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第十五話: 模擬戦

1. 準備と監視


星詠の館を後にした俺たちは、王都の一角で今後の旅について話し合った。

「旅と言ってもどこに向かおうか」

ルーシェンは少し考えると

「アルセイン翁の所に、行ってみましょうか」

「アルセイン翁?」

初めて聞く名前だ。

「以前説明した、魔法具を唯一作ることができる、付与魔法使いです。彼は偏屈ですが、気に入った相手に魔法具をくれることがあります」

なるほど。魔法具が、マジックバックみたいなものであれば、今後の旅が色々楽になるかもしれない。

「どこにいるんですか?」

「王都から東に200kmほど行った山の中ですね。そこに宙に浮かぶ塔を建てて住んでいます」

「え、宙に浮いてるんですか?」

「ええ、ですから限られた人間しかたどり着けません。私も一度研究のため行きましたが、追い返されてしまいました」

それでは、行っても仕方がないのではないだろうか。宙に浮かぶ塔は見てみたいが、200kmはさすがに気軽に行ける距離じゃない。

「また追い返されるだけでは?」

「いえ、今回は榊さんがいます。彼は私と同じ研究者です。その特殊性に気が付けば、気にいられる可能性は高いと思います」

ルーシェンと同じタイプなのか。ルーシェンが2人になった姿を想像して、少しゲンナリした。しかし別の視点からの考察は重要かもしれない。俺は、闇の力を「武器」ではなく、「理論」として理解したかった。

「まあ今のところ他に候補もないですし、そこに向かうということで」

ルーシェンはもう行く気満々のようだ。

「はあ、わかりました……」

最初の目的地が決まった。

そして準備のために、王都の市場へと向かった。

「まずは食料ですね。まだマジックバックの中にある程度残っているとはいえ、今回は長旅です。沢山買っても多すぎることはないでしょう」

ルーシェンが淡々と言った。

「保存食、薬草、それにファルマさん用の旅の道具も必要です」

「分かりました」

王都繰り出し、様々な店で必要な物資は一通り揃えた。

干し肉や乾パン、薬草に鉱物、野営用の道具。

長旅になる以上、荷は増える一方だ。


その時だ。


理由もなく、背筋が冷えた。


顔を上げると、路地の奥に人影が――いや、違う。

視線を向けた瞬間、そこには何もない。


だが、確かに見られている。


闇の力に似た波動。

それなのに、俺の意思とは無関係に、体内の闇が微かに拒絶反応を示していた。


――これは、人間じゃない。


子爵の手の者か。それとも……。

俺は、ルーシェンに小声で伝えた。

「ルーシェンさん、何者かに監視されています」

「監視?どこに?」

「姿は見えません。しかし力が感じ取れます」

ルーシェンは、何事もないふりで視線を流したが、首をわずかに傾げた。

「榊さんが感じる以上、何かいるのは確かでしょうね。どうしますか?」

俺は額に指を置いて少し考えた。

「今は、何もしない方がいいでしょう」

これは直感だ。

「下手に手を出すと、逆に悪化する気がします」

「そうですね。注意は必要ですが……今は泳がせておきましょうか」

ルーシェンは、静かに同意した。

だが、その目は、別のことに興味を向けていた。

「それにしても、榊さんの感知能力が上がりましたね」

「え?」

「以前は、ここまで正確に気配を察知できませんでした。闇の力の使い方が、さらに洗練されてきた証拠です」

ルーシェンは目を輝かせた。

「これは、実験の価値がありますね」

「今、それどころじゃないですよね!?」

俺は呆れた。監視されているのに、実験のことしか考えていない。相変わらずだ。

こうして、俺たちは買い物を終えた。影は、ずっと俺たちを追っていた。

だが、攻撃してくる様子はない。あくまで、監視するだけのようだ。


2. エドワードとの模擬戦


夕方近くになり、俺たちは第二騎士団の詰所へと向かった。

エドワードが、そこで待っているはずだ。

詰所に到着すると、エドワードは既に仕事を終えており、訓練所の入り口で待っていた。

「来たか」

エドワードは、置いてあった重厚な大剣を手に取った。あれは模擬剣か。

「榊、お前の実力を見せてもらいたい」

「模擬戦、ですか?」

「ああ。お前がどれほどの実力を持っているか、この目で確かめたい」

エドワードは真剣な表情で言った。

「私は騎士団副団長としての責務がある。どうしても旅に同行することができない。だからファルマを、お前に託す。だが、お前がファルマを守れるだけの力を持っているか、確認させてくれ」

