前編
僕には幼馴染がいる。
とびっきり可愛い女の子だ。
街中を歩いている10人に尋ねれば、10人全員が可愛いと答えるくらいの容貌を持つ女の子。
だが、彼女にはある欠点があった。
それは──。
「おはよう」
「……おはよう」
「今日って何かあった?」
「……ないわ」
そう。
見た目とは裏腹に、かなりの口下手なのだ。
彼女の名前は白河詩織。
詩織はさまざまな事に対して秀ていた。
例えは、容姿。
ロングヘアの白銀の髪に、丸っこい葵色の瞳。
彼女曰く、何処か北欧の国のクォーターらしい。
体系は……うん。
スレンダーとでも言っておこう。
それで良い……。
そんなハイスペックな容貌を持ち、学校でもかなりの美少女と言われている彼女は、成績も方でも優秀だった。
運動神経はそれなりにあり、過去に数回ほど成績優秀賞を貰っている。
前述した通り、かなりの人見知りではあるが、その一匹狼性が更に彼女の魅力に拍車を掛けてもいた。
容姿、成績、人柄と全てに置いて最高値。
それが僕の幼馴染の白河詩織だった。
詩織との関係は語れば、語るほど長くなる。
今から10年とちょっと前。
産まれた頃からの古く長い付き合いで、親同士が親友ということもあり、彼女とは家族のように接していた。
僕が兄で、詩織が妹。
彼女のご両親は海外に出張する事が多く、長い時は3ヶ月以上も、同じ家で暮らしていたこともあったので、おそらくだが、ご両親よりも彼女と一緒にいた時間が長いと思う。
それにしても──。
「あの……」
「……何?」
そんな彼女──詩織とは、随分と距離が近い気がする。
会話をする事はあまり無いが、いつも僕の後ろを着いてくるし、空気が薄いせいか、いつの間にかそこにいたという事も度々あった。
「……少しは離れて欲しいんだけどな」
「……嫌よ」
「……」
彼女と親しいには嫌ではない。
寧ろ、あんな美少女と一緒に入れるのは大歓迎だ。
ただ、四六時中居るのはかなり困る。
僕だって、男だ。
溜まってしまう物もある。
今だってかなりヤバい状態なのだ。
「そう言えば、今日って数字のテストあったよね?」
「そうね……あった気がするわ」
「マジか……全然勉強してないわ」
「……そう」
そんな会話していたら、やがて教室に到着する。
そこで待っていたのは、いつもの光景だった。
何が夫婦だよ。
何が熟練カップルだよ。
僕と彼女はちょっと距離が近すぎるだけの幼馴染だ。
なんて言っても、聞く耳を持たないクラスメイトなので、軽く流しておく。
そんな毎日が続くはずだった──。
*
それはある日のことだった。
「おはよう」
「おはよう……悪いけど、今日は先に行くね」
「えっ?」
いつも相槌を打つだけの詩織から喋った?
先に行くことも驚きだが、それよりも彼女自身から話し出したことの方が、はるかに驚愕だった。
「うん……バイバイ」
「ああ……」
先に行くか……どうしたんだろう?
少し違和感を感じる。
だが、その答えが知る前に、詩織は先に行ってしまった。
「……」
どうしたんだろう?
そのまま時間は過ぎていき、お昼の時間になる。
僕はいつも通りに、彼女と一緒にお昼ご飯を食べていたのだが──
「これってこうだよね?」
「……そうね」
今朝と同様、彼女は何処かよそよそしいのだ。
まるで何かを隠しているように。
「……どうかしたの?」
話を区切って幼馴染に尋ねる。
だが、彼女は「ッ! ……何も無いわ」といつも通りの無表情だった。
しかし、何処か誤魔化しているような口調だ。
「……」
もしかして、何か悩みがあるのかな?
帰ったら、訊いてみるか。
それが一番、手っ取り早い。
もし、彼女が口を聞いてくれなくても、こちらには最終兵器が残っている。
一応、帰り道に補充しておくか……。
少し違う幼馴染。
僕は何もする事が出来ず、そのままその日を過ごしていった。
やがて時間は過ぎ、放課後になる。
「ふぅ……疲れたな」
僕は1人で帰路に着いていた。
今朝、隣を歩いていたクールな幼馴染はいない。
……やはり何かあるんだ。
「とりあえず、コンビニに寄って行くか」
話を聞くくらいなら、僕にでも出来るはずだ。
通学路の途中にある駅前の小さなコンビニに立ち寄り、お菓子と彼女用の秘密兵器を購入する。
近くのスーパーでバーゲンセールがやっていたので、夕食の材料も買っておいた。
「買いすぎたかも……」
「はぁ……」とため息を吐きながら、見慣れた道を歩く。
両手にはビニール袋。
かなり重い。
やがて、自宅が見えてきた時には、腕の時計の針は6の数字を指していた。
その奥にある家の窓にまだ光はない。
「まだ、帰ってきてないのか?」と鍵を取り出す為に、買い物袋を地面に置く。
そして、ドアを開けるために、鍵を差し込むのだが、ここで不気味な事が起こった。
「あれ?」
差し込んだ鍵を右に回し、ドアを開けようとする。
しかし、どうしたことか。
ガチャンと大きな音を立てるだけで、ドアは開かない。
「……」
冷たい何かが背中を通った。
一度深呼吸をして、もう一度、鍵を回してみる。
今度はドアが開いた。
「……鍵を閉め忘れた? でも、それなら詩織が教えてくれるだろうし……」
怪訝に思いながらも、ドアを開ける。
そこには見慣れない靴があった。
長さは……だいたい24cmくらいだろうか?
見慣れない黒のローファーがあった。
「誰かいる……」
母さんにしては小さすぎるし、もし、ずっと帰っていない姉さんが家に戻って来たなら、母さんから連絡が来るはずだ。
「……」
警戒心を持ちながら、ゆっくりと家の中に入って行く。
1歩、1歩、音を立てずに慎重に進む。
それはまるで、泥棒なった自分が他人の家に侵入しているような気分だった。
おかしいな。
ここが僕の家なのに……。
しかし、リビングにも洗面所にも台所にも人の姿はない。
運が良いことなのか、僕は階段に到着するまで誰とも出会うことは無かった。
「……」
気のせいかな?
そんな事を思いながら、階段を登る。
相当古い家だからか、階段を1歩踏むごとに、ギシギシと嫌な音が鳴った。
「そろそろ改築した方が良い気がする」
そんな事をぶつぶつと呟きながら、2階に到着。
そこで、僕はまた違和感を感じた。
「あれ? ドアが閉まってる?」
朝出た時は開いていたはずなのに。
仕事に行く前に、母さんが閉めたのか?
でも、ドアを開けっぱなしにしなさいと言ったのは母さんだ。
言った本人がするとは思えない。
「……」
やっぱり誰かいるんだ。
疑問と恐怖を感じながらも、僕は銀色に輝くドアノブに手を掛ける。
ガチャリと良い音が聞こえ、半日ぶりの我が居城が見えて来る。
そして、最大までドアを部屋に入ろうとした時だった。
「えっ?」
僕の部屋にそれはいた──。
「わん!」
「……えっ?」
えっと……どうことなの?
玄関あけたらサ◯ウのごはんじゃないけどさ……。
ドア開けてたらケモ耳少女?
何言ってるんだろう?
とにかく!
「わん!わん!」
ドア開けてたらケモ耳少女がいた。
あれ?
よく見たら、詩織じゃん。
……何やってんの?
感想・評価・ブックマークお願いします。