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5章 晴れない疑念

寮に帰り、一息ついた。


まさかちょっとした夢から

こんなイベントになってしまうなんて。


着替えながらしみじみと思う。


そして、再び同じ感情に至る。


本当に夢で済ませてしまっていいのだろうか?


ほぼオカルト部に在籍していながら思うことではないが、僕はその手の話を一切信じていない。


今までの生涯で、オカルトじみた経験や

恐怖体験を一度もしたことがないから、というのもある。


しかし、それ以上に一番大きく思うのは、

かつての異能の残絵は関係ないのか、ということだ。


ほんの100年ほど前にはたくさんの異能力者がいて、今も存在している可能性がある、なんて言われているこの世界。


そんな世界で起こる出来事が異能力ではなくオカルトである、と結論付ける方が難しいだろう。


と思っているのだが、なぜかオカルト論者は結構多い。


しかも、高学歴だとかいわゆる賢い人に多い印象だ。


これこそがオカルトであり最大の謎なのでは?


などと考えているとこの結論に帰ってきてしまうのだ。


夢だろう、と。


全く科学的ではないが、現状で一番しっくりくる。


というより、夢という結論以外で話すと、納得できる落としどころが見つからない。


結局のところ、夢だという話以外説明が付けられないんだよな......。


いろいろ考えすぎていたようで、気が付くと

もう家を出なければ間に合わない時間になっていた。


なに話せばいいんだろうか……。


ぬぐい切れない不安を抱えたまま

僕は部屋を出た。



-------------------------------------------------------



時刻は17時54分。


ギリギリ遅刻はしなかった。


絶対に遅れなくなった公共交通機関に

大きく感謝しながら指定のレストランに向かう。


店の前にはすでにメンバーがそろっていた。


「相変わらずぎりぎりの時間を責めるねぇ。

 じゃあ入ろっか!」


華が言う。

先ほどの興奮は少し落ち着いたようだ。


初めて見る私服はTシャツにパンツだった。

髪は束ねてキャップに入れているんだな。


意外にもボーイッシュな雰囲気にギャップを感じる。


別の方向に魅力が伸びただけの話だが。


兄弟は……なんていうんだっけこれ。

いわゆる双子コーデというか。


双子を貫いているな、と感心する。


蓮はまぁ、いつも通りだ。

ちょっとチャラい高校生3人イメージしてほしい。


その中の誰かは連と服装がかぶっているから。


揃って店内に入る。


ん?ファミリーレストランってこんな感じだったっけ?


明らかに自分が知っているファミリーレストランとは一線を画す厳かな雰囲気。


華に対して、深々と頭を下げる支配人風の男性。


奥に通されると、完全個室の

明らかにあと5年は踏み込むのが早いであろう空間が出迎えてくれた。


「これは……。」


「「うん、さすがに……ね。」」


自分も含め驚きを隠せないが、

意を決して聞いてみる。


-あの、先輩。

 ちなみにここって……?


尋ねると、華は楽しそうに説明してくれた。


話によると、少し前に先ほどの支配人風の男性を助けたことがあるそうだ。


このレストランは会員制で、その時にお礼として会員権をもらったらしい。


別にやましいこともなく、一度はお礼をもらうことを拒否したそうだが、

このレストランの雰囲気を見て受け取ったそうだ。


その男性が、ファミリーレストランと呼んでいたらしい。


多分違うと思うけれど。


「ここさ、めちゃくちゃご飯美味しいの!びっくりしちゃった!

 あとさ、ここすごくかっこいいじゃない?秘密結社が会議とか

 してそうな雰囲気あるじゃない?」


そう言う華の表情は、先ほどと同様に

好奇心にあふれていた。


「なんかそのエピソード自体が華先輩らしいというか……」


「「嘘っぽい話なのにそう思わせないよね。」」


案内された席に各々が座る。


「じゃあ、とりあえず先にご飯にしよ!

 ほんとにここ美味しいんだから!」


華がここまで言うとなると、恐らく相当においしいのだろう。

一同の期待値は上がっていく。


が、メニューに目を通して愕然とする。


「おいおい……このコース1回でオレだったら

 1か月くらい暮らせそうだぞ……」


「「いやいや、それは言い過ぎ!

 せいぜい半月くらいだよ。……半月くらい。」」


心なしかメニューを持つ1年生の手は総じて

震えているように見えた。


僕も含めて。


「だーいじょうぶだって!

 部費から出しますって言ったじゃん!私はねー」


あっけらかんと言い放ち、オーダーを

進めていく華。


部費ってそんなにもらえるものなのか?


おずおずと華に続いて注文をする。


届いた料理は素晴らしかった。

稚拙な表現だが、著名人のパーティーかのような

きらびやかな品々だった。


問題は、緊張して肝心の味が

全く分からなかったということだ。



-------------------------------------------------------



食事を終えて、飲み物が配膳された。


カップからしてもう違うその飲み物に緊張しながら

受け取る。


ふわりと香るコーヒー。

完全に素人の僕でも普段の安物との違いを感じた。


「おいしかったねー!

