第五話 華原の策
俺は左右から小銃を突きつけられる。
「今すぐ部屋に戻っておとなしくしてろ」
おとなしく手を上げた。
「それでいい、早く部屋にもどれ」
そして言われた通りに戻る―――わけない。
「灰雷!」
俺が考えた通りに灰雷は左の男を斬る。
「やはりか、撃て!」
左側の男が言い切る前に五回ほど斬りつけた。
血が出て男は倒れる。
(今斬った感覚なかったような・・・)
ぼーっとしていた俺に容赦なく二発の銃弾が迫る。
「まだいんのかよ!」
刀を回転させ、銃弾を針のように切り裂く。
(ふう、親父がいたら間違いなくぼーっとするなとか言われてたな)
無数の針になった銃弾を操り、弾丸が飛んできた方向へ高速で放つ。
「これで終わったか?」
倒れた二人をよそにあたりを見渡―――
「マジかよ」
奥からゾロゾロと覆面をかぶった兵士が出てくる。
(・・・まてよ、冷静に考えてこの人数を輸送機って乗せれるもんなのか?)
「いや、まあ考えててもしたかがないな」
刀に掴まり、兵士たちの足元まで滑り込む。
「まずはお前からだ」
右にいた男を突き刺す。
「撃て!」
思考停止していた兵士たちが動き出す。
「よっと!」
またもや刀に掴まり、天井まで飛び上がる。
「うっ!」
複数の兵士が向かい側の兵士が撃った銃弾で倒れる。
(なんでこんなことをするんだ?囲んでいる状態で銃を撃てば向かい側のやつにあたることぐらいわかるはずだよな・・・)
落ちながら俺は考える。
そこで俺は気付く。
飛行機の中に俺が入ってたような全金属の分厚い壁で作られた部屋なんて作れない(俺の知る限りでは)。
そして何より高いところだと空気は外に出ていくはずなのに壁に大穴を開けても平気だった。
「だから・・・これは幻覚だ」
その瞬間、俺の視界がガラスのように割れ、崩れ落ちる。
「やはり能力者相手にはこの能力はあまり効かないな」
そこにいたのは・・・少なくとも俺の知り合いではない白髪の男子中学生だった。
一方、男を捕らえてから三日後のとある大森家の基地
「いやー平和だな」
私は軍事基地の管理者をやってる以外は普通の高校生だ(ただし能力を持っていることも含めなければ)。
「・・・でも、なんか近頃本部のほうが不穏なのよね。昨日ぐらいになんか捕まえたっていう男が運ばれてきたし」
監視カメラの映像を確認しながら呟いた。
「また戦争でも始まらないといいけど」
「まって、この動きおかしくない?」
薄暗くて気づかなかったけど、この男、微妙に動いてるような・・・。
その時だった、爆発音が聞こえたのは。
「なに?今の爆発は」
扉を勢い良く開け、廊下に出て走り出す。
角を曲がろうとした時、無線に通信が入る。
「男は質疑室前第一廊下だ、救援を要請する!」
「私よ。第一、第二中隊は、第一廊下へ、私と第三中隊は入口方面から攻撃するわ。挟み撃ちの形よ」
「はい!」
三人から了解の意を示す言葉が帰ってくる。
やれやれ、これは本当に戦争始まっちゃうんじゃないかしら?
数十秒後
「今着いたわ。状況は?」
仮設のテントで中隊長と話す。
「非常にマズい・・・というかほぼ壊滅状態です。どうやらあの男は能力を持っていたらしく大砲や戦車砲、機関砲をほぼ無制限で撃っています」
「打開策は?」
「正直なところ本部に装甲車などを要請するしかないかと」
「わかったわ、私が抑えておくからその間にあなた達は本部に応援を要請して」
「了解しました」
無線で他の中隊にも連絡する。
「今からは私が男を抑える!あなた達は撤退しつつ援護して!」
そう言って第一廊下に出る。
「うっ・・・」
そこには死体が積み上がっていた。
(この人たちのためにも負けるわけには行かない)
炭素から黒い刃を作り出し、男に近づこうとした。
ところで、私の能力は『糸を操る』能力で炭素だろうがガラスだろうがナイロンだろうが糸並に細ければ自由自在に操ることができる。
「ん?今度はあんたか」
無数のロケット弾が現れる。
「人一人に対して明らかにオーバーキルでしょ!?」
ロケット弾を縛り付けて壁に叩きつける。
(ふう、危ない危ない・・・たしかにこれは気を抜いたら一瞬でやられるわね)
天井に糸を貼りつけ、男の懐に飛び込む。
「おお、あれを躱せるのか。あいつらより弱いがそこそこできるんだな」
「いまさら後悔しても遅いわよ」
「いや、後悔なんてしてない、ここまでは家長の作戦通りだからな」
眼の前の男はそう言った。
(華原の策・・・なんか限りなく嫌な予感がするわね)
「全軍、この基地から撤退!」
そう無線に通信を入れようとした。
この男には私達は勝てない。思った結果だった。
けど、一足遅かった。
そのときには目の前に巨砲ががあった。
「なに・・・これ」
間違いなく私を消し去る大きさの砲口がこちらを向いていた。
「華原家が開発した最新の対能力者砲だ。ま、お前を吹き飛ばすには十分だろ」
―――じゃあな―――
砲の発射音が私が最期に聞いた音だった。
そのころ、雅豹宅
「家長、男が脱走しました」
「な・・・」
俺は思わず声を荒げる。
「詳細は!?」
「それが、通信がつながってすぐに切れてしまいまして」
「他に情報はなかったのか?」
「部隊が壊滅した、応援を要請すると」
「今すぐ一師団を送れ!」
「はっ!」
利生から電話がかかってくる。
「家長、あの話は聞きましたか?」
「ああ、今聞いた」
「家長、あいつどこ行ったと思います?」
「さあな、検討もつかない」
「・・・これってまずくないですか」
「そうだな、かなりマズい。盛大に・・・間違えた」
そう、俺たちは男を逃した。
(まさか、基地一つを通信途絶まで追い込むとは・・・いくら厳重に拘束したからと言って機密保持のために男の詳細を伝えなかったのは俺の人生最大のミスだ)
「取り敢えず基地に俺達も行こう」
「そうですね」
ちなみにですが基地の管理者の名前は萩原槇乃です。