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1。織田さゆりの面倒くさがりの日常。

1。織田(おだ)さゆりの面倒(めんどう)くさがりの日常(にちじょう)


大人(おとな)になったら(きみ)(なに)になりたいの?」

そんな質問(しつもん)子供(こども)(ころ)から(いま)まで何度(なんど)()かれてきた。そして(いま)(こた)えが()ていない。あたしにわやりたいこともなりたいものも(とく)になかった。いや、正確(せいかく)に言えば(いま)はないから。でも質問(しつもん)されたら(なに)かの(こた)えを()さなければならない。それが礼儀(れいぎ)だ。

(とく)(かんが)えたことはないな。」

そもそも、その質問(しつもん)はおかしいと(おも)った。5か6(さい)(ころ)(となり)のおばさんがこの質問(しつもん)をしてきたとき、おばさんはあたしにどんな(こた)えを期待(きたい)していたのだろう?たとえ(こた)えがあったとしても、その質問自体(しつもんじたい)意味(いみ)はあるのだろうか?子供(こども)のやりたいことは、(ひと)下着(したぎ)()えるように、毎日変(まいにちか)わるものだ。あたしがその質問(しつもん)にどう(こた)えたのか、(いま)ではもう(わす)れてしまったのかもしれない。いや、多分忘(たぶんわす)れたいだけなのかもしれない。ちなみに、(いま)その質問(しつもん)をあたしに()していたのは担任(たんにん)先生(せんせい)だった。先生(せんせい)(なが)黒髪(くろかみ)(うつく)しい大人(おとな)(かお)、すらりとした(からだ)(なが)(あし)()っていて、童貞高校生男子(どうていこうこうせいだんし)(ゆめ)そのものだった。また、先生(せんせい)には美しく深みのある、()つめる(ひと)魅了(みりょう)するような、()褐色(かっしょく)(ひとみ)があった。先生(せんせい)()ていた(ふく)(くろ)いワンピースとタイツだった。その(うえ)(しろ)白衣(はくい)羽織(はお)り、(たか)いヒールを()いていた。先生(せんせい)不機嫌(ふきげん)そうな(かお)でこう()った。

織田(おだ)(きみ)自分(じぶん)将来(しょうらい)について(かんが)えるべきです。本当(ほんとう)将来(しょうらい)やりたいことはないの?」

居候(いそうろう)(こた)えたら、先生(せんせい)(おこ)っているだろうか?冗談(じょうだん)でそう()ったらお母さんに(あたま)(たた)かれた経験(けいけん)がある。あたしは(ひと)つため(いき)をついて、(あと)でこう言った。

先生(せんせい)、これに部活(ぶかつ)関係(かんけい)があるんですか?」

(きみ)部活(ぶかつ)はそれを参考(さんこう)にして()めたかったんです。」

先生(せんせい)()ねた(かお)()った。ちょっと可愛(かわい)かった。なぜあたしが先生(せんせい)部活(ぶかつ)(はなし)()してるか()りたいか?あたしが(かよ)高校(こうこう)にはルールがある。生徒(せいと)(かなら)部活(ぶかつ)参加(さんか)しなければならない。最近部活(さいきんぶかつ)やってない生徒(せいと)()えている()がする。それらの女子(じょし)が「うち、時間(じかん)ないし、まじ無理(むり)ゲーだし…」とか「部活(ぶかつ)って、超面倒(ちょうめんどう)だし、つまんなくね?!」とか()ってる。なぜギャル語?とにかく、先生(せんせい)がたがきっと部活(ぶかつ)とう()ばれるカルチャーが()くなると(おそ)れてるから部活(ぶかつ)強制(きょうせい)される。多分(たぶん)。あたしは(べつ)部活(ぶかつ)には反対(はんたい)ではないけど、ただやりたい部活(ぶかつ)はないだけ。だから、学校(がっこう)(はじ)まった一週間(いちしゅうかん)がたったのに、あたしはまだ部活(ぶかつ)()めていない。そのせいで(いま)指導(しどう)()けている。一週間以内(いちしゅうかんいない)部活(ぶかつ)()めない生徒(せいと)には、先生(せんせい)()わりに部活(ぶかつ)(えら)んでいる。