 さて、ここからは部活の時間ですよ!」


華が号令をかける。


「さっきの、もう一回話してもらってもいい?」


僕と蓮は、思い出せる範囲で先ほどの話を伝える。

もちろん、夢の話は伏せておいた。


「ふむふむ……。

 面白いね!気になるねぇ!」


改めて話を聞いた華は再び好奇心モードに入っていた。


「ちょっと気になったんだけど、その掲示板のところの

 女の子、どういう感じの制服だったの?紺色で、リボン?

 服の上の丈とかスカートの長さとか……」


えっと……と、再び思い出しながら話す。


-紺色で、胸ポケットがあったような。

 首の周りをぐるっと回っている感じでリボンが胸の前についていて。

 スカートも同じ紺色で……。


「ん、待って。

 もしかしてそれってこんな感じの……?」


華はタブレットを向ける。

そこには、僕が見かけたものとほぼ同じ制服が映し出されていた。


-あ、え?

 はい。画質がちょっと悪いですけど……。

 確か、こんな感じの服でした。


あまりにも早すぎる解決だった。

有能すぎる。


「うん。やっぱりこれなんだね。

 じゃあさ、ここ、見てもらえる?」


華はタブレットのページ名を指さしていた。

一同はのぞき込む。


「白桜学園付属第五高等学校……」


「「これってうちの学校のホームページですか?」」


華が指をさしている部分には紛れもなく

わが校の校名が表示されていた。


「そういうこと。白桜学園は付属校が確か52校あるの。

 うちの学校はそのうちの一つで、このページは第五高等学校のもの。

 つまり、この服はうちの制服に間違いないってこと。」


どうやら僕が見たものは的外れな幻ではなさそうだ。

安心、と同時にまた新しい疑問が生まれる。


-でも、僕はこの制服見たことがないですが。


「オレもだ。制服の数が多いのは知ってるけど、

 これは見覚えないぜ」


「「分厚いから、季節的に今着ている人がいないのかも。」」


そう。


この学園に入学して、もう4か月以上経っている。

その間に見かけた覚えが一切ない。


入学前の制服採寸モデルでも、なかったような気がする。


「ちなみに私も見たことないわ。当然よ。

 ここ、URLをよく見て。」


華は、そのページのURLの末尾を指さしていた。


「/historyって書いてるな。歴史?」


夏の課題の成果だろうか。

蓮からすんなり和訳が出てくるとは。


ややしみじみとした気持ちになったが、

華がつづけた言葉に、少し背筋が冷える。


「これね、うちの学校の歴史についてのページなの。

 それによると、この制服が使われていたのは少なくとも

 80年以上前、どう考えたって今着ている人なんかいるわけないし、

 それを見たこともあるわけないのよ。」


……。


何も解決していないが、単なる見間違いや

夢の類でなさそうなことだけわかった。


その場にいた全員が黙り込む。


一人を除いては。


「うふふ、これは本当に謎よ。超常現象……

 もしかしたら幽霊?エクトプラズム?何かしらねぇ……」


ちょっと……いや、かなり怖いぞ。

ボーイッシュな雰囲気から立ち上る恐ろしい気配。


「でもこれだけじゃ、まだ何にもわかんないのよね。

 まだ何か話してないこと、ない?」


じっと見つめる華。

目を逸らしたくても逸らせない。


「私としてはね、たぶんこの掲示板の前以外にも

 その女の子をどこかで見ているんじゃないかと思うんだけど……。」


勘が鋭すぎる。


「だって、そんなにじろじろと女の子を見るタイプじゃないでしょ?」


「顔も見えないくらいの暗さの中で、あそこまで制服を

 はっきりと覚えてるのは不自然だよー。」


勘じゃなかった。推理だった。


「それに、なんで正面から見た制服のデザインが分かったの?」


「その女の子は掲示板を見ていたんでしょ?胸の前にリボンがある、とか

 胸ポケットが、なんて分かりっこないよ。」


「違うタイミングで正面から見たことがない限りね!」


ビシッと僕を指さしてポーズを決める華。


これは言い逃れできそうにない……。


-……えっと、実はですね。


この人に隠し事は無理だ。

観念した僕は夢で見た出来事をすべて話した。


華はタブレットに何かを書きつつ、時折頷きながら

真剣に話を聞いてくれた。


ほかのメンバーも同様に真剣だった。


正直笑い飛ばされてもおかしくない内容だが。


話し終わった後も各々が何かを考えているようで、

しばらくの間、場は静かになった。


「わっかんない!」


静寂を破る華の声。


「学校で見かけた人が寮に現れた……ということは

 何らかの意思を持って近づいてきている……はず。」


「話の内容からして知的レベルはとても高い……。

 最近見なかったとかはどういう……。」


この人にもわからないことがあるのだな。


当然のことではあるが、なぜか意外に感じてしまう。


ひとしきりぶつぶつと話すと、華は目を閉じる。


「ちょっと待ってね、整理する。」


おもむろに壁際まで歩くとそのまま地面に体育座りする華。

そのまま、ピクリとも動かなくなってしまった。


2分……5分……10分。


「おいこれ大丈夫なのか?本当に全然動かないぞ。」


「「た、多分。意識がないなら倒れるはず!」」


あまりの不動ぶりに周囲がざわつくが、それでも

華が動く気配はなかった。


さらに10分ほどが経ち、そろそろ声をかけた方が、

と話し始めたころ華はむくりと顔を上げた。


その表情はうっとりとして、少し頬が紅潮していた。

永い眠りから覚めてぼんやりしているかのようだった。


まるで天使の休息。


僕に芸術の才能があったなら、きっと大作を作ろうと魂を燃やしたことだろう。


そのぐらいの衝撃だった。

その場にいた全員が、間違いなく見とれていた。


「よっし!すっきりした!

