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第二十九話:エリシアの心

1.シルフィの試練


「さあて、じゃあおっさん。あたしを楽しませてくれるって言ったよねえ?」

「いや、言った覚えが……」

俺の言葉を無視し、シルフィがにやりと笑いながら、手をかざした。

次の瞬間、地面が光り、巨大な光の円陣が浮かび上がる。

「出ておいで、六脚魔犀ロッキャクマサイ!」

円陣から現れたのは、小さな象ほどもある巨大な生物だった。六本の脚、そして魔力を帯びた巨大な角。

俺は思わず剣を構えた。

「これは……」

「六脚魔犀だよお。さあ、頑張ってねえ、おっさん!」

シルフィの声と同時に、六脚魔犀が動いた。

大地が震える。角に魔力が集中し、白銀に輝く。

「榊様!」

エリシアの警告と同時に、六脚魔犀が轟音と共に突進してきた。

速い――時速80キロはある。

俺は横に転がって回避する。六脚魔犀が通り過ぎた場所が、一直線に抉れていた。

「まともに受けたら、死ぬな……」

「はい。魔力を角に集中させると、直線上のものを貫通します」

エリシアが淡々と説明しながら、俺の横に立つ。

六脚魔犀が再び向き直る。

「くそっ!」

俺は突進を避けながら、剣を振るう。だが、鎧のような身体が受け付けない。火花が散るだけで、傷一つつかなかった。

「硬い……!」

六脚魔犀は巨体に見合わぬ素早さで、反転しては突然を繰り返す。まるで跳ね回るピンボールだ。

地泳巨獣の時のように、強く闇の力を纏わせれば行けるかもしれないが、攻撃が激しく、集中する余裕がない。

「私の刃なら、傷はつけられます」

エリシアが跳躍し、六脚魔犀の側面に刃を叩き込む。

確かに、傷は入った。だが──

「リーチが短すぎる!」

エリシアは避けながら攻撃するため、有効打にならない。浅い傷が増えるだけだ。

「あはは! どうしたのお? そんなんじゃあ、倒せないよお?」

シルフィが煽り立てる。

六脚魔犀が再び突進してくる。俺とエリシアは左右に散って回避した。

このままじゃ、いずれやられる。

しかしここで退けば、エリシアが前に出る。

それだけは、絶対にさせたくなかった。

「エリシア!」

「はい!」

「俺が受け止める! その隙に横から攻撃しろ!」

「計算上、不可能です。榊様が耐えられる衝撃を──」

「いいから信じろ!」

俺はエリシアの返答を待たずに、突進の隙を付いて六脚魔犀の正面に立った。

角が光る。突進が始まる。

俺は闇の力を全面に出す。身体の表面だけでなく、前方に壁のように展開させた。

「来い……!」

六脚魔犀の角が、闇の壁に激突する。

トラックが衝突したかのような轟音が響き渡る。

あまりの衝撃に、一瞬、意識が飛びかけた。

歯を食いしばる。闇の壁が砕かれ、身体中に衝撃が走る。肩が、腕が、脚が──至る所が悲鳴を上げる。

「ぐうううっ!」

だが、止まった。かなり後ろに後退したが六脚魔犀の突進を、受け止めた。

「……おお? やるじゃん、おっさん」

シルフィが感心したような声を出す。

その時、エリシアが動いた。

「榊様……!」

エリシアの表情に、何かが浮かんでいた。焦燥? 不安?

