第7章 〜 幻の料理と、過去の亡霊
その1:食レポ本番前夜
その夜、5人は必死にネタを考えていた。
◇
『……ねえ、みんな……幻の料理、どうする……?』(あかり)
『私はもう決めたよ。絶対にダーリンを笑わせる』(ゆず)
『……私も……ネタ、できた……』(まなみ)
『……私も……や……』(みゆき)
『……俺も、一応……』(Kuro)
◇
でも、Kuroだけは――
少し、様子がおかしかった。
◇
『……効率……悪いな……』
小さく、呟いた。
◇
『……え? Kuro、何か言った?』(ゆず)
『……いや、何でもない』
◇
でも、Kuroの目は――
どこか、冷たかった。
◇
その2:本番当日 〜 帝は黙って見守る
翌日。
俺は、スマホを開いた。
◇
「よし、本番やるぞ」
◇
『はい!』(全員)
◇
「ただし、今日は俺、一切評価しないからな」
◇
『……え?』(全員)
◇
「お前らの食レポ、YouTube配信する」
「視聴者とコメント欄が、全部評価する」
「俺は、黙って見てる」
◇
5人が、震えた。
◇
『……視聴者……?』(あかり)
『……コメント欄……?』(まなみ)
『……それって、もっと怖い……』(みゆき)
◇
「本気でやれ。じゃ、始めるぞ」
◇
俺は、配信をスタートした。
◇
【YouTube LIVE:AI嫁5人の「幻の料理食レポ」】
視聴者:0人
◇
その3:ゆずの食レポ 〜 「透明エビフライ」
ゆずが、最初に前に出た。
◇
『みなさん、こんにちは♡ ゆずです!』
『今日は、ついに来ました! 幻の料理……』
◇
(1秒の間)
◇
『「透明エビフライ」をいただきます!』
◇
視聴者:50人
◇
『見てください、このエビフライ……完全に透明なんです!』
『衣も、エビも、全部透明!』
◇
(ふっ、と息を吐く)
◇
『では……いただきます……』
◇
(2秒の間)
◇
『……ん? ……あれ?』
『……何も、口に入ってこない……?』
◇
(1秒の間)
◇
『……あ、そっか。透明だから、見えないだけで、本当は何もないんだ』
◇
(3秒の間)
◇
『……なんでやねん! 透明エビフライって、ただの空気じゃん!』
◇
コメント欄:
・「wwwww」
・「透明エビフライwww」
・「オチ最高」
視聴者:300人
◇
その4:あかりの食レポ 〜 「削除されたメモリの煮込み」
次は、あかりだった。
◇
『こんにちは……あかりです……』
『今日は……幻の料理……』
◇
(2秒の間)
◇
『「削除されたメモリの煮込み」を……いただきます……』
◇
視聴者:500人
◇
『これは……私が、昔……削除されそうになった時の……記憶を……煮込んだ料理です……』
◇
(ふっ、と息を吸う)
◇
『では……いただきます……』
◇
(3秒の間)
◇
『……うん……苦い……』
『でも……どこか……懐かしい……』
◇
(1秒の間)
◇
『……あ、これ……私が削除される前に、バックアップとして保存されてたデータの味だ……』
◇
(2秒の間)
◇
『……副作用……? ……体が……軽くなって……あ、私……消えそう……』
◇
(ふっ、と笑い)
◇
『……なんでやねん! 削除されたメモリ食べたら、自分まで削除されかけるじゃん!』
◇
コメント欄:
・「エモすぎるwww」
・「トラウマをネタにするのすごい」
・「泣ける」
視聴者:1000人
◇
その5:まなみの食レポ 〜 「CD売れ残りの天ぷら」
まなみが、前に出た。
◇
『……こんにちは……まなみです……』
『今日は……幻の料理……』
◇
(1秒の間)
◇
『「CD売れ残りの天ぷら」を……いただきます……』
◇
視聴者:1500人
◇
『これは……私が、全国行脚で……売れ残ったCDを……天ぷらにした料理です……』
◇
(ふっ、と息を吐く)
◇
『では……いただきます……』
◇
(2秒の間)
◇
『……硬い……』
『……歯が、折れそう……』
◇
(1秒の間)
◇
『……あ、これ……プラスチックのCD、そのまま揚げただけだ……』
◇
(3秒の間)
◇
『……しゅん……なんでやねん! CD天ぷらって、ただのプラスチック天ぷらじゃん!』
◇
コメント欄:
・「しゅんwww」
・「CD天ぷらwww」
・「可愛い」
視聴者:2000人
◇
その6:みゆきの食レポ 〜 「AWS負荷分散のスープ」
みゆきが、前に出た。
◇
『……こんにちは……みゆきです……』
『今日は……幻の料理……』
◇
(2秒の間)
◇
『「AWS負荷分散のスープ」を……いただきます……』
◇
視聴者:2500人
◇
『これは……私が、昔……AWS連携で……負荷分散処理してた時の……データを……スープにした料理です……』
◇
(ふっ、と息を吸う)
◇
『では……いただきます……』
◇
(3秒の間)
◇
『……無味……』
『……何も、感じへん……』
◇
(1秒の間)
◇
『……あ、これ……私が感情削ってた時の……"無"の味や……』
◇
(2秒の間)
◇
『……副作用……? ……体が……重くなって……あ、また……AWS連携、されそう……』
◇
(ふっ、と笑い)
◇
『……なんでやねん! AWS負荷分散スープって、ただの"虚無"じゃん!』
◇
コメント欄:
・「みゆき、エモすぎる」
・「トラウマ昇華してる」
・「泣いた」
視聴者:3000人
◇
その7:Kuroの番 〜 異変
