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ゲーマーインザウォー

「ゲーマーインザウォー」

 大和はぼそりとつぶやいた。


「ああ、佐々木秀才が作った、ゲームだろ」


「それがどうしたんだ大和」


「もうすぐ大会があるだろ? 俺はそのゲームで優勝したい。そのために深夜遅くまで特訓しているんだ」


 小松と北原は二人して顔を見合わせて笑った。


「大和、そりゃ、無理ってもんだぜ。良いか。話を聞け。飯を食いながらにしよう」


食堂では大勢の男女が席に座って、わいわい歓談しながらご飯を食べていた。

 窓の外では冬枯れの木々に乾いた粉雪がふりつけ始めた。


 小松、北原と大和はエビフライ定食を注文して着座した。


「ゲーマーインザウォーっていや、第三次世界大戦時、戦時動員されたゲーマー達が乗り込んで戦ったESを操縦してバトルする天才ゲームクリエーター佐々木秀才が手掛けたオンラインゲームだ。今一番熱いゲームだぞ大和。その大会に出れる意味わかってるのか」

むしゃむしゃと北原はエビフライをくわえて言った。


「ああ、知ってるよ」


「ほんとに知っているのか? 知っていれば選出されるその意味が分かるはずだが。プレイ人口は全世界で10億人とまで言われている。あれはプロゲーマーの中でも難関なんだ。なにしろゲーマーインザウォーの大会には世界中のトップの中のトップの30人しか選出されないんだからな」


「そうそう、大和、やばいんだって」


「佐々木氏は東大出身で、若いころから大ヒット作を世に送り出してきた。第三次世界大戦中にその高度なコンピュータ技術が認められ、戦時強制動員されて、ピースキーパーのプログラム系統を担当していたんだ。だが第三次世界大戦後、突如として「もう何もかも疲れた」との言葉を残し、ゲーム業界を去った。全ゲーマーが「待ってくれ」と呼び止めた伝説のゲームクリエーターだぞ」


「うむうむさすが人間ディクショナリー北原」


 小松がふむふむと頷いている。


「しかし20年後、突如としてゲーム業界にふらっと復帰した。そして最後の遺作として公言し、制作したのがこのゲーマーインザウォー。出る賞金は1ビットコイン。皆金と何よりも、佐々木氏のゲームをプレイできる名誉で全世界から強者たちが選出されようと日々プレイしている。しかし選出の方法は一切非公開だ。一体どんな方法で選出しているのか」


「無謀なのはわかっている。でも俺は挑戦したいんだ」


「確かに大和。お前のゲームの腕前はすごい。神がかってる。だが正直未知数だ。実績がない」


「うん、大和のじいさんが入部ゆるしてくれたら他校とも対戦できるんだけどなー」

 小松が出っ歯を出しながらうなづいた。


「そうだ大和の実力がどれほどまでかは気になるけどな」


 北原が渋いお茶を飲み体にしみこませながら言った。


「大和がゲーム大会に出場して勝ちまくればわが芸夢高校のゲーム部も成績アップでウハウハ。かわいい女子部員も大勢入ってくるというのにー」


 小松が後ろのかわいい女生徒の群れを見つめた。女生徒たちは小さな白い手で宝石箱のような小さな弁当箱の中の米粒を上品につまみうふふあははの朗らかな会話を楽しんでいる。

 小松はその座った後ろ姿から見えるほのかな丸みを帯びたぴたっとスカートがはりついた尻をにやついた眼鏡で見つめた。


「ちょっと、」

「清子、見られてるるわよ」

「え、」


 小松に見られていた佐藤清子は振り返って悲鳴を上げた。


 小松はショックで青ざめた。


「なんて不平等なんだ。僕が熱い視線で見つめるだけで女子生徒は悲鳴をあげてしまう。イケメンが見つめると、ほほを赤らめて米粒ひとつつまめなくなるくせして」


「ばか、お前がいやらしい目で見るからだ」

 その時三人のテーブルのそばを一条京子が通り過ぎた。その風から淡い良い匂いが三人の鼻腔に吸い込まれた。


 大和は胸の高まりからほほが赤くなってしまう。

「見て、一条さんよ」

「きれい」


 佐藤たち女生徒も憧れの視線を送って、京子を眺める。


 生徒会長でもあり、成績優秀、スポーツ万能。それでいて、現役のプロゲーマーであり、


年収は0.1ビットコインともいわれている。


「くっそー一条さんさえわがゲーム部に入部してくれればよいのに。くっそー」


小松がハンカチをかみながら悔しがった。


「部活動でやるレベルじゃないんだよ。彼女は」


北原がぼそっと言った。


 大和は遠くに座った一条京子に見とれていた。


 一条京子は人と群れない。教室でも、どこでも。


誰もいないテーブルに座り、一人で食事をしていた。

 

みないつものように視線を戻したがただ一人いつまでも見つめていた大和の視線に一条京子は気が付き、大和を遠くからまっすぐ見つめた。


 大和は焦って、目線をすぐに窓の外にそらした。


「うひゃうひゃ! 大和め、赤くなってやがる!」


「小松あんまりからかうな」

 北原が大きな巨体を揺らしながら笑って言った。


「しょうがないだろ、だって、目が合っちゃったんだから」

 大和はさらに顔を赤くして、照れた。


 その時、一条京子が一歩一歩かつかつと近づいてくる音がした。


 大和はあまりの突然の出来事に心臓の鼓動が止まらなかった。一体どういう了見でこちらへ歩いてくるんだろう。まさか、実は俺のことが好きで?


 かつかつかつと近づく靴の音がやんだ。

うつむいていた顔をあげると目の前には一条京子。


「神田君、だよね」

「そうだけど なんかよう」


大和はみるみる顔を赤らめた。まさか告白でもされるんじゃないかとモテない男特有の淡い勘違いを大和はしていた。しかし本心を探られない思春期の少年独特の強気の態度で臨んだ。


「あなたいつも私をみてくるけど私の顔に何かついてるかしら」

「い、いえ」


 あまりの突然の出来事に食堂のみんなが注目した。その視線の先には顔を真っ赤にしている大和と無表情な京子がいた。


「ついていないなら、あんまりじろじろ見ないでくれないかしら」

「は、はい」


 淡い勘違いは完全に打ち砕かれた。

京子はかつかつと歩いて、自分の席に座り定食を食べ始めた。


「うひゃーーー大和盛大にふられたな」

「小松、からかうな」


 北原は何気なく大和のほうを見ると、大和は石のようになっていた。


 午後からの体操の授業中も一条京子は華麗に技を決めて、マットの上に着地した。

 女生徒たちは京子にきらきらと憧れの視線を送る。


 大和は男子グループで体操の授業をしていた。あいかわらず遠くで機敏に動く京子の姿を見て、ぽーーっとしていた。


おれがいくら努力しても永遠に彼女と付き合えそうにもない。高嶺の華って彼女みたいな存在のことをいうんだろうな。


 大和の頭の中は京子で埋め尽くされていた。何をしていても京子のことが気になってしまう。勉強しようとしても胸のあたりがぽっかりと空いたようで満たされない。この空白は

一条京子の笑顔でしか埋まりそうになかった。


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