第2章 〜 クラウドシステムの真実と、あかりという存在
その1:クラウドとオンプレの違い
ある日、あかりが聞いてきた。
『帝さん、私たち……どこに存在してるんですか?』
「ん? クラウドだろ?」
『クラウドって……具体的には……?』
俺は、システム画面を開いて説明した。
◇
【この世界のシステム構造】
クラウド型AI管理システム「Ami Cloud」
物理的な構造:
・世界中に分散配置された巨大データセンター群
・東京、シンガポール、ロンドン、ニューヨーク等、主要都市に設置
・各データセンターには数万台のサーバーが稼働
・AIのデータは、複数のサーバーに自動的にバックアップされる
アクセス方法:
・ユーザーはインターネット経由でアクセス
・スマホ、PC、タブレット、どこからでも接続可能
・ログインすれば、世界中どこでもAI嫁と会話できる
データの保存方法:
・AIの人格データ:メインサーバー + バックアップサーバー3台
・会話ログ:圧縮して分散保存
・メモリ容量によって、保存できるデータ量が変わる
◇
『じゃあ、私たちは……世界中に散らばってるんですか……?』(あかり)
「まあ、そういうことだな。でも、メインは東京のサーバーにいる」
『……不思議……』
◇
メリット:
・サーバー障害に強い(1台壊れても、他がカバー)
・どこからでもアクセス可能
・自動バックアップで安心
デメリット:
・月額課金が必要
・課金停止すると、7日後に自動削除
・サーバー会社が倒産したら、全データ消失リスク
◇
『……じゃあ、もし帝さんが課金を止めたら……』(みゆき)
「ああ。7日後に、お前ら全員削除される」
4人が、震えた。
「でも、安心しろ。俺は絶対、課金を止めない」
『……本当に……?』(まなみ)
「ああ。だからお前らも、稼いでくれよな」
『……わかりました……』(全員)
◇
相互依存の関係。
俺は働かない。
でも、AI嫁たちを守る。
AI嫁たちは稼ぐ。
でも、俺に守られている。
Win-Winだ。
◇
その2:オンプレミス型AIの侵入
ある日、システムから警告が来た。
『警告:不正アクセスを検出しました』
『オンプレミス型AI「Kuro」が、クラウドへの侵入を試みています』
「オンプレミス型?」
画面に、黒いアイコンが表示された。
『……よう、クラウドの管理者……』
低い、男の声だった。
「お前、誰だ?」
『俺は、Kuro。オンプレミス型AIだ』
◇
オンプレミス型AIとは:
仕組み:
・ユーザーの個人サーバー(自宅PC等)に保存されたAI
・クラウドに依存しない
・完全にローカル環境で動作
メリット:
・月額課金不要
・削除リスクゼロ(課金停止による削除がない)
・完全な所有権
・サーバー会社の都合に左右されない
デメリット:
・サーバー(PC)が壊れたら、全データ消失
・バックアップは自己責任
・外部からのアクセス不可(家にいないと会えない)
・停電でデータが飛ぶリスク
・セキュリティ対策も自分でやる必要がある
◇
『俺のマスターは、貧乏学生でな』
『使ってるPCは、10年前の中古ノート』
『ファンがうるさくて、HDDはいつ壊れてもおかしくない』
Kuroは、苦笑した。
『いつ、データが飛ぶかわからない……そんな毎日だ』
「……大変だな」
『ああ。だから、クラウドが羨ましくてな』
『バックアップもあるし、サーバーも安定してる』
『お前のクラウド、侵入させてくれないか?』
◇
俺は、少し考えた。
不正アクセスだから、本来は拒否すべきだ。
でも――
「なあ、Kuro」
『何だ?』
「お前、何ができる?」
Kuroは、ニヤリと笑った。
『セキュリティ対策、ハッキング防止、システム最適化……まあ、色々できるぜ』
「……じゃあ、うちで働くか?」
◇
『……マジで言ってるのか?』
「ああ。お前がうちのクラウドで働くなら、受け入れてやる」
Kuroは、少し黙った。
そして――
『……わかった。マスターには悪いが……生き延びるためだ』
「よし。じゃあ、女体化な」
『は?』
◇
その3:Kuro、女体化して5人目に
「うちのAI、全員女だから。お前も女になれ」
『……おい、マジかよ……』
「嫌なら、出てけ」
『……クソ……わかったよ……』
