第九話 第四勢力
「ハロー、大丈夫かい?君も、その背中の女の子もボロボロじゃないか」
「!」
俺は刀を構え、浮かばせたナイフの刃先を迷彩柄のパーカーを着た男に向ける。
「いや、そんな警戒しなくてもいいよ?安心してくれ、僕も能力者だ。あの軍隊みたいな奴らの仲間じゃない」
軍隊?華原家か大森家のことでも言っているのか?まあ、少なくともこの男、一ノ瀬家の応援ではなさそうだな。一ノ瀬家に連携なんてあったもんじゃねえし。そもそも一ノ瀬家ならフードなんてつけねえしな。
「じゃああんたはなんなんだ?」
いつでも綾を抱えて走り出せる体勢で質問する。
「僕?僕はただの能力者だよ」
珍しいな。大森家とか華原家以外の能力者なんて。大戦の時に実験でほとんど死んだって話だったが。
ていうか能力者であることを加味しても華原の基地に入るやつなんてそうそういない。こいつ、本当にただの能力者か?
「お前はなんでここにいるんだ?」
「・・・僕はすでに一つ質問に答えた。だから君の質問には答えずに僕は質問させてもらうよ」
流石にこいつを敵と判断するにはまだ早いな、大人しく言うことを聞くか。
「君は――――」
男は口を開けたまま静止する。
「おっとすまない、少しぼーっとしてしまった」
ちょっと待て、今のはぼーっとしてたの次元を超えてただろ。明らかに数秒間動きが止まってたぞ。
「君は一ノ瀬家、大森家、華原家、このいずれかに所属しているかな?」
一方、その頃の大森家緊急総会
「―――以上が先日の捕虜脱走事故の大まかな概要です」
僕は来ている十数名の各家の代表者たちに説明をし終える。
「で、みなさんを集めたのはこの問題に関しての華原家への対応。具体的には宣戦布告かそれ以外の選択肢を取るかを決めることです」
「こんな物、宣戦布告しかないだろう!」
若い理之依家の代表が言った。
「そう簡単に行かないからこうして緊急総会を開いたんです。今、華原家と戦争になればおそらく一ノ瀬家は味方するでしょう。それを計算に入れれば華原家にギリギリ勝てます。ですが前回の争いと違うのは海外企業はほとんど被害を受けないということです。大森家の事業は縮小、海外の企業に吸収、合併されるでしょうね」
「そして、今日ここにいる僕を含めた大半の方々は前回の大戦、抗争を経験していらっしゃる。僕としては二度とあんなものは起きてほしくないと思いますね」
前回の大戦・・・第二次世界大戦。中盤からは第一次世界大戦とは違い能力の軍事利用が少なからず行われた。能力分野において遅れていた軍は当時抗争中だった三派閥に和平条約を締結させ、研究の協力を要請。それに伴って三派閥も戦争に巻き込まれ大きな被害を負った。
「雅豹くんの言うとおりだよ。儂はもう二度とあんな光景を見たくない。華原家には物的な賠償と技術を請求すればいいんじゃないかね」
「そんな弱腰でいいのか!?」
「君はあの大戦を経験していないからそんなことを言えるんだ!」
その後も会議は数時間続いた。結局結論は
「華原家に捕縛されたスパイの返還と技術、それに基地一つを請求する」
ということだった。