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幕間:ファルマの回想2

1.ファルマの日記


アーロンが飛竜と契約した日


――デンヴァール歴××年 春


15歳になりました。大人までもう少しです。

今日は、忘れられない日になりました。


アーロンが、飛竜と契約しました。


朝から落ち着きがなくて、

「今日は運命の日だ」とか、「空が俺を呼んでいる」とか、

よくわからないことをずっと喋っていました。


正直、半分くらいは冗談だと思っていました。


でも――


空が、鳴きました。


低くて、胸の奥に響く声。

見上げると、岩山の向こうから、大きな影が現れました。


灰青色の鱗。広げた翼。風を裂く音。


飛竜でした。


飛竜の背から、見知らぬ白髭の老人が静かに降りてきました。


アーロンは、珍しく何も言わずに前に出ました。


笑っていませんでした。ふざけてもいませんでした。


その横顔は、私が知らないアーロンでした。


ただ、真っ直ぐに飛竜を見て、

その老人と握手するように手を取りました。


息を呑む時間が、長く感じました。


そして――

飛竜が、アーロンの前に降り立ちました。

次の瞬間、飛竜の姿が淡く揺らぎ、霧のようにアーロンの胸元へと吸い込まれていきます。

そして、アーロンが手を翳すとまた飛竜が現れました。


契約の移行が、成立した瞬間でした。


エリカさんが、

「……やったじゃん」と呟いて、


ガレスさんが、小さく拳を握っていました。


ブライアンさんは、何も言わずに頷いただけでした。


私は、気づいたら走っていました。


「すごい! すごいです、アーロン!」


そう言うと、アーロンはようやく笑って、


「だろ? 俺、天才だからさ。だからファルマちゃん将来俺と結婚……」


と言いかけました。


――その瞬間でした。


「調子に乗るな!!」


エリカさんの拳が飛び、ガレスさんの蹴りが入り、

なぜかブライアンさんの拳骨まで落ちました。


アーロンは地面に転がりながら、

「ちょ、ちょっと待て! 半分冗談だから!」と叫んでいました。


私は、笑いました。


久しぶりに、お腹が痛くなるくらい笑いました。


空を見上げると、飛竜が静かに翼を畳んでいました。


この人たちは、本当に強くなっていくんだと思いました。


それが、とても嬉しかったです。


――ファルマ


―― ――


2. ファルマの日記


黄金の剣の名が広まっていく


――デンヴァール歴××年 秋


最近、

「黄金の剣」という名前を、街で聞くことが増えました。


最初は、宿屋の噂話でした。


「最近、腕のいい冒険者がいるらしい」

「竜を使う召喚士がいるって」


それが、いつの間にか――


「黄金の剣に頼めば安心だ」

「命を預けられる連中だ」


そんなふうに、言われるようになりました。


私は、その話を聞くたびに、胸が少しだけ熱くなります。


エリカさんは、怪我人が出ないように動いて、


ガレスさんは、必ず最後まで後ろを守って、


アーロンは、飛竜と一緒に空を押さえて、


ブライアンさんは、一歩も退かずに前に立ちます。


みんな、当たり前みたいにやっています。


でも、それがどれだけ凄いことか、私は知っています。


依頼が終わったあと、報酬の袋を見て、エリカさんが笑いました。


「少し、楽になったね」


その言葉に、ガレスさんが頷いて、


アーロンが、

「次はもっと派手にやろうぜ」と言って、また殴られていました。


ブライアンさんは、黙って、私にお菓子をくれました。


私は、それを受け取って思いました。


この人たちは、もう、ただの冒険者じゃない。


剣になっている。


誰かを守るための、ちゃんとした剣です。


そして私も、その剣を支える鞘でありたい。


もっと、役に立てるようになりたい。


そう、強く思います。


――ファルマ


3.ファルマの日記(抜粋)


――デンヴァール歴××年 春

16歳になりました。私も、もう大人です。


なので最近、日記の書き方を変えてみた。


今日も忙しかったけど、いい一日だった。


朝は兄さんが珍しく寝坊して、調合の順番を間違えかけてた。

あの兄さんが、だよ?

