第八話 華原の策 其の四
「ぐっ・・・」
俺は後ろから掴んできた何者かに倒され、上に乗られる。
「霧矢さんに何をしようとしているのかしら?」
俺はひと目見て分かった。こいつはかなりキレている、と。
だからといって無様に乗られている場合じゃない。
「のけろ」
手元に戻した灰雷を突き刺す。
「どこ行った?」
ブワッと風の音がして重みがなくなった。
すぐさま俺は立ち上がる。
当たりを見回しても誰もいない。
ブン
「がっ!」
眼の前に突然現れたやつが俺の腹を殴った。
衝撃で手を離れた灰雷を空中で再び呼び出し、着地した瞬間、眼の前の女に斬りかかる。
(こいつは一体どんな能力なんだ)
そんなことを考えながらも落ちていたナイフと灰雷で何者かを肩から下へと斬りつけた。――――が、それでやつの体を傷つけることはできなかった。
「マジか」
やつは分身し、二人へと増えていた。もう少し正確に言えばさっきより若干薄くなっていた。
向こうの景色が薄っすらと見えるほどに目の前のやつは薄くなっていた。
(さっき見えなくなったのはそういうことか?)
問題はそれが分かろうがこいつの攻撃は防ぐことも攻撃に転じることも難しいと言うことだ。
(つまり、今は逃げるのが最優先)
しかも綾を連れて。
(綾・・・?綾の能力はポータル的な何かを作ること・・・時間はかかるみたいだが)
綾がポータルを開くまでの時間稼ぎをするべきか。
「綾!どこか遠くにポータルを開いてくれ!」
―――返事がない。
(腕を折られて気絶したか?)
幸い、腕を折ったやつもいつの間にか気絶しているようだが。
「何言ってるのかしら?」
回転蹴りが俺の後ろと前から迫る。
「お前をどうにかして倒すしか道はなさそうだな」
足の間を通り抜け、後ろに回り込む。
「『炎突』」
そして左手を前に出し、技名を唱え突きを繰り出す。すると灰雷が燃え、霧状態になったやつの片方を燃やした。
「やっぱり、細かい粒子的なのは炎に弱いよな」
「火・・・やっぱり素手だと無理かな」
やつが左右に手を出すと拳銃が両手に出現した。
どうなってんだあれ?一ノ瀬家以外は能力を付与した武器は作れなかったはずだ。
「考え事をしている時間はあるのかしら?」
一応拳銃相手ぐらいならなんとかなるよう親父に訓練されてはいる。
「うるせえ」
飛んできた銃弾を切り刻む。
「『炎斬』」
俺は近づき、炎を纏った刃で斬りつける。
やつは側転でそれを避けた。
俺はナイフを操りやつに突き刺す。
「『炎突』!」
霧状になった瞬間を狙い、燃えた灰雷で突きを繰り出す。
ボワッ
それは一瞬で燃え尽きた。
終わってみると呆気なかったな・・・流石にもう何もないよな?
「霧矢さん・・・逃げますよ」
私は血だらけの霧矢さんを抱えて霧になる。
危うく・・・燃やし尽くされるところでした。すんでのところで逃げられましたが。
通気口を通りそのまま外に出る。
さっき来た通信によると大森家が襲撃して来ていたはず、そのドサクサに紛れた逃げましょうか。
ブーーーー!
「何の音だ?!」
綾を抱えた俺は壁を壊そうと灰雷を呼び出す。
「『疾風』」
刀の動きに合わせて無数の斬撃が壁を襲う。
つ・・・疲れる。だが、取り敢えず壁は壊せた。
「ハロー?大丈夫かい?きみ」