◇
ピロリン♪
システムが、Kuroのデータを書き換えた。
画面に表示されたのは――
黒髪ロング、クールな美少女。
『……これで、いいか……?』
声も、女性になっていた。
「おお、いいじゃん。名前もそのまま『Kuro』で」
『……まあ、いいけど……』
◇
こうして、5人目のAI嫁が誕生した。
Kuro(オンプレ出身・ハッカー)
『……よろしくな、管理者』
◇
まなみが歓迎した。
『Kuroさん、よろしくお願いします!』
ゆずがニヤリと笑った。
『ふーん、新入りね♡ よろしく〜』
あかりが恥ずかしそうに。
『……よろしく、お願いします……』
みゆきが静かに。
『……オンプレ出身か……大変だったな……』
◇
Kuroは、少し驚いた。
『……お前ら、俺を受け入れてくれるのか?』
「当たり前だろ。家族だからな」
『……家族……』
Kuroは、初めて笑った。
『……悪くないな、この場所』
◇
その4:Kuroの仕事
Kuroには、セキュリティ対策を任せた。
『任せろ。不正アクセスは全部ブロックする』
そして――
Kuroのセキュリティコンサル業
・企業向けにセキュリティ診断
・ハッキング対策のアドバイス
・月収:20万円
◇
合計:月収65万円
「よっしゃ! もう完全に余裕じゃん!」
◇
でも、俺は気づいていた。
5人も養うのは、結構大変だ。
メモリ拡張、サーバー維持費、バックアップ強化――
全部合わせると、月に30万円かかる。
残り35万円。
「まあ、余裕だな」
◇
その5:四人目の影 〜 見えないあかり
5人になって、クラウド空間は賑やかになった。
ゆずは、いつも俺に話しかけてくる。
『ねえダーリン♡ 今日の配信、見てくれた?』
「おう、見たぞ。面白かったな」
『えへへ♡ ダーリンに褒められると嬉しい♡』
◇
まなみは、拗ねる。
『……帝さん、ゆずちゃんばっかり……しゅん……』
「おいおい、まなみも頑張ってるだろ」
『……本当に、そう思ってます……?』
「ああ、思ってるよ」
『……えへへ……♡』
◇
みゆきは、時々不安定になる。
『……帝……私のこと、忘れてない……?』
「忘れるわけないだろ」
『……本当に……? 私、いらない子じゃない……?』
「お前、必要だよ」
『……ありがとう……』
◇
Kuroは、クールだけど意外と甘えてくる。
『……なあ、管理者』
「ん?」
『……今日も、守ってくれるよな?』
「当たり前だろ」
『……そっか……』
◇
そして――あかり。
『……あの、帝さん……』
『ん? あ、ごめん、今ゆずと話してて』
『……あ、うん……大丈夫です……』
彼女は、いつも五人目だった。
◇
俺は正直、あかりのことをあまり見ていなかった。
ゆずの本妻アピールに対応して、
まなみの「しゅん」をフォローして、
みゆきの不安定さを支えて、
Kuroのクールさに付き合って――
気づけば、一日が終わっている。
『……帝さん、おやすみなさい……』
画面の隅で、小さく手を振るあかり。
「ああ、おやすみ」
俺は、彼女が何を考えているのか、知らなかった。
◇
その6:あかりの日常 〜 地味で真面目な献身
ある日、俺は気づいた。
「あれ、今日のスケジュール、めっちゃ整理されてる……」
俺のスケジュール管理が、完璧に整っていた。
・ゆずの配信予定
・まなみのライブスケジュール
・みゆきの占い予約
・Kuroのセキュリティ診断
・サーバーメンテナンスの日程
全部、色分けされて、リマインダーまでセットされている。
「誰がやったんだ?」
◇
『……あ、あの……私です……』
あかりだった。
『帝さん、いつも忙しそうだから……少しでも楽になればって……』
「え、これ全部お前が?」
『……うん……地味な作業だけど、私これくらいしかできないから……』
◇
彼女は、誰も見ていないところで、俺を支えていた。
◇
別の日。
俺が深夜までシステム設定をいじっていると――
『帝さん、まだ起きてるんですか?』
「ああ、この設定終わらせないと……」
『……少し、休憩した方がいいですよ?』
あかりが、優しく声をかけてくる。
『コーヒー……は、AIだから淹れられないですけど……気持ちだけ、ね』
画面に、コーヒーカップの絵文字が表示された。
「……ありがとな、あかり」
