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第十二話:エドワード・アストン

1. 宿での実験


装備を整えた後、俺たちは宿を取った。

『黄金の鹿亭』という、王都でも一流の宿だ。

部屋は広く、ベッドが三つ並んでいる。

「さて、夜まで時間がありますね。実験をしましょう」

ルーシェンは目を輝かせた。

「実験って……」

「ええ。榊さんが普通の回復薬を使えるか、確認したいんです」

「私が試作したポーションは、私自身の魔力を前提にしているので、榊さんには効果が出ないんです」

ルーシェンはマジックバッグから、様々な道具を取り出した。

「ファルマさん、調合をお願いします」

「あ、はい……分かりました……」

ファルマは、買ってきた素材を使って、調合を始めた。

その手際は見事だった。

薬草を刻み、鉱物を砕き、正確な分量で混ぜ合わせる。

まるで、芸術作品を作っているかのようだ。

「すごいですね、ファルマさん」

「これくらい……兄に比べれば……まだまだです……」

ファルマはやや頬を赤らめていた。

やがて、回復薬が完成した。

淡い緑色の液体が、小瓶に入っている。

「では、実験を始めましょう」

ルーシェンはそう言って、いきなり俺の腕をナイフで切った。

「痛っ!」

「……!?」

ファルマはびっくりして、口を手で押えている。

「すみません。傷を作らないと、回復薬の効果が確認できませんから」

ルーシェンはいつもと変わらない調子で言う。

「せめて、先に一言言ってくださいよ!」

「そうですか?でも、必要なことですから」

ルーシェンは平然としている。

俺は溜息をついた。

まあ、確かに必要なことではある。

「では、回復薬を」

ルーシェンは回復薬を傷に塗った。

すると、驚くべきことが起こった。

傷が、みるみるうちに塞がり、皮膚が再生していく。

「すごい……本当に効いた……」

俺は安堵した。ただ痛みはすぐには引かないようで鈍痛が残っている。

だがこれで、回復魔法を受け付けない俺でも、傷を治せる。

だが、その瞬間、ファルマが驚いた声を上げた。

「これは……まさか闇の力……?」

ファルマは、俺の腕から僅かに漏れ出た闇の力を感じ取っていた。

「ファルマさん……」

俺は焦った。しかしもう隠すことはできそうにない。

「榊さん……あなたは……」

「すみません。実は……」

俺は、自分が闇の力を持っていることを説明した。

召喚されたこと。

闇の力が邪神の力とされていること。

そして、ルーシェンに協力して、力を制御する訓練をしてきたこと。

ファルマは、真剣な表情で聞いていた。

「でも、榊さんは悪い人じゃ……ありません……」

ファルマは静かに言った。

「命の恩人ですし、優しく……してくれました」

「ファルマさん……」

「ですから、私は信じます。そして、決して誰にも言いません」

ファルマは真剣な目で誓った。

「ありがとうございます」

俺は心から感謝した。

「ただ一つ、問題が……」

ファルマは俺の腕を見た。

「……闇の力が僅かに漏れました……皮膚を傷つけただけで漏れるのは……危険です……」

「確かに」

ルーシェンも頷いた。

「闇の力を完全に内部に留めるには、皮膚も強化する必要がありますね」

「でも、どうやって?」

「それを考えるのが、研究です」

ルーシェンは目を輝かせた。

こうして、俺たちは夕方まで、闇の力の制御について議論を続けた。


2. エドワードとの再会


夜になり、俺たちは騎士団の詰所へと向かった。

詰所の前では、騎士たちが忙しそうに行き交っている。

「すみません、エドワード・アストン副団長はいますか?」

ルーシェンが尋ねると、騎士は頷いた。

「ええ、先ほど戻られました。今、副団長室で執務をされています」

「ありがとうございます」

俺たちは副団長室へと向かった。

部屋の前で、ルーシェンがノックした。

「入れ」

中から、低い男の声が聞こえた。

ルーシェンがドアを開けると、一緒に入ったファルマを見てエドワードは驚いた表情を見せた。

「久しぶりだなルーシェン。それに……ファルマ!?」

エドワードは椅子から立ち上がった。身長2m近い大きな男だ。眼光も鋭く顔には深い皺と無数の傷が刻まれており、全身も同様なのだろうと容易に想像できた。

「叔父様!」

ファルマは涙を浮かべながら、エドワードに抱きついた。

「ファルマ……どうしてここに……」

エドワードは驚きながらも、ファルマにただ事でない事が起こったことを感じ取ったようだ。

そして、ファルマの背中を優しく叩いた。

「ファルマ……もう大丈夫だ……とにかく無事でよかった……」

