いよいよ
翌日登校してみると教室ではゲーマーインザウォーの話題で持ち切りであった。
「なあなあ昨日の放送みたかよ」
「ああ見た見た。京子ちゃん選出されてたよな。それにKも選ばれたって」
「ぜってえ見逃せねえよな」
イケてるお調子者グループの男子生徒新庄と山崎たちは京子には聞こえないようにひそひそ会話した。
「大和よ、昨日の放送見たか」
北原は登校してきて自分の席に座った大和に何気なく言った。
「昨日!? いや、何も知らないよ 俺は何も!」
大和はあまりの驚きにロボットのような動きになって手を振った。
「どうしたんだ大和。そんな驚くことないぞ。俺はまだ何も言ってない」
「ああ、そうか、ご、ごめん」
大和は未だ自分がKであるかばれることを恐れた。Kであることがばれれば校内で大騒ぎになる。そしたらじいちゃんにプロゲーマーになろうとしていることがばれてゲーマーインザウォーのアカウント情報を削除され、出場前に出場資格を失ってしまう。
言い出すならもう止めることができない直前でなくてはならない。
「どうせ、一条さんでエロい妄想でもしてたんだよ。しこしこと。それで飛びのいたんだよ北原。だって見てみろよ、あの黒髪、あのお尻。ああ、ぼくはあの椅子にでもなって永遠に下敷きになっていたいよ」
小松が横からひょっこり顔を出した。
その声が聞こえたのか一条京子が先頭の席から振り向いた。
軽蔑するような眼をして、大和をきっとにらんだ後、また前を向いた。
「良かったな、大和、一条京子さんが振り向いてくれたぞ」
「馬鹿野郎! 良いもんか ありゃ侮蔑だぞ、くそぉまた嫌われちまった」
がっくりして首をうなだれる大和。
「明日の大会でKと京子が戦ったらどっちが勝つと思うか」
「いやー一条でしょ。どうせKなんて汚らしいひきこもりだよ」
「お、なんだ昨日の放送見てたのか。表現が一条京子と一緒じゃないか」
北原は首をかしげる。
その時、がらがらと扉が開いて世界連邦史の白いひげをはやした教師田中が入ってきたので皆、起立して生徒一同立ち上がった。
授業は世界連邦の基礎から始まった。国の法的地位と世界連邦との関係。世界連邦の最高裁判所。さまざまな小難しいことを教師は述べていた。
「世界は核爆弾の自動射撃装置ピースキーパーによる恐るべき抑止力によって平和が保たれております。治安を乱すような地域、組織。そのようなものが誕生すればただちに世界連邦の議会で多数決で可決すればその地域をピースキーパーで滅ぼすことができるのです。しかし、それは最後の選択。小さい暴動や暴動の火であるならばESを派遣して武力によって鎮圧します。現在の世界連邦では主にこの措置が取られています。よって、このESのパイロットを輩出することは現在の世界平和を維持するうえでかなり重要になってきます。そこで各国はゲーマー育成に国費を使っているのです。ESのパイロットをより多く輩出した国は必然的に議決権を多く得たようなものです。なにせ軍事なくして議決もありませんから」
教師、田中はホログラムの映像をESの映像に切り替えた。赤いボディーが美しく、皆その美しさに見とれた。
「この教室にもプロゲーマーとして活躍する一条京子さんがいます。彼女が今この高校で一番、ESのパイロットに近い! みなさん、拍手を」
教室の生徒たちが一斉に拍手をし始めた。
鳴りやまない拍手に対して京子の眉がぴくっと動いた。
「なんの拍手ですか?」
京子がその拍手を打ち破るように言い放った。
「私は世界平和なんてどうでもよいです。ESのパイロットになる気なんてさらさらないです。私はただお金が欲しいの。ただそれだけ」
京子は田中をにらんだ。
「そうか、勝手に盛り上がって、すまんかった。そうだな。職業の自己選択権は世界連邦憲法で定められた立派な権利だ。悪かった。先生が悪かった」
そのあと、田中はおどおどしながら授業を行った。
放課後になった。
いつものように小松と北原が大和をゲーム部に誘いに来た。しかし大和はそれを断り、ゲーマーインザウォーの技術をさらに磨いた。
そしてゲーム動作のコンボを丹念に繰り返し練習した。
明日だ。明日俺は全てを変える。