あこがれのプロゲーマー 一条京子
新人賞に投稿したら編集者にゲームのプロットとしては良い等言われた作品です。かなり長期間書いております。読んであげてください。
時は2070年
校庭の木々は冬枯れで生命のはかなさを語っている。
グランドには落ち葉が風に巻かれて舞った
芸夢高校の外壁にはたくさんの横断幕がある。柔道で金メダルや、陸上で銀メダルと人名とともに記載されている。
なかでも一番大きくゲーム大会で一条京子金メダルと記載されていた。
屋上からはホログラムが出現しており、ゲーム大会で優勝した一条京子が仁王立ちで腕組みして立っていた。
この時代はプロ野球選手よりも年収の高いゲーマーが多く現れている。青少年たちはプロゲーマーになろうと幼い時より日々努力していた。
「それでは次の質問。2049年 第三次世界大戦のきっかけとなった争いは。一条京子」
教壇上の40代くらいの眼鏡をかけた白髪頭、丸眼鏡をかけた教師田中が言った。
黒板はこの時代にはもうなくその代わりに教師の身振り手振りに合わせて動くホログラムが後ろにある。
教師が述べた言葉もそのまま文字となって、生徒の視覚に現れた。
「はい、東側と西側の軍事衝突によって起こったアフリカ戦争です」
教室の真ん中、一番先頭の席に座っている一条京子が何食わぬ顔で回答した。席を立った勢いで美しい髪がさらさらゆれている。見ているだけで良い匂いがたちこめている。
「よろしい。正解だ。さすが一条。当時東側の資金源を得たアフリカは巨大化し、西側陣営は東側に染まったアフリカに脅威を抱いた。そこで戦争が起きたんだ」
田中は手を後ろで組んで満足げに頷いた。
田中の身振り手振りによってホログラムの映像が当時のアフリカのものに変わったり、地理の位置など俯瞰して生徒がわかるような映像になった。
「では、第三次世界大戦が勃発したのち、ゲーマーたちは世界連邦が開発したESに乗り込むように徴兵された。かつて無敗を誇ったゲーマーであって世界連邦にESのエースパイロットして参戦し、英雄と呼ばれ、しかし第三次世界大戦最終決戦の地であるエジプトでたった一人世界連邦に反乱を起こした罪人は」
「尾上禅です。先生簡単すぎます」
一条京子がクールに言い放った。
その美しさにぽかんと口をあほのように開けて男子生徒が見とれていた。
先生もよい生徒を持ったと満足そうに眼鏡をひからせた。
「さすが一条さんだぜ」
「ああ、迷うことなく瞬時に回答。しびれるぜ。ああ付き合えたらなー」
「今度、クリスマスに開かれる大会に出るだろうな。あの賞金1ビットコインでるゲーマーインザウォーに」
「間違いなく選出されるだろうなー なんつたって現役高校生トッププレイヤーだもんな。あれテレビで全国放送されるんだろ。ライブ配信で。楽しみだなー」
男子生徒たちの後ろからの熱い視線に全く反応することなく一条京子は着座した。
「そこの男子生徒うるさいぞ。静かにしろ」
田中は後ろの席に座っているお調子者の男子生徒新庄をにらんだ。
「はい、すみません」
「わかればよろしい。ではホログラムを見せよう」
田中は魔法使いのように手のひらをたたくと教卓の後ろにホログラムが出現した。
ESに乗った尾上禅が一人反乱を起こし、仲間の機体をなぎ倒していく映像が映し出された。
「このようにかつての戦争を勝利に導いた英雄であった尾上禅は突如、仲間を惨殺し始めた。一説には戦いの苦悩により精神に異常をきたし錯乱したものだと言われている」
説明に熱心になっていた田中であったが眼鏡の端に教室の一番隅で寝ている神田大和をとらえた。
神田大和は気持ちよさそうに窓から入ってくる冬の微光に照らされてよだれを垂らしている。
「おい、神田」
田中は怒った顔で一歩一歩大和に近づく。
「おい、大和、おい」
隣の席にいた親友北原が大和をゆすった。
北原は趣味でボディビルをしており、筋骨隆々のスポーツ刈りの四角い眼鏡をかけた大男である。身長は190cmもある。
大和は相当疲れているのかすやすや前かがみになって腕を枕にして気持ちよさそうにしたままだ。
「大和、やばいって、大和」
「おい、神田」
田中は大和の机を手でどんとたたいた。
大和はその勢いでよだれをまき散らしながら飛び起きた。
「うひゃ?敵襲か!」
「ばかもん!ここは教室じゃ、廊下に立っておれ」
教室の大勢が口からよだれをたらし、袖でふく大和の姿を見て笑った。
大和は顔を真っ赤にして廊下に行く。
大和は廊下に出る途中、先頭の席に座る一条京子のほうを見た。
一条京子はやれやれ、といった具合でため息をついている。
大和はしょんぼりした顔でそのまま廊下に出て行った。
やがてチャイムがなって、昼休憩になり、教室の扉ががらがらとあいた。
授業が終わった解放感から、教室が一気にがやがやとうるさくなった。
「おい、神田、わしも反省させすぎたかもしれん。もう昼休憩じゃ。自由にしていいぞ」
田中は扉に手をかけ開けると大和は教室の壁に背中をかけて廊下ですやすや眠っていた。
「ばっかもーーーーん」
教室の外から田中の声が響き渡って、室内にいる生徒に聞こえた。
田中は怒って、職員室にぷりぷり消えていった。
「ねえ、神田くん、また寝ていたのかな」
「ずいぶんお疲れのようね。徹夜で勉強でもしていたのかしら」
ひそひそと話しながら女生徒たちは廊下で怒られている大和を一瞥して食堂へ向かっていった。
北原が教室の外に出ると大和はすやすやと廊下でまだ眠っていた。
「おい、大和、風邪ひくぞ」
いまだに大和は起きない。
「北原、そんなことでは大和は起きないぞな」
身長の低い眼鏡をかけた小松がにんまりといやらしそうに笑って、大和に近づいた。
小松はコンセントのような鼻の穴を大きくして悪いことを思いついた様子である。
「大和、一条さんのパンティーが見えているぞ」
「なにーーーーーー!!!」
大和は耳をぴくぴっくっとさせた瞬間飛び起きた。
「ばーーーか。一条さんのおパンティが見えるはずないだろ大和。彼女はいつも膝丈よりも長いスカートをはくお嬢様タイプだ。天地がひっくりかえらないかぎり見ることはできないぞな」
小松は廊下で腹をかかえてころがって大爆笑した。
「小松つ、貴様」
そのまま三人は食堂まで徒歩で移動した。
歩くにつれて見え隠れする廊下の窓から見える景色はどんよりとした寒い鉛色の雲。雪でも降りそうだ。
「しかし大和、なぜそんなに眠いんだ。まさか眠れてないとか。いわゆる不眠症ってやつか」
北原が心配そうな顔で見つめた。
「北原よ、心配しすぎた。思春期の男が眠れないと言ったらまさしく恋患いしかあるまい、大和は恋をしているのだ」
小松はまた変な顔でにんまりと鼻の下を伸ばして両の手を後ろに伸ばし、くるくるとターンを決めながら大和を覗き込んだ。
「ちがうよ小松」
「じゃあなんなんだよ、大和――」