思わず指摘したら、ちょっとだけ照れた顔をしてた。かわいい。

お昼前には黄金の剣のみんなが顔を出してくれて、

アーロンは相変わらず調子のいいことばかり言ってた。

「ファルマを必ず俺に惚れさせて嫁にする」って。

そのたびにエリカさんが本気で怒るのが、なんだか楽しい。

16歳だから結婚できる年齢なんだけど、アーロンさんはなぁ……。いい人ではあるんだけど、どこかまだ落ち着きがないというか。


そんな話をしていた時でした


エリカさんが、こっそりと私を奥の部屋に呼びました。


「ファルマちゃん、実は……」


いつもと違う、少し恥ずかしそうな顔。


「赤ちゃんができたかもしれないの」


「え……!」


思わず声が大きくなって、

エリカさんに「しーっ!」と口を押さえられました。


「まだ、確定じゃないんだけど……

 でも、たぶん」


その顔は、

照れているようで、

不安そうで、

でも、どこか幸せそうでした。


「ガレスさんに言わないと……!」


「待って、待って、待って!」


エリカさんが慌てて止めます。


「びっくりさせたいから、

ガレスにはまだ内緒にしておいて欲しいの。

ちゃんと確認できたら、私から伝えるから」


そう言われると、私も勝手に言うわけにはいきません。


「じゃあ、ふたりだけの秘密ですね!」


「ふふっ、そうね」


そう笑ったエリカさんの笑顔は、とても綺麗でした。


まるで、春の陽だまりみたいに、あたたかくて、やわらかくて。


私も、いつかあんな顔で笑えるのかな。


ブライアンさんは今日も静かだったけど、帰り際にこっそりと、また甘い菓子をくれた。

あの人、絶対に私に優しいと思う。もしかして、娘のように思ってくれてるのかな?

本人は否定するけど。


みんな忙しいのに、私のことを気にかけてくれる。

少し前までは、それが当たり前だと思っていなかった。


父さんと母さんがいなくなった時、世界は灰色になったと思った。

でも今は、ちゃんと色がある。


兄さんがいて、この街があって、黄金の剣のみんながいる。


私はきっと、恵まれている。


だから――もっと役に立ちたい。


兄さんの手伝いも、みんなの役に立つ薬も、

ちゃんと一人前になって、胸を張れるようになりたい。


今日は、知らない偉い人たちが兄さんのところに来ていた。

街の貴族か、役人みたいな雰囲気。

話の内容は聞こえなかったけど、兄さんの声が少しだけ低くて、硬かった。


気のせいかもしれない。でも、少しだけ嫌な予感がした。


でも、きっと大丈夫。兄さんはいつも正しいし、優しい。


明日も、忙しくて楽しい一日になりますように。


――ファルマ


4.不穏な影


薬草の匂いで目を覚ます朝は、嫌いじゃなかった。


乾燥棚に吊るした葉が、朝の光を受けてわずかに透ける。窓の外からは、デンヴァールの街が目を覚ましたばかりの音が聞こえてきた。荷車の軋む音、遠くの市場の呼び声、そして――。