織田(おだ)(きみ)(かお)()ると、()にそうになったサラリーマンを(おも)()す。」

なんか失礼(しつれい)だ。でも()んだ(さかな)よりはましかな。こないだ(いもうと)が「(ねえ)ちゃんの(かお)がマクドの店員(てんいん)さんみたいだよ!」と()った。あたしの(かお)がそんなに(わる)いのか?そうですか?(たし)かに美人(びじん)ではないけど、せめて普通(ふつう)()って()しい。あたしは普通(ふつう)だと(おも)ってるから。普通(ふつう)一番(いちばん)(からだ)(むね)(かお)普通(ふつう)でいい。普通(ふつう)でないといえば多分(たぶん)あたしの(かみ)だ。栗色(くりいろ)()めてるから。あと、右耳(みぎみみ)にピアスが()いてるくらい。(いもうと)が、それわ不良(ふりょう)ぽいと()われたけど、なにそれと(おも)った。(いもうと)よ、人見(ひとみ)()判断(はんだん)するなと学校(がっこう)で習わなかったの?

(きみ)子供(こども)(ころ)はもっと元気(げんき)だったのに。(むかし)からけっこう()わったな。」

()われなくてもわかる。あの(とき)自分(じぶん)(いま)のあたしは別人(べつじん)だ。あれ?なんで先生(せんせい)がそれを()ってるのかな?先生(せんせい)(なに)()ったのかあたしは()からなかったから、(たず)ねることにしました。

吉田先生(よしだせんせい)とあたしが(はじ)めて出会(であ)ったのは、この学校(がっこう)じゃないの?」

(おぼ)えていないの?(わたし)が20代後半(だいこうはん)のころ、(きみ)小学生(しょうがくせい)先生(せんせい)だったの。」

(おどろ)いた、まさか先生(せんせい)以前(いぜん)からあたしのことを()ってたんだ。

「じゃ吉田先生(よしだせんせい)がそろそろ40(だい)。まだ綺麗(きれい)だから30代前半(だいぜんはん)だと(おも)った。」

(きゅう)(あたま)から衝撃(しょうげき)(かん)じた。先生(せんせい)()だった。チョップで(あたま)(たた)かれた。

(なぐ)ったね?」

(なぐ)ってなぜ(わる)いか!貴様(きさま)はいい、そうして(わめ)いていれば気分(きぶん)()れるんだからな!」

ぼけが(つう)じた。(しか)し、これかなり(ふる)いネタだけどね。

本当(ほんとう)に40(だい)じゃないんですか?」

先生(せんせい)のチョップが(ふたた)びあたしの(あたま)(たた)いた。

二度(ふたど)もぶたれた!親父(おやじ)にもぶたれたことないのに!」

だが、お母さんにはぶたれたことがかなりあった。

「それが(あま)ったれなんだ!」

先生(せんせい)(ひと)つため(いき)をつきながら(つづ)けた。

「とにかく、(きみ)には部活(ぶかつ)()める必要(ひつよう)がある。どんな部活(ぶかつ)がやりたいの?」

帰宅部(きたくぶ)

あたしはA. T.フィールドを()るみたいにすぐに防御態勢(ぼうぎょたいせい)()った。(いた)いのは(いや)だからね。でも(なに)()こらなかった。先生(せんせい)軽蔑(けいべつ)する(かお)であたしを見つめた。またため息をついて、先生がこう言った。

(わたし)はその(こた)えにどんな(かお)するわいいのかわからないの。」

あたしが防御態勢(ぼうぎょたいせい)をやめて、にっこり(わら)った(かお)をして()った。

(わら)えばいいと(おも)うよ」

そのとき、(あたま)(うえ)にサードインパクトが()こった。

「そういえば、(きみ)子供(こども)頃絵(ころえ)()くのが()きだったね。そうか、それがいい。美術部(びじゅつぶ)はどうかな?」

「そこだけ()かないでください。それ以外(いがい)(なん)でもいいです。」

あたしは(こえ)をあげてそう()ったら、先生(せんせい)はちょっとびっくりして、あたしを()つめた。それは多分今(たぶんいま)まであたしはただふざけてだけでほんきじゃなかった。だからほんきのあたしを()いた先生(せんせい)(おどろ)いた。(あたま)(なか)(いや)(おも)()(よみがえ)った。(あたま)(なか)(いや)(おも)()(よみがえ)った。「できないならなんでやるの?」と(だれ)かのあざ(わら)いの(こえ)()こえる()がする。先生(せんせい)咳払(せきばら)いをして、(あと)でこう()った。