俺は、エドワードの目を見た。

その目には、叔父としての愛情と、騎士としての厳しさが宿っていた。

「分かりました」

俺は頷いた。

「それに、格上の戦士との戦いは、俺自身の糧にもなります」

「ありがとう」

エドワードは微笑んだ。

「では、訓練所の中央へ」

訓練所には、既に何人もの騎士が集まっていた。

副団長の模擬戦となれば、見物人が集まるのは当然だ。

エドワードはその中の1人に、審判をするよう声をかけている。

「榊さん……大丈夫ですか?」

ファルマが不安そうに聞いてきた。

「叔父様は……その、とても強いです」

「大丈夫だよ」

俺は笑顔で答えた。

「負けるかもしれないけど、全力は尽くす」

「でも……」

「大丈夫」

俺はファルマの頭を撫でた。

「信じて」

ファルマは、不安そうな表情のまま頷いた。

俺とエドワードは、訓練所の中央に立った。

手には、刃の潰された模擬剣。

実戦用の剣ではないが、それでも当たり所が悪ければ命に関わる。

「では、始めよう」

エドワードが言った。

「準備はいいか?」

「はい」

俺は闇の力を体内に纏った。

外に漏らさず、体内で最大限に練り上げる。

「では……始め!」

審判役の騎士が声を上げた。

瞬間、エドワードが動いた。

速い!

四十代とは思えない速度で、大剣が振り下ろされる。

俺は咄嗟に横に飛んだ。

大剣が、俺がいた場所を叩きつけた。

地面が、僅かに凹む。

「そんなのでは、ファルマは守れんぞ!」

エドワードが叫んだ。

そして、再び大剣が振るわれる。

今度は横薙ぎ。

俺は模擬剣で防いだ。

激しい衝撃が腕に響く。

重い!

大剣の重量と、エドワードの膂力が、俺の剣を押し込んでくる。

俺は闇の力を腕に集中させ、何とか押し返した。

「ほう、やるな」

エドワードは感心したように言った。

「だが、まだまだだ!」

エドワードの攻撃が、加速した。

上段、下段、横薙ぎ、突き。

様々な攻撃が、休みなく繰り出される。

俺は必死に防いだ。

だが、徐々に押されていく。

エドワードの剣は、まるで嵐のようだ。

一つ一つの攻撃が重く、速く、そして正確だ。

「まだ終わりではないぞ!」

エドワードの大剣が、俺の左側から振るわれた。

俺は右に飛んで避けた。

だが、エドワードは既に次の攻撃に移っていた。

大剣が、俺の頭上から振り下ろされる。

俺は模擬剣で防いだ。

だが、その衝撃で、俺の体勢が崩れた。

エドワードは、その隙を逃さなかった。

大剣が、俺の腹部に向かって突き出される。

まずい!

俺は咄嗟に体を捻った。

大剣が、俺の脇腹を掠めた。

刃が潰されているはずなのに旅人の服が裂け、痛みが走る。

だが、致命傷ではない。

俺は距離を取った。

息が荒い。

エドワードは、余裕の表情を浮かべている。

「まだまだだな、榊」

エドワードは大剣を構え直した。

「お前の動きは良い。だが、経験が足りん」

「そうかもしれませんね」

俺は息を整えた。

「でも、まだ終わりじゃない」

俺は闇の力を、さらに練り上げた。

体中の闇の力を、限界まで高める。

そして、エドワードに向かって突進した。

「来い!」

エドワードも、大剣を振りかぶった。

俺とエドワードの剣が、激突した。

激しい打ち合いが続く。

俺は、必死に攻撃を繰り出した。

だが、エドワードは、全てを防いでいく。

そして、カウンターを狙ってくる。

俺の攻撃を防ぎ、すぐに反撃に転じる。

その速度と正確さは、まさに達人のそれだった。

「もっと速く!もっと強く!」

エドワードが叫んだ。

「それでは、敵は倒せんぞ!」

俺は、歯を食いしばった。

確かに、エドワードは強い。

圧倒的に強い。

このままでは、負ける。

だが、まだ諦める訳にはいかない。俺はファルマを守るんだ!