その仕草には、まるで父親のような愛情が感じられた。

ファルマが落ち着くまで、エドワードは優しく抱きしめていた。

やがて、ファルマが落ち着くと、エドワードは俺たちに向き直った。

「詳しい話を聞かせてくれ」

俺たちは、副団長室の奥へと案内された。

部屋はそこそこ広く、机や書類棚が並んでいる。

そして、部屋には魔力を込めると防音などの魔法が発動する仕掛けが施されており、極秘の話もできるようになっているとの事だ。

「それで、何があったんだ?」

ファルマは、涙ながらにこれまでの経緯を説明した。

時々言葉に詰まり、止まってしまうこともあったが、エドワードは静かに聞いていた。

レオニス侯爵のこと。

禁断の陶酔薬のこと。

兄のシアンが囚われたこと。

そして、黄金の剣のメンバーが犠牲になったこと。

エドワードの表情は、話を聞くたびに険しくなっていった。

「レオニス侯爵……まさかあの男が……」

エドワードは拳を握りしめた。しかしどこか信じきれていない思いを感じる。

そして、ファルマは懐から一通の手紙を取り出した。

「叔父様、兄が……これを」

「これは?」

「兄が……レオニスの計画を、書いた手紙です」

エドワードは手紙を受け取り、目を通した。

その表情が、徐々に驚愕に変わっていった。

顔色が青ざめ、呼吸が一瞬止まった。

「これは……」

「どうしたんですか?」

俺が聞くと、エドワードは震える声で答えた。

「レオニスは……禁断の陶酔薬で……死を恐れない戦士を作ろうとしている……」

「死を恐れない戦士……」

「そして……」

エドワードは手紙を握りしめた。

「レオニスは……おそらく邪神の使徒になっている」

一同は息を呑んだ。

「邪神の使徒……」

「ああ。この手紙には、レオニスが王国を地獄に変える計画が、簡易的ではあるが書かれている」

エドワードは重々しく言った。

「これは、国家反逆罪どころではない」

エドワードは立ち上がった。

「すぐに動かなければならない。だが……」

「だが?」

「騎士団長に報告しても、彼は私への嫉妬で、いまいち信用できない」

エドワードは苦々しく言った。

「剣の腕でいつも私に負けているからな……」

「では、どうするんですか?」

「宰相に直接報告する。ルーシェン、お前も一緒に来てくれないか?」

「私が?」

「ああ。お前は以前、王都の危機を救った。宰相もお前を信頼している」

「分かりました」

ルーシェンは頷いた。

「では、今から王城に行こう」

「今から?もう夜ですよ?」

俺が驚いて言うと、エドワードは真剣な表情で答えた。

「事が事だ。一刻を争う」

「分かりました」

「ただ、ファルマはともかく君も一緒に来るのは……」

確かに俺だけ立場が不明瞭だな。そんな人間をおいそれと、王城には連れていけないか。

「大丈夫です。榊さんは、私が保証します」

しかしルーシェンが太鼓判を押した。

「……分かった。では、行こう」

俺たちは、王城へと向かった。


3. 漠然とした不安


夜の王都を歩きながら、俺は妙な不安を感じていた。

何か、良くないことが起こりそうな予感。

漠然とした、しかし強い不安。

「……榊さん、大丈夫ですか?」

ファルマが心配そうに聞いてきた。

「ああ、大丈夫……ただ、何か……」

俺は言葉を濁した。

何と説明すればいいのか分からない。

ただ、この不安は、闇の力と関係があるような気がした。

まるで、何か邪悪なものが、この王都に潜んでいるような。

俺は無意識のうちに、その存在を感じ取っていたのかもしれない。

「……榊さん?」

「いや、何でもない。行こう」

俺は首を振って、不安を振り払った。

だが、その不安は消えなかった。

俺たちは、騎士団用の入口から、王城へと入っていった。

そして、宰相のもとへと向かった。

何が待っているのか、俺にはまだ分からなかった。

だが、この不安は、きっと何かを意味している。

俺は、警戒を怠らないようにしよう、と心に誓った。


ムステル王国の騎士団


ムステル王国では常備兵として多数の騎士団が結成・運用されている。

第一騎士団は数こそ最も少ないが精鋭ぞろいで、近衛として王族や重要人物の警護、および王城の守護を担う。

第二騎士団は王都の警備・防衛を担当する。

第三騎士団以降は各地の重要拠点や国境の警備を任され、治安維持と国防の中核を担っている。

第一騎士団以外の騎士団には、下部組織として衛兵が存在し、日常的な警備や補助任務を担当する。

騎士団はすべて王の直轄組織であるが、緊急時においては現場を管轄する貴族の判断が優先される。


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