的な組織で、どの国・街にも存在するが、ランクの評価基準にはその街への貢献度が大きく関わっている。そのため、最終的なランク認定には各街のギルドの裁量が入り込む余地がある。
その結果、ある街では上級と認定されていた冒険者が、近隣の街ならともかく、離れた別の街では中級として扱われることも珍しくない。
ただし、グレンのように全国的に知られた冒険者ともなれば、どのギルドでもほぼ同等の扱いを受ける。もっとも、そうした存在はごく少数である。




