京子の秘密
私はテレビ番組出演の後、病院に来ていた。
薄暗い廊下をいつものように歩いていく。エレベーターに乗り、いつものように3階で降りた。
コンコンとノックをし、「はい、」と少年の返事の後、扉を開ける。
いつものように明るい顔を用意して入った。
「姉ちゃん、来たの?」
隼人。肌は生気を失ったようで真っ白。弟は窓際のベッドに座りこちらへ微笑を向けた。
「元気にしてた?」
「うん。でも、僕ここにいるとき何もすることないんだよ。ずっとテレビを見たり、窓の外眺めたり」
「そう、それはつらいね」
私はゆっくりと隼人が寝ているベッドの横にある椅子に腰かけた。
「みんなつらそうな顔している人がいたりするけど、僕にはわかんないや。立派な、自由に歩ける体があるのに」
隼人は暗い窓の外を寂しそうに見ていた。
その横顔はあまりにも悲しかった。
こんな隼人の顔はこれ以上見たくない。胸が苦しくなる。
「お姉ちゃん、明日の大会で賞金稼いでやるよ。勝てば1ビットコインも入るの。そしたら、あんたも手術できて、また自由に動けるようになるよ」
「ほんと?」
「うん、本当。お姉ちゃんがあんたに嘘をついたことが一度たりともあった?」
「ううん。ない。だって毎日ちゃんと僕が寂しい思いしないように会いに来てくれるもん。でも、お姉ちゃん無理はしないでよ。僕お姉ちゃんに無理はしてほしくない」
「無理じゃないよ。後、今日はお姉ちゃんここに泊まって行くから」
「でも、明日大会なんでしょ」
「いいのよ。ここから出発した方が」
「ホントに、ありがとう。僕寂しかったんだ」
隼人は11時を過ぎたあたりから眠りについた。
私はその傍らで椅子に座り、ぐっすりと眠る隼人の横顔を見ていた。あまりにも白かった。あまりにも。