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第三十七話:影の襲撃

1. 夜の会話

 

宿の部屋で、ファルマはエリシアと一緒に過ごしていた。

エリシアと榊が、長い時間を二人で過ごしていたことが、ファルマは気になっていた。

エリシアは確かに人間ではない。だが、最初に会った時とは別人のように感情も豊かになり、榊のことを特別に思っているように見えた。

色々聞きたいのに、上手く話を切り出せない。

「ファルマ様?」

エリシアが不思議そうに話しかける。

「どうされましたか?」

「あ、えっと……」

ファルマは少し迷ってから、口を開いた。

「その……村で、何かあったんじゃないですか?」

エリシアの表情が、一瞬固まる。

言葉に詰まるエリシア。

それを見て、ファルマは首を横に振った。

「無理には聞きません。また、話したくなったら……その時で」

「……申し訳ありません」

エリシアが小さく謝る。

ファルマは罪悪感を感じさせてしまったかと思ったが、エリシアの表情には──何か、別の感情が混じっているように見えた。

(榊様の弱さを、私だけが知っている)

その事実を、隠して自分だけのものにしようとする心が、エリシアの中にあった。

エリシアは自分の中のその感情に、戸惑いを感じていた。

「あの……エリシアさん」

ファルマが控えめに聞く。

「榊さんのこと、どう思っていますか?」

「……とても強い方です」

エリシアが静かに答える。

「ですが、同時に……とても弱い人でもあります」

その言葉の奥に、エリシアだけの思いが隠されている。

ファルマはそう感じたが、それ以上は聞かなかった。

代わりに、笑顔で言う。

「じゃあ、そんな弱い人でもある榊さんを、私たちが支えないとですね」

「……はい」

エリシアも、決意を新たにして頷いた。

 

2. 影からの襲撃

 

二人は就寝した。

だが、夜中──

エリシアは怪しい気配に気づき、ファルマをこっそり起こす。

「ファルマ様、起きてください」

「んん……?」

ファルマは最初寝ぼけていたが、嫌な雰囲気を感じ取り、目を覚ました。

「何が……?」

警戒する二人。

その時──

部屋の影から、黒い何かが襲いかかってきた。

 

ーーーー

 

宿で休んでいた俺だが、夜中に不穏な気配を感じて目が覚めた。

同室のルーシェンも起きていた。普段なら朝まで起きないのに。

「榊さん、不穏な気配に気づきましたか?」

「ああ」

俺は頷いた。

「一度、ファルマたちとも合流しよう」

剣を持って部屋から出ようとした、その時──

部屋の影から、黒い何かが襲ってきた。

「くっ!」

俺は鞘に入ったままの剣で、それを打ち払う。

地面に落ちた黒い影は──

青いオーバーオールにボーダーの服を着た、人形めいた存在だった。その手に赤いナイフを持っている。

「キヒヒッ!アソボッ!」

奇妙な声を上げて、襲いかかってくる。

狭い部屋では剣も上手く振るえない。何とか攻撃を凌ぐ。

「短剣でも買っておくんだった……!」

苦戦しながら、俺は呟く。

「それはインプです!」

ルーシェンが叫ぶ。

「インプ!?」

俺が知るインプとは、あまりに違う姿だ。

「あなたの知識では、どんな姿なんですか?」

「もっとこう……羽と角が生えてて……!って、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」

思わずツッコミを入れながら戦う。

さらに、インプは一体ではなかった。

「アソボッ!アソボッ!」

さらに2体が現れ、ルーシェンにも襲いかかってくる。

「炎矢!」

ルーシェンが構わず火の魔法を使う。

宿の中なのに!

