第六話 華原の策 其の二
「やはり能力者相手にはあまり効かないな」
眼の前の白髪の中学生は言った。
そして俺のからの第一印象は
(偉そうな腹立つ野郎)
になった。
「・・・お前はどこのやつだ?」
一番気になることを目の前のやつに聞いた。
「それはどの家のやつかという質問、どこの国のやつかという質問のどちらだ?はっきりしてもらいたいものだな」
「・・・どっちもだ」
俺は今すぐ殴りたくなるレベルの怒りを必死に抑えて答えた。
なにせ今こいつと戦ったら聞き出せる情報も聞き出せない。
「なら最初からそう言ってくれ」
あざ笑いながら少年は答える。
「俺はお察しの通り華原家の人間だ、名前は華原霧矢と言う。そしてこの外見でも日本人だ。勘違いするな」
綾が言ってた転校生ってのはこいつのことか。それにしても綾はこいつの性格に関して何も思わなかったのか?
「ならここはどこかわかるな?」
「ああ、勿論だ。ただしお前に教えるとは限らないがな」
きっとこいつの辞書には敬うという言葉が入っていないに違いない。
「じゃあ、お前から無理やり聞き出せばいいだけだ」
これ以上の情報は得られないと判断した俺は呼び出した灰雷を抜くと霧矢を縦に斬りつける。
「はあ、そんなことは無駄だ」
が、霧矢がため息をついたかと思うと俺を切りつけていた。
「お前には俺がとても速く動いたように見えたかもしれないが俺は普通に動いて斬っただけだ。天下の一ノ瀬家でも俺ならどうとでもできる。ざまあないな」
(くっそ、動きは見えるには見えるんだが反応しきれねえ。イライラする)
せめてもっと刃物があれば数でしきれるが、あいつが持ってるやつは幻なのか操れねえ。
(しかも普通に傷は痛えし)
これが幻とは思えない。
「さっきは破られたが視界ごと変えるなんてことをしなければ幻だとわかっていても破ることはできない。せいぜい苦しむんだな」
「黙れ」
灰雷を霧矢に向かって飛ばす。
「だから当たらないと言っているだろう」
灰雷は軽々と避けられた。
「傷は深いだろ?そんなに能力を使って大丈夫か?」
「お前なんかに心配されるほど落ちぶれちゃいねえよ」
この基地の何処かにあった軍用ナイフを引きつけ、俺の周りを高速回転させる。
(気休めにはなるはずだ、あいつの能力がどれぐらいかにもよるが)
「そんなもの無視して攻撃できる」
その言葉通りナイフはあいつの攻撃を防げず突きを腕に食らった。
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
その時、空間が歪んだかと思うと綾がそこから室内へと入ってきた。
「これはひどいな」
「そうですね」
僕と家長は男が収容されていた基地に来ている。
「そういえばここの管理者は能力持ちだったんだな?」
家長が近くで遺体を運び出す指揮をしている隊長格の男に聞いた。
「そうですね」
「なら”コン”は見つかってないのか?」
(コン・・・ってなんだっけ?)
僕は家長がコンと呼ぶ物がなにかわかっていなかった。
「いえ、廊下の真ん中に転がっていました」
「すまないが持ってきてもらえないか?」
「わかりました」
「家長、”コン”ってなんですか?」
「・・・え?利生、お前この仕事をやり始めるときに座学で教えられなかったのか?」
「そう言われてみれば・・・そんな気もしますね」
「まあいい、一応教えてやろう。”魂”ってのは能力者が死んだときに遺体の近くに現れる五センチぐらいのゴツゴツした物体だ」
「・・・ってそれだけですか」
「いや、全然違う」
じゃあなんでこんな間を開けたんだ、と僕は心の中で突っ込む。
「実はその魂って物は食えるんだが、食べるとそれが生まれた能力者の記憶と能力が使えるようになるんだ」
「逆に食べた人がいたってことですか?」
「まあ、戦時中に軍の偉い人に命令されてやったらしい実験記録の中にそういうのがあったんだ」
「へー」
「まあ記憶に関しては直接触れるだけでもいいがな」
(ずいぶんと便利な小石だな)
「だが、下手すると記憶を見たときに人格が乗っ取られるし、能力が使えるってのもある程度近縁じゃないと暴走するからな」
暴走・・・扱いを間違えるとかなりやばいやつだ。
「あまりいい策じゃないってことですか」
「そうだな、だがこれ以上の策は俺だと思いつかない。何かあるなら遠慮なく言ってほしいが」
「通信履歴は残ってないんですか?当時の部隊の展開状況を見ればどの方面に逃げたかわかると思います」
「あいつは片っ端から部隊を壊滅させたからな、そこからは特定できないだろう」
(もう”魂”とやらに頼るしかないのか?)
「たしかにそうですね。でも、僕はもう思いつきませんよ」
そうやって僕と家長が話していると、さっきの男が緑色に光った小石を持ってきてくれた。
(翡翠みたいだな・・・)
それは宝石のようにきれいだった。
「これでいいですか?」
「ああ、これだ。ありがとう、持ち場に戻ってくれ」
「はっ」
「家長、これが魂なんですか」
「ああ、何ならもう記憶も確認した」
「さっき危険って言ってませんでした?」
「コツさえつかめば可能性は0.5〜1%ぐらいしかない」
(それでも十分危険なような気がするけどな)
「重要なことがわかった。あいつは華原家のやつだ」
「・・・え?」
期待していた事柄と全く違うその情報に思わず声を上げる。
「それ元からわかってませんでした?」
「それしか情報が見つからなかった」
(あれ、ということは・・・)
「要するに残された男を捕まえる道は人海戦術で探すしかなくなった。第一回戦は俺達の負けだ」
家長はため息をつきながら言った。