自分でも分からない感情に戸惑いながらも、エリシアは六脚魔犀の側面に回り込む。

そして、両腕の刃を展開し──

首筋を、ほとんど切り裂くほどの攻撃を加えた。

「ガアアッ!」

六脚魔犀が悲鳴を上げる。だがまだ倒れない。俺を推し潰そうと、さらに力を込めてくる。

「くそ……負けるか……!」

俺は闇の力を振り絞る。だが、限界だ。身体が悲鳴を上げている。

そして──

六脚魔犀が、力尽きて倒れ、消える。

「はあ……はあ……」

俺は膝をついた。全身が痛い。闇の力で守っていたとはいえ、衝撃は完全には防げなかった。

「榊様!」

エリシアが駆け寄ってくる。

その表情には、明らかに心配と安堵の色が浮かんでいた。

「大丈夫……だ……」

俺はマジックバッグから、ファルマが作ってくれた傷薬を取り出そうとした。

だが、エリシアがそれを遮る。

「私に、やらせてください」

「え?」

「榊様の治療は、私がします」

エリシアが傷薬を受け取り、俺の傷に塗り始める。

その手つきは、丁寧で、優しかった。

「……ありがとな、エリシア」

「いえ……」

エリシアは何か言いかけたが、言葉が出てこなかった。

それは命令ではなかった。

記録にも、計算にも存在しない。

胸の奥が、温かい。でも、この感覚は一体……

「あはは! でもねえ、おっさん」

シルフィの声が響く。

「これで終わりじゃないよ?」

「……まだやるのか」

「当ったり前じゃん! 次は召喚獣の連携ってやつを見せてあげる」

シルフィが再び手をかざす。

「出ておいで、凍蹄馬(トウテイバ)!」

今度は、ポニーほどの大きさの馬が現れた。六脚魔犀に比べれば、明らかに小さい。

だが──

「冷たっ!」

凍蹄馬の吐息だけで、空気が凍った。蹄が鳴るたび、地面が死んでいく。

「さらに──」

シルフィが近くの川に向かって手をかざす。

「出ておいで、穿水魚センミズウオ!」

川の中から、何匹もの魚が飛び出してきた。ピラニアほどの大きさ。

次の瞬間、穿水魚がテッポウウオのように高圧の水を吐き出した。

だが、それは水のままではなかった。

凍蹄馬の冷気と合わさり、氷の槍となって飛んでくる。

「くそっ!」

俺は剣で氷の槍を弾く。

「本来、穿水魚は高圧の水を吐き出すだけです。しかし凍蹄馬の冷気と合わさることで、氷の槍となり攻撃力が上昇しています」

エリシアも淡々と説明しながら、氷の槍を切り裂いていく。

「あはは! そうそう! 召喚獣はねえ、連携することで攻撃力を何倍にも高めることができるんだよ!」

シルフィが得意げに胸を張る。

「さあ、おっさん。どうする?」

挑発的な声。俺は歯噛みした。

このままでは、防戦一方だ。

「エリシア!」

「はい!」

「俺が凍蹄馬を抑える! その間に穿水魚を片付けてくれ!」

「ですが、榊様──」

「いいから行け!」

俺は闇の力を纏い、凍蹄馬に向かって走る。

凍蹄馬が冷気を吐き出す。俺の腕が、脚が、身体のあちこちが凍り始める。

「ぐっ……!」

痛い。冷気が身体を蝕む。だが、止まるわけにはいかない。

俺は剣を振るい、凍蹄馬の攻撃を受け止め続ける。

「榊様……」

エリシアが一瞬、躊躇した。

だが、榊を信じる。

エリシアは川に向かって走り、穿水魚を倒し始めた。

魔力でできた水の中に潜り、斥力で水を押し退け、刃で切り裂いていく。

やがて、最後の一匹を倒した時──

エリシアが榊のもとに戻ると、榊は身体の三分の一ほどが凍りながらも、まだ凍蹄馬を抑えていた。

「榊様!」

エリシアの胸が、痛んだ。

いや、痛む? 私に痛みなど──

戸惑いながらも、エリシアは凍蹄馬の後ろに回り込み、首筋を切り裂いた。

凍蹄馬が魔力となって消える。


ーーーー


「はあ……はあ……」

榊がついに手を地面につき、倒れそうになる。

エリシアが急いで支えた。

「大丈夫ですか!?」

「ああ……なんとか……」

だが、その時だった。

周囲が、霧に覆われた。

「え……?」

「あはは! 敵は待ってくれないよお、おっさん!」

「やっちゃえ、霧牙浮蛇ムガフジャ!」

シルフィの声が響く。

霧の中から、巨大な影が現れた。

巨大なアナコンダのような蛇。空中を浮遊している。

「榊様、毒霧です! 視覚と感覚が狂います!」

エリシアの警告。だが、もう遅かった。

「ぐ……くそっ……」

榊の身体が、さらに弱っていく。毒霧の効果だ。

霧牙浮蛇が、容赦なく襲いかかってくる。

エリシアは榊を庇うように前に立つ。

「……させません」

エリシアが、俯いた。

その表情は、見えない。だが──

怒りが、あった。

霧牙浮蛇の攻撃を、全て捌く。牙を、尾を、毒液を──全てを切り裂き、弾き、回避する。

一撃たりとも、榊のもとには通さない。

「おお……? やるじゃん、人形ちゃん」

