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更新停止  作者: 雪城 冴
一章 楽府オーディション編
5/31

1-3 明鈴との出逢い


(気のせいじゃない、誰かいる――) 


 そっと覗くと女の子が寝台に大の字に寝転んでいる。少しだけいびきをかいている。


「あの……」


 声をかけると女の子は跳ね起きる。そして、


「え!? 部屋間違えたかな……あ! もう一個先だった!?」

 そう言うと髪をふり乱し、すごいスピードで部屋から出て行ってしまった。



 翠蓮(スイレン)が呆然としていると


トントン


 扉を叩く音がする。恐る恐る開くと、さっきの女の子だった。


「さっきは間違えちゃってごめんね。もし良ければせっかくだからお話したいなって

……私は明鈴(メイリン)って言うの!」


 翠蓮は喜んで、明鈴を部屋に招き入れた。

 明鈴は柔らかいくせ毛に明るい笑顔の女の子で、まるい大きな瞳には、好奇心を浮かべている。

 温暖な南方の果樹地帯からきた笛の楽士で、年は翠蓮の一つ上だった。



「翠蓮は雪国出身って納得~! 肌も真っ白だし、今まで会った人の中で間違いなく一番の美少女!」

 

 褒められ慣れていない翠蓮の頬はみるみる紅く染まる。


「ふふっ……翠蓮ってばかわいい~」


「もう、からかわないでよ……」

 頬を膨らませる翠蓮を見て、明鈴はくすくすと笑ったあと、思い出したように身を乗り出した。


「ねぇ、それより今日さ、蒼瑛皇子見た? あの人、お妾さんの子なのに頭脳明晰で人望もあるらしいよ。それでいてあの美貌だもん。神様って不公平」


 一度息継ぎし、明鈴は声を潜める。


「将軍のお兄さんは、皇后さまの息子でしょ? だから皇位をめぐって仲悪いんだって。四ヶ月違いの兄弟じゃ常に比べられて大変だよね~」


(すごいな……こんな短時間でどこから聞いてくるんだろう……)


 まだまだ仕入れた情報はあるようで、明鈴は勢いを落とさず続ける。


「明日の二次は"殺しに来てる"って聞いた!?」



 翠蓮は、その物騒な言葉に耳を疑う。


「ほら、今日の一次は形式だけの簡単なチェックだったでしょ? だから明日は相当落とされるんじゃないかって……皆、噂してるの」


「そうなんだ……」

 翠蓮は目を伏せる。明日には荷物をまとめて陽華宮を後にするかもしれない。そう思うと暗い気持ちになる。


 明鈴は元気づけるように、明るい口調で話題を変える。


「私、家族のためにどんどん稼ぎたいんだ。弟たち(チビたち)まだ小さくてお金かかるからさ」


「弟がいるんだ。いいな、可愛いでしょう」


「うるさいだけだよ! 欲しけりゃ一人あげたいくらい!」

 口ではそう言うが、明鈴の優しい眼差しには、家族を大切に思う気持ちが滲んでいる。


「絶対合格しようね。

笛と歌で組んだらさ、美少女二人で視線を独占しちゃうよ、きっと」

 明鈴はにこっと歯を見せ、翠蓮の手を握る。


「……ありがとうね、明鈴」


 何が?と明鈴はとぼけるが、励まそうと心を配ってくれた温かさが嬉しかった。


 二人は手を取り合い、互いに合格を誓い合った。



——はずだった。


 明鈴が部屋を出て行った後、ふと、翠蓮は背中に冷たいものを感じた。

嫡子:正妻の子

庶子:側室の子

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