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更新停止  作者: 雪城 冴
二章 歌姫の競演編
25/31

2-11 雪の記憶


――十年前


「蒼瑛、明日から地方視察だが……公務以外になにかやりたいことはあるのか?」


 皇帝の問いかけに、蒼瑛は身を乗り出して答えた。


「僕は友達を作ってみたいです!」


「友達……か。」

 皇帝は香炉の薄く立ち昇る煙を見ると、目を細めた。その顔は少し悲しそうに見える。



「陳偉、明日から蒼瑛を頼む。普段窮屈な思いをしてる分、多少は好きにさせてやってくれ」


「御意にございます」


「蒼瑛、身に気をつけるのだぞ」


「はい、父上!」


 広く世を見てほしい。そんな皇帝の願いから、蒼瑛は北雪郷に旅立った。



 この時期は落ち着いているが、吹雪の日も多い雪深い地であった。

 蒼瑛は真っ白な銀世界に驚いた。どこまで行っても雪ばかりで、踏みしめた時のきゅ、という感覚が新鮮だ。



 『友達を作りたい』そう思っていた蒼瑛は、公式な挨拶は手短に、村の広場に走った。もう夕暮れが近づいていたが、まだ何人か、村の男の子たちが遊んでいる。



 普段、蒼瑛の周りの子どもと言えば皇子たちくらいだった。


(遊んでもらえるかな……)  

 蒼瑛は自分が受け入れてもらえるかどうか緊張していた。



「あの……一緒に遊んでもいい?」


「……誰? どこからきたの?」

 男の子達は、この辺では見かけない顔の蒼瑛を不思議そうに見る。


「蒼瑛って言うんだ! 帝都から来た!」


「いいよ、鬼ごっこしようぜ!」


 仲間に入れてもらえたことが嬉しく、短い間だったが、思い切り遊んだ。


「もう走れないー!」

 蒼瑛はボスンと雪に寝転ぶ。冷たくて気持ちがいい。


「ははっ! 蒼瑛、足速いじゃん!」

 こんなに駆け回ったのは初めてだった。



「また明日遊ぼうな!」

 あっという間に日が沈み、蒼瑛は名残惜しくいつまでも手を振った。


 人生で初めて出来た『友達』。その言葉は、蒼瑛の心を経験したことのない気持ちにさせた。明日また会えると思うと、興奮から眠れぬ程だった。




 朝起きると、まだわくわくした気持ちが残っていた。息を切らし走って広場に行くと、昨日とは空気が変わっていた。皆が遠巻きに蒼瑛を見ている。


「……どうしたの?」


「蒼瑛……殿()()……と遊んだら駄目だって。怪我させたら大変だからって……」



 蒼瑛は「友達がほしい」と言った時の、父の悲しそうな顔を思い出した。




 肩を落とし一人雪道を歩く。やるせない気持ちになった。


「宮廷では兄上や周りの大人は僕のこと"妾の子"って馬鹿にするくせに……ここでは"殿下"か」


 悲しかった。身分でばかり判断される。誰も自分を見てくれない。

 来た時には眩しく輝いて見えた雪。今では、自分を冷たく閉じこめる檻に感じる。


「雪しかない……こんなところ嫌いだ……」


 その時、雪林の奥の方から歌が聞こえてきた。


「きれいな声……」


 引き寄せられるように歩いていくと、小さな女の子がいた。白い息を吐いて、寒さに頬を赤くしながら歌っている。


(子守唄……?)


 もっと聴きたいと思ったと同時に、女の子は蒼瑛に気がついた。歌うのを止めて興味深そうに近づいてくる。


「なにしてるの?」


「遊ぼうと思って……」


「ふーん? 雪だるまつくる?」


「うん……」


 年下の女の子なんて……と思っていたが、一緒に遊ぶと意外と楽しかった。



「雪だるまって、丸くするの難しいなー……」

 蒼瑛は顔をしかめながら雪玉を転がす。


「ふふっ……こっちのが大きいから、わたしの勝ち!」


 くったくなく笑う顔が可愛くて嬉しくて、妹ができた気分だった。ずっと雪を触っていたせいで手がしもやけになっていたが、蒼瑛は気にならなかった。

 女の子は手を止め、思い出したように言う。


「ねぇ、名まえ なんていうの?」



 蒼瑛は名乗ることをためらったが、嘘をつくことも出来ない。


「ん……ソウエイ」


「ソウエイ……」


 蒼瑛は木をとると、雪に漢字を書く。


(あお)いに(えい)だよ。瑛は美しい(たま)って意味」


 説明してあげると、女の子はじっと蒼瑛の目を見つめる。

「な……なに?」


「蒼い、きれいな目の色だもんね。ソウエイ……蒼瑛! おぼえたよ!」


 名前を褒められるとちょっと照れくさいけど、悪い気はしなかった。


「ねぇ、蒼瑛は明日もここ来る? またあそぼうよ!」

 蒼瑛はその言葉に、朝の悲しみがよみがえる。


(どうせこの子も、明日になったら僕と遊んでくれないんだろうな……)


 二度と会わないかもしれない。そう思い女の子の名前は聞かずに別れた。一人になると楽しかった気持ちは沈み、手の冷たさが痺れるようだった。




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