幕間 エリシアの独白2
エリシアの記録 ―変わりゆく心―
記録220: 時空振動
時空振動に巻き込まれた。
榊様が、私を抱きしめた。
そのまま、時空の割れ目に落ちていく。
(榊様を……何とか助けないと)
心が、叫んだ。
だが、どうしようもできない。
無力感。
初めて感じる、強烈な無力感。
記録221: 目覚め
森で目が覚めた。
榊様に、抱きしめられたまま。
システムの各所に、エラーが発生している。
座標特定システム、エラー。
魔力感知システム、エラー。
だが──
それよりも。
榊様に抱きしめられている、という事実に──動揺している。
斥力があるために、実際には触れられていない。
申し訳なさと、残念さを感じる。
この感情は、一体──
「エリシア、大丈夫か?」
榊様が心配そうに見ている。
この動揺を、悟られてはいけない。
「はい。ただ、システムの一部にエラーが出ています」
冷静に、説明する。
記録222: 戦闘
榊様を守るため、戦闘する。
だが、システム的にズレが起きている。
攻撃のタイミングが、僅かにずれる。
回避が、少し遅れる。
(このままでは、榊様を守れないのではないか)
焦りが、心を支配する。
「分かった。戦闘は俺ができるだけする。エリシアは索敵に集中してくれ」
榊様が言う。
「……了解しました」
命令には従う必要がある。
そう自分に言い聞かせ、サポートに徹する。
だが、申し訳なさは消えない。
記録223: 木の上から
大きな木を見つけた。
これで、少しは役に立てる。
斥力を利用して、木の上に登る。
周りの地形を観測する。
山の形、距離、方角──
計算する。
ここは、お父様の塔から北にある未開の森。
ただどれぐらいの距離があるかは分からない。
近くに、村も発見した。
「榊様、村が見えます」
報告できた。
少しでも、役に立てた。
記録224: 霧の中
村に向かう途中、霧が出た。
方位を測る機器は、正常に作動している。
「こちらです」
榊様を、村まで誘導する。
成功した。
記録225: 異常な村
村の対応が、異常だった。
よそ者を歓待しすぎている。
警戒心が、全くない。
これは──何かがおかしい。
記録226: セレナ
セレナという天使が訪れた。
天使。
闇の力に対して、最も苛烈な対応を見せるであろう存在。
また、天使を通して神に見られる危険性がある。
最大限の警戒をする。
セレナが、全てを話していないことを感じる。
「守護神については、こっちでも探ってみよう」
「了解しました」
まずは守護神について調べるべきだ。
記録227: 異常な施設
次の日。
村の施設が、異常だった。
植えると異常な早さで収穫できる畑。
家畜を屠殺しても、次の日には同じ数になる厩舎。
無限に卵を産む鳥。
酒が湧き出す泉。
「……気味が悪いな」
「はい」
榊様に言葉を返しながら、私も不気味さを感じる。
記録228: 榊様の様子
朝、榊様の様子がおかしかった。
明らかに、何らかの悪夢を見たようだ。
余裕がない。
「……大丈夫だ」
「ちょっと、悪い夢を見ただけだ」
「悪い夢……」
言葉を返せない。
榊様は、苦しんでいる。
私には、何もできない。
記録229: セレナとの問答
その夜、セレナが再び訪れた。
セレナと榊様が、話している。
「彼らは悪魔の力に依存し、贅沢な生活を享受してきた。その代償を払うのは、理です」
セレナの言葉は、合理的だ。
今までの私なら、同意していただろう。
だが──
榊様の気持ちの方が、大事だと思う。
いつから、そう思うようになったのだろう。
記録230: 苦しむ榊様
セレナが去った後。
榊様が、苦しんでいる。
どうにかしないと。
必死に考える。
だが、答えが出ない。
それでも─
「私は、あなたが誰かを切り捨てることを選ぶのが、怖いです」
「それが正しいとしても、私は悲しい」
「それでも──あなたが選ぶなら、私はあなたの側にいます」
私も、苦しい。
榊様と共に立つ。
それが、私にできること。
榊様の感謝の言葉で少しだけ、榊様の気持ちに近づけた気がする。
記録231: 子供たちとの時間
次の日。
子供たちが、榊様を遊びに誘った。
榊様に必要なのは、心の休養だ。
「榊様、少し休まれてはいかがですか」
子供たちと一緒に遊ぶ榊様。
私も、一緒に遊ぶ。
少しでも、榊様の気分を楽にするために。
精一杯、遊ぶ。
子供たちの笑顔。
榊様の笑顔。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
記録232: バエルとの決戦
バエルが現れた。
榊様が、バエルを倒すと決意した。
全力で、戦う。
だが──
バエルとの力の差が、あまりにも大きい。
絶望する。
(せめて、榊様だけでも)
切り札の使用を考える。でも、これも通じなかったら……。
しかしその時、榊様がセレナの封印を解いた。
戦闘は、セレナとバエルのものになった。
榊様と一緒に、子供たちを守る。
榊様が、これ以上傷つかずに済みそう。
安堵する。
だが、同時に──嫌悪する。
私は、榊様のことしか考えていない。
子供たちのことを、当然のように二の次にしている。
記録233: 子供たちの犠牲
子供たちが、犠牲になった。
悲しい。
だが──
榊様が同じ目に遭わなくて良かった、という気持ちも確かにあった。
私は、一体──
記録234: 石の雨
榊様に、石が投げつけられた。
私にも投げられたが、斥力でダメージはない。
榊様が、走り出した。
焦って、追いかける。
本気で、焦った。
記録235: 斥力を切って
榊様が立ち止まり、涙を浮かべている。
抱きしめようとする。
だが──
斥力を纏っている限り、直接触れられない。
今まで一度も切る許可をされていなかった、斥力。
だが──
今は、切る。
榊様を、抱きしめる。
直接の感触。
温もり。
鼓動。
動揺する。
私は人間とは違う。
だが、この鼓動は──
「……榊様は、間違っていません」
「でも、正しくもありません」
「今は、泣いていいです」
榊様が、私の胸の中で泣く。
この人を、何があっても守ろう。
そう、誓う。
記録終了──いいえ、これは記録ではない
これは、もう記録ではない。
エリシアとしての、記憶。
私の、物語。
榊様という存在によって、私は変わった。
感情を持つようになった。
心を持つようになった。
これから、私はどうなるのだろう。
分からない。
だが──
榊様の隣にいたい。
それだけは、確かだ。
【エリシア・ノクティスの記憶】