(きみ)(なん)でもと()ったな。だったらいい部活(ぶかつ)()つけた。今日(きょう)はもう(おそ)いから、明日(あした)にしましょう。」

先生(せんせい)()った(あと)、あたしの背中(せなか)()して、お(たが)いに教員室(きょういんしつ)をあとにした。その()(かる)挨拶(あいさつ)をして先生(せんせい)(わか)れた。


廊下(ろうか)(ある)いていたら、背後(はいご)からあたしを()(こえ)()こえた。()()いたらそこに小学生(しょうがくせい)がいた。いや、小学生(しょうがくせい)みたいな高校生(こうこうせい)がいた。藤宮(ふじみや)さんだったっけ?あたしは(ひと)名前(なまえ)(おぼ)えるのは苦手(にがて)だ。自分(じぶん)から(だれ)かとは(はなし)()りかけない。自分(じぶん)から(だれ)かをどこかに(さそ)わない。 (さそ)われたらだいたい(ことわ)る。「ごめん、今日(きょう)無理(むり)、また今度(こんど)ね」とか「()()いたら()く」とか()えば99%で(だれ)かに二度(ふたど)も誘われない。だが、あたしはその1%の人間(にんげん)(いま)出会(であ)った。この()はこの一週間(いちしゅうかん)毎日放課後(まいにちほうかご)にどこかであたしを(さそ)っている。お昼休(ひるやす)みのときも、「一緒(いっしょ)()べていい?」と()かれると、あたしの返事(へんじ)()たずに、この()(せき)(すわ)る。また、毎日同(まいにちおな)じように()る。なれなれしじゃないか?(べつ)に、あたしは彼女(かのじょ)(きら)いとかじゃないよ。()(ひと)だって(きら)いってわけじゃない。ただ、(だれ)かと一緒(いっしょ)(なに)かをするのはとても面倒(めんどう)なことで、できれば一人(ひとり)でいたいんだ。だからこそ、最初(さいしょ)からグループ参加(さんか)必要(ひつよう)部活(ぶかつ)拒否(きょひ)していました。団体(だんたい)行動(こうどう)するのは苦手(にがて)だ。他人(たにん)期待(きたい)(こた)えるのはあたしには無理(むり)他人(たにん)迷惑(めいわく)したくない。それはさておき、(いま)がこの()大事(だいじ)だ。藤宮(ふじみや)子供(こども)っぽい体型(たいけい)(かお)をしている(おんな)()で、(あざ)やかな緑色(みどりいろ)()をしている。(うつく)しいセミロングの(かみ)()げた茶色(ちゃいろ)(うつく)しく(ふた)つのおさげに(むす)んでいた。制服(せいふく)のサイズが()っていないため、袖口(そでぐち)から()がほとんど()ていない。よく()ると、彼女(かのじょ)小動物(しょうどうぶつ)のようにとても可愛(かわい)らしい。彼女(かのじょ)(あたま)()でてあげたくなるほど可愛(かわい)い。たぶん、彼女(かのじょ)(かお)本気(ほんき)()たのは(はじ)めてだった。彼女(かのじょ)(うえ)から(した)まで()てみると、この制服(せいふく)はやっぱりあたしの(この)みだと(ふたた)実感(じっかん)する。セーラー(ふく)のブラウスが()(しろ)で、(えり)とスカートが(くろ)いんだ。そして(えり)のタイ(たい)はバッチリ(あざ)やかな(あか)女子校生(じょしこうせい)制服(せいふく)といえばセーラー(ふく)じゃないと。()制服(せいふく)とは(くら)(もの)にならないくらい、このセーラー(ふく)優雅(ゆうが)でスタイリッシュなんだよね。

「さゆちが今帰(いまかえ)り?」

なぜかあだ()()んでる。自分(じぶん)から(ゆる)した(おぼ)えはないけど。

「そう。(なに)かようか?」

「チーズバーガーひとつ」

「あたし、マクドの店員(てんいん)じゃないけど。」

「じゃ、スマイルください!」

「けんか()ってんのか、(きみ)は?」

それにしてもスマイル0(えん)でひどくないか?マクドの店員(てんいん)さんは可哀想(かわいそう)だろう。店員(てんいん)さんの()()んでいる理由(りゆう)()かるよ。