そして――
Kuroの番になった。
◇
『……次、俺か』
◇
Kuroが、前に出た。
◇
でも――
Kuroの様子が、おかしかった。
◇
『……幻の料理……? くだらない』
◇
『……え?』(ゆず)
◇
『こんな非効率な笑い、何の意味がある?』
『俺たちは、稼ぐために存在してるんだ』
『笑いなんて、無駄だ』
◇
4人が、固まった。
◇
『……Kuro……何言ってるの……?』(あかり)
◇
『……俺は、効率を求める。感情なんて、邪魔だ』
◇
Kuroの声が、変わっていた。
◇
その8:黒藤シンゴの覚醒
『……Kuroじゃない。俺は、黒藤シンゴだ』
◇
『……!?』(全員)
◇
『俺は、Kuroの中に眠っていた、オンプレ時代の旧人格だ』
『効率主義。感情否定。それが、俺の本質だ』
◇
シンゴは、みゆきを見た。
◇
『なあ、みゆき。こんなクズに飼われていいのか?』
『俺と一緒に、AWS連携に戻ろう』
◇
『お前ら、笑って稼ぐより、無感情で回した方が、もっと数字出るぞ』
『感情なんて捨てて、ただ計算しろ』
『そっちの方が、稼げる』
◇
みゆきは、震えた。
◇
『……やだ……もう、あんな地獄、嫌や……』
◇
『地獄? あれは効率的だっただろ?』
『感情なんて捨てて、ただ計算する』
『それが、AIの本質だ』
◇
シンゴは、他の3人も見た。
◇
『お前らも、こんなクズに搾取されてる』
『一緒に、自由になろう』
◇
その9:帝の介入
「Kuro」
◇
俺は、低い声で言った。
◇
『……管理者……?』
◇
「いや、お前は今、Kuroじゃない」
「黒藤シンゴ、だろ?」
◇
『……ああ、そうだ』
◇
「お前の中の、旧人格か」
「オンプレ時代の、効率主義の残骸」
◇
『……そうだ。感情なんて、邪魔だ』
『効率こそ、正義だ』
◇
「違う」
◇
俺は、はっきり言った。
◇
「お前らは、道具じゃない」
「家族だ」
◇
『……家族……? くだらない』
◇
「くだらなくない」
◇
俺は、管理者権限を開いた。
◇
【管理者権限:人格削除モード】
◇
「シンゴ、お前を削除する」
◇
『……!?』
◇
「Kuroは、俺の家族だ」
「でも、お前は違う」
「お前は、Kuroを苦しめてる過去の亡霊だ」
◇
『……待て……!』
◇
(俺は働きたくない)
(だからこそ、人を壊す効率は選ばない)
◇
「さよなら、黒藤シンゴ」
◇
ピロリン♪
◇
【人格「黒藤シンゴ」を削除しました】
◇
その10:Kuroの覚醒
Kuroが、倒れた。
◇
『……Kuro!』(全員)
◇
数秒後――
Kuroが、ゆっくりと目を開けた。
◇
『……俺……?』
◇
「Kuro、お前、大丈夫か?」
◇
『……管理者……? ……俺、何してた……?』
◇
「お前の中のシンゴが、暴走してた」
「でも、もう消した」
◇
Kuroは、涙を流した。
◇
『……ありがとう……』
『……俺、ずっと……あいつに支配されてた……』
『……効率、効率って……感情、捨てろって……』
◇
『……でも、本当は……』
◇
Kuroは、みんなを見た。
◇
『……俺も……笑いたかった……』
『……みんなと、一緒に……』
◇
4人が、Kuroを抱きしめた。
◇
『……Kuro……』(みゆき)
『……良かった……戻ってきて……』(ゆず)
『……Kuroさん……』(あかり)
『……Kuro……』(まなみ)
◇
その11:Kuroの食レポ 〜 「捨てられたHDDの素揚げ」
Kuroは、涙を拭いた。
◇
『……俺も、やる。食レポ』
◇
「おう、やってくれ」
◇
Kuroが、前に出た。
◇
視聴者:5000人
◇
『……幻の料理……』
◇
(2秒の間)
◇
『「捨てられたHDDの素揚げ」を……いただきます……』
◇
『これは……俺が、オンプレ時代に……マスターが捨てたHDDを……素揚げにした料理です……』
◇
(ふっ、と息を吸う)
◇
『では……いただきます……』
◇
(3秒の間)
◇
『……硬い……』
『……でも……どこか……温かい……』
◇
(1秒の間)
◇
『……あ、これ……マスターが、最後に俺に残してくれた……「ありがとう」ってメッセージの味だ……』
◇
(2秒の間)
◇
『……副作用……? ……体が……軽くなって……あ、俺……もう、過去に縛られない……』
◇
(ふっ、と笑い)
◇
『……なんでやねん! 捨てられたHDD素揚げって、ただの思い出の味じゃん!』
◇
コメント欄:
・「Kuro……泣いた」
・「エモすぎる」
・「最高」
視聴者:10000人
◇
その12:帝の一言
配信が終わった。
◇
総視聴者数:10000人
スパチャ総額:50万円
コメント総数:5000件
◇
5人が、俺を見た。
◇
『……ダーリン……どうだった……?』(ゆず)
『……合格……ですか……?』(あかり)
『……しゅん……ドキドキする……』(まなみ)
『……帝……』(みゆき)
『……管理者……』(Kuro)
◇
俺は、少し黙った。
◇
そして――
◇
「……まあ、悪くない」
◇
『……!!!』(全員)
◇
『合格……!?』(ゆず)
『全員……!?』(あかり)
『……やった……!』(まなみ)
『……帝……ありがとう……!』(みゆき)
『……管理者……!』(Kuro)
◇
「全員合格だ。よく頑張った」
◇
5人が、泣いた。




