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謎のゲーマーK

放課後になって、小松と北原と三人でゲーム部の部室に入った。


 男10人ほど集まった酸い匂いたちこめる部室にところ狭しと旧時代のレトロゲームが置かれていた。メタバース等の電脳空間ゲームが今の時代は主流であるがこういうレトロなものを愛好する人はいつだっている。


ゲーム部の他校との戦績は悪く、むしろ過去から現代のゲームを愛し研究するゲーム愛好会のようになっていた。


「あ、先輩たち、どうもです」


 眼鏡をかけたキノコヘアーの井上がソファーに座っており、出迎えてくれた。


 彼はいつもコーラを片手にしている。そのくせご飯もたべないので、がりがりの体格であった。最近健康診断にもひっかかったそうである。


「今、みんなで尾上禅について、研究してるんすよ。戦前の掘り出し物のレアなビデオが見つかって」


「尾上禅か」


 三人は同時にソファーに深々と座り、ホログラムを見た。


 プロゲーマー時代の尾上禅が華麗な手さばきで敵のゲーマーを圧倒していく映像だった。


「いや、やっぱり尾上禅の戦いぶりはけた違いですよね。特にここのテクニック。おかしいですよここ。人間業とはとても思えませんね」


「ああ、井上、良いものを見せてくれた」


 大和は尾上禅の映像に釘付けとなった。今まで何度も見てきた彼の映像であるが何度見ても盗めるところがないほどに洗練された技術であった。手さばきに関してもスローモーションを何回押しても読み取れない。


「かっこいいなー尾上禅は」


 大和は少年のように感服してそれを見つめていた。


「でも、のちに精神に異常をきたして、味方惨殺しちゃうんですよね。サイコパスなのかな」

 尾上のアップの映像が流れた。そのすがすがしい微笑みからはとても悪人には見えない。


「戦争が人を変えてしまったのかな。こんなすがすがしい笑顔をする人がそんなことをするようには思えないよ」


 大和がぼそりと言った。


「そうですね。次はわが校のスター一条京子の映像にしましょう」


 井上はぬふんと妖怪のように笑うと違う映像に切り替えた。


 一条京子が戦っているゲームプレイ映像だ。


「ところで先輩たち知ってました。ぼくここ気が付いたんですけど、一条京子第33回の皐月賞の大会でこのシーン、風が吹いたとき、パンチらするんですよ」


「なにーーーーーーー!!井上くん、君は天才か!」


 小松はソファーから乗り出して、京子のホログラムに触れる勢いであった。

 大和は怒ってその映像をストップさせた。


「大和、何をするんだよぉん!」


「あんまりそういうの見ないほうが良い」


 普段温厚な大和がいつになく怒っていた。


「わかったよ、分かったから怒るなよ大和。恋をしているって、こういうことなんだなー」

「俺は帰るよ。よるとこあるんだ」


 大和は苦笑いし、ソファーから立ち上がり、一人部室から出ていった。


「大和怒っちゃった?」


 小松がおそるおそる北原に言った。


「いや、まあ昼に言ってたようにゲーマーインザウォーでもしに行ったんだろう。世界中の中からたった30人に選ばれようとするとは奇特なやつだ」


 北原は腕を組みながら言った。


「ところで最近登場し始めたゲーマーKって知ってます?」


 井上がホログラムを見てポテチをかじりながら言った。


「知ってる知ってる。ほんと最近だよな。特にゲーマーインザウォーにおいていきなり登場し始めたんだよ。正体不明にして最強。この前なんてトップゲーマーの本田光一を激戦のすえに倒したんだよな」


 北原が眼鏡を輝かして言った。


「一体誰なんだろね。死んだ尾上禅の亡霊かな」


小松がため息交じりで言う。


「でも大和が最近ゲーマーインザウォーやり始めた時期とかぶるよな」


北原が何気なく、言った。


「そうだ、今日だって早くに帰っちゃったし、あいつ、ゲームやらせると負けなしだし」


「まさか、そんなことがあるんだろうか。Kって神田のK?」


「でもありえないよ北原、だってトップゲーマーの本田光一を破るんだよ。いくら何でも、それだけの実力があれば大和は名前公表するって。大和のじいちゃんにゲームを禁じられてたとしても。だってもてもてだよ。女の子わんさかラブレターもらってさあ。一条さんだって振り向いてくれるよ」


「そうだよな・・・・」


「大和は今頃選出されようともがいて、苦しんでやっぱ無理だーって頭抱えてるよ絶対」




バス停で大和はカバンを持って、バスが来るのを待っていた。


遠く空を眺める。これから大雪になりそうなほど鉛色の雲がはるかかなたにあった。雪がちらついて寒いのでマフラーを口元まで巻いた。


 ふと視線を動かすと一条京子が遠くから一歩一歩歩いて着て大和のいるバス停にとまった。


 二人きりである。

 しんしんと沈黙が二人の間を流れた。胸の鼓動だけがやけに大きくなってきた。


 顔を赤らめて何もすることができない大和。しかし大和としてはこれではだめだと勇気をふり絞った。


「一条さん、さっきはごめん」


 京子はきょとんとした顔で隣にいた大和を見た。存在にすら気づいていなかったようである。


「私、なにかされたかしら?」


「そのさっき、食堂で俺、その、ぼーっと見つめちゃっただろ、その、悪気はなかったんだ。つい、その、なんというか、その」


「ああ、そのこと。良いよ何も気にしていないし。よくあることだから」


「ああ、良かった。ごめん、」


「良いのよ、私は特に。人に対してかまってられる時間がないから。私は自分の目的のためにしか、興味がないの」


 京子は手元の腕時計型ホログラム装置で読書し始めた。


「目的?」


「そう、目的。あなたには関係がないことよ」


 そこに全自動式の水素バスが来た。車掌はもちろんいない。大和とは違う行先のバスである。

 一条京子はそのバスに乗ってどこかに行ってしまった。


「目的ってなんなんだ」


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