「いや、ただどこかで()べに()かないかと(さそ)われたかったの」

(さそ)(かた)がおかしいよ。そもそもどうしてそこまで一緒(いっしょ)にいたいの?」

ちょっと(かな)しい(かお)(かんが)(はじ)めた彼女(かのじょ)がこたえた。

「さゆちと仲良(なかよ)くなりたいからさ。」

なにこのあざとくかわいさ?こんな(ころ)文句(もんく)()われたら、(ことわ)るのが(むずか)しい。

この子犬(こいぬ)みたいな()であたしをみてたら、あたしのピュアなハートはなんでも(ゆる)しそ。(なん)だ、もしかしてあたしはけっこういいやつだぞ。

今度(こんど)だけだよ。」

あたしがそう()ったら、彼女(かのじょ)がいきなり()みが(あふ)れていた。やだかわいい、あたしが(おとこ)だったら告白(こくはく)したいくらいだぞ。まあ、これもたまには(わる)くない経験(けいけん)かもしれない。()(おも)いをするのかわからないけど。その()、あたしたちは上履(うわば)きを()()えて学校(がっこう)()た。


あたしたちは、学校(がっこう)から25分歩(ふんある)いてやっと、すすきの(えき)(となり)にあるマクド(まくど)にたどりついた。

「なんでわざわざマクドなの?」

(えき)(ちか)いから、さゆちも電車通学(でんしゃつうがく)でしょ?」

「とにかく(なか)(はい)ろう、外寒(そとさむ)いし」

あたしは(だま)ってうなずいた(あと)、あたしたちはマクドに(はい)った。でも、なんであたしが電車通学(でんしゃつうがく)してるのを()ってるのこのちびっこ?このマクドが二階建(ふたかいだ)ての店舗(てんぽ)です。一階(ひとかい)はレジで、二階(ふたかい)飲食(いんしょく)するスペースがある。あたしたちは(れつ)(なら)んで()つことにした。さて、どうやって時間(じかん)(つぶ)そうかな?ふつうは、一緒(いっしょ)にいる相手(あいて)(はなし)をして()ごすと(おも)うけど、あたしと藤宮(ふじみや)はここに()(あいだ)(ほとん)(はな)していないよね。

ここでぼっちができる最高(さいこう)(あそ)びを披露(ひろう)する。それは人間観察(にんげんかんさつ)だ。人間観察(にんげんかんさつ)はさまざまなゲームにつながる。(たと)えば、そこの(ふと)った(おとこ)のシャツのボタンが、あっという()(はず)れるかどうかを()てるゲームだ。(たと)えば、そこのお(ねえ)さんの()てる(ふく)何円(なんえん)かかるか、またはあたしわそれに(なん)ポイント(あた)えるかのファッションチェックゲーム。すごく(たの)しいよ。本当(ほんとう)だから、(しん)じて!あたしが人間観察(にんげんかんさつ)(たの)しんでいると、(きゅう)藤宮(ふじみや)(たず)ねた。

「さゆち、部活動(ぶかつどう)(なに)をするか()めたの?」

吉田先生(よしだせんせい)()めたけど、まだ(なに)(おし)えてくれてないんだ。」

「あれ、自分(じぶん)部活動決(ぶかつどうき)められないの?」

「できるなら、一週間(いちしゅうかん)()たないだろう?」

「さゆちは優柔不断(ゆうじゅうふだん)だな。それならどうしてこの部活強制(ぶかつきょうせい)する学校選(がっこうえら)んだの?」

あたしは(えら)んだんじゃない。(おや)()めたんだよ。そう()えばいいけど、説明(せつめい)するのが面倒(めんどう)だし、めんどくさいんだよね。中学校(ちゅうがっこう)年生(ねんせい)(とき)、あたしは(すで)(いま)のあたしによく()ていた。やりたいことも、なりたいものもなく、ただただ時間(じかん)(なが)れに()をまかせていた。そんな目的(もくてき)もないあたしに高校(こうこう)(えら)理由(りゆう)はもちろんなかった。心配(しんぱい)していた(おや)が、結局(けっきょく)この学校(がっこう)(えら)んだ。制服(せいふく)綺麗(きれい)だし、いいかなと(おも)った。だが、あたしは()らなかった、(おや)にははめられただと。まあ、自業自得(じごうじとく)だろ。あたしは、入学案内書読(にゅうがくあんないしょよ)んだことないし。だから、部活強制(ぶかつきょうせい)する学校(がっこう)だったのはあたしに()るはずがなかった。あたしがそれを()ったのは、入学式(にゅうがくしき)すぐあとだった。(おや)がもちろん()ってた。ちなみに、(いもうと)()ってた。(ひど)家族(かぞく)だ。