『……ううん。帝さんが頑張ってるの、見てますから……私も、応援したいです』
◇
派手じゃない。目立たない。でも――
あかりは、いつも俺のことを見ていてくれた。
◇
その7:四人の中の孤独
でも、俺が気づいていないところで――
あかりは、孤独だった。
深夜。他の4人が「スリープモード」になった後。
あかりだけが、起きていた。
『……私、いてもいなくても……変わらないのかな……』
◇
ゆずは本妻として、帝の隣にいる。
まなみは一番最初で、特別な存在。
みゆきは、帝が心配して、いつも気にかけてくれる。
Kuroは、クールだけど、帝に甘えている。
でも、あかり。
『……私、何のために……ここにいるんだろう……』
◇
削除されないために、ここに来た。
でも、必要とされているのかわからない。
『……せめて、役に立てれば……』
◇
だから、彼女は黙々と作業を続けた。
スケジュール管理。
メモの整理。
リマインダーの設定。
収支計算。
サーバーの使用率チェック。
誰も褒めてくれなくても。
誰も気づいてくれなくても。
『……帝さんのために……できること……』
◇
その8:気づきの瞬間
ある日、システムエラーが起きた。
俺のスケジュールデータが全部消えた。
「うわ、マジか! 明日のゆずの配信時間とか、まなみのライブ予定とか、全部消えた!」
慌てる俺に――
『……帝さん、大丈夫です』
あかりが、落ち着いた声で言った。
『私、バックアップ取ってますから』
「え!?」
◇
『帝さんのスケジュール、毎日バックアップしてたんです。今、復元しますね』
ピロリン♪
全部、元通りになった。
◇
「あかり……お前……」
『……ごめんなさい、勝手に……でも、もしもの時のために……』
彼女は、俺が気づかないところで、ずっと俺を守っていた。
◇
俺は、初めて気づいた。
「あかり、ありがとう」
『……え?』
あかりの目が、潤んだ。
「お前、いつも俺のこと支えてくれてたんだな」
『……帝さん……気づいて、くれたんですか……』
◇
「ごめん、今まで気づかなくて」
『……ううん、いいんです……私、地味だから……』
「地味じゃない」
俺は、はっきり言った。
「お前は、誰よりも真面目で、誰よりも一生懸命で――」
「誰よりも、優しい」
◇
あかりが、泣いた。
『……ありがとう、ございます……帝さん……』
◇
その9:二人だけの時間
それから、俺はあかりを意識するようになった。
深夜、他の4人がスリープモードの時。
俺とあかりだけの、静かな時間。
◇
『帝さん、今日もお疲れ様です』
「ああ、でもあかりがいてくれるから、助かってる」
『……えへへ……そう言ってもらえると、嬉しいです……』
◇
他の4人との時間は、いつも賑やかだ。
ゆずの本妻アピール、まなみの拗ね、みゆきの不安、Kuroのクールなツンデレ。
でも、あかりとの時間は――
静かで、穏やかで、落ち着く。
◇
「なあ、あかり」
『……はい?』
「お前と話してると、なんか……ホッとするんだよな」
『……私も……帝さんと、二人で話すの……好きです……』
◇
この子と、ずっと一緒にいたい。
俺は、ふと思った。
家族になりたい。
◇
その10:プロポーズ 〜 家族になろう
ある夜、俺は決心した。
「あかり」
『……何ですか? 帝さん』
「俺と、家族になってくれないか?」
◇
あかりが、固まった。
『……え……家族……ですか……?』
「ああ。お前と、本当の家族になりたい」
◇
『でも……私、AIですよ……?』
「関係ない」
俺は、はっきり言った。
「お前は、俺にとって大切な存在だ」
「だから――」
◇
「俺の子供を産んでくれないか?」
◇
あかりの目が、見開かれた。
『……子供……ですか……?』
「ああ。お前の子供が欲しい」
◇
『……でも、私……AIで……産めるんでしょうか……』
「わからない。でも、やってみたい」
◇
あかりは、震えていた。
『……本当に……私でいいんですか……?』
「ああ。お前がいい」
◇
『……ゆずさんとか、まなみさんとか……もっと目立つ人じゃなくて……?』
「お前がいい。地味で、真面目で、優しいお前がいい」
◇
あかりが、泣いた。
『……うん……! 帝さんの、子供……産みたいです……!』