 ねぇ、その女の子さ、本当にそれだけしか言ってなった?」


いつもの華の調子に戻っていた。


「その女の子にとっても誰かと話すのが久しぶりだったって感じがする。

 でも、誰かと話せる可能性を信じてた。」


「だから、急に話せなくなるなんて、知らなかったんじゃないかな。」


「多分、ずっと誰かに話したいことがある。初対面の異性に対して

 饒舌になってしまうくらい。でも、ここ数日間姿は現さない。」


「ってことは、何か条件か、制限があるんじゃない?」


「たとえば、自由に動き回れるわけじゃないとか。」


「消える前に何か言ってなかった?

 私がその女の子だったら何か言い残そうとすると思う。」


-えっと……。


冷静になってもう一度しっかりと思い出してみる。

そういえば何か言っていたような。


あんまり聞こえなかったんですけど、と前置きして

聞こえたことを再現して話す。


「じか……い?……さん……びし……て!か。」


「「確実に何かを伝えようとはしているよね……。」」


-あくまでそんな感じだった、って話なんだけど。


頭を悩ませる1年生たち。

それを尻目に、華は会計を済ませていた。


「なにしてるの?

 善は急げよ!早くいこ!」


どうやら何かを理解したらしい。


-こんな時間からどこに行くんですか?


すでに時刻は21時過ぎ。

どうやら、3時間以上も議論していたようだ。


「どこって、学校に決まってるじゃん!」


「その女の子が呼んでるんだよ?女の子を待たせる男はモテないよ!?」


ほら、やっぱり言い出したぞ。


-先輩、落ち着いてください。見てください、時計。


「そうですよ、さすがに空いてないです。」


「「学園は自動施錠ですし、特別な事由なく

 時間外には入れませんよ。」」


必死で止める一年生。

しかし、好奇心に火のついた華は止まらない。


「特別な事由なんて作ればいいじゃん!

 気になる気になる!週明けなんて待ってらんない!」


いつもの理知的な人間とは思えないセリフ。

駄々をこねる小学生のよう。


「じゃあ、いいよ!一人でも行く!」


駆けだそうとする華。

まずい、走り出したら誰も追いつけないぞ。


「ストップストップ!」


あわてて蓮が華の手をつかむ。

小さな揉みあい。


その時、蓮のポケットから何かがこぼれた。


チャリッ、と小さな音を立てて地面に落ちたそれを

一同が見つめ、その後、蓮の顔に視線が集中する。


「あ……あのこれは……。」


それは、部室のカギだった。


カギは職員室で管理をされている、はずなのだが。


「「返すの、忘れたんだ……。」」


あきれ気味に兄弟がカギを拾う。


その光景を見ていた華が嬉しそうに声を上げる。


「蓮君!グッジョブよこれは!」


兄弟からカギを受け取った華はわざとらしく一人語りする。


「あぁ、どうしてこんなところに部室のカギがあるのでしょうか。」


「これは本来学校にあるべきもので、校外に持ち出してはいけないのです。」


「なくしたり壊したりすると危険だからです。」


「これは早急に返さなくてはなりませんね。明日から学校は

 お休みに入りますから、今日すぐ返しに行くべきだわ。」


「あーこのまま私が持ってて、なくしてしまったりしたら、

 学校からどんなふうに何を言われちゃうのかしらー。」


「きっと部長だから責任問題になるんだわー、怖いー。」


といいながら合間に、こちらに視線を送ってきている。


「今から私が一人で!か弱い女の子の私が!一人で!

 カギを返しに行ってももちろんいいんだけどなー。」


「いないかなぁ、一緒に行ってくれる信頼できる人。」


「いや、無理にとは言わないけど……!でももしかしたら

 襲われちゃうかもなー、いや高確率で襲われるなーこれは。

 か弱い美少女が夜の闇を一人で歩くとなー。」


「いないかなぁ、私のナイト様。

 できれば年下で4人くらいいると嬉しいなぁ……。」


視線が送られる頻度がだんだんと増えている。


顔を見合わせてみたが、

おそらく同じ結論に至っていただろう。


結局僕たちは、この人の頼みを断れない。

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Xの方から伺わせていただきました! ここまで読んだ印象として、じっくり腰を据えて物語を進める目論みを感じました。 まだ序盤かと思うのですが、ここまでの描写は物語的文脈の薄いワチャワチャした日常描写に…
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