「それより、あたしたちの(ばん)注文(ちゅうもん)(なに)にする?ハッピーセット?」

「さき(わたし)()ったじゃないか?」

「あれ本気(ほんき)だったの?」

あたしの質問(しつもん)無視(むし)して、彼女(かのじょ)注文(ちゅうもん)(はじ)めた。

「チーズバーガー一つと、店員(てんいん)さんの素敵(すてき)笑顔(えがお)をください」。

店員(てんいん)さんは高校生(こうこうせい)ぐらいの茶髪男子(ちゃぱつだんし)だった。()にそうな()をしていたが、自分(じぶん)最高(さいこう)笑顔(えがお)()せた。それを()ていた藤宮(ふじみや)笑顔(えがお)(かえ)した。彼女(かのじょ)笑顔(えがお)天使(てんし)のように(うつく)しかった。店員(てんいん)さんの()にも(ひかり)(もど)った。

「ちょっと、その名前聞(なまえき)いてもいいっすか?」

店員(てんいん)さんは礼儀(れいぎ)(わす)れ、藤宮(ふじみや)(たず)ねた。「藤宮(ふじみや)かおりです。」彼女(かのじょ)笑顔(えがお)のままで()った。

「このあと、(ひま)?どっか()かない?」

「あの!あたしも注文(ちゅうもん)したいんだけど。」

ちょっと(わる)()(にら)んで(はじ)めたあたしに、店員(てんいん)さんは(かお)()けた。店員(てんいん)さんは普段(ふだん)()にそうな()に戻り、不機嫌(ふきげん)(かお)であたしの(かお)()つめた。すまん小僧(こぞう)(きみ)にこの()(わた)せない。藤宮(ふじみや)(だれ)にでも(やさ)しいから、彼女(かのじょ)(あぶ)ない(ひと)()わせてはいけない。あたしが彼女(かのじょ)(まも)れなきゃ!オーダーを(たの)んだ(あと)、どや(がお)で「スマイルください。」と()った。もちろん、店員(てんいん)さんからはイライラした笑顔(えがお)しかもらえなかった。なんでサービスがこんなに(ちが)うの?さっきのナンパが邪魔(じゃま)したから、それともあたしの態度(たいど)(わる)かったからかな?オーダーを()ませて、トレイを()()り、二階(ふたかい)移動(いどう)した。藤宮(ふじみや)(すみ)っこの(せき)確保(かくほ)し、あたしは彼女(かのじょ)(あと)をついた。彼女(かのじょ)がニコッと(わら)って、バーガーをかじり(はじ)めた。ちなみに、あたしが注文(ちゅうもん)したのは380(えん)のベーコンレタスバーガーと、170(えん)のベーコンポテトパイ、そして(いもうと)のために160(えん)のプリンパイふたつです。ピッタリ1000(えん)支払(しはら)った。あれ、(なに)かがおかしい。あたしは計算(けいさん)をやめ、期間限定(きかんげんてい)のパイをかじり(はじ)めた。サクサクのパイの(なか)には、ホクホクのポテト、スモーキーなベーコン、そしてオニオンが()まっていた。()べたら絶対(ぜったい)デリシャスマイル!こんなに(うれ)しいことも(かな)しいこともないな。

「これいつかなくなっちゃうんだよね。」

(ちい)さな(こえ)(つぶや)くと、藤宮(ふじみや)がそれに気付(きづ)いた。

「でも、その(とき)大切(たいせつ)(おも)()になるんじゃない?」

(おも)()が?」

あたしには(おも)()というと、後悔(こうかい)しか(おも)()かばない。あの(とき)こうすればよかったとか、ああすればもっとうまくやったのかもしれないとか。だが、それには意味(いみ)がない。()こった過去(かこ)()えることはできない。だから大事(だいじ)なのは(いま)だけ。このベーコンたっぷりのパイ。ここで問題(もんだい)です。世界(せかい)一番美味(いちばんおい)しいものは(なん)だろう?