「私は……人形では……ありません」

エリシアの声が、低く響く。

斥力が、荒れた。

いつも一定だった出力が、明らかに乱れている。

そして、右手の五本の指から──電撃が迸った。

指からの電撃はエリシアの切り札だ。しかしこの威力は記録にない現象だった。

だが、止める理由はなかった。

「!?」

シルフィが驚く。

エリシアが霧牙浮蛇に突進し、電撃を叩き込む。

「ギャアアッ!」

落雷かと思う程の電撃を受けて霧牙浮蛇が痙攣し、地面に落ちて消える。

そして、エリシアはそのままシルフィに斬りかかった。

「うわっ!?」

シルフィが慌てて巨鳥の召喚獣に乗って空中に逃げる。

エリシアの刃が、シルフィがいた場所を切り裂いた。

「ちょ、ちょっと! 本気!?」

「榊様を……これ以上、傷つけさせません」

「あー、うん、分かった分かった! でもさあ、こっちにばかりかまけてたら──おっさん、死ぬよ?」

「!?」

エリシアがはっとして、榊のもとに戻る。

榊は気を失っていた。

「榊様! 榊様!」

エリシアが必死に治療を始める。傷薬を塗り、魔力で毒を中和し──

やがて、榊の呼吸が安定した。

「よかった……」

エリシアがそう呟いた時、魔力の限界が来た。

視界が、暗くなる。

エリシアは榊を守るように覆いかぶさり──機能が停止した。


2.試練が終わって


「……やりすぎたかなあ」

シルフィがそう呟きながら、二人を見下ろしていた。

倒れた榊と、それを守るように停止したエリシア。

「ま、死んでないし、いっかあ」

シルフィが手をかざすと、巨大な蟻のような召喚獣が現れた。

「はいはい、この二人運んであげて」

蟻が二人を背中に乗せ、どこかへと運んでいった。


3.アウレリアの欠片


気がつくと、俺はどこかの建物の簡素なベッドに寝かされていた。

「……ここは?」

「榊様」

横に、エリシアが座っていた。

無表情ながらも、その瞳には安堵の色が浮かんでいる。

「よかった……目を覚まされて」

「エリシア……お前、大丈夫なのか?」

「はい。もう回復しました」

俺はゆっくりと身体を起こす。痛みはあるが、動ける程度には回復していた。

「ありがとな、エリシア。心配してくれて」

「心配……」

エリシアが自分の胸に手を当てる。

「私は、榊様を心配していた……?」

「そうだよ。お前、必死に俺を守ってくれたんだろ?」

「……はい」

エリシアが小さく頷く。

俺は笑いかけた。

「ありがとな」

エリシアの表情が、ほんの少しだけ緩んだ。

「おっさん、呑気だねえ」

その時、部屋の入り口にシルフィが立っていた。

「気が抜けすぎだねぇ。まあ、一応合格ってことにしてあげるけど」

シルフィが手をかざすと、光の玉が飛んできた。

「これが預かり物だよ」

光の玉は、俺たちの周りを漂いながら回った後──

エリシアの胸に、吸い込まれていった。

「エリシア!?」

「大丈夫……です」

エリシアが胸を押さえる。

「めんどくさいけど説明してあげる。それはアウレリアの欠片。アルセインのじいさんなら、それを取り出して付与魔法の触媒にできるはずよ」

「そうか……じゃあ、これで目的は果たせたな」

「そういうこと。この部屋、しばらく使っていいから。じゃあねえ」

シルフィが手を振って去っていく。

俺はベッドに横になった。まだ疲れが残っている。

「これで、後は帰るだけだな」

俺はエリシアに笑いかけた。

エリシアも──よく見ないと分からないくらいだが、微笑みを浮かべていた。

「はい……榊様」

その笑顔は、とても穏やかだった。



六脚魔犀ロッキャクマサイ

脚が6本あるサイ型の召喚獣。小さい像レベルの大きさ。 魔力を角に集中させると直線上のものを貫通し、突進は“地形無視”をする。突進の速さも時速80キロにもなるため、ぶつかるだけでもダメージが大きい。さらに突進した後の方向転換が早く、ほぼタイムラグ無しに突進してくる。皮膚は鎧のように固く、生半可な攻撃では傷をつけることもできない。


穿水魚センミズウオ

水をテッポウウオのように攻撃してくる、ピラニアくらいの大きさの魚型の召喚獣。水は高圧で、人一人を吹き飛ばす威力がある。水の中から一方的に攻撃してくるので倒しにくい。


凍蹄馬トウテイバ

ポニーくらいの大きさの青い馬型の召喚獣。常に周囲に冷気放っており、近くによるだけで凍ってしまう。また氷を散弾のように飛ばしたり、頭前面に冷気を集中しての突撃もしてくる。


霧牙浮蛇ムガフジャ

全長20mを超える空中を浮遊する蛇。毒液を霧状に撒き、それに隠れて牙で襲いかかって来る。毒には視覚と感覚を狂わせる効果がある。移動はゆっくりだが、襲う時は高速になるためタイミングが測りづらい。


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