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3-3 太常寺への提案

◇ ◆


 その数日後の書庫にて。


「翠蓮お疲れ~、なんか色々大変だったんだってぇ?」

 明鈴がお昼の雑穀粥を口に運びながら言う。前回皆で一生懸命掃除した書庫は、いつの間にか四人の秘密基地のようになっていた。 人があまり来ないので、聞かれたくない話をするのにうってつけだった。



「うん、でも絢麗(ケンレイ)のおかげで無事歌えたよ!」



 笑顔で答える翠蓮とは逆に、太凱は怒った顔だ。飲んでいた茶碗をコンっと音を立てて机に置く。


「やっぱり紅綿がやったんだろ?だからあの時早く言えっ……いででで……」


 明鈴に足を思い切り踏まれて、太凱は続きは言えなかった。


「うん、太凱の言う通りだよね。私、意地悪されてるって認めるのが怖くて……皆に話すのが遅くなっちゃってごめんね。」


 落ち込んだように言う翠蓮を見て、太凱は少し赤くなりながら目をそらす。


「いや、わかればいいんだ、わかれば……いでっ」


 今度は絢麗に脇腹をつねられたようだ。絢麗は思い切り太凱を睨みつけた後に、すぐ優しい顔に戻って翠蓮に声をかける。



「翠蓮が謝ることはないわ。孤立させて被害者に、自分が悪いかもって思わせるのが、ああいう人たちのやり方なんだから。それにしても……」


 眉間に皺をよせると絢麗は腹立たしそうに続ける。


「紫雲と春麗にお咎めがないのは納得いかないわね」



「うーん、でも紫雲さんは特に……」


「あら、そうなの?てっきり私は……」


 絢麗は青龍庭で見た光景を思い出す。" 確かな筋から聞いた "そういって怪しげに微笑んでいたのは、確かに紫雲だったはずだ。



「そういえば、そろそろ集議の時間じゃない?」

 明鈴の言葉に、翠蓮は慌てて残りをお茶で流し込む。稽古場へ走るとギリギリ間に合ったようだ。


◇ ◆

 蒼瑛は前に立つと険しい表情で話し始めた。


「今回、皆の知ることとなったと思うが、先の饗宴で、衣装が意図的に破損される事件があった」


 春麗と紫雲を視界の端に入れつつ言葉をつづける。

 


「犯人は既に挙がっている。皆は自身の腕を磨き、決して人を貶そうなどとは思わないでくれ」


 春麗は分かりやすく俯いているが、紫雲は蒼瑛をまっすぐ見つめている。



 蒼瑛は、紫雲の挑発的な目を見て、ふと別の報告を思い出した。


――凌暁(リョウギョウ)の追加報告だ。

 「いくら洗っても、紫雲と内部調査院との関係性が見えてこない」というものだった。

 それでは一体、何処から翠蓮の情報が漏れたのか。

 そもそも翠蓮は、内部調査院の身元調査をクリアして入府している。

 例え炎辰たちが不正な経路で情報を得たとしても、これ以上の問題は起きないはずだ。

 それなのに――




 不安を拭えないまま、蒼瑛は楽府員に向けて言葉を続けた。



「今後、楽府の規律を乱し人を傷つける者がいれば、容赦なく厳罰に処す。心してくれ」


 普段はにこやかな蒼瑛の厳しい言葉に場は張り詰めている。

 蒼瑛は、ふっと声色を変えた。


「私からは以上だ。この後は趙霖先生から今後の活動について話をしてもらう。」





 蒼瑛から橋渡しされ、趙霖は口を開く。

「今後、皆で意見を出し合って活動していきたいのだ。なにかやってみたいことはあるか?」


 趙霖の言葉に皆戸惑う。こう言った場で初めに意見を言うのは、なかなか勇気がいることだ。


 堅い空気を察し、蒼瑛が声をかける。


「ここでの発言が評価や今後に影響することはない。安心して話してくれ」



 一人が手を挙げる。

「高官や貴族の皆様に、私達が音楽会を主催して聴いていただくのはどうでしょうか」


「いい提案だな」

 蒼瑛は頷く。そして楽府員の意見をどれも否定しなかった。その様子に場の空気が緩み、少しずつ意見が出るようになって来る。


 翠蓮も手を挙げると口を開く。


「子どもたちや、普段機会がない方たちに、楽器に触れていただくのはどうでしょうか……」


 控えめではあるがしっかりした声だ。

 場の空気がざわつく。中には眉をひそめる者も居た。名家出身が多いこの楽府では、翠蓮の意見はすぐに受け入れられるものではないようだ。



「ふむ……」

 趙霖は翠蓮の意見に考えるように手を顎へ当てる。その顔には興味の色が浮かんでいる。



 明鈴も賛成意見を述べる。


「賛成です! 琵琶や琴なんて、庶民はめったに見る機会がありません。楽府の活動を理解してもらう良い機会になると思います!」

 

 明鈴の言う通り、琵琶や琴は本体が高価な上に、弦の張り替え等維持費がかかる。美しい楽器の調べは権力者に許された特権だ。



「それは面白いな。太常(たいじょう)に話をしてみよう」 

 身を乗り出して意気込む蒼瑛の横で、陳偉は微妙な表情を見せていた。



 太常は音楽だけでなく、儀式や礼儀を取り仕切る楽府の上位機関だ。

伝統と礼を重んじるあまり、新しいことには強く反対する。


 陳偉はそのやりとりを想像すると今から頭痛がしてくるのか、眉間にしわを寄せていた。



◇ ◆

 解散の言葉で楽府員が散っていく中、翠蓮は蒼瑛に声をかけられる。


「頼みたいことがあるんだ、この後書斎に寄ってくれないか」


 その口調から、あまりいい話ではなさそうだなと翠蓮は察していた――



二重管理が大変になってきたため、しばらくアルファポリス様で更新いたします。

時期は未定ですが、書き溜まりましたら、こちらにも掲載予定です。


いつもお読みいただきましてありがとうございます。

よいお年をお迎えください。



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