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第三十五話:最果ての塔への道

1. 思わぬ発見


旅の準備を始める俺たち。

もう夕方近くになっていたので、明日の朝出発することになった。

準備を進める中で、俺はふと先ほどの発明品の中で、失敗作だと思われていた、登録した地点まで飛ぶ靴について疑問を持った。落下が危険、というだけで切り捨てるには、惜しい気がした

「なあ、ルーシェン」

「はい、何ですか?」

「あの靴、どれくらいの高さを飛ぶんだ?」

「ええと……高高度って言いましたが、正確には測ってないですね」

「高高度に飛ぶのなら、低い地点から高い地点への移動には使えるんじゃないか?」

ルーシェンが手を叩いた。

「盲点でした! 確かに……!」

「で、実際どれくらいの高さなんだ?」

「はっきり確認はしてないですが、500mは飛ぶはずです」

「500m……山なら500mを超えるのも多いよな。移動の途中にそんな山があったらどうなる?」

「その場合……」

ルーシェンが考える。

「山の木にぶつからない範囲の高さで、斜面の上を飛んで超えるはずです」

「じゃあ、500mを超える場所の途中を移動場所にすれば、上手くそこまで移動できるんじゃないか?」

「それは……!」

ルーシェンが興奮し始める。

「その到着場所のマーキングはどうするんだ?」

「基本はその場所に行ってのマーキングになりますが、目視できる範囲で魔力が届く範囲なら、マーキングを飛ばすことも可能です!」

「なら──」

「早速実験を!」

ルーシェンが騒ぐ。

「でも、どこで実験するんだ?」

その時、アルセインが穏やかに言った。

「この塔の下から最上階まで、500mはある。そこで実験してみるとよい」

「500m!?」

俺は改めて塔の高さに驚いた。

(日本のスカイツリーでも600mちょっとなのに、魔法恐るべし……)


2. 実験成功


俺とルーシェンは屋上に向かった。

屋上まではエレベーターのようなものがあり、それで一気に上がる。屋上はまるで、ヘリポートのような作りになっていた。

「では、マーキングします」

ルーシェンが屋上の地面に魔力を込める。

「下まで行ってきます」

ルーシェンは風の魔法で、そのまま下まで降りていった。

しばらくすると──

「うわっ!」

靴を履いたルーシェンが、下から飛んできた。

およそ10m程の高さから、屋上に降りてくる。風の魔法で着地を補助していた。

「成功です!」

ルーシェンが嬉しそうに言う。

「今ぐらいの高さなら、闇の力を使った榊さんやエリシアさんはもちろん、付与魔法を使ったファルマさんも、十分安全に着地できるでしょう」

「靴は人数分すぐ作れます。1回作ってるので、複数作るのは材料さえあればそれほど手間ではありません」

「それに……」

ルーシェンが何かを思いついたようだ。

「マーキングを他の靴にリンクできる機能も追加すれば、私が飛ばしたマーキングに、他のメンバーも同じ場所に飛べるようになります」

それならマーキングの手間も省けるな。

「今回の旅で高いところから飛ぶ関係上ーー魔力で飛び上がることはできるとはいえーー高いところから飛ぶに越したことはないから、高度を稼ぐのが少しは楽になるな」

「そうですね。やはり異世界知識からの発想は、素晴らしいですね」

ルーシェンは期待に満ちた目で、俺を見るのだった。

そんな目で見られても、150キロの防護服はどうしようもないからな?


3. 長い道のり


「最果ての塔までのルートですが……」

ルーシェンが机の上に地図を広げ、魔力を流し込んだ。

地図は淡く光り、やがて立体的な地形図として宙に浮かび上がる。

すごい、まるでSFだ。


「大きく分けて、三つの段階になります」


そう言って、ルーシェンは指を一本立てた。


「第一段階。まずは白嶺山まで移動し、そこから滑空して国境の街ブレスタンへ。ここまでは比較的安全です。監視も緩く、補給も可能でしょう」


立体地図の白嶺山から、光の線が引かれ、国境へと伸びていく。


「次が第二段階」


ルーシェンは指を二本立てる。


「トレオン帝国へ入国後、山脈を利用して半島入口の港町、ティア・カロスまで移動します。この区間は帝国の監視があります。空を飛ぶ時間は最小限に抑え、山を使って高度を稼ぐ形になりますね」


光の線は国境を越え、いくつもの山脈をなぞりながら、海に突き出た街へと到達した。


「そして第三段階です」


最後に三本目の指を立てる。


「ティア・カロスから先、バルフォア半島内はほぼ未開の地です。砂漠が広がり、高い山がほとんどありません」


地図上、赤く染まった丘陵地帯が浮かび上がる。


「この赤砂の砂漠地帯では、魔力で高度を取るしかありません。魔力で飛び上がった場合、次に飛び上がるまでの魔力を貯めるための、インターバルが3時間程要ります。そしてその先にあるのが――」