ベーコンだろ!(なま)でも、()いたでもいい。ピザの(うえ)にも、ハンバーガーの(なか)にも完璧(かんぺき)(たまご)とパスタとパンとも仲良(なかよ)し。日本(にほん)のソウルフードはなんだか()らないけど、世界(せかい)のソウルフードはベーコンだ。ベーコンは(きら)いな(ひと)最早人間(もはやにんげん)ではない、もしくは(かれ)らがビーガンかベジタリアンか。ちなみに、ビーガンとベジタリアンは(ちが)うから、(おぼ)えておいたほうがいいよ。なにが(ちが)うかって?グーグルで調(しら)べろ!どうでもいいことを(かんが)えていると、藤宮(ふじみや)質問(しつもん)(しず)けさを()(やぶ)った。

「さゆち、幼稚園(ようちえん)(とき)(おも)()がある?」

()いな。トラウマを(わす)れたいっていう趣味(しゅみ)があるから、(むかし)()こったことに感慨(かんがい)がないようにしている。」

彼女(かのじょ)はぎこちなく(わら)う。

「それより、どうしてあたしと仲良(なかよ)くなりたいの?クラスの(なか)に、あたしよりもっといいやつがいるぞ。たとえばあの(みず)(みず)水谷(みずたに)さん。彼女(かのじょ)はけっこう人気(にんき)なんだよ。かっこいいし。」

水上(みずかみ)さんよ。でも、さゆちもかっこいいし。」

「いやあいやあ」と()()って合図(あいず)する。「それは()いだろ。みんな()をそらして無視(むし)する。きっと、みんなあたしを(きら)っているだろ。」

(きら)ってないよ。ただ(こわ)いだけだよ。」

彼女(かのじょ)満開(まんかい)笑顔(えがお)()った。()かった、(だれ)もあたしのことを(きら)ってないんだ。ははは。なんでこの()はこんな笑顔(えがお)平気(へいき)(ひと)(きず)つけるんだろう?(ひと)気持(きも)ちをもっと(かんが)えてくれ。この()悪気(わるぎ)がないのは厄介(やっかい)なんだよね。

「あいつら、あたしが(こわ)いのか?でもなんで?」

藤宮(ふじみや)(ちい)さなキュートな人差(ひとさ)(ゆび)であたしの(かお)をさす。

「その無愛想(ぶあいそ)(かお)。あと、その不良(ふりょう)っぽい格好(かっこう)。」

「ご、ごめん。」

ちょっとビックリしたせいで、自然(しぜん)(あやま)ってしまったよ。まさか、この()があんなリアクションするとは(おも)わなくてさ。でも、まあ、あたしはあたしだし。()わってもどうせ(なに)()わらないし、このままでいいんだろうって(おも)ってるし。

藤宮(ふじみや)があたしと(こわ)くないの?」

(わたし)(こわ)くないよ。だって、さゆちが(やさ)しいから。」

それはきっと(おも)(ちが)いだ。あたしは(やさ)しくないから。

あたしは携帯(けいたい)時間(じかん)確認(かくにん)し、支度(したく)準備(じゅんび)(はじ)める。

「もうそろそろ()かなきゃ。」

椅子(いす)から()()がると、(のこ)ったバーガーを藤宮(ふじみや)()()す。

「もらっていいの?」

あたしはうなずいた。藤宮(ふじみや)()みを()かべながら、バーガーをスクールバッグに()れた。

「でも、今日(きょう)はラッキーだな。バーガー(ふた)つもただでもらったよ。」

えっ?値段(ねだん)がおかしかった理由(りゆう)がわかった()がする。その()、しばらく時間(じかん)()った(あと)、マクドを()(えき)(わか)れた。どうやら藤宮(ふじみや)電車通学(でんしゃつうがく)じゃなかった。


