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出来損ないと憎まれっ子

セシル目線です



カリンさんが急に態度を変えたのは少し、というか正直かなり驚きました。

洞窟で私がヘマをした時、私はもう一緒に居られない。追い出されて当然だと、そう思いました。

そもそもカリンさんは元々私が嫌いみたいでした。嫌味を言われたり、仕事を押し付けられたり、その仕事の仕上がりに重箱の隅を突く文句を言ったり。

正直、私もカリンさんが嫌いでした。そりゃそうです。昔の劇に出てくる姑みたいな人、好きになれる方がおかしいです。


そんな人の目の前で自分でも許せないようなヘマをしでかしたのですから、もうどうなるかは火を見るより明らかです。


「貴女みたいな出来損ない、とっとと家に帰りなさい!」


ああ、やっぱり。帰ったら荷物をまとめる時間くらいくれるかな?

そこまで考えた時でした。


ぴっとこちらへ向けられていた指が、キッと私を睨んでいた目が、塩を振った野菜みたいにしにゃしにゃになって


「やっぱ帰らないで……」


どうしてと聴くことも出来ず、暫くお互いに固まっていました。カリンさんはぶつぶつと何か呟いていますがよく聞こえない上に要領を得ません。そして糸が切れたようにぱったりと倒れて動かなくなってしまいました。

急いで駆け寄ります。

「カリンさん!?大丈夫ですか!?カリンさん!?」

息はしてる。でも強く揺さぶっても目を覚さない。


次に動き出したのはライアさんでした。カリンさんといつも喧嘩してるのに、凄く青ざめてあたふたしています。ウェンディはいつもおちゃらけていますが、誰かが冷静さを失えば冷静になれるタイプです。ウェンディは倒れたカリンさんを背負い、適確な指示を出しつつもう少しで踏破できそうだった洞窟を抜ける決断をしました。


結局ライアさん曰くカリンさんは過労と魔力欠乏で、暫くベッドで寝かせておけばいずれ目覚めるだろうとのことでした。

「良かった。彼女がいなければ火力不足は間違い無いし、ライアは永遠にこの様だ。」

アンナさんが指を刺すのは全身からハリというハリがなくなって、どす黒いオーラの塊と化したライアさんでした。


「あいつがいないと張り合いがないんだよ。」

オーラの塊が寂しそうに言います。

「あいつさ、嫌な奴だし、セシルちゃんにも嫌なこと沢山してきただろ?でもやっぱ私の大事な仲間なんだよ。それにあいつのお陰でこのパーティにも馴染めた気がするし。」

パーティ入りたての頃から二人はよくぶつかっていました。それをウェンディや私が宥めるのがお決まりでした。

それも真面目なアンナさんがパーティに入ってからは少しおさまったのですが、やはりカリンさんと言い合ってるのが落ち着くようです。


「あの……カリンさんの看病、私に任せてもらえませんか?」


正直あんな人の看病なんてしたくない。でも、パーティの他の皆が悲しむ顔はもっと見たくないんです。それにカリンさんが倒れたのは多分私が原因ですし。


それから暫く、寝たきりのカリンさんにつきっきりでお世話しました。汗を拭いたり、湿度を高めにするために窓にかけた雑巾を取り替えたり。それで分かったことがあります。


「カリンさんの寝顔すっごい可愛い……」


いつもの睨むような目はすっと穏やかに閉じられ、暴言を吐きつける薄い唇は私が濡れたタオルでお世話してるのもあり艶やか。陳腐な表現ですがまるで高級な人形さんのようでした。


ずっとこのまま目覚めなければいいのに。ついそんなことを考えてしまいます。カリンさんの目が覚めたらまた元の嫌な姑キャラに戻ってしまうでしょう。

そんな寝顔を暫くじぃっと見つめて、私がうとうとし始めた時です。


カリンさんの目がぱっちりと空いてます。よく見ると瞳も綺麗だな……


「カリンさん!!」


大声を出すとカリンさんは少し顔を顰めました。

「み、皆さんを呼んできますね!」


目を覚ましたカリンさんは少しおしとやかになっていました。やはりまだ本調子じゃないのでしょう。

そしてもう魔力欠乏も完治し定期的に来る頭痛も治った頃、今まででは絶対に考えられないことを言い出したのです。

「買い物に付き合え、ですか?」

「嫌ならいいわよ。別にたいした用じゃないわ。」

そう言う割になんだか緊張してそうな面持ちでした。

「構いませんが……まだお体が優れないのでは?」

「私なら平気よ。貴女がつきっきりで看病してくれたじゃない。」

カリンさんがふわりと微笑みます。


私にそんな優しい顔でそんな事を言うなんてやっぱりカリンさんは本調子じゃなさそうです。


カリンさんが連れてきてくれたのは商店街の小さな古本屋さんでした。様々なジャンルの本が雑多に置かれて、さながら紙のジャングルです。


「これよ。」

そう言って差し出されたのは、何かすっごく派手で、はっきり言うとセンスのないロゴが描かれた小説でした。


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