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こうして俺は置いていかれた

 世界を脅かす絶対的な存在、魔王。

人々は平和を取り戻さんと優秀な血筋な者達を魔王を討伐する者、勇者として祭り上げ、世界の命運を託した。


 そんな数いる勇者の一人であるカイム=エルロンは実力揃いの仲間を引き連れ四人組のパーティーとして順調に旅を続けていた。

魔王の城まであと一歩、強力な魔物が蔓延る山脈、アーク山脈までたどり着いた一行。しかし当然ながらその旅路は熾烈を極めており、その中の二人が治療を必要とする状況に陥った。

 協議の結果カイムと仲間一人は先行し、傷ついた二人はアーク山脈手前の町カナルで治療に当たり、回復次第後を追いかける事におちついた。


 そして場面はアーク山脈の中腹、数多の戦士達が志半ばで倒れながらも後に続く者達の為に作り上げたセーフゾーン。

そこで休憩している二人から話しは始まる。


「悪いけど僕はここまでのようだ」


「えっ?」


 従者であり仲間であり絶対の信頼を置いている魔法使いサレフの突然の一言にカイムは驚きの声を上げた。


「ここから先の結末は君の目で確かめてくれ」


「いや、ちょっ――」


「大丈夫。ここまでやってきた君なら出来る。知恵と勇気で勝ち残れるさ」


「話を聞けって」


 いきなり魔王(ラスボス)手前で攻略をぶん投げて激励を寄越されても、生憎自分にはそんな実力も無ければ勇気も気力もあったもんじゃない。


「本当にっ、心、残りっ―――、っクク!ダメだ我慢出来ないっ!!」


 ともかく先ずは話しを、と訴えると堪えきらなくなったサレフが突然吹き出した。


「おいっ!何を笑って―――」


「ともかく僕はここでおさらばだ。カナルの町でゆっくりしているからそこで合流するとしよう」


 そう言うとサレフは魔法で作り出した鳥の背に乗る。換えれる手段があるじゃないかと叫ぶカイムにサレフは何も悪びれる事無く続けた。


「悪いね。これ一人用なんだ」


「ウッソだろお前!?」


 どこからどう見ても後二、三人は余裕で乗れるであろう巨大な鳥にゆったりと寛ぐサレフは杖を軽く一振りさせると鳥はゆっくりと上昇していく。

まさか本当に置いていく気か!?と慌てふためくカイムを上から見下ろしながらサレフは大笑いをした。


「ハハハハっ!!やはり思った通り、いやそれ以上かな?君の滑稽な顔は傑作だ!」


「サレフ、お前っ!一体どんな理由があってこんな仕打ちをっ!!」


 今まで共に旅をし、苦楽を共にした主従の仲でありながら何故とカイムは叫んだ。


「いやなに。魔王を倒す使命を負った数いる勇者の一人である君と旅をしてきたが、君基本的に全て僕に任せっきりだったじゃないか」


 ピシャリと言い切るサレフの言葉に、冷や水を掛けられたように黙るカイム。


「君の両親には恩があるから君に力を貸すのは全然構わないが、頼るどころか全部ぶん投げられると流石に腹も立つ」


 詳しい説明はいるかい?と言うサレフに思い当たる節しか見当たらないカイムは視線を下に落とした。


「理解したかい?良心に痛みを感じたかい?それは結構。君が今感じている痛みは僕の心身の苦痛の百分の一にも満たないけれど、何事も気付きは大切だからね」


 よかったよかったと、更に高度を上げるサレフは杖をカイムに向けた。


「だが僕も鬼じゃあない。全力を持って君の()()()は保証しよう」


 そして詠唱を始めたサレフ。何節かの呪文を唱えるととてつもない魔力がサレフを中心に渦巻く。


「ここまで君と来たのはこの場所が魔物が寄り付かないように先人達が魔術的要素を施したセーフゾーンだからさ。そしてそれは今から使う魔法にとても都合がいい」


「都合がいいって?ってかその前にお前命だけって何だ!命だけって!」


 ぎゃーぎゃー喚くカイムを無視しサレフは完了した魔法を放った。


「慌てなくても直ぐに理解出来るさ――『ベイルアウト・エングレイブ』」


 サレフを取り巻く魔力が形を成し二本の光線となった。一本はカイムへ、もう一本はセーフゾーンにある一つの岩へと刺さった。


「が……あッ!?」


 痛みはさほどないが流れ込んでくる魔力に体が圧迫されるような感覚を感じたカイムは蹲ってしまった。


「さて、これで君の安全は確保された訳だ。町までの戻り道はわかるだろう?君が戻ってくるまではのんびり滞在しているからね、安心して戻ってくるといい」


「ま…、て……」


「待てと言われて素直に待つような人間ではないと知っているだろう?それじゃあ暫くの間さようならだ。しっかりと成長した姿を見れるのを楽しみにしておくよ」


 そう言い残すとサレフは飛び去って行った。その姿が見えなくなるまでカイムの方を見ることは無かった。


「ち、くしょう……!」


 身体中を巡る魔力が熱を帯び、うなされるカイム。呼吸は荒くなり、意識がボーッとしてきた。このまま意識を落とせばセーフゾーンとはいえ危険があるのではと一瞬頭を過ったが、あのサレフが安全は確保されたと言ったのならばそれは間違いないのだろう。そう思えるだけの実力があるのは知っているし信頼もしていた。


「覚えてやがれえ!サレフウウゥ――!!」


 今考えるのは下山した後にあの済ました三枚目野郎の顔面に一発叩き込んでやること。サレフが飛び去った方向を恨めしく睨みながらカイムは呪詛を唱えるように叫んだ。


 叫び終えたカイムは意識を手放し、目の前が真っ暗になった。

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