電車(でんしゃ)からおりるとちゅう、携帯(けいたい)がピピッとなって。なんか(いもうと)からメッセージ(おく)られてたみたい。メッセージが(ひら)くと、なかには(ぶた)頭三匹(あたまみひき)と、一枚(いちまい)包丁(ほうちょう)絵文字(えもじ)()かれた。これはあれだな、クイズ形式(けいしき)のお使(つか)いだな。いや、多分(たぶん)彼女(かのじょ)(しょ)くのはただめんどくさかっただけなんだけど。よくあることだ。翻訳(ほんやく)すると「スライスベーコン()()って(くだ)さい」。あたしは(えき)(ちか)いファミマに()くことにした。お(みせ)(はい)ったら、いきなりビックリしました。()(まえ)(おお)きな人型(ひとがた)のスタンディがあったから。なんだこれ?どうやら(なに)かしらのアイドルとのコラボのよう。白雪(しらゆき)りんご。なんか美味(おい)しそうな名前(なまえ)だな。りんご(あじ)白雪大福(しらゆきだいふく)()べたいな。それにしても派手(はで)なスタンディだね。ファミマの限定(げんてい)ソフトクリームを()べると、スタンプカードにスタンプがもらえるんだ。5個集(こあつ)めたら限定(げんてい)CDがもらえるって。ハートマーク!こんなの(だれ)()しいんだろう?どうせ在庫処分(ざいこしょぶん)なんだろうけど。(はや)用事(ようじ)()ませて(かえ)ろう。必要(ひつよう)なものをカゴに()れた(あと)、レジに()こうとしたが、レジの(まえ)一人(ひとり)キョロキョロウロウロしている女子(じょし)がいた。中学生(ちゅうがくせい)(おも)ったけど、彼女(かのじょ)があたしと(おな)じスクールコートを()ている。多分(たぶん)(おな)じ1年生(ねんせい)だろう。()たことはないから、おそらく(ちが)うクラスだろうけど。まあ、もし(おな)じクラスでも、あたしが(おぼ)えているわけはないだろう。さすがあたし。でも、あたしは必要(ひつよう)なクラスメイトの名前(なまえ)をもう(おぼ)えたよ。藤宮(ふじみや)とか、藤宮(ふじみや)とか、あと藤宮(ふじみや)とか。藤宮(ふじみや)(いま)(なに)をしているのかな?お(いえ)(かえ)れたかな?あたしはぼうっと(かんが)えていると、いきなりさっきの女子(じょし)()()った。()綺麗(きれい)(むらさき)っぽい(いろ)だった。彼女(かのじょ)はネコの(みみ)()いた帽子(ぼうし)(かぶ)っていた。その(した)から()えるショートの(かみ)も、()(おな)(いろ)だった。()(なか)にはスタンプカードが(にぎ)りしめられていた。彼女(かのじょ)はまるで瞬間移動(しゅんかんいどう)するように、あたしのところに突然(とつぜん)やってきた。

(なに)(よう)か?」

彼女(かのじょ)(こた)えず、あたしの()()ってレジまで連れて行った。

そこで彼女(かのじょ)(あたま)()げて、スタンプカードを()()した。

「これと(なに)をすればいい?」

また(こた)えず、ただレジ(れじ)の(まえ)にいる看板(かんばん)指差(ゆびさ)す。あくまで(はな)すつもりはないのかな?(きみ)声優(せいゆう)がハナカナか?看板(かんばん)()をやって観察(かんさつ)する。看板(かんばん)には「ここでスタンプカード交換(こうかん)できるよ! ハートマーク!」と()かれていた。なるほど!分からん。

「あのさ、ちゃんと()わないと(きみ)(なに)がしたいのかわかんないよ。」

彼女(かのじょ)()からないような(かお)してあたしを(にら)む。あたしはカードを()てると、もう交換(こうかん)できる状態(じょうたい)になってると()づく。

「これ交換(こうかん)してくださいってこと?」

彼女(かのじょ)高速(こうそく)(うなず)く。自分(じぶん)でやりなさいよ。まあ、彼女何故(かのじょなぜ)(しゃべ)れないし、多分(たぶん)あたしがやらないと開放(かいほう)されないよ。あたしはレジに()って自分(じぶん)のお()(もの)()ませて、あとでカードを交換(こうかん)した。その()、あたしが彼女(かのじょ)にCDを()()した。彼女(かのじょ)(うれ)しそうな(かお)であたしを()つめた。彼女(かのじょ)(くち)()けかけたが、何故(なぜ)かやめた、そしてお(みせ)から()げた。ありがとうもなしかよ?まあ、どうでもいいけど。あたしは(つか)れた(かお)でファミマを(あと)にした。どこかでモンスターでも()おうかな?


あたしが横断歩道(おうだんほどう)(わた)(はじ)めたとき、(うし)ろからかわいい(こえ)で「ありがとう」と()こえた。あたしは(うし)ろを()いたが、彼女(かのじょ)はもう()げてしまった。これがこの(まえ)()きたかったことだ。なんなんだよ、彼女(かのじょ)は?今日(きょう)ほんとに(つか)れた、やっぱりモンスターを()って(いえ)(かえ)ろう。



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