【超短編】やがての神話の終幕へ
可憐なるかな、我が君。
逢魔必滅の手槍をたずさえ、冥き魔窟に灼然と破邪のきらめきを咲かす、黒髪の戦乙女。
いかなる汚穢もその聖純を穢すこと能わず、忌まわしき妖魔の返り血でさえ、月明かりに映ゆ化粧となる。
「──ようやく、ここまで来ましたね」
〈はい〉
暮れなずむ地平に鎮座する、黒曜岩の巨城。
その玉座で諸人の絶望を喰む魔王を誅伐すべく、我らは推し来た。
幾十の街をめぐり、幾百の妖魔を討ち祓い、幾千万の民の希望を託されて──
「それにしても静かね。魔王の膝下だというのに」
〈あまりにも瘴気が濃いためでございましょう。妖魔どもですら怖気に耐えかねるほどに〉」
「あなたが放つ清らかな神気のおかげで、その瘴気に圧されることなく闘える。感謝しているわ」
〈もったいなき御言葉、恐悦至極に存じます。ラインルーネ様〉
私こそ感謝しております。
ルフの森の同胞たちの内から私を選り、救世の美姫をこの背に戴く栄誉を与えてくださったことを。
「──さあ、征きましょう、シュネーヴィント。我が愛しき、雪色の一角獣よ」
〈御意〉
これまでに幾人もの英雄豪傑が歩を刻み、しかし誰一人として還ってはこなかった道に、私は蹄を打ちおろす。
恐怖はない。
逡巡もあろうはずがない。
あるのは、我が君の騎馬として歩をうつ歓喜のみ。
私は信じる。
翌の暁が照らすこの道を、貴女と共に悠々と凱旋することを。
そして──
後の世の子供たちが、麗しき黒髪の戦乙女の神話を読み聞かせられて育つであろうことを。
【了】
読んでくれて、ありがとう。
本作は〝お耽美フレーバーテキスト〟をコンセプトとし、ひたすら修辞を煮詰めてデコりまくった神話的〝本格ファンタジー〟の実験作です。
あえて〝本格ファンタジー〟をうたう作為に気付いてニンマリするタイプの人は僕様に匹敵する性悪につき、御愁傷様であります。
◆ ◆ ◆
袖すり合うも他生の縁というわけで、よかったら僕の他の作品も読んでみてくださいな。
ちなみに、普段の作風は本作ほどお耽美ではありません。
まあ、別の意味でウザいかもですが──
それてまは、また。
いつか、どこかで。