2-1 二重唱
「んん゛~あたまいたい……」
朝餉の時間。
頭を押さえながら隣に座っているのは明鈴だ。
翠蓮は困ったような顔をしている。
「生姜粥もらってきたよ。ね、食べられる?」
明鈴は目を潤ませる。
「翠蓮……本当に優しいのね……」
「優しいとかじゃなくて……太凱も大丈夫だったかな」
噂をすれば。
ちょうど食堂に着いた太凱が、翠蓮たちの前に腰を下ろす。
こちらも明鈴と似たり寄ったりの様子だ。
「ごめん、俺昨日あんまり……覚えてなくて」
覚えてないと言う割に、なぜか気まずそうな太凱。特に翠蓮と目を合わせようとしない。
「太凱吐きそうだったけど、ぎりぎり持ちこたえてたよ。
だけど、蒼瑛さまには後でお礼したほうがいいかも」
太凱は怯えた様に翠蓮を見る。
「うわ……怒ってた?」
「ううん、太凱のこと介抱してくれたよ」
翠蓮は「太凱を膝枕をしたい」と、なぜか怒っていた蒼瑛を思い出していた。
故郷が恋しくなってしまった翠蓮に、蒼瑛は何も聞かず側に居てくれた。
その優しさを思い出すと、ありがたいやら情けないやらで、泣き出したい気持ちになる。
(蒼瑛さまは、人に弱みを見せることってあるのかな?)
想像しようとして、やめた。
(あるとしても……それを私が見ることなんてない)
胸が痛むのは、自分ばかり助けてもらっているという申し訳なさから来るのだろうか。
「蒼瑛さまって落ち着いてらして……太凱と同い年なんて思えないよねぇ」
「一言余計だ!」と言い返す太凱を、翠蓮はじっと見る。
(同い年か……そう見える時もあるんだけどな)
◇ ◆
「絢麗、翠蓮。」
稽古場で、正楽師の香蘭に呼ばれる。
絢麗と近距離で顔を合わせるのは、歌人の二次試験以来だった。
「次の舞台は地方貴族をもてなす饗宴の場よ。
二人をメインとして舞台を作るわ。」
二人で歌う二重唱ということだった。きれいに歌えれば一人ではできない和声が生まれる。
「なぜこの人となんですか?」
名前すら呼びたくないのか、翠蓮を"この人"呼びする絢麗。
「なぜって、あなたたちお互いに学びあうことがあるからよ」
「学び……"合う"?」
「そうよ」
香蘭ははーっとため息をつく。
「あのね、絢麗。あなた技術は確かだけど……表現力や調和することを翠蓮から学んでほしいの。
そして翠蓮、あなたは絢麗から技術を盗みなさい。」
「はい!」「はい……」
絢麗は"納得できない"と、ありありと顔に書いてある。
翠蓮は肩身が狭かった。
「はい、これが楽譜よ」
香蘭から楽譜を渡される。
(読めるようになってきたとは言え、しっかり勉強しなくちゃ……)
「翠蓮は、楽譜は勉強中ね。聴いてもらったほうが早いわ。
紫雲、ちょっといい?」
香蘭に呼ばれた女性は、元後宮の歌人だ。
豊満な体つきと、下ろした流れるような髪が妖艶な雰囲気を醸し出している。
彼女はちらっと翠蓮を見る。
(なんだろう)
なんとなく紫雲の視線に嫌なものを感じる。
「紫雲はハーモニーのことは考えなくていいわ。私が合わせるから。」
香蘭の合図で二人が歌い出す。
「すごい……」
翠蓮は感嘆の声を漏らす。
紫雲の声を支えるように、香蘭の声がピタリとはまっていく。
初めてとは思えないほど、二人の歌声は見事に調和していた。
歌い終わった二人に、翠蓮は指導中ということを忘れ、夢中で拍手を送っていた。
自分もこんな風に歌いたい。そんな思いで胸がいっぱいだった。
「気づいたことは?」と問う香蘭に、絢麗は完璧な音楽理論で回答した。
翠蓮は、正直言って半分も理解できなかった。
この後に答えるのかと思うと胃が痛かったが、翠蓮は拙いながらも答える。
「えっと……香蘭先生の歌い方が、楽譜と異なっていましたよね。
紫雲さんの声の良さを生かすためなのかなと」
絢麗はぴくっと反応する。
香蘭はそれを横目で見ながら微笑んだ。
「よく本質に気づいたわね。
完璧に歌い、技巧を押し出すだけではいけないの。
二重唱は支え合い、補い合うのよ」
香蘭の言葉に何か響くものがあったのだろうか。絢麗は黙って聞いていた。
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挿絵はAIを利用して作成しています。