一度に三体のインプを倒す。燃えたインプは黒い煙になって消えた。

だが──

「燃えてる! 燃えてる!」

燃えたインプの火が部屋に燃え移った。

「消して! 水魔法で消して!」

俺が慌てて指示を出す。

「あ、はい」

ルーシェンが淡々と水魔法で消火を始めた。

 

3. 混乱の朝

 

一方、エリシアの部屋では──

エリシアが腕から出した刃で、あっさりインプを倒していた。

「ファルマ様、大丈夫ですか?」

「は、はい……」

「榊様たちの部屋に行きましょう」

二人が榊たちの部屋に行くと──

慌てて消火するよう言う榊と、淡々と消火するルーシェンという姿があった。

「えっと……」

ファルマは少し力が抜けた。

 

ーーーー

 

その後、ある程度外に出られる格好に着替え、宿の広間に行く。

そこは怪我人で溢れていた。

「どうやら、インプは街の至る所に現れているようですね」

ルーシェンが説明する。

街は大混乱になっていた。

インプの攻撃力は比較的低いため、それほど死人は出ていないようだが、その分怪我人が多い。

「宿の中に、まだインプはいないか?」

俺が宿の親父に聞く。

「少なくとも宿の中は片付いたが……ご覧の有様だ」

親父が力なく答える。

「ファルマ、怪我人の治療を頼む」

「はい!」

ファルマが治療に入る。

「闇雲に動いても、状況は改善しません」

ルーシェンが言う。

「インプなら日光に弱いので、このまま宿から出ずに撃退していれば、いずれいなくなるはずです」

エリシアも続けて説明する。

「分かった。警戒しながら待機しておこう」

そしてボヤを起こしたことを思い出した俺は、

「あの、親父さん」

宿の親父さんに声をかける。

「インプ撃退のため、部屋がボヤになってしまって……」

「……緊急時だから仕方ない。そのまま燃えなかっただけよかった」

親父が力なく言う。

なんだか申し訳ない気分になる。

待機の間、俺はルーシェンにインプについて聞いた。

「インプは悪魔が使う、尖兵のようなものです」

「悪魔……」

その言葉に、バエルのことを思い出す。

苦々しい思いが胸をよぎる。

「榊様……」

エリシアが寄り添ってくれる。

ファルマは治療をしながら、横目でそれを見ていた。

(やっぱり、榊さんに何か辛いことがあったんだ……)

確信するファルマ。

そんな中、話を続けるルーシェン。

「インプが出たということは、大元の悪魔がいるはずです」

「そして、大元の悪魔を倒さないと、インプはまた来る可能性が高いですが……」

ルーシェンの顔が、少し困惑気味になっている。

「ただ……悪魔の狙いが、城塞都市を無秩序に襲う意味が、いまいち分かりません」

確かにそうだ。こんなことをしても、無駄に警戒させるだけだと思うが。享楽的な悪魔もいると聞くし、単なる愉快犯みたいな悪魔なのだろうか?それとも……。

 

4. 騒然とする街

 

それ以上、宿にはインプは来なかった。

朝になり、街に出ると──

インプ騒動で、街は騒然としていた。

「怪我人の方々! 緊急時につき、運命の神の神殿で怪我の治療を行っています!」

衛兵が触れ回り、怪我人は神殿の方向に向かっていく。

「冒険者ギルドで情報を集めよう」

まずは情報が必要だ。

「親父さん、場所を教えてくれ」

「ああ、この先を……」

ギルドに向かう道中も、街の混乱している様子が見られた。

「これは……悪魔をどうにかしないと、国境を超える馬車も出ないんじゃないか?」

「おそらく、そうでしょうね」

ルーシェンが肯定する。

嫌な予感を覚えながら、俺たちは冒険者ギルドへと向かうのだった。


インプ

青いオーバーオールにボーダー柄の服を着た、醜悪な表情の人形めいた姿の悪魔。主に赤いナイフを用いて襲撃するが、背後から紐で絞殺する攻撃も得意とする。

戦闘能力自体はさほど高くなく、一般的なゴブリン程度である。しかし「悪魔の尖兵」とも呼ばれ、インプが出現する際には、必ずそれを召喚・使役する上位の悪魔が存在する。したがって、インプのみを討伐しても根本的な解決にはならない。

日光を極端に嫌い、日の差す日中にはほとんど活動しないとされている。


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