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第十一話:王都の異変

1. 王都ヴァレリア


「着いたぞ」

飛龍から降り立った俺たちは、王都ヴァレリアの門へと向かった。

ガイウスはそのまま飛龍で帰っていった。最後まで腕組んで立ったままだったな。ああしないと飛龍は操作できないのだろうか。

巨大な城壁が眼前に聳え立ち、その威容に思わず息を呑む。

だが、門に近づくにつれて、妙な雰囲気を感じた。

空気が、どこか張り詰めている。

「止まれ。身分証を提示せよ」

門番の衛兵が、いつもより厳しい口調で声をかけてきた。

「私はルーシェン、魔法使いです」

ルーシェンはいつものように札を見せた。

しかし対応したのは若い衛兵で、どうやら彼のことを知らないらしい。

「ルーシェン? 聞いたことがないな。怪しい」

疑いの目を向けられ、ルーシェンは眉をひそめた。

「怪しいとは失礼な。私はこの王都でも名の知れた魔法使いですよ」

その不機嫌そうな態度が、かえって衛兵の警戒心を煽った。

「態度もでかいな。お前、最近の行方不明者事件に関係してるんじゃないか?」

「行方不明者事件?」

俺は思わず聞き返した。

「ああ。最近、王都で行方不明者が頻発している。

スラムならともかく、一般市民にまで被害が出ている。だから、不審者は徹底的に取り調べることになってる」

「私は不審者ではありません」

ルーシェンはきっぱりと言い切った。

「それを決めるのは俺たちだ。お前、ちょっと詰所まで――」

「おい、待て!」

そこに、年配の衛兵が割って入った。

「その方は、ルーシェン様だ!」

「ルーシェン様?」

若い衛兵は目を見開いた。

「知らないのか? 数年前、王都の危機を救った大魔法使いだぞ!」

ルーシェンそんな事もしていたのか。迷惑をかけていただけじゃないんだな。

年配の衛兵は慌てて頭を下げた。

「失礼しました、ルーシェン様。新人が無礼を……」

「いえ、構いません」

ルーシェンは全く気にしてないようだ。

「それで、行方不明者事件とは?」

「はい。ここ数週間、王都で行方不明者が相次いでいます。

最初はスラムの住人だけでしたが、最近は一般市民にも被害が広がっています」

「貴族には?」

「貴族関係には被害が出ていません。ですから、騎士団も衛兵も本腰を入れているわけではありませんが……それでも、警戒は強化されています」

「なるほど……興味深いですね」

顎に手を当てるルーシェンを見て、俺は思わず呆れた。

人が行方不明になっているというのに、興味深い、とは。

「とにかく、お通りください。何か不審なことがあれば、すぐに騎士団へ報告を」

「分かりました」

俺たちは門をくぐり、王都の中へ足を踏み入れた。


2. 王都の街並み


王都の街並みは、想像以上に美しかった。

石畳の道は綺麗に整備され、建物も整然と並んでいる。

そして、驚くべきことに、ゴミがほとんど落ちていない。

「すごく綺麗ですね」

俺が言うと、ルーシェンが説明した。

「召喚獣のスライムが、定期的に街を掃除しているんです」

「スライム?」

「ええ。汚物やゴミを消化して片付ける召喚獣です。王都では、清掃用のスライムが何百体も放たれています」

「へえ……」

便利な世界だな、と俺は思った。

だが、街の雰囲気は、やはりどこかピリついていた。

人々の表情には不安の色が浮かんでおり、騎士や衛兵の姿が多い。

「ルーシェンさん、普段の王都と比べてどうですか?」

「明らかに異常ですね。騎士や衛兵の数が、通常の二倍はいます」

ルーシェンは冷静に分析した。

「行方不明者事件、相当深刻なのかもしれませんね。

とにかく、エドワードのところに行きましょう」

「……そうですね」

俺たちは先を急いだ。

すると第二騎士団の詰所へと向かう途中でルーシェンの顔見知りの騎士に出会った。

「お久しぶりですルーシェン様。どうされましたか?」

「エドワード・アストン副団長はどちらに?」

ルーシェンが尋ねると、騎士は少し考えてから答えた。

「エドワード副団長は、今は王城に詰めています」

「王城に?」

「ええ。最近は忙しくて、夜にならないと騎士団の詰所や自宅に戻ってきません。下手をすると、一、二日帰らないこともあります」

「それほど忙しいんですか」

「はい。我々は王都の警備を担当してますから、行方不明者事件の対応で、てんてこまいです」

騎士は疲れた表情を見せた。

「分かりました。ありがとうございます」

ルーシェンは騎士に礼を言った。

「では、王城に行きましょう」

「王城に?気軽に言いますけど、入れるんですか?」

「入れますよ。私は宮廷魔術師に何度も誘われていますから」

ルーシェンはあっさりと言った。

俺は呆れた。

この人、本当にすごい人脈を持っているんだな。


3. 王城への道


俺たちは貴族街を抜けて、王城へと向かった。

貴族街の門番は、ルーシェンの顔を見るなり、すぐに門を開けた。

「お久しぶりです、ルーシェン様」

「ええ、久しぶりですね」

ルーシェンは軽く会釈をして、門をくぐった。貴族街も顔パスか。

貴族街は、一般市民の街とは明らかに格が違った。

広大な敷地に豪華な屋敷が建ち並び、庭園も美しく整備されている。

「すごいな……」

「……すごいですね……」

俺とファルマは感嘆の声を上げた。

「これが貴族の暮らしか」

「ええ。まあ、私には関係ありませんが」

ルーシェンは興味なさそうに言った。

やがて、王城の門が見えてきた。

巨大な門には、重装備の衛兵が何人も立っている。