俺は、エドワードの攻撃パターンを観察した。

上段から振り下ろし、そして横薙ぎ。

そのパターンは、ほぼ決まっている。

ならば、その隙を突けば……。

エドワードが、再び大剣を振り下ろしてきた。

俺は、左に飛んで避けた。

そして、エドワードの右側に回り込んだ。

今だ!

俺は、エドワードの脇腹に向かって剣を突き出した。

だが、エドワードは既に動いていた。

大剣を横に振り、俺の剣を弾いた。

そして、そのまま大剣を振り上げ、俺の頭上から振り下ろしてきた。

二段攻撃!

一段目でカウンターを取ろうとしたら、二段目が来る!

俺の脳裏に、何かが閃いた。

これは、臨死体験の中で蘇った記憶。

かつて、俺が使っていた技。

二段切り返し。

俺は、エドワードの大剣を模擬剣で受け流し、そのまま体を回転させた。

そして、エドワードの懐に飛び込んだ。

模擬剣が、エドワードの喉元に突きつけられた。しかし同時にいつの間にかエドワードの大剣が頭上で止まっている。

「……そこまで!」

審判役の騎士が叫んだ。

訓練所が、静まり返った。

そして、次の瞬間、騎士たちのどよめきが起こった。

「まさか……副団長と相打ちとは!?」

「あの男、何者だ!?」

「信じられない……」

エドワードは、大剣を下ろした。

そして、俺を見て微笑んだ。

「やるな、榊」

「ありがとうございます」

俺は息を整えた。

心臓が激しく鼓動している。

最後、手加減されたな……。

「お前の実力、確かに認めた。まだ詰めが甘いところがあるから続ければ、いずれ私が勝つだろう。だが……守るには、十分だ」

エドワードは俺の肩を叩いた。

「―榊。

 次に会う時は、もっと強くなっていろ。そしてファルマを、頼む」

「はい」

俺は頷いた。

「必ず、守ります」

エドワードは満足そうに頷いた。

だが、その時。

「榊さん!」

ファルマが泣きながら走ってきた。

「死んでたかもしれないじゃないですか!」

ファルマは俺に泣きつき、涙を流しながら怒った。

「心配したんですよ!」

「ごめん、ファルマ」

俺には謝る言葉しかなかった。

「叔父様も!」

ファルマはエドワードにも向き直った。

「榊さんを殺すつもりだったんですか!?」

「いや、それは……」

エドワードは少し狼狽している。

「すまん、ファルマ。少しやりすぎた」

エドワードもファルマには弱いようだ。

こうして、模擬戦は終わった。

だが、訓練所の影で、一人の男が俺たちを見ていた。

第二騎士団、騎士団長。

その目には、嫉妬と憎しみの色が宿っていた。


エドワード・アストン


ムステル王国第二騎士団副団長。44歳。

シアンとファルマ兄妹の母の弟にあたり、二人にとっては叔父にあたる。

若い頃に妻と死別しており子供はいないが、兄妹を自分の子供のように思い、育ててきた。

年齢的には現場からはやや遠のいているものの、その実力に陰りはなく、2メートルを超える長身と長剣から繰り出される熟練の剣技により、騎士団全体でも有数の強さを誇る。

その実力を見込まれ第一騎士団への勧誘も受けていたが、兄妹を育てるためにそれを辞退している。

おおらかで面倒見がよい一方、仲間や家族を害する者には一切の容赦を見せない苛烈さも併せ持ち、その人柄から多くの騎士たちに慕われている。


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