幸せだったよ。傍にいれて
私には、ずっと敬愛している人がいる。
あの日、彼を見た時生きることに、そこまで執着していない。
どこか間の抜けた雰囲気を放っていて、見ていてムカムカとした。好き?とんでもない!!あの人は、嫌いな部類だったよ。少なくとも出会った当初は...
「そなたは...」
私は、とにかくその人に生きているだけで幸せなことを教えてあげたかった。
生きてるのに、そんな顔しないでほしい。そう願った。
まぁ、若いって、いいもんだよ。活力もあって、何でもかんでも全力でぶつかっていく。
過ぎてしまった時間を巻き戻そうなんて思いやしないけどさ。
「きっと、分からないだろうね。何百年と生きているという感覚は、この上なく退屈なものなんだよ。」
知らない。そんなことっ!!
カッとなって、ビンタしたんだったか。すぐに、バカなことしたな...って、一人で自分の部屋で反省回をして...
彼は、一瞬呆けて...すぐに、下を向いた。
当たり前さね。いきなりそんなぶたれたら、私だったら、なにすんだい小娘って躍起になって大ゲンカするよ。
(そなた、あの時のことを夢見ているのかい?)
そうだよ。あの時は、悪かったねぇ。自分の信念って言うものを押し付けたがる生き物なんだよ。人間っていうのは...
(いや、そんな君だから、私はそなたと一緒に歩もうと....)
あー、聞こえなくなっちまった。既に耳がバカになってしまったようだね。
目先には、ぼやりと白い天井が見えている。
薄暗いところだね。ここは....仲直りした時は、こんなところとは、反対の青い晴天のしただった。
着いてきてっ!!
お、おい!!
あんなことのあとなのに、謝りもせず、強引に彼の手を引っ張って、私の得意な風魔法でふわりと体を上昇させて、空を飛んだ。
「どう?素晴らしいって思うでしょ?」
「いや、私はなんども同じ光景を見ている。こんの程度は既に何十回も見ているよ。」
「はぁ、意固地ねぇ...じゃあ!!」
風魔法を乱暴に、扱い空中で踊る。その踊りに呼応するようにリズミカルな音楽が流れる。
あの時は、自然に受け入れてたけど、今思えば、誰かが気を利かして演奏してくれてたんだね。
踊りは、私のお気に入りのブレイクダンス。昔、金髪で巷では珍しい青眼の男性が教えてくれた。
空中では、初めてだったけどちょっと、調子に乗って風魔法で強引に彼にも、ダンスさせたっけ。
「ちょ、ちょ、そなた流石にこれは...やりすぎだ!!」
「え?なに?よく聞こえなーい!!」
ダンス終わりに、軽快なラップ音が鳴り響いた。
あの時の彼は、驚きと疲労で倒れそうな様子で面白かったな。
ね?やっぱ、楽しいっしょ?
いや、それとこれとは、話が別な気が....
楽しんでたようで、よかった。自然と今でも微笑んじまうよ。
ーあれは、非常識だと思うぞ!楽しむというか、大変だったんだからな!!ー
念話で、話かけて来たのかい?そんなことは、ないと思うけどね。くくく
というか、もう念話じゃないと話せなくなってしまったのかい。
ーそうだね。医師から、そろそろだって話だよ。ー
お前さん。私が居なくなっても生きていけるのかい?
ーはは、君のおかげで、もっと世界が開けた気がするんだ。だから....だ..だからぁ...だい...だいじょうー
あー、ダメそうだね。こりゃ、あんたメンタル脆いものね。となりの机の中に私の財産が入ってるよ。私が死んだら、使いなさいな。
ーわ、わかっ...たー
相変わらずだね....
「だ、大丈夫か!?!僕が、そばに居てあげるから!!」
「ちょ、集中できない...赤ちゃんが...生まれるから!!」
「え、あ、うん...」
あの時の痛みは、今生だね....まぁ、どんなのだったかもう記憶もあやふやだけど...
ずっと彼の頑張って、頑張って、っていう声がボソボソ聞こえて、痛みと一緒でキレそうだったよ。
全く...
「よかったですね。エルフの方との子供は稀なんですよ?」
「は、はい。」
「あ、汗が凄いじゃないか!!えーと、タオルタオル...」
「もぅ、私よりも、ほら赤ちゃん!!」
「あ、あー、そうだね....可愛いな...」
って言いながら、ずっと見つめる彼、ふにふにと手を触って、パパでちゅよお、とか言ってるんだけど。
「はいはい。赤ちゃんも生まれたばっかで大変だから、さっさと出た出た。」
「え....うん...分かった。」
意気消沈してる彼....すぐに元気がなくなるのは、昔からだったな。今でもそうだけど、
ーうるさいよ!!ー
はいはい。そんなこんなで、子育てには苦労したなぁ....彼の知り合いに頼んで、色々教えてもらったりしたし....
ー大変だったな。色々と、今ここには、いないけどな。全く、仕事仕事って、お前の最後だってのに...ー
いいんだよ。楽しくやれてるんだったら。私は、あなたがいるだけで、満足だよ。
ーあはは、嬉しいこと言ってくれるじゃないかー
思えば、あなたがいつも一歩足を引いてくれていたお陰で、喧嘩もそこまでなかったね。
ーそれは、いいことなのか分からないけどね。主張強めになりたいよ。ー
じゃあ、私に対して今思ってる気持ちってどんなのさ?
ーえー、君が、どんどん私より老けていくのに、色んな怖さがあったよ?ー
うん。
ー今だって、ずっと生きていてほしい。そう願ってる。こんな、ヨボヨボの君は、見たくなかったともね。ー
そこは、今の私も綺麗だよ。とか言うべきじゃないのかい?
ー確かにね。でも、これが本音だよ。自分だけが姿形が変わらないっていうのは、なんというか....ー
じゃあ...私と一緒に死んでくれるかい?
ー.....君って人は、本当に怖いね。ー
ふふ、冗談だよ。また、来世で私はあなたに会いに来るよ。
ーうん。ー
その時、こそ、あなたと寿命を全うして見せる。
ーうん。ー
だから、待っててね。
あなたが、好きだって思った人が私だから、自由に生きてね?
ーそれって....ー
いつまでも、辛い顔してるんじゃないよ。ってことだよ。もっとシャキっと笑顔でいないかい!!笑顔のあなたが、1番好きなんだから。
ーう....ん....ー
あ....そろ そ ろだ ね
もっと生きた たなぁ...あな と一 に最後ま 生きた たなぁ
老いぼ な ても、 変わ ないね。
ーま、待って!!ー
あ い し る。 たた い て ご ....
ーそなた....ギリッ.....ー
「生きてるって、辛いよ。ふぅ、そんなに微笑まないでくれよ。最後まで生きたかったとか、言ってたくせに....」
「意識がなくなりましたか?」
「はい....。」
「人間は、寿命が短いのでね。あなたも辛い思いをするだろうけど...その短い時間で、色んなことをしようとするのは、私たちの素晴らしいことだと思いますよ。」
「そう...ですね。彼女といると、いつも新鮮でした。」
「きっと、またどこかで会えますよ。」
「えぇ....きっと.....」