「止まれ。王城への立ち入りは制限されている」

衛兵が厳しい声で言った。

「私はルーシェン、魔法使いです。エドワード・アストン副団長に用があります」

ルーシェンは札を見せた。

衛兵は札を確認し、申し訳なさそうな表情を見せた。

「ルーシェン様ですか。申し訳ありません。ですが、今は行方不明者事件の影響で、王城への出入りが厳しく制限されています」

「そうですか。では、エドワード騎士副団長に伝言をお願いできますか?」

「承知しました。何とお伝えすればよろしいでしょうか?」

「ルーシェンが訪ねてきた、と伝えてください」

「分かりました。伝言いたします」

衛兵は礼をした。更に

「エドワード副団長なら、今日は夜には騎士団の詰所に戻ると思います。そちらで会われてはいかがでしょうか?」

と教えてくれた。

「分かりました。ありがとうございます」

ルーシェンは礼を言った。

俺たちは王城から離れた。

「入れませんでしたね」

「まあ、仕方ありません。では、先に星詠のところに行きましょう」

「……星詠?」

ファルマが不思議そうに聞く。そういえばファルマにはその辺説明してなかったな。

「ええ。彼女が私達を呼んだんですから」

俺たちはファルマに軽く説明しながら星詠の家へと向かった。


4. 星詠の不在


星詠の家は、王都の中心部にある小さな建物だった。

看板には『星詠の館』と書かれている。

ルーシェンがドアをノックしたが、返事がない。

「留守でしょうか?」

もう一度ノックしたが、やはり返事がない。

ドアには、よく見ると小さく張り紙がしてあった。

『二、三日、留守にします。御用の方は後日お越しください』

「呼んでおきながら、留守とは……」

ルーシェンは呆れた様子で言った。

「まあ、星詠も忙しいんでしょう」

俺がとりなすと、ルーシェンは溜息をついた。

「仕方ありませんね。では、夜までの時間、装備を整えましょう」

「装備?」

「ええ。榊さん、あのバランスの悪い銅の剣と旅人の服では、また追手と遭遇したら困るでしょう」

「確かに……」

俺は自分の装備を見下ろした。

銅の剣は不格好で、バランスも悪い。

旅人の服も、防御力はほとんどない。

「では、武器屋に行きましょう」

ルーシェンに先導され、街の中心部へと向かった。


5. 武器と防具


武器屋は、王都の中心部にある大きな店だった。

店内には、様々な武器が並んでいる。

剣、槍、斧、弓。

どれも、見事な造りだ。

「すごい……」

俺は目を輝かせた。

こんなに多くの武器を見るのは初めてだ。

ファルマもキョロキョロと周りを見回している。

「いらっしゃいませ」

店主が出迎えた。

「剣と盾、それに防具をお願いします」

ルーシェンが言った。

「かしこまりました。お客様、どのようなものをお探しですか?」

店主は俺に聞いた。

「えっと……できれば鋼の剣で、軽くて扱いやすいものを」

「承知しました。では、こちらをどうぞ」

店主は何本かの剣を持ってきた。バスタードソードと呼ばれる剣だ。バスタードソードは本来両手剣だが、俺の体格なら片手半で扱える重さだった。

俺はそれを一本ずつ手に取り、振ってみた。

重さ、バランス、握りやすさ。

どれも重要だ。

「これがいいですね」

俺はそれらの中から一本の剣を選んだ。

刀身は鋼製で、鋭く磨かれている。

柄の握り心地も良く、重さもちょうどいい。

「良い選択です。この剣は、当店でも自信作です」

店主は満足そうに言った。

「それと、盾もお願いします」

「盾でしたら、バスタードソードをお使いになるならバックラーがよろしいかと。軽くて機動性が高いですし片手が塞がりません」

店主はバックラーを持ってきた。

小さな円形の盾で、腕に装着するタイプだ。

「これをください」

「ありがとうございます。それと、防具もいかがですか?」

「防具も必要ですね」

ルーシェンが言った。

店主は、皮の鎧を持ってきた。

所々に金属が使われており、軽さと防御力を両立している。

「これは良い品ですね」

ルーシェンが鎧を調べた。

「軽くて動きやすいですし、防御力も十分です」

「では、これをください」

こうして、俺は新しい装備を手に入れた。

鋼の剣、バックラー、皮の鎧。

ただ鎧はサイズの調整のため引渡しは2日後になるようだ。

これなら、また戦闘になっても大丈夫だろう。

「これでまた、研究が捗りますね」

ルーシェンは満足そうに笑った。

俺は、その言葉を聞かないふりをした。サイズの測定だけして店を出る。

「それと、ついでにファルマさんのための調合素材も買いましょう」

ルーシェンは素材店にも立ち寄り、様々な薬草や鉱物を買い込むのだった。


汚食粘獣おしょくねんじゅう


体長1メートルほどもある、緑色のスライム型召喚獣。

術者が「汚物」と認識したものを取り込み、内部で消化する性質を持つ。

移動速度は人が歩く速度の半分ほどと遅いが、清掃用途には十分とされる。

召喚を継続するための魔力消費は多いものの、取り込んだ汚物を魔力へ変換できるため、総合的なコストパフォーマンスは悪くない。

その利便性から人気が高く、ほぼすべての街で召喚者を見ることができる。

一方で、人の死体や違法薬物なども消化可能であり(人の死体の場合、完全消化には一〜二週間を要する)、犯罪に利用される事例も存在する。

そのため卵の管理は極めて厳格で、犯罪利用が発覚した場合、関与者は一括して死刑となるなど、罰則は非常に重い。


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