「ファルマ、起きてるか?」


扉をノックもせずに開ける声。

間違えようがなかった。


「起きてるよ、兄さん。今日は早いね」


「注文が山ほどだ。朝飯、ちゃんと食えよ」


そう言いながら、シアンは白衣のまま部屋に入ってきた。寝不足のはずなのに背筋は真っ直ぐで、目だけが少しだけ鋭い。昔から変わらない、頼れる兄の姿だ。


「今日の処方、私も手伝う」


「無理はするな。昨日も遅かっただろ」


「もう子どもじゃないもん」


そう言うと、シアンは一瞬だけ困ったように笑った。


「それを言われると弱いな」


その笑顔を見て、胸の奥が少しだけ温かくなる。

この人が兄でいてくれる限り、私は大丈夫だと思えた。


―― ――


昼前になると、薬房は一気に騒がしくなる。


「おーい、ファルマ! それ、逆だ逆!」


元気な声で指摘してきたのは、エリカだった。栗色の髪を後ろで束ね、軽装の革鎧のままカウンターに肘をついている。


「え、あっ……ほんとだ!」


「もう、しっかりしてよ。薬師さん」


からかうように笑いながらも、手つきは優しい。

私より10歳も年上で、冒険者としてももうベテラン。でも面倒見がよくて、姉みたいな人だ。


「ファルマは可愛いからいいんだよ」


後ろから間延びした声が飛んできた。


「アーロン、また変なこと言って!」


「変じゃないだろ〜。なあガレス?」


「……余計なこと言うな」


ガレスは短くそう言って、木箱を運びながら視線を逸らした。大柄で無口。でもエリカが傷を負って帰ってくると、誰よりも早く顔色を変える。


分かりやすい人たちだと思う。赤ちゃんもできたかも知れないし、いつ結婚するんだろう?


「ほら、ガレスもそう思ってる」


「思ってない」


「えー?」


そんなやり取りを、少し離れた場所で腕を組んで見ている男がいた。


「騒がしいのも悪くないな」


ブライアンだ。寡黙で、いつも表情が硬い。

でも――


「ファルマ」


「なに?」


彼は周囲を見回してから、そっと小さな包みを差し出してきた。


「……余り物だ」


中身は、砂糖菓子だった。


「ありがとう!」


ぱっと笑うと、ブライアンはわずかに目を逸らした。


「……騒ぐな」


その仕草が、なんだかおかしくて、私は思わずくすっと笑ってしまった。


―― ――


夕方、薬房の奥で調合をしていると、外が急に静かになった。


いつもなら聞こえる足音や話し声が、途切れる。


「……?」


不思議に思って顔を上げると、入口の方で兄のシアンが誰かと話していた。


見知らぬ男たち。

服装は上等で、動きに無駄がなく、街の人間とはどこか違っていた。


エリカも、いつの間にか笑顔を消していた。


「……あの人たち、誰?」


「さあな」


アーロンが冗談めかした声を出そうとして、途中でやめた。


シアンがこちらを見る。

一瞬だけ、いつもの兄の顔じゃなかった。


「ファルマ、今日はもう奥にいなさい」


「え?」


「いいから」


その声は、静かで、でも逆らえない響きを持っていた。


私は頷いて、薬房の奥へ下がる。

扉が閉まる直前、ブライアンが無言で入口の近くに立つのが見えた。


胸の奥が、少しだけざわつく。


(……なんだろう)


理由は分からない。

でも、今までの「当たり前」が、ほんの少しだけ歪んだ気がした。


それでもまだ、この時の私は思っていた。


明日も、きっと同じ日が続くのだと。


兄さんが笑って、

みんなが騒いで、

私が薬を調合する。


そんな日々が、ずっと続くのだと。


――続かなかった。



召喚獣 飛竜


全長20m前後の、飛行に特化した竜。召喚術師の憧れとも言える存在だが、魔力消費が非常に多く、これを維持できる召喚術師は限られている。また個体数は国によって厳重に管理されており、所持には正式な許可が必要となる。

入手方法は高額な卵を購入するほか、引退した召喚術師から譲渡を受ける形も存在する。背中には5~6個の突起物があり、自然な鞍状の構造をしているため、乗り心地は意外にも悪くない。掴める部分も確保されており、よほど無謀な飛行を行わなければ、落下の危険性は低い。

飛行速度は時速40~60キロほどで、術者の力量によって左右される。移動手段としてだけでなく、運搬や軍事利用など用途は非常に広い。


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