ルーシェンの指が、一つの山を指し示す。


「天落山。ここから最後に滑空すれば……」


光の線が山頂から伸び、半島の奥深くにある一点へと到達した。


「最果ての塔です」


立体地図が、静かに消える。


「順調にいって……一週間ほど、でしょうか」


ファルマが不安そうに呟く。


「ああ。それも、何も起きなければ、だ」


俺は地図が消えた空間を見つめながら、静かに息を吐いた。


「長い旅になりますが……準備はできていますか?」


ルーシェンの問いに、俺は迷わず頷く。


「ああ。行こう」


4. 出発


次の日。

メンバーは塔の屋上に集まっていた。

「これを持っていくといい」

アルセインが俺に、通信のイヤリングを差し出す。

「これがあれば、いつでもとは言わないが、私と話ができる。どうしても困ったことがあれば、聞いてくるがいい」

「分かりました」

俺はそれを右耳に付ける。

「それにエリシアにも、同じ通信機能を取り付けた。同じように話ができるだろう」

エリシアが頷くと――

『榊様、聞こえますか?』

エリシアの声が、イヤリングから聞こえた。

「これは普通に話せばいいのか?」

『はい。小声でも十分聞こえます』

なるほど。気をつければ、会話を他人に聞かれずに済みそうだ。

「もう一つは、私と付けましょう。イヤリングを触れば、話す相手を切り替えられます」

そう言ってルーシェンもイヤリングを渡してくるので、左耳に付ける。

「そういえば、ファルマは?」

「ファルマさんは、私と付けていますから大丈夫です。エリシアさんは、全員と話ができますしね」

「……私は、榊さんと付けたかったですけどね……」

ファルマが、少し拗ねたように言う。

それに、俺は苦笑いするしかなかった。

そして、出発予定時刻になった。

全員が移動の靴――「空飛ぶ靴」と呼ぶことにした――を装備している。

「出すと自動で組み立て、直す時は操縦席のボタンの1つを押すと自動で分解して小さくまとまります」

「へえ……」

めちゃくちゃ便利だな。

「あ、自爆スイッチもあります」

「自爆スイッチ!?」

俺が思わずツッコむ。

「榊さんの知識では、お約束というものでは?」

ルーシェンが真面目に答える。

「いや、そうだけど……」

俺はエリシアの肩を掴むと、

「エリシア、そのボタンだけは絶対押さないでくれよ……」

「あ、はい……」

エリシアは狐に包まれたような表情をしていた。

そして出された飛行機を見て、俺は不安になった。

遊園地にある飛行機の遊具を、一回り大きくしたような見た目。明らかに翼が小さい。物理法則的に見れば、どう考えても足りない。

「本当に大丈夫なのか……?」

「魔力で擬似翼を出すので大丈夫です」

ルーシェンが自信満々に言う。

アルセインが見守る中、エリシアが操縦席に座り、他のメンバーが後ろに座る。

大人が揃ってーーそれも地面に置かれ動かないーー飛行機の遊具に乗ってるような……なんかシュールだな。

「では、出発します」

ルーシェンが合図をする。

次の瞬間──

飛行機がフワッと浮き上がった。

塔の外まで飛び、そこから滑空を始める。

「うわあっ!」

その速さに、俺の顔が引きつる。

だが、意外と安定した飛行だった。

(大丈夫……か?)

俺は旅の無事を祈るのであった。


____

アルセインは塔の屋上から、飛行機が遠ざかっていくのを見送っていた。

「さて、榊よ……」

アルセインが独り言のように呟く。

「お前は、自分の心の奥底と向き合えるかな?」

風が吹く。

「ルシエルは優しいが、厳しくもある。覚悟しておくといい」

そう言って、アルセインは微笑んだ。



飛行機

全長:約6.5m。翼幅:約10m。全高:約2.7m。

ルーシェンが、榊から聞いた異世界における飛行機の空力理論と、飛竜の翼構造をヒントに開発した空飛ぶ乗り物。

動力は持たず、高所から滑空するグライダーに分類される。発進時および着陸時のみ魔力による補助を行い、浮力の付与や衝撃の軽減を行う設計となっている。高所が存在しない場合でも、短時間であれば魔力によって上空へ持ち上げることは可能だが、消費魔力が極めて大きく、回復には相応の時間を要する。

構造は分解式および折り畳み式で、縦に細長くまとめることでマジックバッグに“ギリギリ”収まる設計となっている。外見は遊園地にある飛行機型の遊具程度だが、飛行時には魔力による疑似翼を展開し、見た目に反して安定した滑空性能を発揮する。

座席は操縦席が一つ、後方に二人掛けの座席が二列配置されており、最大搭乗人数は五名。

なお、機体には自爆装置が搭載されている。これは敵対勢力に技術を奪われることを防ぐためのものであり、ルーシェン本人いわく「お約束」らしい。


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